ピクニック・アット・ハンギングロック (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488594022

作品紹介・あらすじ

あの日は絶好のピクニック日和だった。女子寄宿学校アップルヤード学院の生徒たちは、馬車でハンギングロックの麓のピクニック場に向けて出発した。だが、楽しいはずのピクニックはいきなり暗転。ハンギングロックを近くで見ようと足を伸ばした四人の少女と、教師ひとりが消えてしまったのだ。何があったのかはわからぬまま。その事件を契機に、学院ではすべての歯車が狂いはじめる。カルト的人気を博した同名の映画原作、本邦初訳!

感想・レビュー・書評

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  • 舞台は1900年のオーストラリア、ヴィクトリア州ウッドエンド。
    小さな女子寄宿学校、アップルヤード学院の生徒は
    バレンタインデーに女性教諭に引率され、
    馬車でマセドン山脈方面へ出かけた。
    四人の生徒が、
    登山にはまったく不向きなモスリンのワンピースという服装のまま、
    そそり立つハンギングロックに興味を覚え、
    威容に魅せられて岩場を登り進めた。
    そのうちの一人はパニックを起こしたように泣き叫びながら
    ピクニック場へ駆け戻ったが……。

    昔、本作を映像化した
    ピーター・ウィアー監督の映画を観たのだが、
    少女たちの白いワンピースの裾がヒラヒラしたり、
    時刻を確認しようと思ったら時計が止まっていたり……
    といった断片的なイメージが
    頭の片隅をフワフワするばかりでストーリーを思い出せない私は、
    初邦訳刊行に飛び付いた。
    映画の記憶は一向に回復しないままだし、
    この原作もミステリアスで、
    謎は深まるばかりだけれども、非常に面白かった。

    三人の生徒と一人の教諭が山で行方不明になるという
    不可解な事件をきっかけに、
    厳めしい校長が取り仕切る小さな学校の秩序が崩壊していく様子が、
    淡々と描かれる。
    少女の一人は序盤で
    「ピクニックには地図なんて邪魔じゃない?」と言ったが、
    平穏な日常生活を維持するには、やはり、
    カッチリした約束事や羅針盤のようなものが必要だったのだ。

    Vanitas vanitatum omnia vanitas.

    終盤、もしや……と期待していた《雙面劇場(ドゥー・マスク座)》の
    『気のふれた女たち』【※】を
    ちょっぴり連想させる展開にゾクゾクした。

    【※】姿を消した女生徒を捜索していると、
       その少女は夜明け前、医療戸棚の中から
       頭を下にして床に崩れ落ちてくる――という
       場面があるとか。

  • 2018年の11月にブクログの本棚に「読みたい」として入れたんだけど、やっと読んだのでここに移動(^^ゞ

    映画の方は、とにかく好き。
    あの、カーっと照りつける太陽の下の妙な静謐さが堪らない。
    ただ、あの映画って、映像がスゴすぎちゃって。
    映像にばっかり気を取られちゃって、どういう話だかよくわからないところがあるんだよね。
    だから、原作が出たと知った時、ぜひ読みたいと思っていたんだけど……
    うーん。
    原作を読んでも、やっぱりよくわからない話だった(^^ゞ
    (そもそも、“よくわからない”ところが面白い話だもんねw)

    ていうか、読んでいる方は、いなくなったのが美少女たちであるがゆえに、その真相に、削除されたという「最終章」のような超自然や神話的な何かや、あるいは解説にもあるような、フロイト的な解釈を無意識に求めてしまうんじゃないのかなぁー。
    だから、無意識に求めたことが真相として明かされないことにジレンマを感じる。
    そのジレンマを、「よくわからない話」と表現するんじゃないだろうか?
    もっとも、削除された「最終章」がくっついていたら、「これって、何の話なの!?」ってなっちゃうんだろうけどさ(・・?

    訳者はあとがきで、著者は1週間続けて見た夢を思い出しながらこれを書いた、みたいなことを書いていたけど、本当にそんな文章。
    131ページの後半から、“マイケルとアルバートは馬に乗って、通りを走り続けた。あるところでは、ひとりの使用人が井戸水で体を洗っている。井戸のうしろには、洒落た造りの厩が建っている。マイケルは厩を芸術的と評し、アルバートは金のかかったゴミと評した。無精髭を生やした牛乳配達人が、荷車をゆっくり走らせている。「アイツはついていないんだ」とアルバートは言った。「先週、ミルクを水で薄めたのがばれて、ウッドエンドの役所で罰金を支払わされた」。メイドがひとり、格子で囲われたテラスの階段を箒で掃いている。ある屋敷の砂利を敷いた私道は……”と延々、馬に乗って走るマイケルとアルバートが見ている情景の描写が続くのだが、読んでいるとその光景が次から次へと頭にパーッと浮かんでくる。
    ま、それは映画を見ていたからなのかもしれないが、それにしても、光景が浮かんでくるその感覚がものすごく心地がいい。

    情景描写って、今はなにかとジャマ扱いされがちだけど(^^ゞ
    やっぱり、こんな風に描かれていると、その話の世界にストーンと入り込める。
    そこが、またよかった。

    一方で、89ページ。
    “オーストラリアのブッシュでは、都会と変わらぬ速さで噂が広まる。日曜日の夕食事には、ハンギングロックから80キロ四にあるすべての家庭で、土曜日に起こった奇妙な行方不明事件が話題にのぼっていた。旺盛な好奇心というものは、どんなときでも人間に同じ効果を及ぼす。直接にせよまた聞きにせよ、たいした情報を持たない者たちこそが、声高に意見を述べ始めるのだ”と。
    そういうのって、古今東西変わらないんだなぁーって思っちゃうことが書いてあったり。
    そんな風に、一歩引いたスタンスで世間を見ている人が、こういう極めて主観的な小説を書いているのが面白い。


    上記で、原作を読んでも、やっぱりよくわからない話だったと書いたが。
    それでも、映画よりは話がクッキリしている。
    というよりは、わかる部分はクッキリ描かれているのだが、わからない部分、つまり、失踪の真相は、たぶん映画よりも曖昧模糊と描かれているような気がする。
    (もっとも、それは、削除されたという「最終章」に書かれていることだから当然なのだが)
    その「わからない部分」が曖昧模糊としている感じって、どこか恩田陸の小説と通じるものがあるような気がする。
    ていうか、恩田陸はこの話、たぶん大好きだろうなーって思うんだけどなぁー(^^ゞ
    てことで、この話、ぜひ恩田陸にリメイクしてもらいたい。

    もっとも、恩田陸がリメイクしたら、もっとワケわかんなくなっちゃったりして?w

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      本ぶらさん
      ピーター・ウィアーと言えば「ザ・ラスト・ウェーブ」です。。。謎めいていたコトしか覚えてませんが
      本ぶらさん
      ピーター・ウィアーと言えば「ザ・ラスト・ウェーブ」です。。。謎めいていたコトしか覚えてませんが
      2023/05/09
    • 本ぶらさん
      猫丸さん、コメントありがとうございます。

      残念ながら、「ザ・ラスト・ウェーブ」って、レンタルしていないみたいですねー。
      でも、ウィキ...
      猫丸さん、コメントありがとうございます。

      残念ながら、「ザ・ラスト・ウェーブ」って、レンタルしていないみたいですねー。
      でも、ウィキペディアで見てみたら、ピーター・ウィーアーって、「刑事ジョン・ブック」も「モスキート・コースト」も見てないですね。
      唯一、「グリーン・カード」くらい(^^ゞ
      2023/05/21
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      本ぶらさん

      4Kリマスター版 Blu-rayが出るみたいだけど、レンタルされるかな?
      本ぶらさん

      4Kリマスター版 Blu-rayが出るみたいだけど、レンタルされるかな?
      2023/05/23
  • ★4.0
    全寮制の厳格な女学院、ピクニック中に失踪した少女をモチーフに描く、正統派ゴシック小説。事件によって歯車が狂っていく様が時に強引ではあるものの、1900年という時代設定と作品から醸し出される雰囲気で、些細なことはそれほど気にならない。そして、結局は事件の真相すらも明かされないけれど、本書に限っては全てを煙に巻くくらいで丁度良い。むしろ、真相が明かされてはならず、最終章が削除されたことは英断としか言えない。ただゆっくりと、心を蝕む不穏さに身を任せるのみ。ピーター・ウィアー監督の同名映画も観てみたい。

  • 1975年の同名映画の原作。映画はカルト的人気だったらしいが全く知らなかった。
    ピクニックに行って姿を消してしまった少女たちと引率教師にいったい何が起こったのか。この失踪事件によって学院の生活がゆるやかに崩壊してゆく…
    1900年のオーストラリアの寄宿制女学院という舞台、雄大で不気味なハンギングロック、不可解な事件が相まって幻想的な絵画のような小説である。”もし〜だったら、〜だったろうに”というような神の視点がいい感じにはまっている。
    非常にもやもやする話だが、たいへん印象的で忘れがたい読書体験だった。
    「幻の最終章」はたしかに幻の方がいいかも。

  • Webミステリーズ! : 金原瑞人/ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』解説(全文)
    http://www.webmysteries.jp/archives/14458883.html

    東京創元社のPR
    山崎まどか氏推薦――「ピクニックの最中に消えてしまう少女たち。彼女たちの喪失をきっかけに、美しいものの全てが崩壊していく」
    楽しいはずのピクニック。だが四人の少女と教師ひとりが消えてしまったのだ。その事件を契機にすべての歯車が狂いはじめる。カルト的人気を博した同名の映画原作、本邦初訳!
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488594022

  • 映画をずっと見損ねていて気になっていたのだけど、なんと50年越しで原作のほうの翻訳が!(※原作の出版は1967年)作者のジョーン・リンジーはもともと霊感?幻視?的な能力が強かったそうですが、この小説は70才の時に実際に見た夢を書いたものだそうで。本当に起こったことなのか、完全な創作なのかは諸説あり。なんとも奇妙な事件ながら妙に気持ちをざわつかせる不思議な作品。

    1900年オーストラリア、2月14日のバレンタインデーの日に、アップルヤード学院の女子生徒たち23人は2人の引率の先生と共にハンギングロックと呼ばれる岩山のふもとへピクニックに出かける。しっかり者でボッティチェリの絵のようだと表現されるブロンドの美少女ミランダ、裕福な家に生まれ慈愛に溢れる黒髪巻き毛のこれまた美少女アーマ、成績優秀で知的なマリオンの上級生仲良し三人組に、下級生のイーディス(ぽっちゃりで愚鈍、空気を読まないお喋り)がくっついた四人は、連れだってハンギングロックに登るが、途中で突然睡魔に襲われ眠り込み目覚めたあと、上級生三人は何かに憑かれたように行ってしまい、イーディスだけが半狂乱でピクニック場に戻ってくる。さらに同じ頃、引率のひとりであった数学教師ミス・マクロウも単独で岩山に登り姿を消していた。行方不明の四人の捜索が始まるが痕跡は見つからず・・・。

    結論を言ってしまえば、事件の真相は最後までわからない。失踪した少女たちのうち一人だけが戻ってくるが、彼女に記憶はなく、何が起こったのかはわからないまま。他の少女たちと女教師は永遠に発見されない。事件そのものは、私の印象では現実的な事件というよりはケルト系の伝説なんかによくある妖精の国に攫われたとか、あるいはリップ・ヴァン・ウィンクルみたいなことが起こっているとか、そういう「おとぎ話」に近い超自然現象のように思われた。それはそれでとても怖いのだけど、誘拐とかレイプとか現実的な犯罪のほうが嫌悪感は強いので、できればファンタジーであってほしいというフィルターを無意識に自分でかけているのかもしれない。

    この小説は、どちらかというといなくなった少女たちではなく、残された人たち、一見無関係な人たちにまで事件が影響を及ぼして、人生が変わったり何かが失われたりしていく様子を描き出している。最後に小川を渡っていく少女たちを目撃し、独自に少女たちの捜査を始めるイギリス人青年マイケル(避暑に来ていたお金持ちの坊ちゃん)と御者のアルバート、失踪した美少女ミランダと同室で、憧れのお姉さまとして彼女を慕っていた下級生のセアラ、事件のせいで世間に騒がれストレスで追いつめられていくアップルヤード校長、学院を去るも別の事故に巻き込まれて亡くなる者、逆に事件のおかげでめぐりめぐって幸運を掴む者などさまざま。

    連鎖する不幸はなんだか呪いじみているし、マイケルの言動もなんだか巫女がかっている(男子だけど)基本的には善良な人たちは幸せになり、みんなに嫌われている登場人物は不幸な最期をとげる。だからやっぱり個人的には少女たちが美しく賢いからこそ妖精に連れ去られたのだとでも思っておきたい。

    あと本編とは関係ないですがオーストラリアではバレンタインの時期が夏だというのが不思議な感じでした。バレンタインが終わるともう秋なんですね。

    • 淳水堂さん

      yamaitsuさんこんばんは

      こちらは映画を観て、「実際にあった事件を映画化」のような描かれ方なので実話かと思ってネット検索したら、
      ...

      yamaitsuさんこんばんは

      こちらは映画を観て、「実際にあった事件を映画化」のような描かれ方なので実話かと思ってネット検索したら、
      事実のように書かれた創作ということと、行方不明についての原作者の幻視?を読みました。
      まあ映画が創作である以上行方不明事件の真相を追及するのは野暮と割り切り、
      思春期の少女の夢のような美しさと不安定さが、無骨な自然と垣間見られる過酷な現実に晒される雰囲気を存分に味わえばいいんだろうなと。

      >学院を去るも別の事故に巻き込まれて亡くなる者、逆に事件のおかげでめぐりめぐって幸運を掴む者
      これは映画には無かったと思うので、興味を持つ反面、ネットで読んだ作者の幻視みたいなので、
      なんというか「あ、わかりました…(分からないということが分かったというか)」という気持ちに(^^;)。

      映画でも、神隠しのような幻想を描きつつ、それを打ち消すような現実の描写にドキッとするわけですが、
      やっぱりそういう過酷な現実より妖精の国にかどわかされたという夢を信じたいという気持ちになりますよね。
      そのような不安定さも含めて美しくも恐ろしく、ずっと心の隅に残ってしまうような映画でした。
      2018/12/27
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/

      映画のほうご覧になってたんですね!(さっき感想を読ませていただきました)

      そうなんですよ、実話っぽいけ...
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/

      映画のほうご覧になってたんですね!(さっき感想を読ませていただきました)

      そうなんですよ、実話っぽいけど創作、でも解説によると当初は「これは実話である」みたいなエピグラフが入れられていたり、出版サイドでも二転三転したようです。作者にとっては現実に起こったこと、という認識だったのでしょうか。

      原作は「少女たちが行方不明になって帰ってこなかった」というのは壮大な前振りで、実はそれ以降の話のほうが量的に多かったです。もちろん事件の不穏さがずっと登場人物たちを支配しているんですが。

      真相を追求するのはきっと野暮なのでしょうねえ(^_^;)
      少女たちの不安定な美しさ、儚さと全体の不穏さを楽しむのが正解な気がします。「ヴァージンスーサイド」と同じジャンルかしら?

      映画のほうも是非観たい!





      2018/12/28
  • Joan Lindsayが1967年に発表した長編小説。日本では1975年に公開された映画が有名です。1900年のオーストラリアを舞台に、ハンギングロックへピクニックに出かけた寄宿学校の女生徒たちの失踪事件を皮切りに学校や地元社会で起こった余波を描いた作品です。失踪事件が起こした波紋が徐々に広がっていき、色々な場所で干渉していく様が巧みに描かれています。事件自体は謎のまま終わってしまい、ホラーや幻想文学っぽい感じなのですが、一方でハンギングロック周辺の自然を描いた描写は写実的で素晴らしいです。

  • オーストラリアはコアラとカンガルーと筋肉野郎の大陸だと思ってたので、映画のタイトルはしっていたもののこんなゴシックな小説があったとは意外でした。

    舞台は色々な面で辛うじて危ういバランスを保っていた全寮制女子学園!が少女4人の謎の失踪を発端に瓦解していき、最後はリアルに焼け落ちておしまい、という子供の頃に読んだ『おちゃめなふたご』シリーズの闇堕ち版とも言えなくなくもないストーリー。消えた少女がその後どうなったのか分からないところも良いです。
    それと、満開の紫陽花の花の根本で少女(失踪したのとは別の)の遺体が見つかるシーンとかもナイスです。校長先生、やるやんけ。

    『ヘビトンボの季節に死んだ5人の姉妹』とつづけて読みましたが、あちらは過去を振り返っている分、距離があり余裕やアメリカ的な明るさをどこかに感じられましたが、こちらは同時代視点で書いている分視点が狭く、またオーストラリアが舞台とは言えイギリスの影響が強い寄宿学校の為閉塞感が良い意味で絶望味を高めていました。

    ダラダラ書きましたが、要約するとオーストラリアの自然の中で白いサマードレスの少女達がピクニックして、そのあと恐怖のどん底に陥りますんで、堪らんよね。
    やっぱり、これは映画版観ないといかん。

  • レーベルが「創元推理文庫」だったものだからてっきり雰囲気系ミステリかと思っていたけど、これはどうやら俗に言う「リドル・ストーリー」というものらしい。だから謎は謎のまま放っておかれて、読者はただその余韻を味わったり、想い想いの真相を作り上げたりするしかない。それはそれで大変楽しめた。そもそも私はオーストラリアを、特に20世紀初頭のまだ英国統治下にあったオーストラリアを舞台にした小説なんてものを読んだことがなく、そのため夏にあるバレンタインだったり、幻想的で貞淑な良家の少女たちと荒れた自然の対比だったりという歪さをとても興味深く感じた。何かの事件をきっかけに、どんどん崩れていく完成された世界をただ傍観するという読書体験は定期的にしたくなるものだなあ…

  •  アップルヤード学院に通う少女たちが、ある日ハンギングロックへピクニックに出かける。のどかなピクニック日和だったが、巨礫の近くまで探検しに行った生徒3名と教師1名が行方不明になってしまう。彼らと行動を共にしていた女子生徒の一人もほとんど錯乱状態で、何が起きたか説明することができない。この行方不明事件をきっかけに残された生徒たちの間にも不可解な現象が連続して起こり、退学希望者が増え、学院は失墜していく。
     不気味な物語だった。現実のこととは思えないような描写があったり、読みながらどうも地に足がついていないような心地になったり。でも解説を読んだらそのわけがわかった。つまり著者はこの物語の構想を自身が見た夢から得ていたのだ。夢ね。それはもうなんでもありだわ。呪術廻戦の渋谷事変くらいなんでもありだわ。この物語は夢にしてはリアルすぎる。でも現実にしてはあまりにもふわふわしすぎている。あんまり好きな感じじゃなかったな。でもひとつ思うのは、映像で見たらまた全然感じ方が違うのだろうなということ。この学院に通う女子生徒たちはそのほとんどが「美少女」として描かれていて、幼く美しい少女が失踪したとなれば、またそれを映像で見せられれば、もう少し感情移入できたかもしれない。やっぱりあれね、文字から脳に情景を描き出す能力がわたしには著しく欠如している。少し前に読んだナオミ・オルダーマン『パワー』と同じ敗因。

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