中東・エネルギー・地政学

著者 :
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492444313

作品紹介・あらすじ

三井物産に入社して以来、イランでのIJPCプロジェクトをきっかけに
中東、アメリカを中心に欧州など、世界と深く深くかかわってきた著者が、
自身の過去を語りつつ、いま世界で何がおきているかを整理する。

戦後、海外派兵をしなくなった日本で、ピーク時は3500人もの邦人がイランで働いていた
三井物産のIJPCプロジェクト。

イラン革命、イラン・イラク戦争の荒波に翻弄され、そのとき
世界で何が起きているのかを現地で調査するところから、
寺島氏の情報収集活動が始まったーー。 そうして形成されたインテリジェンスが、
現在の知的活動を支えている。

寺島氏の経験を追体験することで、エネルギー面で見た戦後日本の歴史と、
これからの日本のエネルギー政策、中東との関わりがどうあるべきか、気づきを得られる。

宗教対立、グローバル・ジハード、エネルギーとしての原子力、アメリカの外交政策など、
現代を動かす重要な要素のそれぞれがどう絡み合っているかを読み解いていく。

21世紀の経済社会を生きる人へ、現場からのインテリジェンスに基づいた世界認識を示す。

感想・レビュー・書評

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  •  この本は「戦後日本 = エネルギー = 中東 = 中東史」の相関を探りその重層的理解のための試みで、そこから見えてくる日本という国の構造を直視することを、筆者は時代の目撃者としての責任として最後に述べている。報道だけでは捉え切れない事象を理解する上で貴重な一冊と言える。

  • 1973年に早稲田大の修士を卒業し、三井物産に入社して以来、イランでのIJPCプロジェクトをきっかけに中東、アメリカを中心に欧州など、世界と深く深くかかわってきた寺島が、自身が関わってきた世界との関連で自己を語っている。
    戦後、海外派兵をしなくなった日本で、ピーク時は3500人もの邦人がイランで働いていた戦後最大の海外プロジェクトであるIJPCプロジェクトは、イラン革命、イラン・イラク戦争の荒波に翻弄され、潰れ三井物産は危機に陥る。中東の専門家との不在とアラブ筋の情報に偏った世界観で無謀に推進したプロジェクトに取り組む中から、イスラエル、そして強いつながりを持つアメリカ、そして欧州の目線へと寺島の視界は広がっていく。そして日本の立ち位置のと未来へ向けての構想を描く。その過程を誠実に記していて深い感銘を受ける本だ。
    この数十年の誠実な知的活動と人脈形成の中ではぐくまれたインテリジェンスが、現在の旺盛な知的活動を支えている。
    読者は寺島の経験を追体験することで、日本人のブラックボックスであった中東と、石油を中心とするエネルギーからで見た戦後日本の歴史の全貌を見ることができる。また、これからの日本のエネルギー政策のあり方、中東との関わりのあり方について、方向感を確認できる。
    世界が近代に移行するきっかけとなった400年前のウエストファリア条約から大転換期である現代という視座から、宗教対立の復活、グローバル・ジハードの展開、エネルギーとしての原子力の扱い方、失敗の続くアメリカの外交政策など、現代を動かす重要な要素のそれぞれがどう絡み合っているかを読み解いていく名著だ。

    中央公論の寺島論文「我ら戦後世代の坂の上の雲」を読み衝撃を受け、その数年後に偶然本人と接触し、それ以来30数年が経った。この間、私は東京、ニューヨーク、ワシントン、仙台、東京で寺島ウオッチャーとして並走してきた。その間に、聞いたこと、見たことなど、思い当たるところが多い。
    仕事に真正面から取り組み、苦闘する中から、知的巨人が誕生する物語である。
    自分史と戦後史、そして世界史をきっちりと関係づけた奥行きの深い本となっている。

    今日はまず第一弾として、インテリジェンスを獲得するために寺島がどのような心構えと方法で迫ったかをピックアップしたい。

    孤独なフィールドワークの積み上げと、文献研究が視界に化学反応を起こした。
    「坂の上の雲」から7年間、論考を書くことをやめて、沈黙せざるを得なくなった。
    教養を高めるための情報とサバイバルファクターとして死にもの狂いで収集・分析している情報は別物ということに気づく。物事は色々な要素の相関の中で多面的・重層的に考えなければ本質には迫れないことを思い知る。
    知的三角測量。
    イスラエルの史跡巡り、色々な人々との話し合い。
    空港ではその空港が世界のどの空港とつながっているかを確認する。二国間と二都市間の親密度がわかる。
    出張の前に徹底した準備。書籍、文献、論文、歴史書。調べればわかるようなことは事前に頭に入れておくのは必須。複眼的視座の構築。問題解決のために本当に価値ある情報を救いあげることができる知的能力がインテリジェンスだ。
    文献とフィールドワーク。自分の見たものを整理し、新しい時代認識、世界認識を踏み固めて発信する。
    会社の末席を担いながら、心中期すものがあって何かを蓄積していく。
    ワシントンの日本人の足跡を訪ね歩いた。
    私自身の立ち位置はどこにあり、どこに定めるべきか、自問自答を繰り返す。
    「マージナルマン」として生きる覚悟。組織に軸足を置きながら、組織を客観視する視界を持ち、内と外との緊張感野中で生き抜く人間。この緊張が課題解決に向けて創造を生む。
    定点観測。毎年最低10回の海外出張。70ヶ国を訪問。大事な国には波状的に何度も足を運ぶ。
    自分の存在目的を見つめ、あるべき社会、実現すべき価値を求めて、筋道だった生き方で、自分の役割を果たす。
    九段の寺島文庫には地理・歴史、国際交流に関する書籍が6万冊。

  • 【広く,深く,また広く】エネルギー問題を端緒として国際情勢分析に向き合い始めた著者が,自身の歩みを記しながら,中東地域を始めとする国際情勢の行く末を見通した作品。著者は,三井物産戦略研究所会長や日本総合研究所会長を歴任された寺島実郎。


    中東や国際情勢を知るための本という側面もありますが,それ以上に,中東地域に日本として政治的に関わり始めざるを得なくなった世代の第一人者が,どのように中東や国際情勢を捉えていたかという点を知るために最適の一冊。日本の外交に関する見方に関しては賛否が分かれるところもあるかと思いますが,歴史的資料としても今後用いられることになるのではないかと思います。

    〜歴史に向き合ってきて,私の心にある確信のようなものが芽生えてきている。それは,いかなる曲折を経ようとも,結局のところ,歴史は条理の側に動くということである。〜

    自分があまり多くは読まないタイプの視点だったかも☆5つ

  •  

  • スエズ運河の下には地下道が掘ってある。つまり、ユーラシア大陸とアフリカ大陸はトンネルでつながっている。公然の秘密ともいえるが、エジプト領のシナイ半島とガザ地区は地下トンネルでつながって、ガザ地区の命綱となっている。
    イスラエルへ戻ったユダヤ人の多くはウクライナからだった。
    イラン・イラク戦争のときに残った日本人は、自衛隊が助けにきてほしいなどと思ってはいなかった。日本はそういうことをしない国になったと腹をくくっていた。

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著者プロフィール

1947年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究課程修了後、三井物産入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所に出向。その後三井物産ワシントン事務所所長、三井物産常務執行役員等を歴任。現在は日本総合研究所会長、多摩大学学長。著書に『人間と宗教』『日本再生の基軸』(岩波書店)、『ユニオンジャックの矢~大英帝国のネットワーク戦略』『大中華圏~ネットワーク型世界観から中国の本質に迫る』(NHK出版)、『若き日本の肖像』『20世紀と格闘した先人たち』(新潮社)他多数。

「2022年 『ダビデの星を見つめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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