- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488251024
作品紹介・あらすじ
フランスのポオと呼ばれ、ヴィリエ・ド・リラダン、モーパッサンの系譜に列なる作風をもって仏英読書人を魅了した、鬼才ルヴェル。恐怖と残酷、謎や意外性に満ち、ペーソスと人情味を湛える作品群は、戦前〈新青年〉等に訳載されて時の探偵文壇を熱狂させ、揺籃期にあった国内の創作活動に多大な影響を与えたといわれる。31篇収録。エッセイ=田中早苗・小酒井不木・甲賀三郎・江戸川乱歩・夢野久作/解説=牧眞司
感想・レビュー・書評
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「コント・クリュエル」=残酷物語の名手としてかつて評価された19世紀のフランスの作家の復刊された短編集です。
当時の邦訳そのままなので、今となっては聞き慣れない単語や言い回しが見られるのですが、それがまた物語世界を構築するひとつの材料となり、哀しくおぞましく、不憫な物語の巧さを浮きだたせていると思えました。
話そのものは難解ではなく、幻想的な表現があっても物語の結末はだれにでも明確に理解できるものです。ひたすらに悲しくさせられたり、驚かされたり、そして少しは温かくさせられたり。それぞれの人間の生きざまを、想いを、魂胆をさらりと描き出し、十ぺージに満たない物語でしっかりと彼らの足跡を読後に残していくのです。
ですから、一冊読み終えると短編の数だけの人生を背負ったような充足感を得られることができました。こんなに、さらりと、けれど深く鋭く、ひとを描く作家がかつていたなんて、まるで知らなくて、本当に知れて良かったと嬉しく思いました。
…日本語訳があるのがこの一冊のみ、というのはだから痛切に悲しいことでした…。 -
大正時代『新青年』に訳出されて好評を博したという、
モーリス・ルヴェル(1875-1926)の短編集。
作者ルヴェルについては資料に乏しく、
あまり詳しい情報がないらしいが、
外科医でもあったと解説に記されている。
ただ、フランスのポオと評されたという噂から、
濃密な怪奇と幻想の世界を思い浮かべていたのだが、
期待した雰囲気とは少し違っていた。
グラン=ギニョル劇場の脚本に
原作として採用されたネタもあるというだけあって、
非情さと諧謔が際立つ作品も含まれるのだが、
どちらかというと、
人間愛の美しさと悲しみ……といった風な、
ペーソスが主成分。
もちろん、それらは小説として充分面白いが、
個人的な趣味から言うと、
容疑者が無茶(!)な証拠隠滅を図る
「ペルゴレーズ街の殺人事件」や、
泉鏡花「外科室」の歪んだ鏡像のような、
手術を巡る恐怖を描いた「麻酔剤」などが好ましい。
ところで「夜鳥(よどり)」とは如何に?
と楽しみにしていたら、
これは表題として掲げられただけだったのか、
同タイトルの小説は収録されていませんでした、残念。 -
創元推理文庫2019年復刊フェア。フランスのポオと呼ばれ、戦前の日本でも探偵文壇にファンが多かったというモーリス・ルヴェル。本書には大正時代後期に新青年などで発表された翻訳短編31編と、昭和3年の単行本刊行時に江戸川乱歩や夢野久作が寄せた推薦文(?)も収録。
ポオを引き合いにして語られることが多いようだけれど、作品によってポオにはあるゴシック味というか幻想味がルヴェルにはなく、どちらかというと人間の心理、犯罪や狂気、復讐など、あるいは運命のいたずら、悔恨、哀愁や絶望などを、短い中に驚くようなオチをつけて描きだす手腕が玄人好みっぽい印象。
とにかく収録作品の半分くらいが、軽重はともかくとして「復讐もの」だった気がする。軽いものなら「ふみたば」のような、元恋人に意趣返しをする程度のいっそオシャレなものだけど、ひどいのになると、妻に硫酸をかけられた男が裁判で妻を赦した上で同じことを妻にするとか、妻と浮気相手をもろとも鎌で刈り取るとか、妻の浮気で生まれた子供を犬の餌食にする、同じく妻の浮気相手の間男を犬の餌食にする、など残虐極まりなく、あとなんか妻の浮気率(さらに托卵率)高すぎて作者にはいったいどんなトラウマがあったのかと疑うレベル。
次いで多いのが自殺エンドで、登場人物はとかく乞食、娼婦、犯罪者、私生児など社会的弱者が大半。怪奇というよりは現実的な陰惨さ。ただ、托卵ものとはいえ義父への愛情が勝る「父」など、たまに良い話もある。ハッピーエンドとはいえないけれど息子を庇う母親の「情状酌量」や、産院が爆撃されて生き残った二人の産婦がどちらの子かわからない一人の赤ん坊を奪い合いつつ共同で育てる「二人の母親」など、しみじみ考えされられるような作品もあった。芸術家のプライドが複雑な「蕩児ミロン」なんかも読み応えあり。
個人的に印象に残ったのは「麻酔剤」。ある人妻と不倫中の医者、その人妻に治療のために麻酔をすることになるが人妻はうわごとで二人の関係がばれかねないことを言い出し・・・というもので、泉鏡花の「外科室」の対極にある話。鏡花の崇高な純愛とは対照的に、こちらは大変下世話な上にひどい結末をむかえる。愛人に手術はしてもらうもんじゃない・・・。
※収録
序/或る精神異常者/麻酔剤/幻想/犬舎/孤独/誰?/闇と寂寞/生さぬ児/碧眼/麦畑/乞食/青蠅/フェリシテ/ふみたば/暗中の接吻/ペルゴレーズ街の殺人事件/老嬢と猫/小さきもの/情状酌量/集金掛/父/十時五十分の急行/ピストルの蠱惑/二人の母親/蕩児ミロン/自責/誤診/見開いた眼/無駄骨/空家/ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海
鬼才モリス・ルヴェル(田中早苗)/「夜鳥」礼讃(小酒井不木)/田中早苗君とモーリス・ルヴェル(甲賀三郎)/少年ルヴェル(江戸川乱歩)/私の好きな読みもの(夢野久作)/陰鬱な愉しみ、非道徳な悦び(牧真司) -
昭和3年発行の春陽堂版「夜鳥」全篇に雑誌掲載の一篇を追加。訳者は田中早苗(新青年辺りを調べてると必ず出会う翻訳者)。
雑誌では新青年に掲載されていたこともあり、巻末には不木、甲賀三郎、乱歩、夢久、それぞれのルヴェル評も掲載されていて、皆ルヴェル大好きだったんだな感がとても伝わる。(特に、夢久がルヴェル好きなのはこの作品達読んでて何となくわかる…作風に通じるモノがある)
どれも10ページ前後しかない短篇ですが、不木の評から引用しますと、
『ポーほどの怪奇美は見られない。その代わり、ポーには見られないペーソスがある』
まさにコレ。この味わい。短い中で、見事に物語の状況と過程と心理を描ききって最期に「オチ」をつけてくる鮮やかさ。どれを読んでも優劣付けがたい面白さでした。 -
モーリス・ルヴェル(1875-1926)のこの短編集が
日本で最初に出版されたのは昭和3年のことだ。
ルヴェルはフランスのポオと賞賛された怪奇小説家だが
短編作家であったため、今はあまり知られていない。
Amazon.co.jpで売られている彼の本は
この本とアンソロジーに一作が収められているのみ。
昭和3年当時も、訳者である田中早苗氏が
ルヴェルを大絶賛し「もっと評価されるべきだ」と
書いているが、短編であったせいか
高い評価を得るには至らなかった。
それでも、仏英米はもちろんのこと
日本でも江戸川乱歩や夢野久作らに
大きな影響を与えている。
スティーヴン・キングもそうだが
背筋も凍る、おぞましい恐怖の底には
人間の弱さ、哀しさ、愚かしさ、そして
人の世の不条理に絶望する者への憐憫がある。
怪奇、幻想の類がお好きな方は必読一作だ。 -
大正時代後半から『新青年』などに掲載されたルヴェルの作品を集めた短編集。概ね一話で一人、人が死ぬ。解説で「そこにモラルや教訓はない。ただの毒だ」とまで言わしめる陰鬱さだが、本文の後に寄せられた文章がすごい。江戸川乱歩と夢野久作(訳者含めほか三名)が書いている。特に乱歩の文はルヴェルの魅力を『童心』と喝破しており、なるほど確かにそれは通底していると思わされた。そう、ストレートな感情が思考や打算に先行し、そこから生まれる悲劇が描かれているのがルヴェルなのだ。『ペルゴレーズ街の殺人事件』『蕩児ミロン』が好き。
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世界最高ルヴェルの短編集。
彼こそが本物のコントール! -
【幻想】
めっっちゃ好き。最後がえぇ?!ってなった。
主人公の気持ちが共感できる。
短編なのにオチがちゃんとあって面白い。 -
短編集。全体的に暗い話が多いです。どこか幻想的な雰囲気を漂わせつつ、結末はしんと肝が冷えるような。
謎が解かれていく様がきれいな流れなんですよ。短いのに見事にそれぞれ完結した物語。
中でもなんとも言えない後味の「幻想」がお勧めです。
・・・人によってはこれの結末は不愉快かもしれませんが・・・