- Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488106331
作品紹介・あらすじ
荷下ろし中に破損した樽の中身は女性の絞殺死体。次々に判明する事実は謎に満ち、事件はめまぐるしい展開を見せつつ混迷の度を増していく。クロフツ渾身の処女作、新訳決定版。
感想・レビュー・書評
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数日かけてじっくりと読了。
なんだろう、物語はゆっくり進むし派手な展開もないのですが、それでもぐいぐい引き込まれる面白さがありました。
手に取ったきっかけは米澤穂信さんの『米澤屋書店』から。10代の頃にご両親から教わった一冊だそうです。
なんともシンプルなタイトルの『樽』は、パリから運ばれロンドンにたどり着いた樽から(紆余曲折を経て)女性の遺体が発見されるところから始まります。
捜査線上に容疑者が浮かぶも、ひとつ事実が判明すればまた謎は深まり、まるで揺れ続ける振り子のように「犯人はパリにいる男かロンドンにいる男か?」と、読者をも翻弄し続けます。
ところでわたくし、この本を読み始めた時点で勘違いをしておりまして……"世界三大倒叙ミステリー"のひとつだと思いこんでいたんですね。
なので、「冒頭で犯人がわかるのかぁ」なんて思い続けていたものの一向にそういったことはなく、勘違いに気づいたのは終盤のことでした。……『クロフツ発12時30分』も読まないとな。
閑話休題。
私がよく読むミステリーには名探偵が登場してきて、警察はなんだかあまり目立たないことが多いのですが、本書はたとえば「警察の捜査で」と一言で済まされてしまうところを実に丁寧に描いてくれます。
証言をもとに現地を訪れ、身分を偽って聞き込みを続け、容疑者が犯行可能であったかを検証していく……。バンバン賄賂を渡すのと、事あるごとにパリのカフェで休憩したがるのはちょっと笑ってしまいましたが、地道な捜査ぶりが伺えてよかったです。ま、最後は結局探偵にオイシイところを持っていかれてしまうのですが。笑
二人の容疑者のうち、悪魔のごとき知恵を持つのはどちらなのか?
私はなぜか、ずっと真犯人でない方がうさんくさいと感じていました。序盤の樽の受け取りが怪しかったからかなぁ。
うまく言葉で説明できないのですが、これはもう単に「好み」といってしまってよいでしょう。クロフツ、なかなか好きになれそうです……!
(余談)
巻末の海道龍一郎さんのエッセイが非常によかったです。少年時代の思い出にふふっとなり、しかしその執念に舌を巻き、シングルモルト・ウヰスキー(表記がまた渋い)になぞられた解説付き。ここまでミステリーを楽しめたら幸せだろうなぁ。
同じく有栖川有栖さんの解説はミステリーガイドとしても良きですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
推理小説における"アリバイ崩し"という要素を確立させた、古典的名作。
今まで読んできたミステリが、天才的な頭脳を持つ変人名探偵が、天才的な推理をして、複雑怪奇な謎を解くのが殆どだったので、本作のような一般的な感性を持つ刑事や探偵が、自分の足を武器に、ひたすら捜査、聞き込みを繰り返し、地道に一歩一歩真相解明に近づくというのは、割と新鮮だった。なんかこういう系は地味〜な印象を持っていたので今まであんまり手に取ろうとは思わなかったのよね...
実際インパクトは少ないのだけれど、その分堅実に面白かった。
たまにはこういうリアリズムに溢れたのも良いなぁと思った次第。(でもやっぱりミステリはぶっ飛んでた方が好き♡)
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今から100年ほど前のミステリー小説。
「樽から女性の死体が……」というショッキングな出だしからは想像できないほど、丹念な謎解きのプロセスを描く。
この物語には、ポアロもホームズも、メグレ警視もいない。
謎を解いていくのは、普通の真面目な職業人たち。
しかも、発見者ブロートンは早々に退場し、300ページ近く丹念に捜査していたバーンリー警部とルファルジュ刑事は、最後の100ページで弁護士と探偵に取って代わられ……
さてさて、いったいこの物語の主役は誰だったのか……。
そう、最初から一貫して登場する“樽”です。
時代は、社会を動かす力が人力から化石燃料へ劇的に変わるころ。
馬車から船や汽車、自動車へ。
電報から電話へ
手書きからタイプライターへ
葉巻からタバコへ
人々はイギリス=フランス間を日常的に移動し、カフェでコーヒーを飲む。
やがてこの“樽”も時代の彼方へ消えゆく……。
二つの大戦間につくられた科学の進歩への期待や、当時の市井の人たちの生活をも思い浮かべることのできる物語でした。 -
おもしろかった。超人的な探偵の物語ではなく、地道な捜査を積み上げて不本意な結論に達する刑事たち、弁護士と私立探偵が何とか刑事たちの出した結論を覆そうと試みる。そういうリアリズムが何とも読み応えがあると思う。クロフツは面白い。基本的には輸送中の樽から金貨と死体がみつかり、はじめは樽の追跡、そしてロンドンとパリの共同捜査、弁護側に雇われた探偵のアリバイ崩しという形で物語が進行する。内面描写もよく、リアルな人間が書けていて面白いと思う。
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シンプルでありながら奥が深い。古典的名作。ミステリファンなら一読の価値あり。鮎川哲也の黒いトランクも合わせて読むとより一層楽しめる。アリバイやトリックが少しわかりずらいが、それでもテンポよく楽しめた。
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英国の秀逸な古典ミステリー。手の込んだトリックによる殺人事件に見えるが、実は感情的もつれが動機の、咄嗟の犯行であった。前半はじっくりと、後半は早い展開で飽きさせない。「樽」について言及する、終わりの解説も興味深い。
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20数年前に抄訳で読んだ記憶があったけど、違ったかなあと思う作品でした。
地味な探索から逮捕と次の物語…なかなか良かったです。
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16年ぶりに再読。新訳になっていてまるで初めて読むみたいだった。もっとも、「とにかく面白かった」という記憶しかないのだから旧訳との違いが分かるはずもない。
けど、やっぱり面白い。ボクの中では、本格推理もののベストではないかと。でも悲しいかなクロフツの作品ってあんまり多くないんだよね。残念。 -
汽船の積荷が落下して樽からこぼれ出た金貨と手首。調べると中から女性の絞殺死体が見つかった。素晴らしい謎からスタートする。被害者は誰か?犯人はなぜこんなことをしたのか?目まぐるしい展開で探偵役もどんどん変わる。緻密なプロット、鮮やかなアリバイ崩し。クロフツの処女作にして最高傑作、いや探偵小説史上に残る名作。アリバイ崩しの真骨頂を見た!見事です
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久しぶりに面白いミステリ読んだ!切り口というのか話の運び方というのか、新鮮だったなあ!
ボックビール。飲んでみたい。