グリンプス (創元SF文庫 シ 7-1)

  • 東京創元社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (605ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488709013

感想・レビュー・書評

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  • 60年代の音楽を中心に物語りが進みますが、この物語の中心は父親との和解ではないでしょうか。
    この本の評価は父親と離別(死別・離婚等)しているかによって大きく変わると思います。
    終盤で幼少期の不仲に新しい解釈が示されます。
    十数年以上前に読んだのでうろ覚えですが
    「お前は好きじゃ無かった(○○で遊びたがらなかった」という言葉は、同じく幼少期に父と触れあった記憶が殆どない私にも思い当たるふしがあり、気が付くと視界がぼやけていました。主人公が死んだ父親から聞かされた言葉も、私の記憶も、一つの解釈に過ぎず事実とは限りません。しかし、そういう解釈の変更で離別した人間と和解するのも方法の一つだと教えてくれた思い出深い作品です。

  • 親ってのは唯一無二のものなんだってことを四十近いおっさんが受け入れるお話。ただし良くない方の意味で。三人のアーティストとのエピソードはそれぞれ過去だとか可能性だとかその辺の象徴として描かれていたように感じたのだけれど、いかんせん彼らの来歴だとかその時代の空気だとかを知識/体験として持ってるわけではないぼくには単なる文字情報としてしか読めない部分も多かった。子どものころうちにあった学習漫画で、タイムスリップして昔の人たちから直接お話を聴こう!みたいなのがあったのを思い出した。

  • とても面白かった。自分のような音楽ジャンキー、60年代、ドアーズ、ビーチボーイズ、ジミヘンのどれかを凄く好きなら読むべき本だし、そうじゃなければ読んでもシンクしないな。

    最後に自立だとか大人になるとか、全くテーマの違うパートがあって、シンクロニシティがあったのも良かったな・・・。

    んで、いよいよ「Smile」を聴くべきときが来たのかしら。

  • SFファンタジー。60年代にさほど思い入れはないので、苦しかった。注釈が一番面白いという時点で終わってる。

  •  物語は60年代に青春を送った男、レイが中年になり家族問題などでうじうじしている時期に、強く想像すると完成することの無かったあのミュージシャンの幻のアルバムを完成させる超能力を自分が持っていることに気づくという、あきれた願望充足ファンタジーである。

     主人公が第2章で対象にするのは章題そのまま、ドアーズ幻のサードアルバム「セレブレーション・オブ・ザ・リザード」。当初、主人公が仮に想定したラインナップは

    A面
    1,Waiting for the sun
    2,Unknown soldier
    3,Hello,I love you
    4,Summers almost gone
    5,My wild love
    6,Five to one
    B面
    7,Roadhouse blues
    8,The celebration of the lizard

     なんで、B面は二曲しかないんだとは、ドアーズファンなら言いますまい。で、紆余曲折のすえ実際に完成させたものは


    A面
    1,Unknown soldier
    2,Waiting for the sun
    春が訪れたので(朗読)
    3,Summers almost gone
    4,Winter time love
    5,My wild love
    6,Five to one

    B面
    7,Clawling king snake
    8,L'america
    9,The celebration of the lizard

     春が訪れたので、ってなにに入ってるんだっけ?アメリカン・プレイヤーにはないよなぁ??

     小説としては、家族問題が一つの大きな軸となっており、ロックSFを読もうという意気込みが強すぎるとグッタリくるが、レコーディング中のマンザレクやデンズモア、クリーガーの描写などもあって、この辺は本を持つ手に力が入ってしまう。
     最初に「あきれた願望充足」と書いたが、結局主人公は現実にあらためて直面することにもなる。

     とはいえ、物語の設定上仕方がないのだが、最初の2枚のアルバム至上主義、かつ幻の3枚目が完成していたならという立場なので、現実に存在する『太陽を待ちながら』以降の作品は貶められることにならざるをえない。いや、ドアーズ=ジム・モリソン史観をとるなら仕方ないと思うけどね。ドアーズ=ジム・モリソン史観が間違っているとも思わないし。

     で、このSF、物語の重要な場面に、ジムの幼少期の有名なエピソードを利用している。ハイウェイの死体。



     大塚英志は「江藤淳と来歴否認の人々」(『江藤淳と少女フェミニズム』所収)の中で、
    「自分の親や家族をほんとうの血縁ではないと否定することによって、自分の出自への違和を表明する妄想の形式を「貰い子妄想」と呼ぶ。それが日本人に固有のものであるとしたのは精神医学者の木村敏だが」「木村敏によると〈貰い子妄想〉においてはその妄想の持ち主が求める血筋はむしろ高貴なるそれではなく、より矮小な存在に傾斜しがちだという」と書いていた(本来なら木村敏にもとうぜん当たるべきだけれど、時間がないので今回は後回し)。

     この文章では日本人に固有の形式とあるが、しかしながら、アメリカ人であるジム・モリソンの来歴否認にも、僕はまた強い動機を感じるのだ。
     米海軍の高官である厳格な父が存命していながら、「両親はすでに死んだ」と公言していたジム。

    「チェンジリング」で、オレは取りかえ子だと語るジム。

     そのようなジムが自分の血筋として措定したのはネイティブ・アメリカンだった。これはジムの証言を信用するとしての話だが、彼が四才のとき、家族とともにニューメキシコのハイウェイを移動している途中で、事故でトラックから投げ出されたネイティブ・アメリカンを見たという有名な話がある。その幽霊が自分の中に入ってきたと…。

     ネイティブ・アメリカンに同化したといえば、なにやら力強いイメージもあるが、それにしても、ジムが自己を同化したのは騎乗して侵略者と闘い荒野で雄々しく倒れるような先住民ではない。ハイウェイというまさに近代的な交通網の上にトラックから飛び散らばった惨めな死体。それが、ジム・モリソンが自身にとりついたと語る魂だった。

     そして、だ。誰にも理解してもらえないのも当然という気もするが、これほどアメリカSFにふさわしいモチーフはない、とぼくは思うのだ。アメリカがその誕生に際して行いまた隠蔽した過去と、未来へ向って伸びると語る通路、それが交錯する地点にジムは立ち合ったのではないか。



    「ピース・フロッグ」で、ジムは

    「Indians Scattered
    On Dawn's highway bleeding
    crowd the young child's
    Fragile eggshell mind
    (インディアンたちが
    血まみれの夜明けのハイウェイに散らばっている
    亡霊たちが 幼い子供たちの
    こわれやすい卵のカラのような心に 群がっている)」
    と歌う一方で、
    「Blood will be born
    In the birth of a nation
    Blood is the rose of mysterious union
    (国家が誕生するときに
    血が 生まれる
    血こそ 神秘的な組織のバラ)」

    と語ってもいるのだ(鏡明訳)。

     もちろんジムの言葉は一面的な解釈を受け入れるものではないことは強調されるべきだろう。


     正当なアメリカの所有者にして、今は居留地に押しこめられ、やがてアスファルトの道の上に横たわる哀れな存在。そのような亡霊にとりつかれたのが自分だと考えるジムはアメリカの本質に接近、というよりはほとんど肉迫していたように思われる。SFがジム・モリソンを対象とするならば、逸脱した反逆児のロックスターなどというものではなく、アメリカの本質を幻視したその「知性」の水準において扱うべきなのではないだろうか。

  • 60年代ロックの「もしも…」に応えた、タイム・パラドクス小説の傑作。 相反していた父親を突然交通事故で亡くした、人生に疲れた37歳の主人公に、ある日特別な才能が備わり、60年代にタイムスリップして、ドアーズやビーチボーイズ、そしてジミ・ヘンドリックスの、有名な“幻”のアルバムを次々に完成させていく。それを通して、父親が過ごした60年代とも向き合うことになり、本当の父親の姿を見つける。それによって主人公も人生に希望を見出していくというストーリーに、僕も自分の人生のことも考えさせられました。60年代ロックファンや今一度自分を見つめ直したい人にもオススメの一冊です。

  • 60年代のロック・ミュージシャン達が、手がけたが未完に終わってしまった幻の作品。それを主人公が完成させると言う、テンポの良い60〜70'sのRockが好きな人にはたまらなく興味深いSFストーリーです。この小説で取り上げられている未完の作品はドアーズの「セレブレーション・オブ・ザ・リザード」。ビーチ・ボーイズの「スマイル」。ジミ・ヘンドリックスの「ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン」。主人公のステレオ修理屋と言う設定もそこから聞こえてくる時代がかったサウンドもイメージできる。再び古いレコードに手を伸ばして聴きながら読みたくなる。

  • 60年代のロック・ミュージシャン達が、手がけたが未完に終わってしまった幻の作品。それを主人公が完成させると言う、とんでもない物語である。この小説で取り上げられている未完の作品は次の3つ。全てファンには良く知られたものだ。ドアーズの「セレブレーション・オブ・ザ・リザード」。ビーチ・ボーイズの「スマイル」。ジミ・ヘンドリックスの「ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン」。小説はこれらの作品を中心として進むが、家族や恋人との関係の話が実は重要なテーマだったりする。だから、ロックの話をもっと読みたい!というタイミングでいきなり話が切り替わったりして、実は落ち着かない。でも見方を変えれば、上記の作品やアーティストについて知識が無くても読める本と言えるだろう。



  • こんな音楽SF作品あったんですね!

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