死の快走船 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488437039

作品紹介・あらすじ

白堊館の建つ岬と、その下に広がる藍碧の海。美しい光景を乱すように、海上を漂うヨットからは無惨な死体が発見された……堂々たる本格推理を表題に据え、早逝の探偵作家の魅力が堪能できる新傑作選。愛憎の末に行き着く水中の惨劇を描いた犯罪奇譚「水族館異変」、午後三時に急行列車三等車の三両目を利用する怪しげな旅行団体をめぐる「三の字旅行会」、相次ぐ広告気球脱走事件に隠された奸計をあばく防諜小説「空中の散歩者」など多彩な作風が窺える十五の佳品を選り抜く。

感想・レビュー・書評

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  •  創元推理文庫から『とむらい機関車』、『銀座幽霊』が刊行されたときに読んだのが、大阪圭吉との出会いであった。戦前にも、このような本格短編を書く作家がいたといった紹介がされていたと思うが、舞台設定も面白く、論理に冴えがあり、非常に読み応えがあった。

     最近も他の出版社から刊行が続いているが、正に本命から出た久々の作品集である。
     戦前の探偵作家は、乱歩が良く言われるように、時局が許さず、諜報ものや冒険もの、あるいは捕物帖に筆を曲げざるを得なかったとされていて、本作の著書、大阪圭吉もそうであったと言われている。  

     確かにその面はあるのであろうが、本作収録作品は、表題作こそ本格ものとして恥じないが、他の作品を読んでも、ユーモア味があったり、世相を反映したもの、日常の謎的なものなど、幅広い作風を感じられ、現在読んでも十分楽しんで読むことができる。

     また、著者の作品に惚れ込み、自費出版までするに至った盛林堂の小野さんの文章まで付されていて、贅沢な一冊である。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50210923

  • ・大阪圭吉「死の快走船」(創元 推理文庫)の 「解題」によると、圭吉は昭和12年以降、「作風を転換し、ユーモア物、犯罪小説、少女小説、防諜探偵物、軍事冒険物、捕物帖など、 様々なジャンルの作品を手掛けている。」(409頁)さうで、本書「死の快走船」には、創元推理文庫版「とむらい機関車」「銀座幽霊」に続いて、「前二巻に未収録の初期作から、後期のヴァラエティに富んだ作品まで網羅し」(同前)てあるといふ。実際、本書で目につくのはユーモア小説ではないかと思ふ。全15編収録、ユーモア 小説と書いてあるのは……何と2編だけであつた。「求婚広告」「香水紳士」である。それらしいのは他にもあるのだが、初出時、この2編はユーモア小説と銘打たれてゐたといふことであらう。本書のかなりに初出時の挿絵が使はれてをり、そこにかう書かれてゐるのである。「求婚広告」は『週刊朝日』に載つた。現代風にいふなら、アラサー女の出した求婚広告に応募したアラフィフ男の悲喜劇ともならうか。この謎を男の懇意の弁護士が解く、それもいとも簡単にといふ感じである。週刊誌の息抜きにはこんな他愛のない短編が良いのかもしれない。「香水紳士」は『少女の友』に載つた。掲載誌が掲載誌だけあつてこれもまた他愛がない。ごく大雑把に、電車で乗り合はせた男の正体はといふ作品であるが、最後のご褒美は何が良いといふのに対する答へは、「じゃ、 あたし、サンドウィッチをいただきますわ」(295頁)といふものであつた。この少女の答へはいかにもこの手の雑誌にありさうなものであるが、このやうな作品集に入れられる と、やはり対象の違ひが明らかである。そのための雑誌だから当然ではある。この2編、私のやうなまとめではユーモアが感じられない。 しかし、それなりのユーモア小説ではあらう。その前の「告知板の女」は『新青年』所載、これもまた告知板(今は昔の駅の伝言板)に振り回される男とその 彼女はユーモアにふさ はしさうであるし、更にその前の「正札騒動」も『新青年』所載、正札に振り回される店員の姿と謎解きもまたユーモアであらう。『新青年』も本格推理小説ば かりではないのである。
    ・私は本格推理小説がどのやうなものか分からないのだが、たぶん巻頭の表題作「死の快走船」はさうなのであらう。カバー裏には「堂々たる本格推理を表題に」とある。「岬の端に建つ白堊館の主人キャプテン深谷は、愛用のヨットで帆走に出かけた翌朝、無残な死体となって発見された」、そして犯人探しが始まる。圭吉はヨットに詳しかつたのかと思はせるのだが、実際はどうなのであらうか。この短編ではヨットを走らせて犯人を突き止める。鮮やかである。大体、かういふ作品の探偵達は鮮やかなのだが、「弓太郎捕物帖」と名付けられた捕物帖の主人公香月弓太郎も鮮やかである。例の如くに「弓太郎の言動監視」(370 頁)役たる岡つ引銀次が「腰巾着」(同前)としてゐる。捕物の迷コンビである。これが「夏芝居四谷怪談」「ちくてん奇談」とある。怪談話にまつはる怪談、 お岩様が奈落に出たのである。これなどは比較的易しい。江戸の興業の仕組みが分かれば多分解ける。ちくてんは逐電である。あちこちで人間が消えるのであ る、何の前触れも知らせもなしに。これはなかなか難しい。当時の世相が分かつてゐれば簡単に解けるのだらうが、それが分かつてゐないから難しい。しかし弓 太郎は当時の人間であつた……で、解けるのである。本書は確かに圭吉の「ヴァラエティに富んだ作品」集である。三河にも本格推理小説 作家がゐた! しかし 圭吉しかゐないとは……三河といふのは推理作家不毛の地であつた。

  • よく言えばバラエティ豊かで、本格推理から、コメディに捕物帖、戦時下のスパイものや反米キャンペーン作まで、収録作に脈絡がてんでない。そのあたりも含めて、かつて角川の黒背にあった、横溝正史氏の落ち穂拾い的短編集(「空蝉乙女」とか)を連想したが、作品のレベルはさすがに高い。白眉は表題作の「死の快走船」。

  • 創元推理文庫からでる3冊目の圭吉作品集。今回は、初期作からユーモア、戦時中の時局を反映させた作品まで収録されておりバラエティに富んだ1冊となっている。
    前の二冊(「銀座幽霊」「とむらい機関車」)がどちらも本格短篇でそれに魅せられた読者は、本書で時代を追う毎に変化していく大阪圭吉の作風の変遷が俯瞰できて面白い。
    それと、雑誌掲載時の挿絵も収録してくれているのがとても嬉しいですね。

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