- Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488276126
作品紹介・あらすじ
キャンピングトレーラーが炎上し大爆発が起きた。放火の痕跡があり、男の焼死体が見つかる。刑事オリヴァーとピアは捜査を始め、トレーラーの持ち主がオリヴァーの級友の母親だと判明する。だがホスピスにいた彼女は、何者かに窒息死させられてしまう。次々と起こる殺人の被害者や容疑者はオリヴァーの顔見知りばかりで、さらに42年前のある事件が関係している可能性が……。大人気警察小説〈刑事オリヴァー&ピア〉シリーズ最新作!
感想・レビュー・書評
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ドイツの警察小説・オリヴァー&ピアシリーズ第八作。
一年間の長期休暇(サバティカルというらしい)を年明けに取ることにしたオリヴァー。今回は休暇前の最後の事件となる。しかし事件の被害者や関係者はオリヴァーの知人ばかり。更にはオリヴァーにとってはとても苦い、少年時代に起きた不幸な事件を甦らせることにもなる。
これまで様々な国内国外様々な警察小説を読んできたが、警察官のキャラクターも様々。悪徳警官もいれば正義感の塊のような警官もいる。どんな悪意や憎悪も跳ね返す強いメンタルの持ち主もいれば、いつまでも引き摺ってしまう警官もいる。
オリヴァー自身は事件と上手く距離を取って来た、などと評価しているが、これまでシリーズを読んできた人間からは引き摺られまくりのごく普通な人間だ。そして今回、彼の少年時代が明らかになったことでその印象は更に強まった。
貴族階級の生まれでスマートで優しくて、でもどこか気弱で鬱屈を抱えている。少年時代の彼は正にそのままだった。いわゆるリーダー格の不良少年たちに逆らえず、何とか距離を保って付き合っていた図が目に浮かぶ。
改めて、舞台のルッペルツハインという地域もコミュニティも狭くて、人間関係が濃いなと思う。オリヴァー自身、町の人たちは子どもの頃からの付き合いが多いし、あるいは親の代、さらにその上の代からの付き合いもある。
なのにオリヴァーは友人や知人同士が結婚したり別れたりしたことを知らなかったりもするのだが。
それにしてもこういう場所で警察官の仕事をするのはやりにくくないだろうかと改めて思う。特に今回はピアが心配して捜査から外れるように助言するほど事件はオリヴァーの周囲で起こる。
相変わらずのページ数と長い人名と登場人物の多さでなかなか読み進まなかったが、結末としては謎が解けてスッキリした部分とあまりの身勝手さ残酷さに腹立たしい気持ちとが織り混ざる、シリーズお約束の読後感だった。
そして思うこと。オリヴァーは女性を見る目がない!元妻といい、元彼女といい。今回の彼女カロリーネはどうだろうか。上手くいくと良いのだが。
そして娘のゾフィアはこれまた元妻に似て厄介な感じ。これからも苦労しそうだ。
一方のピア。オリヴァーに代わり今回の事件の指揮を取っているがすっかり慣れたもの。たまにヒステリックになることはあっても上手くチームを率いている。そしてオリヴァー休暇中は後任として課長になることが決まった。
既に次作は本国で発売されているようだが、オリヴァーは不在で物語が進むのか、ピアはどんな活躍をするのか。訳者さんの予告によるとピアの家族にまつわる秘密が明かされるらしい。
※シリーズ作品一覧
本国での出版順なので日本語翻訳版の出版順とは違います。
(★はレビュー登録あり)
①「悪女は自殺しない」
②「死体は笑みを招く」
③「深い疵」★
④「白雪姫には死んでもらう」
⑤「穢れた風」★
⑥「悪しき狼」★
⑦「生者と死者に告ぐ」★
⑧ 本作 ★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
オリヴァー&ピアのシリーズも8作目。
重厚な部分と、生き生きと親しみやすい部分を兼ね備えたシリーズです。
前作「生者と死者に告ぐ」はミステリとして枠組みがユニークで、スピーディな展開と感じました。
今作は、オリヴァーの過去に関わる、シリーズ中でも重要な作品です。
こういう展開になることを見据えて書かれていたシリーズだったのだなあと認識を新たにしました。
オリヴァーは、主席警部。
長身で男前の、性格もなかなかいい方の50代。
少し年下のピアは部下で、相方、金髪で明るい性格。恋人というわけではないのですが、夫婦よりも一緒にいる時間が長いほどでもあり、信頼し合う間柄です。
キャンプ場でトレーラーが爆発、放火事件とわかります。トレーラーの所有者は高齢で施設にいましたが、そこでも事件が。
さらに‥
オリヴァーの住む地域で、怪事件が起きていくのです。
オリヴァーはフォン・ボーデンシュタインという貴族の家系の出で、今は昔のように領地があるわけではありませんが、城では弟がレストランを経営、観光地となって存続しています。
村人は皆、子供の頃からよく知っている人ばかり。
実は40年も前に、少年の行方不明事件がありました。ロシアからの移民の子で孤立気味でしたが、オリヴァーは守ろうという意識があった。
それなのに、守れなかった…
それは心の奥の痛みとなって残っていたのです。
次第に明らかになっていく過去の事情。
登場人物が多いのは大変ですが。
年月が経っていったことを感じ取りながら、オリヴァーが確かめていく家族関係や様々な変化。
それを描き出していく筆力と、容赦のない真実。
離婚から何かと不安定だったオリヴァーが、前作で知り合ったお似合いの女性と付き合っていることが救いです。
オリヴァーを心配していたピアは胸を痛めますが。
真相が明らかになったことは、やはり救いともなるのでしょう。
期待通り、期待以上の、読みごたえがありました。 -
オリヴァーの少年時代からの因縁の事件が題材でなかなか読みごたえがあった。ちょっとびっくりしたのは登場人物の説明で人数が4-5ページ分と多かった。最初の10人ぐらいは警察署の人たちなのでシリーズ物ということもあり覚えていたが、それ以外の40人ぐらいは初登場だった。また家族、一族の人数が多く姻戚関係が覚えられなかった。でも面白いので次の最新作も図書館で予約済み。
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刑事オリヴァー&ピア・シリーズ8作目。
オリヴァーの地元の村で起きたキャンピングトレーラーの炎上と、相次ぐ殺人事件。被害者や関係者のほとんどが知り合いで、子ども時代の力関係が大人になっても続いているような村では、オリヴァーの動きもいつも通りとはいかない。
さらに、関係していると思われる42年前のある事件も、彼にとって辛いものであるようだ。
事件との距離が近すぎて、心配になってしまう。
捜査十一課にはまた変化があって、新たに加わった新人がなかなか面白い。
そして今回ついにオリヴァーが恋人と長続きしない原因が明らかに。今まで相手女性の視点で彼を見ることがなかったので気付かなかったけど、確かに育ちが良くて自制が効きすぎるというのは心の距離を感じてしまうかもなと納得。
次作では、リフレッシュしたオリヴァーとさらに頼もしくなったピアが読めるかしら。 -
オリヴァー&ピアシリーズ第8作目。
あらすじ
キャンピングカーが炎上、男性の焼死体が見つかる。車の持ち主はオリヴァーの幼なじみの母。しかし施設に入っていた彼女も殺害される。焼死体もオリヴァーの幼なじみだとわかる。さらに次々と事件が起こるが、どれもオリヴァーの昔の知り合いばかりだ。彼には昔、行方不明になった幼なじみと、子キツネのペットがいた。捜査を進めるなかで、オリヴァーの墓地から骨が見つかる。さらに、以前の恋人、インカも関係があるようだ。
面白かったー。ページの厚さはシリーズの中でも最厚?登場人物も多かった。そんなちょっとのハードルをすっ飛ばすようなストーリー展開。オリヴァーの過去・人間関係を一掃するかのような本作品。これまでの伏線をすべて回収するように事件が起こっていた。もうシリーズラストなのかなと思っていたが、ドイツではまだ続いているらしく、楽しみ。 -
ネレ・ノイハウスは初めて。
マジめっちゃ面白かった!
犯人が読み終わる間際まで分からない展開がたまらない。読み終えるのが勿体なく感じた。
文章もキャラも、そして作者が伝えたいメッセージも濃く深くて良かった。
良いミステリー、というよりホント良い本に出会えた読書時間だった。 -
『刑事になってから幸運にも、知り合いが絡んだ殺人事件を捜査する経験がなかった。これが最初になるのだろうか。』 (66頁)
さあ、覚悟を決めよう。
登場人物表は5ページにわたる。
さらには姻戚関係の記された家系図がある。
地図は縮尺のちがうものが2枚だ。
厄介である。
けれども、これが面白さの理由にもなるのだ。
厄介なことである。
事件の舞台はルッペルツハイン。
オリヴァーの住まいのある、幼い頃からよく知る街だ。
事件の関係者は、ことごとくよく知る人々だ。
同じ学校に通った者、その兄弟、その家族、親同士も互いをよく知っている。
大人になって会ってみれば、性格の強くなった者、太った者、哀れなほど色あせた者、知っているつもりだったのに、よくわからなくなった者――
事件の捜査ともなれば、知らなくてもよかったことを探り出すことにもなる。
しかも、それが自身の思い出したくもない過去にふれるとなれば、オリヴァーの衝撃は計り知れない。
だから『夫婦同士と同じくらいボスのことを知っている』 (259頁)ピアは気が気ではない。
常にボスを気遣い、時にきついことも告げている。
くわえて、オリヴァーもピアも、将来に向けて仕事が変化する状態にある。
捜査課には新人も入って、これがなかなか優秀なのだ。
Tempora mutantur, et nos mutamur in illis
テンポラ・ムタントゥール、エト・ノス・ムタムール・イン・イリス
時は移る。そしてその中でわたしたちも変わる。(130~131頁)
表紙を初めて見た時から、強い印象を受けた。
これまでの巻は、風景写真が多かった。
こちらを向いた動物の写真とは、かなり異色だ。
読むうちに、その意味を知った。
今では胸につきささる表紙である。
翻訳者による後書きも読みどころがたくさんあった。
シリーズにおける作風の変化の説明から、作者ネレ・ノイハウスに会った時のこと、舞台ルッペルツハインでのイベントの模様などは、ワクワクして読んでいた。
シリーズでも重要な位置を占めるだろうこの『森の中に埋めた』は、あまりに読みどころ満載で、これが最終巻ではないかと心配したが、懸念だった。
ドイツでは次の巻『 Muttertag 』も既に刊行されている。
何年かに一度、まとめて一気読みしたいシリーズというものがある。
オリヴァー&ピアシリーズは、まさにその価値のある作品だ。
『 Muttertag 』の翻訳出版の知らせを聞いた頃、それを実行するだろう。
シリーズはドイツでもたいへんな人気らしく、タウヌス・ミステリ・シリーズ( Der Taunusukrimi )として、全作がドラマ化されている。
DVDにもなって、1から6話までであるが、その宣伝動画もある。
舞台ドイツの雰囲気が見えて面白い。
https://www.youtube.com/watch?v=Qw2LGeZUPQI&feature=emb_logo -
「人間を描くミステリ」の究極、ついに家系図付きで登場!
いやほんと、行くとこまで行った感がある。これは原著もこうなってるんだろーか? もはや確信犯(誤)である。
登場人物表にはゆうに30人以上が並び、シリーズ既読者や翻訳ミステリに慣れた人であっても相当に敷居が高い。が、この手のものが嫌いでなければ、挑戦されることをお薦めする。それだけのリターンは、必ずある。
それにしても…シリーズものの弱点は「安全圏」だと言われるが、その点容赦のない作者だなあ。
新キャラの捜査本部メンバーが映像記憶を持つレベルで頭が良く、かつ臭い演技を炸裂させるほどに性格が悪く、誰かさんを彷彿とさせて非常に好みw 先行きが楽しみだ。
2021/10/9読了