韓国「県民性」の旅―全羅道、慶尚道、忠清道、江原道、済州道歩いて感じる韓国人の心
- 東洋経済新報社 (2009年2月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492043325
作品紹介・あらすじ
娘を嫁にやるなら全羅道の男?嫁をもらうなら慶尚道の女?歴史や地理的条件にもとづく道民生(県民性)を意識しながら旅し、出会った人々や著名人の逸話などを通して、韓国人気質を探る。この一冊で韓国がもっとおもしろくなる!基本情報から有名人、映画、ドラマまで各道ごとのデータも掲載。
感想・レビュー・書評
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本を選ぶときの3大基準は、縦書きであること、フォントの大きさや形が見やすいこと、出だしの3行で興味がわくか。
この本は出だしで紀行文とは思わなかったので、旅する文章を読むことが大好きな自分にとって、大いに楽しめた。
どんな季節に、どんな乗物で、どんな目的で。文章から距離感がつかみにくかったのが少し残念だったが、旅先で出会う人々の生活観の違いを一般に言われている県民性というか、道民性に当てはめる作業。この少し掘り下げて考えることが、旅をより味わい深いものにしているように読める。良書。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「韓国人留学生が2人集まれば、留学生新聞を発行する」と、韓国人自身が半分本気で言うぐらい、結束力が強いというか、同族意識が強いというか、束になって主張するのが好きというか(束にならなくても主張するけれど)、そういう傾向のある韓国人ですから、「韓国人」というくくりだけでなく「地方人」ごとの特徴、まとまりも目立ちます。それが地方対地方の対立や差別も内包している場合もあるので、語るに気をつけなくてはならず、でも適当にしゃべるのは楽しいというタイプの話題です。これは韓国の地方ごとの特色について、取材および古今の文献に基づいた分析で、知的にフェアに説明するのが難しい「地方色」についてさまざまな角度から検討している良書だと思う。
地方色といって代表的なのが、全羅道人。以下はだいたい本書でも指摘されているけれど、彼らについてよく言われるのは「賢い、機敏、社交性がある」という評価。しかし同時に、「油断ならない、裏切る、気をつけろ」という負の評価も裏でわりと一般的にされている。韓国人の中には親しくなると、「私は全羅道の男には気をつけろと母に言われてきた」ということを告白する両家の子女もいる。あるいは「あなたも気をつけた方がいい」とご親切にもこっそり忠告してくれたりする人もいる。もちろん彼らはそれが差別的でもあると気づいてはいるので、こっそり、なのですが。さて、それはどうしてかという話で、よく言われるのは全羅道は滅亡した百済の地でありその後も過酷な収奪と弾圧にあってきたから苦労しすぎると性格が歪む、みたいな退屈な心理ブンセキ。しかし筆者は一歩踏み込み、より現代的には、ドラマや映画に登場するメディアバイアスのかかった「全羅道人」のイメージ作りが全羅道人を見る我々の負の色眼鏡形成に寄与しているのではないかと、いくつかの例を挙げて指摘している。残念なことに、この部分があっさりしか書かれていないけれど、1つの重要な見方を示していると思う。
ただ、地方色といっても年代が下るほど、あるいは保守的でないタイプほど、それは薄まっていると思う。
韓国はいろいろなシステムが人の情で動くことが多いので、本書みたいなものは傍流としてけっこう重要なんじゃないでしょうか。「韓国を知りたいなら、学習は当然ながら、1人でもいいから韓国人を深く深く知ること」と韓国人の政治の先生に言われたけれど、結構正しい、と思います。韓国人のリズム感をつかむ。私は友人らの顔を思い浮かべながら、やっぱりー、とか、なるほどー、とか考えながら、それはそれは楽しく本書を読みました。感謝!