雪の断章 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M さ 4-4)

著者 :
  • 東京創元社
3.79
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488467043

作品紹介・あらすじ

迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝杷祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが…。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 二年前くらい前から密かに気になっていて、冬真っ只中なので読んでみた。
    今まで読んだことのないような作品だった。
    ジャンルとしては一応ミステリに入るのかなとは思うけど、ここまで文学的要素もりもりのミステリは初めて読みました。
    孤児である飛鳥は本岡家に引き取られたものの、そこで家族から酷い虐めにあい、家出した先で祐也に出会い、そこから二人の共同生活が始まるというストーリー。
    幼い頃から中高大と進む中、祐也に対しての尊敬•温情に恋心が芽生えていく心中が、ここまでかというほど繊細に描かれていて、叶うはずのない思いにとても切ない気持ちになった。
    そして、飛鳥の心情描写と、札の”雪””冬”が、いい感情の時も悪い感情の時も非常にマッチしていて、美しさすら感じました。
    とにかく我が強いことにひたすら苦悩する飛鳥、穏やかで包み込むような優しさの祐也、一歩引いたところから茶々を入れるように飛鳥を見守る史郎、嫉妬心でちょっと意地悪なお手伝いさんのトキ、見た目よりもだいぶ強かな厚子等々、魅力的な登場人物が沢山出てくるのも良かったです。
    純文学ではないが、それに匹敵する文学作品を堪能できました。
    ただ、主人公とは完全には分かり合えないため星四。

  • 迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。その二年後、引き取られた本岡(もとおか)家での虐めに耐えかねて逃げ出した飛鳥を引き取ったのも、なんとその青年・滝杷祐也(たきえひろや)だった。飛鳥の頑なな心は祐也たちとの交流を経て変化していく。そんな中、住んでいるアパートで毒殺事件が発生し──。

    毒殺事件を巡るミステリであり、孤独な少女と引き取った青年の交流と成長を描いたドラマでもあり、メルヘンの要素を兼ね備えたラブロマンスでもあるという、とんでもないデビュー作。飛鳥が大人になるまでの時間を、ひたすら削って磨いて宝石の結晶にしていく物語だった。どの登場人物の造形も深く彫り込まれてあって、アパートで一緒に暮らしているかのような気持ちになった。

    冷静で愛情深い祐也のあたたかさ。その親友・近端(おうはた)史郎は、荒っぽいのに面倒見がいいムードメーカーでいいコンビ。隣人の厚子も同じ女性として飛鳥を助けてくれる。学校の友人・順子も公平さを重んじ、言うべきことはハッキリ伝えるところがカッコいい。新しく本岡家へと引き取られた由紀子のタフさも見習いたくなる。みんな気骨があって、飛鳥を甘やかすわけじゃないという部分が物語に説得力を与えている。意見交換やしかるべきところは伝えるという愛情で、凍てついた氷を溶かすのが素敵だった。

    そして、毒殺事件の顛末。人間が受けるべき罪と罰とはどこにあるのか?法律で裁くことができない罪もある。刑罰を与えても反省するかなどわからない。人間が抱く罪悪感とは何なのか?そんな哲学性を感じる作品だった。まるで手の中の雪が溶けないように、その結晶の美しさを留めるために、冷たい手で温かく包み込む。そんな不器用な人々の物語。

    p.11
    不幸はナイフのようなものだという。刃をもてば手が切れるけれど逆手に持てば利用出来る、と。

    p.198
    時期がちがうか形が異なるかであって、哀しみや喜びは公平に順番が回って来るものなのだ。

    p.249
    「打ち明ける勇気と黙って引く勇気は同格だもの」

    p.261
    「これでいいのかな、と考えるのではなく、かならず幸せになるんだ、と信じこむことね。これがお見合いのポイント、わかった?」

    p.375
    「飛鳥、人の運なんてこんなものなんだよ。些細なことが受け取る側に邪推があれば、どんどん毒となって体に回ってしまう。物事はいつも同じ速度と冷たい事実だけなのだ。それを動かす人間によって、右へ左へ、昇るか落ちるかに分かたれてしまう」

  • 帯に書いてあった青崎有吾さんのコメント〝紛うことなき徹夜本〟は本当だった。危うくお昼休みにご飯を食べ損ねたり、バス停を乗り過ごしてしまうところだった…

    ミステリとしてではなく、物語としてとても面白かった。描写が丁寧で美しく、場面が頭の中で映像化されていくのが不思議だった。
    雪の表現が飛び抜けて綺麗で、物語の舞台が地元であることもあり、夢中になって読んだ。今年は大雪で雪には毎日うんざりしていたが、読後は雪がキラキラ輝いているようにさえ感じた。

    飛鳥の天邪鬼と言われる部分がとてもよく理解出来たのは、自分にも似た部分があるからだと思う。
    自分を守る為に、相手には聞けずに…忖度して望んでもいない結論を出す。周りからは考えすぎるとか、面倒くさいと言われるけれど、今だからこそこういった人間も意外と多いのでは?と思う。

  • 主人公である飛鳥の心情描写がすごく丁寧にされていて読みごたえがあったのと、雪の描写が素敵で何度も読みたくなってしまう❄️

  • 孤児という理由で、引き取られた先の本岡家で虐めに遭っていた少女・倉折飛鳥。その窮地を救ってくれたのは、彼女が孤児院で暮らす頃から偶然の出会いを重ねてきた青年・滝杷祐也だった。祐也、家政婦のトキ、祐也の友人・近端史郎、同じアパートに暮らす森谷厚子たちと交流を重ねるうちに、本岡家での辛い日々が解れてゆく。しかし飛鳥と本岡家の縁は切れていなかった。本岡家次女・奈津子と高校で再会し、長女・聖子が同じアパートへ越してきた時に彼女はそう確信したのだった──。佐々木丸美さんのデビュー作、25年※の時を越えここに復刊。
    (※補足)
    1975年刊行の単行本(講談社)を大幅に改訂した、1983年刊行の文庫(講談社)から数えての年数です。
    (感想)2014年12月10日の日経新聞夕刊書評に紹介され、再び注目を浴びていることを知り再読。やっぱり何度読んでも本作が佐々木丸美さんの最高傑作だと思うわ〜。刊行された時代背景から祐也さんが歌う曲、若者の姿勢に対するトキさんの疑問、飛鳥を学生運動家と勘違いすること、孤児に対する世間の扱いなど、古い設定もあります。しかし、飛鳥が自然に敬意を表し、また本岡家に自分なりの指針のもと戦う姿に毎回惹かれ、このような些末なことは気にならなくなる。ようは本作にベタ惚れなんですが(笑)読者の大半は相手役の祐也さんではなく、飛鳥と同じ境遇に立たされて苦悩してきた史郎さんに惚れてしまうようです。一見ふざけた態度を振る舞うものの、仕事となると会社のため誠心誠意働くギャップは確かに良い。そして最後の手紙に一気に虜にさせることも同様。でも私は飛鳥を全面的に応援してしまい入り込むからか、祐也さんにメロメロです(笑)好青年で頭が良く、無駄のない発言や仕草のひとつひとつに飛鳥同様にときめいてしまう〜!でも飛鳥が家出した時に自信を見失い自暴自棄になる場面、周囲の人々が語る祐也さんの様子が特に好きです。「飛鳥あっての俺だ」には何度も悶絶してしまいます。続編となる『忘れな草』他で明らかになる祐也さんと飛鳥の素性を考えると、今後も2人には困難が付きまといますが、幸せな日々を過ごして欲しいと切に願います。

  • 孤児の飛鳥は、施設から本岡家に引き取られます。しかし、そこではお手伝いさんのように働かされ、いじめられます。耐えかねた飛鳥は、家を飛び出します。そこで、祐也さんと出逢います。三度目の出逢いでした。そして、祐也さんのもとに引き取られることになります。

    与えられた運命のなかで、飛鳥は必死に生きていました。一人じゃ生きられなくて、大人に頼るしかない、逃げようのない子どもののほうが、大人よりしんどいのかもしれません。
    飛鳥は自分を、「森は生きている」で真冬にマツユキ草をさがす少女と同じだと考えます。

    強情で図太く見られることもあるけれど、本当は弱くて小さい飛鳥。自分だけでかたくなに信じ込んで、まわりを無視してしまう飛鳥。
    そんな飛鳥が、祐也さんたちと過ごすなかで、どんどん成長していきます。

    “不当な権力にしいたげられる哀しさは、味わった者でなければわからないからだ。平凡な奴、運のいい奴にはとうてい及ばないだろう。(p411)”
    飛鳥の哀しさは、確かに想像することしかできませんが、心に響き、涙を流さずにはいられませんでした。
    こんなに苦しんだのだから、しあわせになってほしいと思いました。

    こんな心動かされる小説ですが、途中で、殺人事件が起こります。解説で、この長編は“メルヘン風ミステリー・ロマン”とありました。“純粋理論小説でありながら、文学にまで高められた作品。そのユートピアを佐々木さんは目標にしているのだ。(p420)”ともありました。佐々木さんはそれを為し得ていて、ものすごい小説だと思いました。

  • 分厚く、文字も小さかったので読み終えるのに時間かかった〜
    異色な家族の関係性を描いていて、最終的にはそいうことになって、難しい感情でした

  • 初丸美。デビュー作ということで、作者の思いが溢れんばかりだが(笑)簡単に言ってしまうと——ある少女のシンデレラ・ストーリィですかね。かなり複雑ではありますが(笑)。タイトルにもあるように「雪」が少女の心や行動姿勢などに効果的に使われ、それプラス『森は生きている』という舞台の(童話のような)台本が上手く絡み合いなんとも言えない作品に仕上がっている。解説を読んでみると——ある少女とは丸美さん自身がベースのようだ。なぜデビュー作は自分自身を主人公としている場合が多いのだろう——"描く"という行為は自分自身を見つめ直すことと同義なのか…。星四つ半。

  • 孤児だった少女は引き取り先で過酷な労働と虐めにあい、たまりかねて逃げ出す。それを助けた親切で聡明な青年と彼らを取り巻く人々の物語を北海道の季節の移り変わりと絡め繊細な筆致で描く本作、読んで圧倒された。大人の気持ちは二重底だと、偽善的な大人に失望する主人公も大人になる過程で人の心はそのような単純なものでは説明出来ないことも身をもって知ってゆく。

    昔映画で見たきり細かな内容は忘れていたけど最後だけ朧気に覚えていたので知った気になってたが
    今更ですが原作を読んでよかった。
    殺人事件も恋愛模様も絶妙なバランスで、
    奥行きのある重厚な青春ミステリーロマンでした。

  • 私が学生だった頃、北海道の若い女性にカリスマ的人気のあった佐々木丸美の代表作。
    仲のいい友達に何回も「雪の断章読んだことある?」と聞かれますが、今回初読みです。
    しかし、映画は観たの。若かりし頃。
    結婚する前の10さんが斉藤由貴が好きで。

    ♪さよならねって言いだしたのは~
     私の方が先だったのに~
     動き出す汽車 最後の握手
     まだほ~どけない~ 離せない~♪ってなシーンは、原作にはありませんでした。
    あの映画は何だったのだろう?

    それはさておき、面白かった。
    現実味は全くないです。
    お手伝いさん代わりに小学校低学年の子を引き取るなんていうことが、実際に行われていたかどうかはわかりません。
    しかし、20代前半の独身男性が、小学校低学年の女の子を引き取って育てるっていうことはさすがに当時としてもありえないでしょう。
    しかも、役所の人たちが全然様子を見に来ないし。

    それでも、二年間本岡家で虐めぬかれた結果、飛鳥の心のなかに頑なに人を立ち入らせない部分ができた事は確かで、その事が飛鳥を幸せから遠ざけてしまう。
    周りの人たちから何度も何度も「素直になれ」と言われても、なかなか治すことのできない心の殻。

    本岡家で過ごした二年間を忘れることができたら、素直に幸せを享受することができたらどんなにいいだろうと、一番強く願っているのは飛鳥。
    そして、私自身にもそんな頑なさとか、プライドの高さとかがあるだけに身につまされる。

    殺人事件は起きるけれど、事件の謎を追うよりも、自分の心を見つめることに主眼を置いたこの作品は、なんとなく三浦綾子の小説のようでもある。
    丁寧に書かれた文章は、ストーリーへの興味というよりもまなざしの繊細さに目が離せず、一気に読み切った。

    あと、『孤児文学』というジャンルがあるそうだけど、「赤毛のアン」「少女ポリアンナ」「あしながおじさん」「家なき娘」など、海外のそれは屈託を抱えている割には主人公が素直で逞しくて明るいのね。
    けれどこの作品とか「氷点」とか、あとマンガだけど「ひとりぼっち流花」とか「キャンディ・キャンディ」とか「はみだしっ子」とか日本のそれは、苦労とか不幸の波状攻撃で、なかなか幸せにたどり着かない気がする。
    文化の違いでしょうか?
    あれ?どれも作者が北海道出身って偶然?
    もう少しよく考えてみます。

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