- Amazon.co.jp ・本 (468ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488749033
作品紹介・あらすじ
もしあのとき、別の選択をしていたら? パトリシアの人生は、若き日の決断を境にふたつに分岐した。並行して語られるふたつの世界で、彼女はまったく異なる道を歩んでゆく。それぞれの世界で出逢う、まったく別の喜び、悲しみ、そして子どもたち……どちらの世界が”真実”なのだろうか? 『図書室の魔法』《ファージング》の著者が贈る感動の幻想小説。世界幻想文学大賞候補、ティプトリー賞・全米図書館協会RUSA賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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義姉お勧めの一冊。
体力いるんだろうな・・・。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
気が違ってしまうことへの恐怖感が煽られる…
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結婚するかしないか、人生の選択で変わりうる人生を、並行して描く。
結婚しなければ自分の道を進めて幸せだったかもしれないけれど、その結婚でうまれた子供達には出会えない。
自分でも、ついつい何度も考える事なので、読んでいてせつない。
そして、どの道筋を選んでも、人は生きて死んでいく。
自分に置き換えて、入り込んで考えてしまった。 -
どっちの世界もイヤ
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2015年、認知症の介護施設にいるパトリシアはだいたい90才くらい、記憶は日々混乱しているが、奇妙なのは自分の子供たちが、四人だったか三人だったかわからなくなること。単に人数の問題ではなく、五人死産して二男二女だけが残った四人だったのか、自分で産んだ二人の他に同性のパートナーの産んだ一人を加えた三人だったのか、まったく別の子供たちが同時に存在していること。二つの記憶のいったい、どちらが本当なのか?
偶然だけれど最近読んだ川上弘美『森へ行きましょう』とものすごく構成が似ていて驚いた。とはいえあちらはSF的要素は少なく、はっきりした分岐点があるわけでもなくて、単にパラレル世界の別々の人生を歩む同一人物の人生を交互に描いた物語だったけれど。こちらはラストに一応SF的なオチ(というか投げかけ)があり、分岐点がはっきりしている。しかし交互に描かれる同じ女性の二つの人生、SFというよりは「女の一生」的物語性のほうが強く残るあたり、両者は日英双子のようだ。これも一種のパラレルかしら、なんて。(ちなみに書かれたのはこちらのほうが先)
閑話休題。パトリシアは1926年生まれ、第二次大戦で兄と父を失うが、女性ながらオックスフォードを出て教師となり、大学時代に知り合ったマークに23才のときにプロポーズされる。幼い頃はパッツィ、友人たちからはパティと呼ばれていたパトシリアだが、マークのプロポーズを受けたほうはトリシア(→トリッシュ)と呼ばれ、プロポーズを断ったほうはパット、と呼ばれその後の人生を分岐させていく。
このマークという男が本当に胸糞悪いモラハラくそ男で、マークと結婚したトリシアは不幸な結婚生活を送るはめになる。愛も欲望もないのに子作りは義務と考えているマークは何度もトリシアを妊娠させ、四人を産み育てる合間に五度の死産を経てもトリシアを思いやろうともしない。しかし子供たちは母思いに育ち、それぞれ孫も生まれたりしてトリシアも自立してゆく。
一方マークと結婚しなかったパットは、友人と出かけた旅行でイタリアの魅力に魅せられ執筆したガイドブックが成功、幅広い人脈を持ちさまざまな友人とつきあう中、同性のパートナーと出逢い、彼女と生きる道を選ぶ。精子提供者の男性をみつけ子供をそれぞれ出産、パートナーがテロに巻き込まれ負傷するなど事件はありつつも、愛情にも仕事にも恵まれ充実した人生を送る。
どちらのパトリシアの人生も、読者はともに悩み、涙し、喜び、シンプルに彼女の人生の物語としても読みごたえは十分、個人的にはもうそれだけで胸いっぱい、良い本だった!と絶賛したい。
一応SFとしては歴史改変ものの要素があり、トリシアは結婚生活は不幸ながらも世界情勢は安定しているのに対し、パットは充実した人生を送れるけれど核戦争が何度か起こり世界は放射能で汚染されている。マークのプロポーズを受けるか受けないかという些細な判断がバタフライエフェクトの起点となり異なる二つの人生だけでなく世界の有り方まで変えてしまうとしたら、自分の人生と世界平和とどちらを優先すべきか、という問いかけが最終的に残るわけだけれど、個人的には、子供たちはどちらも「本当の子どもたち」であることに変わりはない、すべての子どもたちが愛おしい、という結論しか残らなかった。 -
2019.01.12
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一つの選択で、人生が全く変わったとしたら‥?
パラレルワールドのような2つの人生を振り返る女性。
2015年、パトリシアは老人ホームにいて、混乱していました。
子どもが3人だったのか4人だったのか、自分の人生のいろいろなことが二通り思い浮かぶのです。
医者には認知症と思われるだけですが。
1926年生まれのパトリシア。
大学のときにマークと付き合い始めたことで、人生の岐路ができます。
パトリシアの愛称はいくつもあり、こちらの世界ではトリッシュのほうが素敵だとそう呼ばれるようになっていました。
熱烈なラブレターを信じて結婚したトリッシュですが、牧師の息子で堅物のマークは、子どもを作るのは義務と考える古めかしい?男。
流産を含めた妊娠6回、苦労するトリッシュでしたが~4人の子どもはそれぞれ個性的に育ちます。
結婚を断った方は、パットと呼ばれています。
イタリア旅行に行ってガイド本を書いたのをきっかけに評価され、順調に仕事をしていきます。
植物学者の女性ビイと愛し合い、カメラマンの友人マイケルに精子提供してもらって子どもをもうけます。
世界の出来事は、どちらも史実とは少し違っています。
そして、どちらも、良いことばかりではない。
そのあたり、決して単純ではないけれど、密かに文明批評の針が仕込まれているような。
一つの選択で道はわかれるが、どちらが正しい、というわけでもない? そこに深みが感じられます。
きめ細かな描写でどちらもリアリティがあり、2倍楽しめるというか、これほど複雑な話でもパトリシアの気持ちはわかりやすく、切ないものがあります。
作者は「ドラゴンがいっぱい!」、「ファージング」三部作、「図書館の魔法」で知られるSF作家。
この作品も評価が高いですね。
しみじみとした味わいと余韻に、感動しました。 -
イギリスで1926年に生まれた女性の2015年までの記録なのだが、途中で「もし、あの時、xxしていたら」という分岐点があり、二つの人生が語られる。彼女の人生を通して、近代史、女性問題、環境問題などが見えてくる。読む人によって、色々なことに考えが及ぶ小説だと思う。星雲賞の候補作になっているけれど、星雲賞よりはジェンダーSFの賞を取りそうだ。