Hot Pepperミラクル・ストーリー―事業マネジメントを学ぶための物語
- 東洋経済新報社 (2008年5月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492501832
作品紹介・あらすじ
ビジネスに必要なことはすべて『ホットペッパー』立ち上げに詰まっていた!
感想・レビュー・書評
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面白かった。
前半のホットペッパー事業を立ち上げるにあたり、既存事業の問題を洗いざらい改善していくところなんかは、ダイナミックで引き込まれる。地域ごとのマーケット差異を根拠にした裁量を全て切り捨てて、統一方針に一本化することで成功を収める様は、爽快でもある。(ただ、少し出来過ぎな感があって、後知恵バイアス味も感じたが。)
標準化と裁量の境界をどこに置くかは、マネジメントとして永遠の課題である。本書で紹介されているやり方が唯一の正解になるわけではないが、参考にはなる。標準化自体が目的になると、現場の反発で失敗する。なので、本来の裁量を発揮するために、悩む必要のない部分は標準化するというスタンスを持ち、現場ときちんとコミュニケーションする、というのが本書の教訓かな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
▶︎概要
CV社員(期間3年の契約社員)中心でありながら立ち上げ4年間で売上300億円、営業利益100億円まで上り詰めた事業運営のエッセンスを解説。
”しんどいけど楽しい、苦しいけど面白い、涙が出るほど嬉しい”と言う仕事とチームを作ることが肝だと。
▶︎要点/ key phrase
●誰が、何のために、が抜けて「どのように」ばかりが先行する事業は必ず破綻する
目的を欠いた目標は未達に終わるし組織に持続的に熱が入らない。
働く人のモチベーションを設計できない事業は必ず破綻する。
●"できない理由の説明”ばかり上手で”できる理由”そもそも考えていない人間
●事業とは物語。シナリオを描くのがマネジメントの役割。
●マニュアル化と仕組み化の違い
事業から"不要な"個人の特性を排除し、汎用化・仕組化することで事業の展開、
成長スピードを上げることができる。
但し、誰でもできる、誰でもいい、人に頼らないものにするのがマニュアル化。
創造性が排除されモチベが下がりやがてミスが多発するようになる。
仕組化は人のクリエイティビティを更に上位概念に引き上げるのが目的。
つまらない失敗や壁にいつまでもぶつかって前に進めないことこそ時間の浪費、
創造性の機会を奪っている。最低限の型を作り(=仕組化)その上に創造性を
耕す。剣道だって基本の型は3つのみ。それを変幻自在の的に合わせて応用。
●組織の単位
一部の個人の頑張りや個人プレーでは実現できない目標を持つ単位を最小単位に。
全員が力を合わせる必然性が必要。逆に個人の頑張りが全く見えない程の大きさ
ではNG。個人の頑張りが可視化できる単位で。
●一人屋台方式/あえての複雑性
The modelしかり営業の効率化が叫ばれるがhot pepperは顧客にとっての
"流れ"、担当営業の介在価値の量、営業のモチベーションの観点から、新規と
既存、訪問から原稿制作、支払い管理までを全て一繋ぎでやらせた。
お客様にとっての繋がったストーリーを分断することはかえって領域間のコミュ
ニケーションコストを上げ、何より営業の介在価値を減らしてしまう。
--->広告モデルだからこそ。業務システム/SaaSの場合”受注”よりも継続、個社
カスタマイズがそもそもできないのでここまで顧客接点を持つことは参入障壁には
直接的には繋がらない?
●リーダーに必要な能力
① 高い志を掲げる技術
メンバーのストレッチの限界を判断しながら実現を目指せる見通しを持った
高い志を掲げること。
② 事業を設計する技術
ビジネスのプロセス理解、全体像を捉えた上で統合性のある戦略を立てる。
企画坊やでも営業バカでもなく、事業家としての目線。
③ 組織を作る能力
事業の目的を実現するために必要な能力を定義し、その資質を持った人間を配置
個の能力把握+個と個と関わりで組み合わせできる力。
④ 伝える技術
自分の思い描くシナリオを、解像度高く熱量高く、全員に伝える力。
⑤ 実行する技術
自分自身が誰よりも早く率先し行動してやってのける技術。
⑥ 育てる技術
組織力強化に向けて個々人の能力を最大化する。スキル、知識、スタンスなど。
⑦ 評価する技術
メンバーに要求したことを確実に数値化し、評価に反映する技術。メンバーが
その判定に納得し、要望されたことを必ず見ていてくれるという信頼を獲得 -
リクルート社の「ホットペッパー事業」の成り立ちとその後の事業の仕組み化について臨場感たっぷりに語られた一冊。
本体と距離のあるCV社員の巻き込み方はマネジメントの参考になった。
とりわけ、多くのポータルサイトが凌ぎを削ってひしめき合う発売から10年以上経った現在、このマネジメントスキームに関する情報を求めている企業は多く存在するはず。。。
個人的には自分が営業卒の現WEB商品企画職ということもあり、バードビューの話は特に胸に刻んでおきたい。
事業統括者であっても、客先に入る前から受注に至るまでの営業シーンを自分の感覚にリアルに落とし込む作業を欠かさなかったからこそ、この事業は「企画の絵空事」で終わらず成功を奏することができたのだろう。 -
・「なぜ広告掲載料を払ってまで割引しないといけないのか?」と掲載店は大変な抵抗をしてきた。「クーポン=割引=値引き商売=つまらないもの」という構造が、その当時はクライアントにもユーザーにも意識の中に既成概念としてあった。
お客さまからの抵抗もあって、営業現場は大いに混乱した。われわれはクーポンの概念を定義し直し、世の中に定着させなければならなかった。
それは、自らが信じ、お客さまに語れるコンセプチュアルな定義である。
「クーポンはギフト」
クーポンは値引きではない。まだ見ぬお客さまへの招待状である。いつもお世話になっている常連さんへのギフトである。心を込めた贈り物なのだ。
・「リスクを負って勝負をかける」ことを決めるのは非常に勇気と思いっきりが必要になる。合議制の大企業で新規事業が大きくならないゆえんはそこにある。
大きな事業の絵を描けば描くほどリスクは大きくなる。怖くて、怖くてたまらない。だから、勝負しない。事業がうまくいかない原因に「じつは勝負していない」ことが多い。サラリーマンの世界では失敗しないことが大事になる。大一番の勝負をかけることは、大勝利するかもしれないが、大失敗するかもしれない。勝負をかけなければ大失敗はない。そして失敗さえしなければ大過なく過ごせて、やがて人事異動で次のポストへ降格することなく異動できる。
・『サンロクマル』は(ホットペッパーの前身の地域広告紙)、立ち上げコストが固定費として発生するリスクを回避するために、営業組織を業務委託という形態を選択していた。
それは、売り上げが上がらないのに営業コストが膨大に膨らむリスクを会社が回避して、そのリスクを個人に転嫁する仕組みだった。受注に見あったおカネしか払わない成果歩合制の業務委託の営業組織体制だった。広告売り上げが上がらなければ営業コストは発生せず、広告売り上げが上がれば、それに比例して支払い営業コストが発生する仕組みである。
そして、「金を稼ぐ」ことを目的とした人の集団ができあがった。マネジメントをしなくても、「お金を稼ぐ」というモチベーションがセルフ・マネジメントするので、「マネジメントコストもかからない理想の組織」という定義であった。
しかし、実態はそんな都合のいい具合にいくはずもなかった。目的もビジョンも戦略も戦術も曖昧で、働く人自身がセルフ・マネジメントしてくれる組織などありえない。
…業務委託という形態が悪いのではない、マネジメントがそのマネジメントを放棄した事が問題なのだ。リスクを転嫁したなら、それを上回る成長と成功の機会をマネジメントが提供しなければ働く人にとっては割に合わない話になる。働く人々の働くモチベーションをいかに高めて、いかに継続するかはマネジメントの重要な役割である。働く人のモチベーションを設計できない事業は必ず失敗する。
・潜在的なマーケットの数値。
都市別にNTT登録飲食件数、飲食店売上、F1人口、マクドナルドの出店店舗数などをベースに都市を7つのタイプに分類し想定売り上げを算出した。
…停滞している組織は「自分たちは最善を尽くしている」と思っている。「前年よりも少しづつ伸びているじゃないか」「この事業はこれぐらいの規模で、その割に俺たちはよくやっている」そんなふうに思い込んでいる。そう思うことで、納得している。自らを納得させている。でも、考えている基盤は今自分が立っているその場所だけだ。
・「お客さんによって、営業マンによって営業の仕方は工夫とアイデアに満ちたものでいいじゃないですか」
僕は答えた。
「剣道には小手・面・胴の3つしかない。戦う相手が変幻自在だから、技も変幻自在なのか?そうじゃない。相手の攻撃には傾向があって、それに対応する技があるんだ。営業だって一緒だよ」
「そうですか…」
「マネジメントは要望することだ。自分ができないことを他人に要望できない。変幻自在にやれなんて要望できない。ましてや、変幻自在を教育もできない。だから、型を決めて徹底的に訓練する。剣道が毎日小手100本、面100本、胴100本稽古するように…。
メンバー全員がお前みたいな商売の天才なら型は必要ないけれど、そうはいかない。事業は団体戦だよ。全員の力を結集して勝つには毎日の稽古が必要なんだ。その稽古の型が必要なんだ。
一番大事なのは、間違った型をつくらないことだ。正しい型をつくることがマネジメントだと思う。そして、全員でいっせいに訓練して型を習得すれば、それが組織力になる」
・メンバー→チーフ→リーダー→編集長→版元長→フィールド・マネージャー→部長→事業部長とかになっていると、いったい誰が決めたのか?誰がバカなのかがわからなくなる。
そして、みんなで「会社はわかってない」と言い続けることになる。会社とは誰なのかがわからないままに不満がたまっていく。誰が決めたかが曖昧なままに動いていく。最悪の結果に対して誰も責任を取らない。
…どんなに大きな組織になってもこの「誰がバカかわかる」意思決定構造を決して崩してはならない。この一気通貫の組織構造単位を守りながら事業を細分化することはあっても、ただ単に組織構造を多層化し、専門化してはならない。意思決定の分権化は絶対にしてはならない。
・会議態を決めて情報伝達のルート設計することを急いだ。「どの階層の誰がどんなタイミングで集まり、何をテーマにして議論して決めるのか」が会議態である。
・失敗する事業ほどいろんなことに手を広げ、いろんな人がいろんなやり方で実験を繰り返している。たったひとつのやり方に絞って全員でやりきることが重要なのだ。ナレッジ推進室などつくっても意味がない、全員がナレッジの推進者になれる仕組みこそが大事なのだ。成功ナレッジを共有する仕組みができれば、それは自己増殖しはじめる。
・ゼロックスがかつて修理技術のナレッジがどこで行われているかを調査するために、あらゆる場所にカメラを置いて調べてみた。もっとも高度で価値ある情報共有は、上司への報告でも、会議室のなかでもなく、なんと喫煙ルームで行われていた。タバコを吸いながら雑談している何気ない相談とアドバイスのなかに驚くようなナレッジが存在していた。
・「まず、トップ営業マンに質問するんだ。さあ、これから新規営業の飛び込みを開始します。どんな看板、どんなのれん、どんな店構えを見て飛び込むの?ガラガラっとお店の戸を開けると、お店のなかには誰がどこにいて、お前の目にどんな風景が飛び込んでくるの?そこで、最初に開口一番誰にどんな風に言葉を発するの?そうすると、どんなことを相手は言ってくるの?それに対して、お前はどんな表情で、どんなイントネーションで、どんなことを言うの?僕の前で同じように再現してやってみて…
ずーっと聞いていくと、自分が営業マンの目を借りて、その営業マンの前で起こっている世界が見えてくるんだ」
「それをやればいいのですね」
「だめだよ、別の営業マンにも聞くんだ。今度はがんばっているけど、結果が出ない営業マンに同じ質問をするんだ。同じようにその営業マンの目を借りてお店に入っていく。その営業マンが見る世界や発する言葉や態度、お客様の言葉や表情を、営業マン本人の主観を交えずに現象をそのまま話してもらうんだ。
そうすると、あっ!ここが見ているポイントが違う、話し方が違う、表情が違う、相手の反応が違うってわかるんだ。
その違いこそ、トップ営業マンとがんばっているけれど売れない営業マンとの技術ギャップなんだ」
・実はニーズは多様化していない。
「ホットペッパー」でも当初、顧客ニーズが多様化しているのに、それを型にはめるのは危険な賭けだという反対意見が出た。型にはめることは個人の個性や成長を阻害するという反対意見も出た。しかし、顧客ニーズを整理して絞り込むと、
団体を取りたい
回転率を上げたい
客層を変えたい
顧客単価をあげたい
せいぜいそんなものだった。
それら各々の課題を解決できた原稿パターンやクーポン内容パターン、それらの課題を解決できる商品設計や流通設計やプロモーション計画をまとめたツールパターンを用意した。そのツールパターンを使った5分間の営業トークの完全シナリオを作り、それを新規営業の「型」として完全に暗記して繰返し、繰り返し徹底的に訓練した。
・営業を顧客との勝負に置き換えたとき、剣道の小手、面、胴にあたる3つの型をつくることが大切である。この小手、面、胴を徹底的に訓練しているのと、していないのとでは、営業のチカラは格段に違ってくる。基本の3つの型ができれば組み合わせや応用も可能になる。剣道で相手の動きは変幻自在で多様だから、基本の型の稽古をしても意味がないなどと誰も言わない。その変幻自在な動きに対して、攻める型を持つことが大切で、その攻める型を訓練することがもっと大切になる。
それなのに、営業ではなぜ型をつくらないのか?お客さまのニーズが多様化しているので3つの型にはめるのは難しいという。では、多様化とはいくつあるのか?多様化を満たす全ての型はいくつ必要なのか?つくってみたことはあるのか?ないのである。問題は型をつくろうとすらしていないことだ。
つくろうとすれば、型は集約されていく。3つの型に絞ることが戦略である。「あってもいい」を捨てる勇気と覚悟が大切だ。 -
ホットペッパー成功物語。非常に臨場感のある構成になっていて、「自分だったらどうしよう?」ということが、営業としての立場、版元長(リーダー)としての立場、いろんな視点で自分をシミュレーションできる。とてもキレイに書かれてはいるが、実際には非常に厳しい(営業)現場だったのではないかと邪推してしまう。
P.230に「リーダーが身につけなければならない技術」が8個ほど羅列されているのだが、たまに見返したいくらいリーダーたる資質がきれいにまとまっている。
成功するにはきちんとモットーを持って、やり遂げる/やり遂げさせるリーダーシップが必要なようだ。 -
2023/11/26
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事業成功の裏にはシナリオがあるということ、実現したいことのイメージの共有が組織としてパワーを生むこと、そしてマネージャーの役割について理解できた。
マネージャーの役割が、最小の労力で最大の成果が出る仕組みを作った上で、メンバーに最大の努力をしてもらうこと、起きていることではなくこれから起こすべきことをメンバーに魅力的に伝える という趣旨の記述が印象に残った。
リーダー自身に、どんなことをなぜ実現したいのか、具体的に説明できるレベルの強い意志がないとならないと思った。
こんな環境で仕事がしてみたい。
自分が「実現したい」と思っていることと同じことを思っている仲間といっしょに努力して、達成して喜びも共有する。学生時代の部活みたいに感情が揺さぶられるような仕事がしたい。 -
twitterでどこかの会社の教科書になっているというのを見かけて購入。今だとおこらえそうなことというか、磨きのかかった昭和的方法っぽい感じで、令和の時代じゃNGなことも多そう。でも、いつの時代もこういう会社や組織が勝つと思うんだけどな。最終章のマネジメント周りは勉強になった。