岩井克人「欲望の貨幣論」を語る

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492371244

感想・レビュー・書評

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  • オレもこれまで岩井克人の本は読んできたけど。
    今、子供が読んでる。

  • 欲望の貨幣論
    アリストテレスは貨幣それ自体が目的となる状態に気付いていた。貨幣を増やすという決して満たされない目的を追い求める。人には無限の欲望が備わっているため。善く生きることが忘れられてしまう。
    貨幣の価値は貨幣そのものの価値を上回る、ことを出発点に貨幣の役割から歴史を振り返る。とても分かりやすい。筆者が新古典派、放任主義の否定派であることが随所に出てくる。

  • 2019年に放送されたNHKスペシャルから,経済学者・岩井克人のインタビューを書籍化。古代ギリシャのアリストテレスの時代からテクノロジーに支配された現代社会まで,貨幣と経済の歴史を辿りながら「カネとは何か」という根源的な問いに迫ります。

  • これなら私でもすぐ読めた。

  • 著者の岩井克人先生、この方は本当に経済学者なんですか。読み始めてスケールのデカさにびっくり。どこから読んでも面白く、永遠に読んでいたい感。経済学的な見地にとどまらず、全ての学問に通じた壮大な貨幣論が繰り広げられる。
     あのアリストテレスが資本主義の本質を見抜いていた?
     ギリシャ哲学、自然科学、民主主義、孤独、そしてその孤独から生まれるギリシャ悲劇などの文学も、貨幣が起源?
    そう言われてもにわかには信じ難いと思う。でも、騙されたと思って読んでみてほしい。経済学に興味の無い方こそ、驚きと知的興奮に震えること間違い無し。
     もちろん、最近流行りのMMT理論とか、仮想通貨についても言及されています。
    MMTに関しては、中立的な立場て論じられているので他の書籍より冷静な視点。
     この本読む限り仮想通貨に関しては、通貨とは名ばかり、投機商品と捉えた方が良さそう。通貨として使うには価値が流動的過ぎる、もはや通貨になる可能性は99%無くなった、と。
     まあ、まだまだ値上がりそうだし、投機と分かった上でなら、いつ終わるとも知れぬダンスパーティーでしばらく踊るのも一興かもね。(岩井先生がおっしゃっている訳ではなくあくまでも私の意見です。投資は自己判断でお願いします。ま、私はやらんけど。)
     これも私の勝手な想像ですが、次の金融危機の火種は、この仮想通貨界隈になりそうかな、と。中央銀行のような調整機関が存在しない以上、暴走したら作為的にソフトランディングは難しいだろうし。その時、金融市場にはどのような影響を及ぼすのでしょうか…。と、悲観的に考え過ぎですかね。
     蛇足ですが、貨幣の性質を端的に説明している、自己循環論法「貨幣とは貨幣であるから貨幣である。」のくだり読みながら、某セクシー大臣の進○郎構文ではないか!と馬鹿な事考えてました。すみません。
     めちゃめちゃ面白かったので岩井先生のヴェニスの商人の資本論も読んでみようと思います!(語彙力)

  • 本書の実質的な著者である岩井教授には、聞き語りの「経済学の宇宙」で、その知的な重厚さに感銘を受けた。本書でも言葉使いは易しいが、その内容は深い。
    貨幣は貨幣であるが故に貨幣であり、何にでも交換できるその流動性のため、貨幣に対する欲望には限りがない。それは「やめられない、止まれない」欲望の資本主義とフィットするのだと。
    本書の主題とは関係ないが、「太陽の下、この世には新しいものは何もありません」という旧約聖書の言葉。初めて知ったが言葉だが、コロナ禍の今、しみじみと見入ってしまった。

  • 『私たちは、自由が増えれば安定性が減り、安定性を増やすと自由が減ってしまうという、「自由と安定との二律背反」の中で生きて行かざるをえません』―『第1章 「ビットコイン」は究極の貨幣か』

    「欲望の資本主義」シリーズは観るのを楽しみにしている番組の一つだ。主に経済学の立場から現在進行形で起きている汎世界的な金融経済問題の本質に迫ろうとする取り組みだが、追いかける主題は、資本主義を成立させる売買が結局は人間の欲望に根差したものであって、その欲望には際限がないものだ、という事に毎回行きついているように思う。であればどうすれば良いのか、ということもまた番組では経済学以外の分野の知性の言葉を紹介しつつ探っていく。しかし何故欲望には際限がないのかという問いの立て方はこれまでされていなかったように思う。

    2019年7月に放映された「欲望の資本主義」シリーズのスピンオフとなる「欲望の貨幣論」はその問題の本質に迫るものだった。中でも岩井克人氏の言はとても判り易く画面を通してその人柄にも惹かれた。このシリーズでは、哲学者であるマルクス・ガブリエルもまたその根源的な問題を解決するための新たな哲学を模索し続ける一人として登場するが、岩井氏は拙速に「解」を探るのではなく問題の本質がどこから来るのかを判り易い言葉で紐解いていく。本書は、放映されたインタビューのみならず、その言説の背景にある広範な知識のエッセンスを更に丁寧に順序立てて解説しようという試みだ。

    経済学での主流派である新古典派と不均衡動学派の違いを簡明な言葉で説明し、何故「自由と安定」は二律背反なのかをギリシャのポリス哲学者アリストテレスの考えにまで遡って説く。自説の箔付けの為に古典に依拠する例は枚挙に遑(いとま)がないが、岩井氏の論の展開は、そこに必然を認めてのものであるところがとても興味深い。何故ポリスで貨幣が生まれたのか、という問いに対するアリストテレスの考察。それこそが何故欲望に際限がないのかという問いに対する一つの答えであるからだ。

    そんなこと判っても今の現実の問題には何の役にも立たない、という声もあるかも知れない。しかし岩井氏は聖書の文言を引いてこうも言う「太陽の下、この世には何も新しいものはありません」。まさに過去から学ぶことは未来に対する備えの要諦だ。言葉遊びのようだが当然「未来から学ぶ」ことは出来ず、「今、この瞬間」の状況だけ(つまり時間経過がなく、原因と結果の関係が見えない状況)に学ぶことも出来ない。しかも、人間の行動は環境に大きく左右されるとはいえ時代を越えて不思議と繰り返し同じような行動パターンとなって表れてくることもまた事実だ。その似たような行動様式の背景にあるものは、恐らく、本質的に普遍なものなのだろう。岩井氏はその普遍なものを見抜いているように見える。であればこそ、2020年の感染症拡大下の汎世界の状況を予言したような言葉が岩井氏から出て来るのだと思う。

    『貨幣は人間に「自由」を与えました。だが、貨幣を基礎とする資本主義社会は、本質的に不安定です。その不安定性を放置しておくと、資本主義社会自体を危機におとしいれてしまいます。その行き着く先は、ポピュリズムか全体主義です』―『第3章 貨幣は投機である』

    本書で書き尽くせなかったとする「人間が倫理的な存在になることを可能にする言語について」の著作の出版を熱望する。

  • 「貨幣は、本来人間を匿名にするんです。これが貨幣のもっとも重要なところなんですね。匿名ということは、人間が、ほかの人に評価されない領域を自分でちゃんともっているということ。これが重要なんですよ。」

    例えば、住まいを間借りしているとする。するとその家のルールに従わないとダメだし、突然出て行けと言われても抗うことができない。
    でも、家賃を払っていれば借家の中は自分の私的空間になる。借家よりも持ち家の方がより私的空間になる。つながりの希求は貨幣化の次のステップであり、村などの地域共同体への後退ではない。

    ジェイン・ジェイコブスは市場での商習慣の中で「契約」という概念が生まれ、それが法に組み入れられたと述べていた。このような商習慣の先行は、本書に書かれていた、カネの下の平等が法の下の平等を生み出したのと共通している。個人(法人)という人格単位による社会の形成は商習慣やカネによって作りだされたものである。

    人権は法によってではなく経済によって維持されている事実を左翼はどう受け止めるんだろうか。

    自由を獲得するための手段としてのカネだったはずなのに、いつからかカネ自体が目的化してしまったことは、人間は自由に耐えられないし求めてもいないということでもある。自由は最終目的にはならない。自由があったところで目的や役割がないと幸福を感じられないというのは、福田恒存の言う「劇的な人間」そのもので滑稽である。

  • 貨幣と資本主義話なのだけれど、一番印象深く残っているのはアリストテレスの思考の深さ。

    人間は「可能性」それ自体を欲望することができる。あらゆるものを手に入れられる❬可能性❭を与えてくれるものとしての「貨幣」を欲望する。
    こうして貨幣が「手段」から「目的」へ転換する。(P.134)

    貨幣は社会を維持するために必要だが、貨幣が社会を崩壊させてしまう可能性。P.141
    これに立ち向かうには「他社との関係における善」について考え直す必要がある。そして、イマヌエル・カントの道徳律が手掛かりになる。
    「他のすべての人間が同時に採用することを自分も願う行動原理によってのみ行動せよ」

    大雑把な内容知りたければあとがきにかえて読めば十分。

  • 1)「貨幣とは何か」という問いに対する考察。金銀など「貨幣は価値が高いものだから貨幣である」とする「貨幣商品説」は、かならず[カネの価値]>[カネのモノとしての価値]となるところから棄却される。究極のところ「貨幣は他の人が貨幣として受け取ってくれるから貨幣である」ということになる。
    2)ビットコインは投機商品となって[貨幣としての価値]よりも[投機対象の商品としての価値]のほうが上回ってしまったので、貨幣に対する基本定理に沿わなくなってしまった。カネの価値がモノの価値より低くなってしまっては誰も手放さない、交換しない、つまり流通しないから、カネとしては機能しない。
    3)しかしさらに突き詰めて言えば、カネが価値を失わないことを信じて使いつづけるということがすなわち「投機」に他ならない。投機はバブルと恐慌を生む。そのコントロールのために中央銀行がいる。貨幣は「自由」を与えてくれるが、貨幣を基礎とする資本主義社会は本質的に不安定だ。自由を守るためには、自由放任主義思想とは決別しなくてはならない。
    4)貨幣は人々を共同体的なきずなから解き放ち、「個人」を「市民」にし、人々に自由を与えた。しかしグローバル資本主義=自由放任主義的な資本主義が、不安定・不平等を顕在化させつつある。この逆説に立ち向かうには、アリストテレスが言う「他者との関係における善」にもう一度立ち返って考えてみる必要がある。それにはカントの道徳律が手がかりになる。

    1)2)のところは、考え方の整理としても気持ちいい。3)のところもこの人の経済観がよく表れていると思う。4)はかなり駆け足。こういう展開もあるぞというか、もっと根っこのところの考え方なのかもしれない。

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著者プロフィール

丸山 俊一(マルヤマ シュンイチ)
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
1962年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズをはじめ「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「人間ってナンだ?超AI入門」「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」他、異色の教養番組を企画・制作。
著書『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『結論は出さなくていい』他。制作班などとの共著に『欲望の資本主義』『欲望の資本主義2~5』『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』『欲望の民主主義』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するⅡ』『マルクス・ガブリエル 危機の時代を語る』『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』『AI以後』『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70~90s「超大国」の憂鬱』他。東京藝術大学客員教授を兼務。

「2022年 『脱成長と欲望の資本主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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