松風の記憶―中村雅楽探偵全集〈5〉 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M と 2-5 中村雅楽探偵全集 5)
- 東京創元社 (2007年11月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (652ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488458058
感想・レビュー・書評
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後年の人の死なない短篇群を先に読んでいたから、ことに若い人が死ぬ話は辛い。それだけ人間がよく書けているということでもあるのだろうが。
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松風の記憶
第三の演出者 -
全集最終巻には、長編2編と探偵小説にまつわるエッセイを収める。
表題作は、1959年から1960年にかけて東京新聞に連載された。全集第1巻の最後に収められた「文士劇と蝿の話」に、浅尾当太郎の悲恋への言及があり、それを書いた話があるの? と思っていたら、「松風の記憶」がそれだった。先に解題で、最初に単行本化されたとき「鷺娘殺人事件」の副題がついたということを読んでしまったため、いわばゼロ時間へ向かって読むこととなった。"鷺娘"が殺されるのは、全体の85%を過ぎたところ。そこまで、登場人物の動向と心情を丁寧に記しているのだが、それだけでも面白いのだが、いつどうやって殺されるのか、"鷺娘"はやっぱ彼女なのか、とか思って読むので、緊張感溢れるものになる。登場人物への親近感も増していき、特に"鷺娘"はどんどん魅力的になっていって、殺人事件なんて起きなくていいよ! と思ってしまう。結果として悲劇の端緒を作ってしまった当太郎の父で雅楽の親友浅尾当次も、冒頭で死んでしまうのに、なんだか床しい人柄で、好きになってしまった。
もう1編の長編「第三の演出者」は1961年の書き下ろし。関係者6人の1人称話と雅楽の1人称推理で構成されるが、藪の中方式で、人によって言い分が違う、というわけではなく、違う角度からの叙述によって、徐々に何が起きたかが明らかになっていく、という趣向。雅楽の推理の前に犯人はわかってしまい、謎解きとしてはひねりがないが、十分面白い。当時の新劇の位置づけも興味深い。 -
歌舞伎役者、中村雅楽シリーズ、ついに最終巻です。
*松風の記憶
*第三の演出者
*中村雅楽エッセイ
「第三の演出者」は、芥川龍之介の「藪の中」的な作品。
事件が既に起こっているのだけど、個々が最初から語っていくので、結局何が起こったのかなかなかわからない。
この何か起こったはずなのに、何かわからない、っていうどきどき感が素晴らしい。
「藪の中」的作品って、よくある。でも、結構????なものが多い。
が、これはとてもよくできてると思う。うん、トリック的なところに重きを置かず、個々の気持ちを丁寧にトレースしているのが効果的だったんじゃないだろうか。
で「松風の記憶」
田舎の女子高生の話と、急死した歌舞伎役者、全く繋がりがなさそうな二つが次第に近付き、絡み…。
歌舞伎界ならでの繋がりが、物語を更に複雑に儚く切なくしている。
雅楽の傍観者的な立場は揺るがない。
傍観者であるからこそ、結末の哀れが胸に沁みる。
物語が、しみこんでくる感覚は、このシリーズならではであり、このシリーズの一番の魅力だと思う。
エッセイは、雅楽のようであり、記者竹野のようでもある戸板氏の誠実な人柄がよくでていて微笑ましい。
江戸川乱歩に「書いてみたら」とすすめられて書いた、という縁をすごく大事にしているところなんて、ほんといい人だなぁと思う。
また、折口信夫のお弟子さんなんだそうで…。
釈迢空が好きなので、それだけでちょっとときめくのであったww
ああ、でもこの冬の日の透明な空のような文体は、釈迢空の句にも通じるものがあるかもしれなぁ。
雅楽シリーズは、ミステリーファン必読ですぞww -
雅楽作品全集の最後は、めずらしく殺人を扱った長編2作。読み応えたっぷり、とても面白かったです。と言いつつ雅楽作品にしてはシビアで、4作品目で炸裂していた雅楽老のお茶目なところもさほどではなく、淡々と読了。作品も悲しい話だったので読後感はしんしんとした感じ。全集として最後に長編2本をもってきたのでしょうけれど、明るい気持ちで読み終わりたかったのが少し残念でそれで★4つです。
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未読。