仮面荘の怪事件 (創元推理文庫 M カ 1-30)

  • 東京創元社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488119058

感想・レビュー・書評

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  • 本作の真相は見破れないながらも、この頃の作品に多く見られるアクロバティックな真相で、カタルシスを感じるには首肯せざるを得なかった。

    泥棒の正体が館の主である事からすぐに盗難による保険詐欺という趣向が想起され、それが確かにミスリードとなっているのは、さすがはカー!といったところか。

    しかし、前述のように真犯人の正体に関してはいささか際どすぎる。
    特に思うのは、死体が血にまみれるほどの出血をして、あれほど動き回れるだろうかという点だ。

    確かに作中ではスポーツ万能の偉丈夫と描かれているが、胸を刺殺されて医者にもかからずにそのまま滞在し、あまつさえビリヤードなどにも興じているというのが納得できない。

    また事件に一番最初に気付くのが真犯人であるというのはまだしも許せるが、深手を負って2階へ窓からロープでよじ登るというのも、ちょっと無理すぎないか?

    真相や趣向は非常にいいと思うのだが、事件の意匠の部分で過剰に演出しすぎ、現実味に欠けていて、いや非常識に感じられて、失望を禁じえない。

    あと犯人の絞込みの重要なキーとなる背格好について。
    これについてもそれぞれの登場人物の描写を事細かにメモしていないと解らない。確かに作者が云うようにヒントは冒頭に隠されていたが、しかし、これだけだとは・・・(まあ、これは半分負け惜しみが入っているが)。

    とはいえ、本作においてもカーは読書サービスを怠らない。

    今回は特にHM卿が大カフーザラムなる魔術師に扮して子供達に奇術を披露するシーン。しかも仮面荘の当主の妻の悪友ともいうべきミス・クラタバックなる嫌味な人物に弄られながら、魔術と称してやっつけるといった内容。
    HM卿が実は奇術が得意であるという隠れた特技が本作で解るという点で、本作は見逃せない作品だろう。

    また本作では犯人の悪意についても語られている。
    全てにおいて万能であった犯人が見事に罠に嵌り、プライドを傷つけられた憤りを重傷を負った人物に更に追い討ちをかけるように痛めつける。しかもそれについて悪びれもしないという人間の醜さを今回は見せつける。
    今手元にないので年代が解らないが、これはセイヤーズが晩年描いたテーマ―犯人が何も個人の事情や経済状態、止むに止まれない事情で犯行を犯すのではなく、単に意に沿わないという理由でも犯行を犯すのだ―に似ている。
    もしかしたらあの名作『学寮祭の夜』にインスパイアされたのではないだろうか?

    カー作品の中でもあまり話題に上らない本作。それはこの素っ気無い題名によるところも大きいと思う。
    本格物によくありがちな題名だが、原題は“The Gilded Man”で『金箔の男』という意味。これは盗難の対象となったエル・グレコの絵画に描かれたアンデス山中にある湖に沈んだ金塊を引き上げようとする男達を指している。
    なかなか印象深い原題だが直接的には事件とは大きく関係しないため、どっこいどっこいといったところか。

  • H・M卿、ぞんざいに扱われる!?
    そんな言葉がまさにぴったりの作品。
    またもやメインはこれらのかわいそうな役回りの
    H・M卿に向きそうになりますが
    事件、事件。

    これはわからなくても仕方のない
    事件のケースです。
    何せヒントなんか見落とす場所に
    出てきるに過ぎませんし、やらないことを
    現実にしちゃってますからね。
    評価が芳しくないのはこの要素。

    私が5なのは
    ほぼギャグ系で読んでいましたからね。
    それに代理手品師で見事ポカやってますし。

    最後はカーらしい
    残酷さでした。

  • ヘンリ・メルヴェール卿物なんだけど
    HM卿はあまり謎解きには参加していない。
    謎は謎として引き込まれるし、
    謎解きはそれなりに納得できる。
    と考えると★4でもいいような気もするんだけど、
    やっぱりカラクリに若干抵抗を感じるかな…。
    謎ありきのカラクリの印象を受けるので★3で。

  • 2020/06/20読了

  • H・M卿シリーズです。
    本書は短編を長編化したものです。
    個人劇場まで備えられている豪勢な仮面荘の持ち主である富豪スタナップは邸内に数多くの高価な名画を陳列していました。
    ある夜、不審な物音に屋敷の者達が駆けつけると、絵画を盗みに押し入ったとみられる覆面の盗賊がその場にあった果物ナイフで胸を刺されて倒れていたのです。
    その正体は屋敷の現当主スタナップだったのですが、どうして自分の屋敷に泥棒に入る必要があったのかが謎になってきます。
    そして、彼を刺したのは一体誰なのかという事も謎のまま物語は進んでいきます。
    元になった短編を既読だったので少し退屈に感じました。

  • H・M卿シリーズ

    有名な絵画が集められる仮面荘と呼ばれる屋敷。屋敷の主人ドワイト・スタナップが事業に失敗し金に困っているとの噂。わざと絵を盗まれやすい場所に展示することで保険金を受け取ることを目的にしているという噂。娘エナリーの婚約者ドースン中佐、エナリーが心ひかれるヴィンセント、ウッドなどを招いた夜会。その夜自分の絵を盗み出そうとして何者かに刺されたドワイト・スタナップ。保険金詐欺の果ての事件か?スタナップ氏の要請で屋敷に身分を隠して侵入していたウッド警部。仮面荘にやってきたH・Mに当てられた雪玉。招かれた手品師に間違われ使用人部屋に案内されたH・M。子供たちの前で手品を披露するH・M。殺害されたスタナップ氏。H・Mが推理する犯人。泥棒貴族をまねる犯人に仕掛けられた罠。

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著者プロフィール

Carter Dickson (1906-1977)
本名ジョン・ディクスン・カー。エラリー・クイーン、アガサ・クリスティーらとともにパズラー黄金時代を代表する作家のひとり。アメリカ合衆国のペンシルベニア州に生まれる。1930年、カー名義の『夜歩く』で彗星のようにデビュー。怪事件の連続と複雑な話を読ませる筆力で地歩を築く。1932年にイギリスに渡り、第二次世界大戦の勃発で一時帰国するも、再び渡英、その後空襲で家を失い、1947年にアメリカに帰国した。カー、ディクスンの二つの名義を使って、アンリ・バンコラン、ギデオン・フェル博士、ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)らの名探偵を主人公に、密室、人間消失、足跡のない殺人など、不可能興味満点の本格ミステリを次々に発表、「不可能犯罪の巨匠」「密室のカー」と言われた。晩年には歴史ミステリの執筆も手掛け、このジャンルの先駆者ともされる。代表作に、「密室講義」でも知られる『三つの棺』(35)、『火刑法廷』(37)、『ユダの窓』(38)、『ビロードの悪魔』(51)などがある。

「2023年 『五つの箱の死』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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