古本屋探偵登場: 古本屋探偵の事件簿 (創元推理文庫)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488406066

作品紹介・あらすじ

神保町の一角で“本の探偵”の看板を掲げる変わり者の古書店店主・須藤康平。刊行後の半世紀に亘って誰も目にしたことがないといわれる稀覯本『ワットオの薄暮』を巡り神保町の猛者達が策略を巡らす表題作のほか、幼少期に読んだ本を探す女と古書街に通い詰める不気味な老人を結ぶ接点が、慄然たる犯罪を引き起こす「書鬼」、脅迫状が挟まったまま売却された文献を巡る古書業界間の駆け引きを活写する「無用の人」の三編を収録。(『古本屋探偵の事件簿』分冊版)

感想・レビュー・書評

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  • ・紀田順一郎「古本屋探偵登場 古本屋探偵の事件簿」(創 元推理文庫)は旧版の一冊本を分冊にした書である。本書はその1、短編3編が入る。珍しく私は旧版を持つてゐる。買はな くても良いのだが、読み直すのならこの方がはるかに読み易いので買つた。そして読んだ。おもしろかつたのは言ふまでもない。この手の本を読むと私は愛書家ではないといつも思ふ。本好きではあるが決して愛書家ではない。第一、本の数が違ふ。 家の根太がどうのなどと考へることはない。最近は、新刊以外はwebで探すことが多い。以前は結構古書目録を見てゐた。ほとんど買ふことはないが、見るだけは見てゐた。言はば目の保養である。今でも古書目録を 請求すれば送つてくれるはずだが、私は見ない。webでより安い本を探す。本書で問題になるやうな限定版の類には興味ない。言はば安物買ひである。こんなわけで私は愛書家とは言へない。ただし、「愛書家とか蔵書家とはいっても、普段はごく普通の人たちなんですね。」(解説対談「『本の探偵』と愛書奇譚」362頁)とか、愛書家は「まあ、フェティシズムの一種ということなんだろうけれど。」(同前)とかの瀬戸川猛資の言がある。これからすれ ば、愛書家といつてもごく普通の人であるのに、「現実生活とはおよそ無縁なものに、とほうもない情熱と精力を傾ける」ところがあるといふ点は、私にも似たところはあると言へよう。
    ・巻頭の「殺意の収集」の依頼人津村恵三は、「本探しの極意は熱意ではない、殺意だと思います。」(22頁)と言ふ人である。これが私家版2部のうちの1部を入手したといふことから物語は始まる。「カンと殺意」(29頁)で見つけた私家版はいかなるものかといふのを、書肆・蔵書一代といふ古書店主の須藤康平が推理する物語である。津村はサラリーマンで「要領がよく、言動にムダがないという感じで(中略)いつも整然とした話し方に感心させられ」(17頁)るやうな人である。およそ「殺意」を抱いた愛書家とは見えない。「無用の人」の依頼人尾崎朋信は「銀行の人」(293頁)で、「おれのポストは重要な、忙しい仕事なんだ」(349頁)と自ら言ふ人であるから、こちらもそんな愛書家とは見えない。ところ が「書鬼」の依頼人風光明美の祖父となるとさうはいかない。 本は「それはもうものすごいものです。そのころだって、書斎から廊下へ、玄関へとあふれて いて云々」(191頁)と明美が言ふほどである。しかも身分を明かしていない須藤に、「本を盗みに来おったのだろう」(259頁)と言ふほどに本に対する執着がある。本を動かされたらその場所が分かるかとの問には、「『わかる』言下に答が発せられた。」(同前)といふほどであるから、並みの者ではない。明るくして顔を見れば「人間の顔だろうか。」(264頁)である。従つて書鬼、正に書鬼である。こんな愛書家、蔵書家が出てくる本書で最も気になつたのは次の言葉である。「蔵書一代…人また一 代…かくして皆…共に死すべ し…」(140頁)「書鬼」の蔵書は“紙屑”として「一切合財処分」(同前)されてしまつ た。一軒の家ほどの大量の蔵書も本人以外は無用の長物であつた。津村や尾崎の蔵書、それもかなり高価な限定本の類らしい、も同じ運命をたどるのであらう。何でもさうだが、いかに重要なものであれ、その持ち主以外には無用の長物である。津村の商品たる古書とて同じこと、津村の後にどうなるかは分からない。作者自身「それが結局、本書のテーマになってるということでしょうね。」(374頁)と言ふ。いかにも紀田順一郎らしい。さういふところが好きなんだよなと言つておかう。

  •  1985年刊行の文春文庫版は読んでいたけれど、このたび1991年創元推理文庫版が分冊版でリイシューされるというので迷わず買いました。この『古本屋探偵登場』には、1991年の創元推理文庫版が刊行されたときに書かれたまえがきとあとがき、文春文庫版には未収録の『無用の人』、解説対談として瀬戸川猛資との対談が収録されています。成島柳北の『柳橋新誌』幻の第三篇が題材となっている『無用の人』、和本についての蘊蓄が楽しくてあっという間に読み終えてしまいました。解説対談も興味深く、行われた場所が山の上ホテルなのも、にやにやしちゃいます。

  • 昭和50年代の神保町が舞台。四話入って660頁はお買い得。以外とスラスラと読めてしまう。ビブリアと比較してみたいが、テレビしか見てないので何とも言えない。個人的には、結構面白くて、好き。いろんな本の話題も出てきて、興味は尽きない。

  • 神保町に居を構える本の探偵・須藤の元に持ち込まれる三つの事件を収録した連作短編集。どうやら復刻版らしく、今作は1980年代前半の作品のようだが、当時の時代感による古臭さは殆ど感じなかった。本探しの依頼が思いも寄らぬ事件に発展する展開も実に興味をそそる。巻末の解説対談では今作に登場する愛書家達(古書マニア)のキャラクターは決して誇張したものではないと述べられているが、だとするとこの界隈には絶対立ち入りたくない。個人的には若竹七海さんの<女探偵・葉村晶>シリーズに通ずるものを感じ取ったので、続編も読むつもり。

  • 時代背景の関係かな?

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著者プロフィール

評論家・作家。書誌学、メディア論を専門とし、評論活動を行うほか、創作も手がける。
主な著書に『紀田順一郎著作集』全八巻(三一書房)、『日記の虚実』(筑摩書房)、『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)、『蔵書一代』(松籟社)など。荒俣宏と雑誌「幻想と怪奇」(三崎書房/歳月社)を創刊、のち叢書「世界幻想文学大系」(国書刊行会)を共同編纂した。

「2021年 『平井呈一 生涯とその作品』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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