- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492223598
作品紹介・あらすじ
本書に収められている8つの論文が実証的に明らかにしていることは、大震災直後に政策当局を中心に「認識されていたこと」と、「現実のありよう」との大きなギャップである。大震災直後に影響が甚大だと思われていたことが、実は軽微であり(たとえば、阪神淡路大震災の建物被害をはるかに凌駕すると考えられたが、実はそれと同程度であった)、逆に直後には影響が軽微だと思われていたことが、実は甚大であった(たとえば、便乗値上げによる価格調整が軽微であった背後で深刻な数量調整が生じていた)という震災直後における状況把握の深刻な失敗である。
本書では、震災直後に国内外で積極的に評価されたさまざまなレベルの協調行動が、実はそうした実態を伴っていなかったことも明らかにされている。地方自治体は、利害対立が協調行動にまさり、復興プロセスの障害となった。また、「絆」という言葉の広範な流通が象徴的に示しているように、人々の間で利他的な行動が大震災後に広まったように思われていたが、実は、利他的な意識が低下していた。
本書では、そうした認識と実態のギャップを丁寧に分析することによって、ギャップをもたらした要因を明らかにしていく。震災直後に実態を誤って認識したことは、当然ながら、適切な復興政策の履行を妨げた。今般の大震災の経験を掘り下げて考察することは、将来の自然災害への適切な対応のあり方を検討する上で必要不可欠な作業であろう。
感想・レビュー・書評
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大震災のような人々の生活に大きな影響を与える事柄が起こった時に、表面に現れた事象にトピック的に注目するだけでなく、全体としてどのような状況が生じているのかを分析することは、非常に大切なことであると感じた。
本書では、経済の側面から震災直後に起こったことを分析している。
復興予算策定の議論の中で見られた、震災の被害規模の推定の不均衡(家屋被害を過剰に見積るとともに、原発災害による対応費用については過少な評価がされたとかんがえられる)や、人々の購買における「買いだめ」現象がどのような形で起こったのか(あるいは起こっていなかったのか)について、データをもとに議論している。
例えば、震災後の物資不測の不安から、便乗値上げの問題がメディア等では懸念されていたが(そして実際に「値上げ」はしないが「特売」を減らすという形での価格上昇はあったとの分析がなされている)、買いだめを防ぐためには、ある程度の価格上昇による調整の方が、本当にその商品を必要としていながら素早い購買行動に制約がある人(小さい子供を抱えた家庭、高齢者など)にとっては、その商品へのアクセスが確保される結果になるといった分析は、興味深いものだった。
一方、中小企業融資や企業間決済などの法人サイドの経済システムについては、比較的適切な手当てがなされ、大きな混乱を回避していたという実態も計量的に示されており、法人を対象とした対策と個人の購買や行動を対象とした対策の間での、難しさの違いを感じた。
今回、このような研究が行われたことは非常に意義深いことであると感じた。また、実際に収集することができるデータが存在するのであれば、今後より迅速にそれらを政策に活用できるように分析できる体制を整えていくべきなのではないかと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:369.31//Sa25
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東2法経図・開架 369.3A/D27d/4/K