たかが殺人じゃないか: 昭和24年の推理小説 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488405182

作品紹介・あらすじ

昭和24年、ミステリ作家を目指している風早勝利は、名古屋市内の新制高校3年生になった。学制改革による、たった1年だけの男女共学の高校生活。そんな中、勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、中止となった修学旅行代わりの旅だった――。そこで巻き込まれた密室殺人。さらに夏休み最後の夜に、首切り殺人にも巻き込まれる! 二つの不可解な事件に遭遇した少年少女は果たして……。レジェンドが贈る、年末ミステリベスト3冠の傑作が、ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 最初に驚いたのは、1932年生まれの著者が今も現役バリバリで新刊を書いていること。
    正に人生100年時代だ!

    題名通り、舞台は昭和24年、敗戦の傷が人々に影響している。

    主人公の風早勝利は新生高校3年…作者の分身であろう。旧制中学は5年間だったので、1年間限定の初男女共学高校生(著者の実体験) 。

    推理小説研究と映画部員5人と顧問教諭で行った夏合宿で、密室殺人事件に遭遇する。
    そして、また新たな殺人事件が…。

    時代の重苦しさを、青春真っ只中の軽快な若者たちが救ってくれていた。犯人の予想は当たった。
    愉しめた。

  • 戦後の色濃い、探偵推理小説。
    タイムスリップした様な感覚で読みました。
    今の時代からはちょっと想像しにくい様な、教科書でしか知らない昔。時代によって価値観も常識も変わるんだと当たり前の事に気づかされます。

    舞台は名古屋、わたしも以前住んでいたので広小路や栄などの地名が沢山登場するのは懐かしい気持ちになりました。

    肝心のストーリーですが、王道本格ミステリに思います。密室トリックや犯人の動機なんかも硬派で、あぁ、久しぶりに本格ミステリを読んだという満足感がありました。

    最後は、してやられました。コレが一番気持ち良かったです。楽しかったですね。

    ただ、映画や俳優の会話がやや多かったのでそこは読み飛ばし気味でした。

  • 一番犯人でいてほしくなかった人が犯人だったなぁ。
    戦後の青春推理小説。初作家さんだった。
    シリーズ2作目だったらしい。

  • 戦後すぐの名古屋を舞台にしたミステリ。民主主義に移行したものの、それまでの軍国主義から抜け出せない大人たちが醜悪で、また戦争で真っ先に犠牲になる女性たちが憐れで悲しい。当時10代だった作者の怒りと戸惑いが感じられる小説だった。一方でミステリ(トリック)は私の好みではない。どちらの殺人も可能かもしれないが、何というか現実的ではないので。それよりも戦前と言われる昨今、こういう小説がもっと読まれてほしいなと思う。

  •  コロナ禍真っ只中の2020年、年末ランキング3冠を達成。当時、著者の辻真先さんは御年88歳。91歳となった現在でも作家として活動中であり、頭が下がる。というわけで、文庫化を機に、初の辻作品を手に取ることにした。

     サブタイトルに「昭和24年の推理小説」とあるように、時代は戦後間もない頃。何となく避けていた理由だが、読み始めるとぐいぐいと引き込まれる。古臭さは一切感じない。むしろ瑞々しい。活字が小さい創元推理文庫だが、早く読みえた。

     占領下の学制改革で、新制高校3年として1年間だけ共学で過ごすことになった主人公・風早勝利。辻さんは終戦時に13歳だったそうなので、勝利はほぼ辻さんご本人と同年代。混乱期を過ごした辻さんの経験が、随所に生きている。

     勝利たち推研の面々は、最初は異性とどう接するべきか戸惑っていたが、徐々に打ち解けていく。そんな彼らが2件の殺人事件に遭遇するのだが、謎解き自体は終盤まで引っ張った割には呆気ない。自分が思うに、謎解きは本作のメインではない。

     軍国教育の影響はまだ色濃く残っており、誰もが生きるのに必死な時代。勝利たちは、理不尽な出来事、ショッキングな事実に打ちのめされる。それでも、新しい時代に前を向く。そして事件の動機にも、戦後間もない時代背景があるのだった。

     『たかが殺人じゃないか』という物騒なタイトルの意味を、やがて読者は知ることになる。戦中は散々に殺し合って来た。玉音放送を聴いたところで、麻痺した感覚はすぐには戻らなかっただろう。そこでこのような局面に接してしまった。

     戦後世代の基準では、被害者の行為は受け入れられない。当時、地位のある相手を告発するのは困難だっただろう。それでも、他の手段はなかったのかと、勝利でなくても考えてしまう。量刑はどの程度か。どうか更生の道を残してほしい。

     本作は三部作の第2作に当たる。また、解説によれば、探偵役の人物は他の辻作品にも登場するようである。次に読むとしたら何がよいだろう。

  • 一番想像しづらい時期。
    生活様式もそうだが、人の気持ちみたいなところも戦前とか戦中みたいに振り切って考えられる時代と比べても、なかなかわからない。

    殺人事件への温度感も低いし、殺人の動機はわかったけど、なんで密室?なんでバラバラ?というのもわからなかった。

    「たかが殺人…」恐ろしい言葉。

  • 終戦から4年後の名古屋を舞台にした青春ミステリ小説。
    男女共学が始まったばかりの推理小説研究部に所属する高校3年生が主人公。
    映画研究部と合同で活動しているので、映画の話もたくさん出てきます。
    辻先生の作品を読むのはこれが初めてでしたが、著者プロフィールを見てびっくりの1932年生まれのレジェンド作家先生でした。
    ミステリの要素以外の昭和24年当時の社会風俗の描写が、とても興味深かったです。
    ミステリ、青春 、歴史の3つの要素が楽しめる作品で、とても面白かったです。

  • 昔のテレビのサザエさんで、脚本として画面で名前を見たこともある辻先生の作品。皆川先生、辻先生と言えば、御年90歳代で精力的な執筆活動をする凄い先生方なのだけど、一読者としてはただただ敬服するのみ、ほんと畏れ多いです。
    ジュビナイル的な雰囲気を残しながら、時代の変遷と当時の状況の描写が印象深く書き込まれているし、戦後の名古屋市街の描写も個人的に良く知っているので微妙なノスタルジィも感じられる。六・三・三制の導入で突然高校3年生になった青年たちの抱える現状の描き方も良く、子供なのか大人なのかわからない設定が巧いです。
    謎解きストーリーは定番ながらも鮮やかで、幕切れの秀逸さも加わって見事な出来栄えと言える。前作を読んだ上でこの本の面白さがわかるというのは、感情移入の点で
    そのとおりなのだと得心した次第です。

  • 昭和24年の名古屋、きっと作者の体験が反映された風景なのだろう。リアリティを感じさせる。
    トリックは突飛な気がするし、いろいろ都合よくものが運ぶ面はある。でも、青春ものの、どこかあっけらかんとした感じが心地よく、どんどん読めてしまう。

  • 戦後が時代背景の為、中々消化出来ず初めのうちは読むのに少し苦労しました。(鉄道の話も本線から脱しているのに長すぎるかな)

    ミステリとしてはトリックが精密ではないとは思いますが、登場人物の背景や時代背景はとても勉強になり読んでいて感心しました。

    作者さんのお歳を考えると実体験に基づくところもあるのかなと思い感慨深いです。

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著者プロフィール

1932年、名古屋市生まれ。名古屋大学文学部卒業後、NHKに入社。テレビ初期のディレクター、プロデューサーをつとめたのち、脚本家に転身。『鉄腕アトム』、『エイトマン』、『ジャングル大帝』、『サザエさん』、『巨人の星』、『デビルマン』など、1500本超のアニメ脚本を執筆した。また、推理小説作家としても活躍しており、『仮題・中学殺人事件』、『迷犬ルパンの名推理』、『あじあ号、吼えろ!』、『完全恋愛』(牧薩次名義)など多数の著作がある。現在、デジタルハリウッド大学教授。国際アニメ研究所所長。本格ミステリ作家クラブ会長。

「2009年 『『鉄腕アトム』から『電脳コイル』へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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