短編ミステリの二百年2 (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488299033

作品紹介・あらすじ

江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集』とは異なる観点から短編ミステリの歴史をさぐる、刺激的で意欲に満ちたアンソロジーの第二巻。1920年代から50年代にかけての都会小説、ハードボイルド/私立探偵小説、謎解きミステリの逸品を通して、進化と発展の過程を概観する。ハメット、チャンドラー、スタウト、アリンガム、クリスピン、ヴィカーズなど錚々たる作家の11短編をすべて新訳で収録し、巻末には編者・小森収の評論を掲載した。

感想・レビュー・書評

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  • 本シリーズでのミステリの守備範囲かなり広い。『探偵が多すぎる』のウルフとアーチーのコンビが楽しくて深追いしたくなった。解説ではチャンドラーの『待っている』が訳によって印象が180度変わるのが面白く追記含めて興味深く読んだ。

  • 評論付きの海外ミステリアンソロジー。今回はハードボイルドやディテクティブ・ストーリーといった味わいのものが多い印象です。
    お気に入りはフランク・グルーバー「死のストライキ」。工場のストライキに巻き込まれてしまった百科事典のセールスマン。彼が売り物である百科事典を読み込み蓄えた知識でもって事件に挑むさまが実に痛快です。災難なようだけれど、実際に災難だったのは犯人の方だよねえ。
    ロイ・ヴィカーズ「二重像」も印象的な作品でした。妻でさえ間違えるほどにそっくりな男の出現と、彼によってもたらされた殺人事件の謎。果たして謎の男は本当に存在するのかどうか、最後までどきどきさせられました。

  •  本巻では、はじめに、バッド・シュールバーグ「挑戦」、クリストファー・ラ・ファージ「プライドの問題」、ラッセル・マーニー「チャーリー」と、初めて知る作家の作品が並ぶ。ジャンル小説として、ミステリーをどのくらいの範囲で考えるかは各人様々であろうが、これら3編は、かつて日本で“都会小説"として紹介された作品群に属するものらしい。この辺り、編者の考え方が現れている。

     その後、ハードボイルド系の作品が並ぶ。
     ハメットの「クッフィニャル島の略奪」、結婚祝い品のガードに派遣されたオプの前で、機関銃まで用いた強奪が実行されるという、そのド派手な舞台設定に驚いた。島内でのアクション場面の後、犯行グループの正体を暴いていくところは、正に推理による謎の解明。
     チャンドラーの「待っている」。以前に読んだことがあるのだが、解説を読んで、二人の関係をどう理解するか、誰が死んだのかという本作のポイントが、原文をいかに解釈するかで変わってくることが分かった。この点、日本語文を読むだけの人間からは、翻訳者にお任せのところ。
     グルーバー「死のストライキ」。テンポ良い進行が楽しめる。

     そしてこから、スタウト、アリンガム、クリスピン、ヴィガーズとビッグネームが続く。それぞれ面白さは保証できるが、ヴィガーズの「二重像」は、分量も併せて読み応えがある。妻も見分けることのできない夫そっくりの男が、周囲に頻繁に現れる。別人なのかどうか誰もが訝しむうちに、殺人事件が発生してしまう。夫にそっくりな男は存在するのか、それとも夫が‥‥。

     小森氏の解説というか評論は、実に盛りだくさん。特にパルプマガジンとスリックの違い、読者層や原稿料の問題など、なかなか他では読めない話で面白かった。

  • 「挑戦」
    バッド・シュールバーグ(1949年)
    ▷▷▷ある夏の日の海辺。男は”人間の娘に姿を変えた海の妖精”に出会い激しい恋に落ちる。
    ▶▶▶「若くて天真爛漫な女の子が主人公の男の心をとりこにするのだが突然その子が事故かなんかで死んじゃう系」のお話。

    「プライドの問題」
    クリストファー・ラ・ファージ(1940年)
    ▷▷▷待ちに待った鱒漁の解禁の当日。今年も喜び勇んでディア川に繰りだしたのがジョーとエディの釣りキチコンビ。しかし釣りに夢中になりすぎて、ふたりは禁漁区域にまで足を踏み入れてしまっていた。
    ▶▶▶これを釣道というのだろうか……?

    「クッフィニャル島の略奪」
    ダシール・ハメット(1925年)
    ▷▷▷世界中から資産家たちがこぞって移住してくるお金持ちの島――それがクッフィニャル島。そこでお歴々が集まる豪華な結婚式が催された。それ自体は珍しいことではないのだが、その晩、銃火器で武装した正体不明の強盗団が島に侵入、要所を襲撃しはじめる。
    ▶▶▶”おれ”による一人称。いかにも内藤陳が好きそうで、いかにも影丸穣也がマンガ化しそうな内容。

    「ミストラル」
    ラウール・ホイットフィールド(1931年)
    ▷▷▷舞台はジェノヴァ、カンヌ、モンテカルロなど地中海沿岸の保養地。探偵の”おれ”が受け取ったファイルの中には見覚えのある男の写真が混ざっていた。当地のカジノやバー、ホテルなどでたまに見かけ、なぜだか印象に残っているあの男。いつもひとりで行動し何をやって暮らしているのかわからないあの男。強風(ミストラル)を嫌悪し風の音が聞こえないホテルの一室に閉じこもっているあの男。その男はかつてプロの殺し屋で、ファイルはその男の命を狙っている者からの手配書だったのだ。
    ▶▶▶命運が尽きかけている殺し屋と、彼を抹殺しなければならない別の殺し屋たちの非情な運命。

    「待っている」
    レイモンド・チャンドラー(1939年)
    ▷▷▷とあるホテルで夜警をしている探偵トニーは深夜、ホテルのラジオ室で物憂げにベニー・グッドマンを聴く美女、イヴと知りあう。イヴは連泊の投宿客であるが、刑期を終えた夫・ロールズをそこで待っているのだという。
    ▶▶▶雰囲気はいいけど……。細部がまったく理解できない。
    ①そもそもイヴとロールズはその日そのホテルで落ち合うことになっていたのか? ②ロールズはふつうにホテルに入っていったはずだが、どうしてアルに気付かれなかったのか? ③そのあとなぜ、ロールズはこっそりと、しかも我知らずにイヴの隣の部屋にチェックインできたのか? ④トニーはなぜイヴにロールズのことを教えなかったのか? ⑤トニーに電話をかけてきた男は何がいいたかったのか? ⑥その電話のあとトニーに声をかけたフロント係は何がいいたかったのか? ⑦トニーは最後、何に動揺していたのか? ⑧トニーは毎晩ホテルでこんなことをしているのか、そしてそれが生業として成り立っているのか? ………最後の⑧は余計なお世話だけれど……。

    「死のストライキ」フランク・グルーバー(1938年)
    ▷▷▷レジスターの工場で大規模なストライキが決行される。たまたまそこに居合わせた”人間百科事典”クウェイドはストライキを背景とした連続殺人事件に巻き込まれてしまう。
    ▶▶▶連続殺人事件もそうだけど、マシンガンや爆弾も出てくるし、州兵の2個部隊もやってくるし、……ストライキでここまでやる? それでいて謎解きはショボいし……。

    「探偵が多すぎる」レックス・スタウト(1956年)
    ▷▷▷電話盗聴に手を染めた可能性のあるニョーヨークの私立探偵7名が聴取のため、オールバニ市に召集された。事情によっては州務長官の名のもとに探偵免許が剥奪されるおそれもある。そんな中、各探偵への聞き取りの最中に別室で殺人事件が発生。その被害者こそ、集まった探偵たちにニセの盗聴を持ちかけた謎の男に相違なかった。
    ▶▶▶主人公の私立探偵、ネロ・ウルフの設定が魅力的。天才的な頭脳の持ち主、言動はドライでおそろしくキビキビしている、そして巨漢の美食家という。

    「深紅の文字」マージェリー・アリンガム(1938年)
    ▷▷▷昔住んでいた下宿を訪れたランスはそこが空き家になっていたのをいいことに、勝手に屋内にあがりこんで部屋をひとつひとつめぐりながら昔を懐かしむ。しかしある小さな小部屋に足を踏み入れるやいなや驚愕する。その壁面には”外に出して、ああ出して”と口紅で繰り返し繰り返し書かれていたのだ。ランスに付き添っていたキャンピオンはただならぬ事態を察知する。
    ▶▶▶最初は「九マイル」みたいな”少ない手がかりから謎を解く系”かと思ってたら、あとでちょっとドタバタする。

    「闇の一撃」エドマンド・クリスピン(1952年)
    ▷▷▷”四角関係”の複雑な愛憎の果てについに殺人事件が発生。被害者の恋がたきが第一容疑者と目されたが、被害者、容疑者双方のアリバイを裏付けする証言がどうにも噛みあわない……。
    ▶▶▶ほんの少しの発想の転換で真実が一気に明るみに出る。実に素晴らしい。しかも後日談が意外中の意外(教訓めいた注釈は蛇足)。

    「二重像」ロイ・ヴィカーズ(1954年)
    ▷▷▷夫ジュリアンの不在中にかぎって現れる、ジュリアンと見分けがつかないほどそっくりな男。その男は死んだと伝えられているジュリアンの双子の兄弟なのか? いやそれともジュリアンが仕掛けた独り芝居なのか? しかしそれならばなぜジュリアンはそんなことを……? 不安に苛まれる日々を送る妻エルサであったが、ついに彼女の身辺で殺人事件が発生する。
    ▶▶▶『摩天楼の身代金』や『殺しの双曲線』も素晴らしかったが、こんな”双子トリック”あり? 非常に素晴らしい。

  • 解説長過ぎ、資料としては良いのかもしれないが。

  • 創元推理文庫が満を持して編纂した200年に渡る短編ミステリの集大成全六巻でこれはその第二弾。1920年から1950年までに出された作品から編者が厳選した11篇が収録されている。最初期の作品が収められた第一巻に比べるとこの第二巻はハメットやチャンドラーといったハードボイルド黎明期の作品も収められていて少しミステリっぽくなったかな、という印象。どれも新訳というから力がかなり入っているのは確かかな。個人的に大好きなチャンドラーの「待っている」という作品がこんなに良かったか、という感慨があったのは良かった。ただ本作も第一巻と同じく編者のあとがきというかエッセイが長い。この時代にはこういう作品があってこういう理由でこれらの作品をチョイスした、という話なのだけど脱線があったり世評に対する反論などがあったり…もう少し簡潔に書けるでしょ?という思いがどうしても拭い去れず、で。読まなければいいのだろうけど内容にはやはり興味があってちょっと我慢しながら読んだような感じ。そこが少し残念でした。

  • なんかお堅くて、
    私が思うミステリと違うのかなあ
    解説?が多いw

  • 短編ミステリの歴史をさぐるアンソロジー。この第2巻は1920年代から50年代までの作品が収録されている。この頃になるとハメット、チャンドラー、スタウトなど、馴染みのある作家が出てきて、やはり抵抗なく読める分、面白さは1巻よりも上がってきた。それでもまだ個人的に全然知らない作家や、何故選ばれたのか分からない凡作も混ざっている。基準がはっきりしないな~。
    後半の長大な評論は賛否分かれるだろうけど、大好きなクイーンやカーが登場してきたので、その部分はとても面白かった。

  • アンソロジー第2巻。
    メインの収録作だけでなく、分量の半分近くを占める長篇評論が面白くて堪らない。

  • 2020/04/05読了

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