雪の断章 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M さ 4-4)
- 東京創元社 (2008年12月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488467043
作品紹介・あらすじ
迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝杷祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが…。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。
感想・レビュー・書評
-
二年前くらい前から密かに気になっていて、冬真っ只中なので読んでみた。
今まで読んだことのないような作品だった。
ジャンルとしては一応ミステリに入るのかなとは思うけど、ここまで文学的要素もりもりのミステリは初めて読みました。
孤児である飛鳥は本岡家に引き取られたものの、そこで家族から酷い虐めにあい、家出した先で祐也に出会い、そこから二人の共同生活が始まるというストーリー。
幼い頃から中高大と進む中、祐也に対しての尊敬•温情に恋心が芽生えていく心中が、ここまでかというほど繊細に描かれていて、叶うはずのない思いにとても切ない気持ちになった。
そして、飛鳥の心情描写と、札の”雪””冬”が、いい感情の時も悪い感情の時も非常にマッチしていて、美しさすら感じました。
とにかく我が強いことにひたすら苦悩する飛鳥、穏やかで包み込むような優しさの祐也、一歩引いたところから茶々を入れるように飛鳥を見守る史郎、嫉妬心でちょっと意地悪なお手伝いさんのトキ、見た目よりもだいぶ強かな厚子等々、魅力的な登場人物が沢山出てくるのも良かったです。
純文学ではないが、それに匹敵する文学作品を堪能できました。
ただ、主人公とは完全には分かり合えないため星四。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。その二年後、引き取られた本岡(もとおか)家での虐めに耐えかねて逃げ出した飛鳥を引き取ったのも、なんとその青年・滝杷祐也(たきえひろや)だった。飛鳥の頑なな心は祐也たちとの交流を経て変化していく。そんな中、住んでいるアパートで毒殺事件が発生し──。
毒殺事件を巡るミステリであり、孤独な少女と引き取った青年の交流と成長を描いたドラマでもあり、メルヘンの要素を兼ね備えたラブロマンスでもあるという、とんでもないデビュー作。飛鳥が大人になるまでの時間を、ひたすら削って磨いて宝石の結晶にしていく物語だった。どの登場人物の造形も深く彫り込まれてあって、アパートで一緒に暮らしているかのような気持ちになった。
冷静で愛情深い祐也のあたたかさ。その親友・近端(おうはた)史郎は、荒っぽいのに面倒見がいいムードメーカーでいいコンビ。隣人の厚子も同じ女性として飛鳥を助けてくれる。学校の友人・順子も公平さを重んじ、言うべきことはハッキリ伝えるところがカッコいい。新しく本岡家へと引き取られた由紀子のタフさも見習いたくなる。みんな気骨があって、飛鳥を甘やかすわけじゃないという部分が物語に説得力を与えている。意見交換やしかるべきところは伝えるという愛情で、凍てついた氷を溶かすのが素敵だった。
そして、毒殺事件の顛末。人間が受けるべき罪と罰とはどこにあるのか?法律で裁くことができない罪もある。刑罰を与えても反省するかなどわからない。人間が抱く罪悪感とは何なのか?そんな哲学性を感じる作品だった。まるで手の中の雪が溶けないように、その結晶の美しさを留めるために、冷たい手で温かく包み込む。そんな不器用な人々の物語。
p.11
不幸はナイフのようなものだという。刃をもてば手が切れるけれど逆手に持てば利用出来る、と。
p.198
時期がちがうか形が異なるかであって、哀しみや喜びは公平に順番が回って来るものなのだ。
p.249
「打ち明ける勇気と黙って引く勇気は同格だもの」
p.261
「これでいいのかな、と考えるのではなく、かならず幸せになるんだ、と信じこむことね。これがお見合いのポイント、わかった?」
p.375
「飛鳥、人の運なんてこんなものなんだよ。些細なことが受け取る側に邪推があれば、どんどん毒となって体に回ってしまう。物事はいつも同じ速度と冷たい事実だけなのだ。それを動かす人間によって、右へ左へ、昇るか落ちるかに分かたれてしまう」 -
帯に書いてあった青崎有吾さんのコメント〝紛うことなき徹夜本〟は本当だった。危うくお昼休みにご飯を食べ損ねたり、バス停を乗り過ごしてしまうところだった…
ミステリとしてではなく、物語としてとても面白かった。描写が丁寧で美しく、場面が頭の中で映像化されていくのが不思議だった。
雪の表現が飛び抜けて綺麗で、物語の舞台が地元であることもあり、夢中になって読んだ。今年は大雪で雪には毎日うんざりしていたが、読後は雪がキラキラ輝いているようにさえ感じた。
飛鳥の天邪鬼と言われる部分がとてもよく理解出来たのは、自分にも似た部分があるからだと思う。
自分を守る為に、相手には聞けずに…忖度して望んでもいない結論を出す。周りからは考えすぎるとか、面倒くさいと言われるけれど、今だからこそこういった人間も意外と多いのでは?と思う。
-
主人公である飛鳥の心情描写がすごく丁寧にされていて読みごたえがあったのと、雪の描写が素敵で何度も読みたくなってしまう❄️
-
孤児の飛鳥は、施設から本岡家に引き取られます。しかし、そこではお手伝いさんのように働かされ、いじめられます。耐えかねた飛鳥は、家を飛び出します。そこで、祐也さんと出逢います。三度目の出逢いでした。そして、祐也さんのもとに引き取られることになります。
与えられた運命のなかで、飛鳥は必死に生きていました。一人じゃ生きられなくて、大人に頼るしかない、逃げようのない子どもののほうが、大人よりしんどいのかもしれません。
飛鳥は自分を、「森は生きている」で真冬にマツユキ草をさがす少女と同じだと考えます。
強情で図太く見られることもあるけれど、本当は弱くて小さい飛鳥。自分だけでかたくなに信じ込んで、まわりを無視してしまう飛鳥。
そんな飛鳥が、祐也さんたちと過ごすなかで、どんどん成長していきます。
“不当な権力にしいたげられる哀しさは、味わった者でなければわからないからだ。平凡な奴、運のいい奴にはとうてい及ばないだろう。(p411)”
飛鳥の哀しさは、確かに想像することしかできませんが、心に響き、涙を流さずにはいられませんでした。
こんなに苦しんだのだから、しあわせになってほしいと思いました。
こんな心動かされる小説ですが、途中で、殺人事件が起こります。解説で、この長編は“メルヘン風ミステリー・ロマン”とありました。“純粋理論小説でありながら、文学にまで高められた作品。そのユートピアを佐々木さんは目標にしているのだ。(p420)”ともありました。佐々木さんはそれを為し得ていて、ものすごい小説だと思いました。 -
分厚く、文字も小さかったので読み終えるのに時間かかった〜
異色な家族の関係性を描いていて、最終的にはそいうことになって、難しい感情でした -
初丸美。デビュー作ということで、作者の思いが溢れんばかりだが(笑)簡単に言ってしまうと——ある少女のシンデレラ・ストーリィですかね。かなり複雑ではありますが(笑)。タイトルにもあるように「雪」が少女の心や行動姿勢などに効果的に使われ、それプラス『森は生きている』という舞台の(童話のような)台本が上手く絡み合いなんとも言えない作品に仕上がっている。解説を読んでみると——ある少女とは丸美さん自身がベースのようだ。なぜデビュー作は自分自身を主人公としている場合が多いのだろう——"描く"という行為は自分自身を見つめ直すことと同義なのか…。星四つ半。
-
孤児だった少女は引き取り先で過酷な労働と虐めにあい、たまりかねて逃げ出す。それを助けた親切で聡明な青年と彼らを取り巻く人々の物語を北海道の季節の移り変わりと絡め繊細な筆致で描く本作、読んで圧倒された。大人の気持ちは二重底だと、偽善的な大人に失望する主人公も大人になる過程で人の心はそのような単純なものでは説明出来ないことも身をもって知ってゆく。
昔映画で見たきり細かな内容は忘れていたけど最後だけ朧気に覚えていたので知った気になってたが
今更ですが原作を読んでよかった。
殺人事件も恋愛模様も絶妙なバランスで、
奥行きのある重厚な青春ミステリーロマンでした。