逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F> (創元SF文庫)
- 東京創元社 (2010年10月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (476ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488738020
感想・レビュー・書評
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面白い作品がいくつか見つかった。特に石黒達昌「冬至草」に惹かれた。やや重たいが、怪奇SFっぽくていい。
「夕飯は七時」★★☆☆☆
- ちょっと不思議系SF。知らない言葉を聞くとそのイメージが具現化されてしまうこども三人兄弟の話。
「彼女の痕跡展」★★★★★
- 朝起きると恋人を失ったかのような喪失感。街中で見つけた「彼女の痕跡展」には自分の私物が並んでいた。
- 短いながら、面白い設定。
「陽だまりの詩」★★★☆☆
- 主人を埋葬するために作られたロボットが主人公目線。徐々に人間らしさを獲得していくロボット。最期は主人もロボットだったことがわかる。
「ある日、爆弾がおちてきて」★☆☆☆☆
- ラノベ。ある日、空から昔好きだった女の子が降ってくる。それは本人ではなく、姿がよく似た爆弾だった。
「光の王」★★★★★
- なぜだか、先週の水曜のことが思い出せない。周りに聞いてもみな同じ日の記憶がない。なぜだか思い浮かぶ外国人少年の顔。なぜか頭に浮かぶ意味不明な言葉。という不思議だけどなんか現実にもありそうな設定がよかった。
- 最後は夢オチ的な、すべて虚構でした的な終わりだけど、それもまた悪くない。
「闇が落ちる前に、もう一度」★★★★☆
- 世界は8日前に生まれた。という事実を発見してしまった男子学生。世界はすべて虚構だった、そしてこの世界はあと9日ほどで消滅する。という嘆きを離れた場所にいる恋人にメールをする、という体裁の短編。
- 特にオチもなく終わるが、設定がおもしろい。
「冬至草」★★★★★
- 放射性物質を含む奇怪な新種植物、冬至草にまつわる物語。異常論文ぽくもあり、ホラーSF感もある。読み応えあった。
- 人間の血液を養分に育つというグロさと、その冬至草に魅せられた半田という男の半生。
- 最初、読みにくくて飛ばそうかと思ったが、そうしなくてよかった。雪女と同じ著者。
「延長コード」★★★☆☆
- 津原泰水作品あるあるの気がするが、あまりSFっぽくない。が、どこか奇妙な空気をまとった短編。
- 数年前に家でした娘が亡くなり、暮らしていたという家を訪ねる父親。
- 何がどうなる訳でもないが、最後までさらっと読めた。
「第二箱船荘の悲劇」★★★☆☆
- 奇妙設定を説明するだけで終わるタイプのSF。常に変形し続けて住人も中で迷子になるようなアパートの話。
「予め決定されている明日」★★★☆☆
- 仮想現実もの。現実世界っぽいほうが仮想世界(諒子の世界)で、不可思議な世界が現実世界(ケムロの世界)。
- 算盤人のケムロは毎日何を計算しているのか知らされていなかったが、それは仮想世界を演算していた。
「逃げゆく物語の話」★☆☆☆☆
- ラングドールという人型の書物。設定はユニークだけど、あまりハマらなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この短編種は、日本SF作家さんの至高の作品集です。
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Sの方に比べていわゆるSFというものの周辺あたりの作品群
SFというより「ファンタジー」ということばが便利すぎる
『夕飯は七時』恩田陸 ★*3
児童文学というか右に並ぶタグでいうところの「いとけないは正義」類の話
SFというかFのどまんなか感
この作者の作品はいまひとつどこが凄いといわれるのかわからない
『彼女の痕跡展』三崎亜記 ★*3
「世にも奇妙な物語」系の話を呼ぶよいいいかたがないことが
ファンタジーの問題だ
『指輪物語』がファンタジーだみたいな味方と同じく問題だ
この作者の作品も上に同じく凡庸にしか感じない
『陽だまりの詩』乙一 ★*4
この作者の作品は話の持って生き方がとてもあざといのだが
それはわかっているけれどでも良いと思わせる運びの巧みさが味
巧みだ
『ある日、爆弾がおちてきて』古橋秀之 ★*5
再読
ライトノベルな「文体」を完全にものにしているところがすごい
手癖でなくわかっていて技術でこれだけかけるんだからとにかく凄い
あまり完璧に走らず誰も黙らせる代表作を書いて欲しい
『光の王』森岡浩之 ★*3
文章も題材もあまり目を引くところがない
『闇が落ちる前に、もう一度』山本弘 ★*3
再読
確かに10年前ならともかく2011年だと古びた作品
同じ作者でももう少し切れ味良い作品を選ぶべきだったのでは
上の『光の王』と同じような題材だけに
差はわかりやすい
『マルドゥック・スクランブル”-200”』沖方丁 ★*4
短い中にしっかり雰囲気出ていて流石な感
この作者の作風も出来上がっているように思うので
当面読まなくてよさそうな
『冬至草』石黒達昌 ★*4
「サイエンスフィクション」な感じのルポルタージュ
小説としてはやや引き弱いけれど雰囲気個性充分
『延長コード』津原泰水 ★*4
文章技術を芸として売る「文芸」種の作品
収録作の中で小説技術でいったら最高
なのかもしれない
『第二箱舟荘の悲劇』北野勇作 ★*3
こういう作風なのはわかるが
届く先がどこだか謎だ
『予め決定されている明日』小林泰三 ★*3
算盤という素材からの展開は面白いけれど
落ちも話の持っていく向きも残念
もっと面白くなり得そうに感じる
『逃げゆく物語の話』牧野修 ★*3
上で★*3が付いている作品に共通して代表するような面白みを狙った作品
「ホラー」みたいなのだとわかりやすいが
「ファンタジー」とより広くなると共感しにくいのではなかろうか
「SF」と狭くなると覚えめでたくなりえるのか -
逃げゆく物語の話 ゼロ年代日本SFベスト集成<F> (創元SF文庫)
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SFというのは、メタ的なカテゴリィ。
なので、本書での試みは真っ当なものと思う。
どの作品も、「ベスト」の名に相応しい面白さだった。
あえて選ぶなら、北野勇作氏の「第二箱船荘の悲劇」。
こういう話、問答無用で大好きなので。
一作ずつの感想は書かないけど、とりあえず、マルドゥック・スクランブルは読まなきゃだな。
ライトノベルのブランド出身の作家さんは、どうも腰が引けちゃうのだよなー。
出版社ごとのカラーが曖昧になってきているというのは、頭では理解しているつもりなのだけど・・・。
<a href="http://mediamarker.net/u/ikedas/?asin=448873801X" target="_blank">前著</a>と合わせ、そういう先入観を早いこと払拭したいと思わせてくれたベスト集だった。 -
西暦2000年を境に日本SFは不死鳥のように復活し新たな春を迎えた。新しい動きや時代の空気を実感していただければさいわいです。本巻には、現代を舞台にした“すこし・ふしぎ”系の物語を軸に、幻想小説や寓話系のものも含め、時間を扱ったSFや、世界の成り立ちをめぐる奇想小説を収録しました。現代SFの豊かな広がりと多様性を示す12編をお楽しみください。
(2010年)
--- 目次 ---
恩田陸 『夕飯は七時』
三崎亜記 『彼女の痕跡展』
乙一 『陽だまりの詩』
古橋秀之 『ある日、爆弾がおちてきて』
森岡浩之 『光の王』
山本弘 『闇が落ちる前に、もう一度』
冲方丁 『マルドゥック・スクランブル“ー200”』
石黒達昌 『冬至草』
津原泰水 『延長コード』
北野勇作 『第二箱船荘の悲劇』
小林泰三 『予め決定されている明日』
牧野修 『逃げゆく物語の話』 -
えすえふ?
サイエンス的なものは完全に切り離し?
なんだね〜 -
序 大森望
夕飯は七時 恩田陸
彼女の痕跡展 三崎亜記
陽だまりの詩 乙一
ある日、爆弾がおちてきて 古橋秀之
光の王 森岡浩之
闇が落ちる前に、もう一度 山本弘
マルドゥック・スクランブル"-200" 冲方丁
冬至草 石黒達昌
延長コード 津原泰水
第二箱船荘の悲劇 北野優作
予め決定されている明日 小林泰三
逃げゆく物語の話 牧野修 -
二つ対になったシリーズで、Sの方は宇宙とかそういう舞台が大きめな話が中心で、F編は地球の身の回りの生活が舞台って感じの分け方。
中々どれもこれも味わい深く、良い作品だった。
己の存在の不確かさを理論的に証明してしまった研究者が恋人にメールを送る
「闇が落ちる前に、もう一度」(山本弘)
とか、
仮想現実を扱った
「予め決定されている明日」
とかはなんか良い感じにSFで、今有る現実とはなんぞやみたいなことを考えると楽しい。
言葉のイメージがそのまま具体化する兄弟姉妹の話とか、無限に広がって行くボロアパートの話とか、なんか微笑ましいものとかもあり、まあ他にも色々あって、とても面白かった。