GAFA next stage ガーファ・ネクストステージ: 四騎士+Xの次なる支配戦略

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492503355

作品紹介・あらすじ

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 総合第1位」
「ビジネス書大賞2019 読者賞」
日本にGAFAという言葉を定着させた15万部のベストセラー
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』著者最新刊!

コロナで肥え太った巨大帝国が「再び」世界を変える!
彼らは何を壊し、何を創るのか? 私たちは彼らの世界でどう生きるのか?

【本書の主な内容】
・四騎士+Xが世界を「絶望の赤」と「希望の青」に塗り分ける
・新型コロナは「時間の流れ」を変えた
・痛みは「弱者にアウトソーシング」された
・強者はもっと強くなり、弱者はもっと弱くなる。あるいは死ぬ。
・ポストコロナで勃興する新ビジネス
・パンデミックはすべてを「分散化」させた
・台頭するディスラプターズ
・GAFA+Xの暴走に対抗する
…ほか

【世界的権威が示す「GAFA+X」時代の希望】
・「青い聖騎士」の登場
・「プロダクト時代」のはじまり
・「フライホイール」「ランドル」をつくれ
・彼らの「新たな獲物」を予言する
・「最強のディスラプター」の8つの特徴
…ほか

【本書で紹介されている「+X」企業】
テクノロジー:マイクロソフト
観光・ホテル:エアビーアンドビー
寝具:ブルックリネン
旅行:カーニバル
保険:レモネード
動画配信:ネットフリックス
医療:ワン・メディカル
フィットネス:ペロトン
金融:ロビンフッド、パブリック
小売:ショッピファイ
音楽:スポティファイ
自動車:テスラ
SNS:ツイッター、ティックトック
配車サービス:ウーバー
メガネ:ワービーパーカー
シェアオフィス:ウィワーク

【GAFA+Xが狙う「次なる獲物」は、あなたの業界かもしれない】
GAFAは今後5年で収益を1兆ドル増やす必要がある。
そのためには新しい市場への参入が求められ、さまざまな領域に入り込んでいくことになる。
ウサギの肉で都市を満たすことはできない。もっと大きな獲物が必要だ。(本文より)

【前著 『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』読者の感想】
「皮肉とユーモア満載で面白い!ぐいぐい引き込まれた」
「読者を魅了する天才だ。知的で思慮深く、皮肉屋でありながらユーモアに溢れている」
「革命がこんな形で起きているとは!!本書を読むまで気づくことができなかった」

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    「何でコロナ禍で株価が上がり続けるんだよ」と日経平均を前に首をかしげた人は多いのではないだろうか。
    金融市場は明らかに実体経済と乖離していた。しかし、この時期の米国経済を紐解いてみると、企業全体がムラなく上昇したわけではなかった。S&P600(小型株)や400(中型株)の動きは控えめだが、500(大型株)の指数は急上昇を見せ、史上最高値をつけた。しかも、この史上最高値は1年間で「70回も」更新され続けている。大規模な会社の一人勝ち状態だったのだ。
    そして、そのS&P500の中でも特に上昇を見せたのが、GAFAを始めとした大型ハイテク株であった。

    本書は、GAFA+X(GAFAを始めとする巨大テック企業群)が、実態経済にどれほど影響を及ぼしているかを考察しながら、彼らがコロナ後に取りうる戦略と、彼らに規制を適用することの重要性について語る本である。前著『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』はGAFAの具体的な取り組みを中心に構成されていたが、本書ではそれに変わるディスラプター(世界を変革するユニコーン企業群)に焦点を当てている。

    前著と本書の間には新型コロナという世界的危機が発生している。そして、パンデミックで大企業がダメージを受けるどころか、より一層豊かになったという歪んだ事実がある。まだコロナが発生していなかった前著発売当時(2018年)でも、テック企業による市場独占は懸念されていたが、中小企業の利ザヤを大企業が吸収してますます大きくなっていく例(GAFAによるスタートアップの買収)が見られ、より一層手が付けられなくなっている。

    こうした状況もあってか、筆者のGAFA(特にGとF)に対する批判は相当容赦がない。Facebookを「ヘイトクライムを助長する投稿を故意に放置している」と糾弾したり、Googleを「金もうけのために他者へ顧客情報を売り渡している」と断罪したりしている。この批判の背景にはもちろん「格差問題」があり、その格差問題が浮き彫りになったのがコロナであった。この「コロナ対策」と「格差問題」が本書の2本柱で、残りが「政府の役割」と「大学の今後」、「ディスラプターの紹介」といったところ。タイトルにGAFAとついてはいるが、GAFAの現状については最小限しか述べていないので、手に取る際にはそこを認識しておくといいかもしれない。

    前作のレビュー
    https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/4492503021
    ―――――――――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    0 まえがき
    パンデミックはものごとを加速させる効果を持つ。eコマースが定着し始めたのは2000年だが、2020年初頭においても、小売業におけるデジタル取引は約16%に過ぎなかった。しかし、3月から4月半ばには、その数字が27%に跳ね上がった。eコマースの10年分の成長が8週間で起こったのだ。
    危機はチャンスを生む。ステイホームによる排気ガスの減少、リモート医療やリモート学習の移行による制度変革など、世界的な危機の到来が、新しい技術や価値観を持つ世代を育んでいく可能性もあるのだ。


    1 パンデミックによる断絶と変革
    コロナ不況に生き残れるか死ぬか。企業の明暗を分けたのは規模の大きさだった。大企業と小企業、先見性のある企業と時代遅れの企業――今日の勝者は明日になればもっと大勝し、今日の敗者は消えてなくなる運命にある。最大の犠牲者は、多数の従業員を抱えた財政基盤の弱い企業だ。そうした企業が経営破綻すると、機械や設備、あるいは顧客がよりどりみどりになり、トップ企業数社がさらに力をつけていく。

    パンデミックは多くの業界で分散化を加速させている。アマゾンが店舗を自宅の玄関先に拡大させ、ネットフリックスが映画館をリビングに拡大させたように、分散化があらゆる業界で広がっている。

    ●医療
    以前はリモート診療やリモート処方をほとんど認めなかった保険のルールが変わった。今後は電子カルテへの移行が期待される。
    ●飲食
    食材のオンライン販売、料理のデリバリーの加速。
    ●テレワーク
    テクノロジーにより、イノベーション能力や生産性を損なうことなく、職場の分散化が図られた。ただし、リモートワークの恩恵にあずかれるのは主に富裕層であり、収入格差の拡大が予想される。報酬が10万ドルを超える仕事の60%は家でもできるが、4万ドル未満の仕事では10%に過ぎない。

    コロナにより広告時代・ブランド時代が終わりを告げ、プロダクト時代に移行しつつある。
    プロダクト時代の基本的なビジネスモデルは2つ。
    1つ目は、商品を製造コストより高い値段で売ること。アップルにおけるアイフォンが一例だ。
    2つ目は、商品を無料あるいは原価以下で売り、他の企業に利用者の行動データを有料で提供すること。動画配信サイトなどが筆頭だ。こちらは私たちに関するあらゆるデータを企業が握るようになるため、安全性の観点から危険を孕んでいる。

    産業界はしだいにこの2つのビジネスモデルに分岐していくだろう。すでにスマートフォンでその兆候が見られる。アップルのiOSは前者だ。高品質でブランド力があり高価格だが、裏でデータ利用されることが少ない。こちらを「青」のビジネスモデルとする。一方、グーグルのアンドロイドは後者である。まずまずの品質で初期費用が安いが(あるいは無料)、ユーザーのデータとプライバシーを広告主に差し出さなければならない。こちらを「赤」と名づける。

    赤のメディア→youtube、グーグル、フェイスブックを始めとするありとあらゆるソーシャルメディア
    (比較的)青のメディア→アップル、ネットフリックス、サブスクリプション・モデルを取り入れた後のTwitter

    赤と青の違いは収益化の方法だ。グーグルとフェイスブックはエンゲージメントのモデルで運営されているが、ネットフリックスとリンクトインはサブスクリプション・モデルで動いている。


    2 四騎士+Xの眺望
    2020年の3月から7月までで、社会は恐慌とさえ言えるほどの不況に陥った。何十という有名企業が破産を申請し、失業率は3倍になり、4月に史上最高を記録した。
    それと同時期の5ヶ月間で、GAFAやテスラ、Shopifyなどの主要テック企業9社の時価総額は1兆9000億ドル増加した。私たちが目の当たりにしているのは、少数のアメリカ企業による支配の始まりだ。その中でも特に突出しているのがGAFA四騎士である。

    彼らのビジネスの中心にはフライホイール(はずみ車)がある。フライホイールとは、ビジネスにおいては顧客を集めるための目玉商品である。フライホイールが回転すればするほど、インプットやコスト以上に収益が増大する。

    GAFAの強さは「テクノロジーとの相乗効果」だ。アマゾンはただのオンライン書店ではなく、アマゾンプライムと結びついた配送サービスやプライム・ビデオによって圧倒的な優位性を手にした。アップルウオッチはただの時計ではなく、アイフォンと結びついたウェアラブル端末として売ることで、時計業界のトップに君臨している。

    テック企業の次なる一手はメディアへの進出だ。メディアはコア・ビジネスではなく、フライホイールの一部、つまり客寄せパンダにすぎないが、メイン事業の規模の大きさを利用して顧客をますます独占しにかかる。

    ●最強の騎士アマゾン
    アマゾンプライム、AWS、マーケットプレイスという史上最大のフライホイールを3つも持つアマゾン。2018年2月に翌日配送のデリバリー・サービスを開始すると、フェデックスの時価総額は250億ドル(39%)減少した。運輸業界に乗り込みライバルを打ちのめしたアマゾンは、次に「ヘルスケア」に殴り込むだろう。第一のターゲットは保険だ。患者と専門医を繋げるプラットフォームを構築し包括的に運営していくことは、顧客情報を大量に抱えるアマゾンにとって容易いことだ。

    ●青の騎士アップル
    アップルはGAFAの中で唯一のものづくり企業だ。それゆえコロナによってGAFAの中で一番被害を受けると考えられていたが、アップルの回復力には目を見張るものがあった。

    その要因はアップルの商売がまとめ売りを基本としている点にある。
    一般的に、毎回毎回消費者に意思決定を求める企業より、年一に1度、あるいは退会するときだけ意思決定を行わせる企業のほうが回復力が高い。消費者の意志決定の機会を減らすことで解約リスクを減らすことができるからだ。アップルはセット商品で消費者を魅了し、スタートの時点から消費者に対してすばらしい価値提案を行い、継続的な利益を生んだ。たとえばiCloud、アップルミュージック、アップルTVプラス、アップル・アーケードなどだ。2019年第4四半期のアップルのサービス部門の収益は前年比25%増、売上比率は23%増に達した。その結果、アップルはソフトウェア企業へと変身を遂げたのだ。


    3 ディスラプション(大変革)
    ある業界にディスラプションが迫っているかどうかは、いくつかの指標を見るとわかる。
    ①付加価値に比して異常なほど価格が伸びている
    大学教育、医療業界など、昔からサービスの質が変わっていない(大学においては授業風景、医療業界においては平均余命や乳児死亡率)のにコストが爆発的に増加している業界は崩壊が迫っている
    ②ブランドへの依存度が高い
    ③消費者の不満が蓄積されている
    ④偽のイノベーションが出現している
    製品の実質的な価値を高めることがないような特性をあれこれと追加すること

    資本があり余り天才が不足しているとき、カリスマ「的」創業者が生まれやすくなる。彼らの発する夢見がちなビジョンにベンチャーキャピタルが資産をつぎ込むことで、本来の価値に不釣り合いなほどの巨額の金が動く。
    では、最強のディスラプターはどういう企業なのか?
    それは次の8つの特性を持った企業だ。 
    ・人間の本能に訴えかける
    ・キャリアの箔付けになる
    ・成長とマージンのバランス
    ・ランドル(定期的な売上をもたらしてくれる商品やサービスの集まり)
    ・垂直統合
    ・ネットワーク製品
    ・ビジョンに満ちたストーリー・テリング
    ・好感度

    ●勃興するディスラプターズ
    ・エアビーアンドビー
    ・ブルックリネン
    ・カーニバル
    ・レモネード
    ・ネットフリックス
    ・ワン・メディカル
    ・ペロトン
    ・ロビンフッド
    ・パブリック
    ・ショッピファイ
    ・スポティファイ
    ・テスラ
    ・ツイッター
    ・ウーバー
    ・ワービーパーカー
    ・ティックトック


    4 大学業界という格好の餌
    真っ先にディスラプターの餌食となるのは大学だ。過去40年間で大学の授業料は1400%上昇したものの、それの見返りに提供しているものは、旧態依然とした授業である。
    大学は、中産階級の希望と夢、子どもを大学に行かせてよりよい生活を送らせたいという本能的な願いを食い物にしてきた。大学は公的存在から、ぜいたく品ブランドへと変容してしまった。その費用を負担させるために、中産階級の両親に対して保険や住宅を担保に借金するよう促している。

    オンライン教育と受講者の減少で、何百という大学が危機に陥るだろう。対面授業の経験と、それがもたらす授業料がなくなれば、大学の10〜30%が消滅する可能性がある。
    ここにGAFA+Xが参入すれば、自社のブランドと技術の専門知識を活用して、現在の大学よりも割安で教育プログラムを提供することができる。さらに、トレーニングから資格認定、テスト、成績評価まで行うことで、その卒業生の獲得競争が始まることだろう。


    5 GAFA+Xの暴走に対抗する
    資本主義と社会主義の最悪な部分が組み合わされると、有害なカクテルができ上がる。
    過去40年間、アメリカではそれを行ってきた。社会の階段を上る場合は資本主義である。アメリカで価値を生み出すことができれば、歴史上、匹敵するもののないほど特権を与えられる。逆に、価値を生み出せなかったり、恵まれない家庭に生まれたり、幸運に恵まれなかったりすれば、とても人間らしい生活を送ることができない。過ちに対して高い代償を払わされる可能性も高い。これは少数の強者だけが生き残る経済システムだ。
    ただ富裕層へと上り詰めると(富裕層に生まれるほうが可能性は高そうだが)、状況は変わる。個人の責任と自由についての美辞麗句とは裏腹に、彼らは社会主義へと衣替えをする。彼らの社会主義の楽園では、失敗はないものとされる。企業を倒産させる(資本主義の本質からすると当たり前のことだが)のではなく、救済措置が講じられる。株主階級を保護し、幹部階級を保護する。企業を生きながらえさせ、オーナーや経営陣が窮地に陥らないようにする。救済措置の原資は国の借金で賄われ、中産階級の納税者がそれを負担する。最終的にはわれわれの子どもに払ってもらうことになる。この富裕層優遇が議員と富豪との癒着の原因となり、縁故主義が発生する。

    アメリカにはどうしようもない格差が生まれてしまった。これは税法、教育制度、アメリカの悲惨な社会福祉に根ざしている。

    だからこそ強力な政府が必要なのだ。ファスト思考と利己主義という人間の本性に対抗し、スロー思考とコミュニティによって均衡を図る。
    この半世紀を通じて、政府を誹謗中傷し、公共の福祉への貢献を否定するのが流行りになってしまった。国民から信頼を失えば、カネが流れなくなる。国民が政府機関を見放し始めれば、それが本当に実現してしまう。

    将来を展望すると、2つの最優先事項がある。1つは私的権力、特に巨大テック企業が持つ権力の抑制であり、もう1つは個人の権利の拡大だ。
    巨大テック企業の権力の所有者を政府から追い出し、富裕層から政治運動に流れ込む資金を大幅に減らす。
    議員は自らの資産を公開し、身辺を綺麗にする。独占禁止法の適用や規制による制限を強化すべきである。

    たしかにアメリカの価値観の土台には自由がある。しかし、それは特定の権利を保証しているわけではなく、大義から切り離されたものでもない。われわれは団結しなければならない。人間としての礼節を鼓舞し、恵まれない人々への共感を高め、未来の世代のために互いに犠牲をいとわないことを実証することが、今アメリカに求められている。

  • 【はじめに】
    著者は前著の『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』で、Google、Amazon、Facebook、Appleというビッグテックカンパニーがグローバルに支配力を増大している状況を描いた。本書はその続編でもあり、コロナ禍の経済の混乱を通してさらにその支配力が増していることを分析したものである。

    【概要】
    ■ コロナとGAFA
    著者はコロナ禍はGAFAに有利に働き、支配力は強まり、格差はますます拡がったと主張する。その理由のひとつはGAFAのようなビッグテックの方がテレワークにうまく対応できたことと、株価維持を目的のひとつとしたような政府経済支援策による株式市場の好景気が、コロナ禍の悪影響を直接受けた数多の業種・業界との差を拡げることになった。投資資金に余剰が生じた市場・投資家へのメッセージとしてナラティブが評価され、低い割引率で現在価値が評価されるようになった。Amazonのベゾスは昔からこういったナラティブで彼らの物語を投資家に信じ込ませることに長けていた。Amazonを初めとしてGAFAは、厳しい経済環境の中で競争優位性を維持して繁栄するための、キャッシュが潤沢で負債が少なく、固定費が小さいという条件を満たしており、ますますその他の競合との差を拡げていった。

    実際にコロナによる感染率はその所得によって大きな差があったことがわかっている。高所得者にはテレワークでも遂行できる業種に従事していることが多いのに対して、低所得者の職業はそうではなかった。好調な株式市場もその格差を拡げる結果となった。「強者はもっと強くなり、弱者はもっと弱くなる。あるいは死ぬ」と強い口調でその問題点を指摘する。「痛みは弱者にアウトソーシングされた」と語る。この格差拡大は、著者がGAFA支配の問題点として批判するところである。

    ■ GAFAのビジネスモデル
    著者は、ビッグテック企業のビジネスモデルを「赤」と「青」に分類する。「赤」は GoogleとFacebookに代表されるビジネスモデルで、無料でサービスを提供する代わりにユーザデータを活用して広告で収益を上げるやり方である。一方、「青」はの代表格はAppleで、商品を仕入れた価格よりも高く売るというビジネスモデルだ。Andoidは「赤」でiOSは「青」、YouTubeは「赤」でNetflixは「青」、ECの分野では小売りから搾取するAmazonを「赤」とし、Shopifyを「青」とする。現状ほぼすべてのSNSは「赤」だが、「青」のSNSとしてTwitterやLinkedInがそのポジションを取るのではと書かれている。検索分野でも「赤」のGoogleに対して「青」の検索エンジンは姿が見えないが、いずれ登場してくるだろうと予想している。

    著者はビッグテックの武器として、「イノベーション」「不明瞭化」「搾取」を挙げる。もちろん彼らの競争優位は当初技術的なイノベーションにあった。その優位を維持するためにロビイング活動やブランドプロモーションにお金をかけるようになり、そこで得られた圧倒的な優位「フライホイール」を梃子に新規参入者を圧倒し、また他の市場に土足で踏み込んでいくのだ。AmazonはAmazon Prime、AWS、Market Placeという三つの大きなフライホイールを持ち、Googleは検索エンジンから始めた広告収益とAndroid OSがそれに当たるだろう。彼らはその武器をもとにストリーミングサービスや今後有望とされるヘルスケア事業に進出してくるだろうと目されている。

    著者はこういった個人情報を搾取して競争環境を歪める「赤」のビジネスモデルを危険視している。やや「青」のAppleに甘いようだが、Appleも特別なフライホイールであるiPhone・iOSを持っている。また著者も指摘するようにAppleはGoogle検索エンジンをiOSの標準にすることで120億ドルの収益を得ている。基本的にはGAFA(+X)が強くなりすぎることは中長期的に見てよくないことであるというのが著者の見立てであり、本書での主張である。

    ■ その他のプレイヤ (+X)
    その他のプレイヤとして有力候補と目されるが、Netflixだ。彼らも大きな物語を投資家に信じさせることに成功し、莫大な投資をコンテンツにかけることに成功している。著者は、今後のGAFAへの対抗戦略としてSpotifyと合併し、さらにスマートスピーカーのSonosを買収することで家庭でのストリーミングメディアを押さえることを推奨している。

    他に挙がっているTESLAについて、その商品も株式が金持ちのステータスシンボルとして買われていることを指摘している。「私は金がある」ということと「私は良心的である」という二つのメッセージを同時に発することができる。販売台数に大きな差があるTESLAの時価総額がトヨタなどの旧来の自動車会社のそれを越えたことがニュースにもなったが、彼らの競争の源泉は物語なのである。

    また、SNSの分野ではその浸透度に比して事業面でうまくいっていないTwitterはサブスクリプションモデルへの移行を決定した。ジャック・ドーシーがフルタイムのCEOだったらもっと早く決断できたはずだと。

    ソフトバンクの1,000億ドルのビジョン・ファンドにも言及されている。著者が「戦略としての資本」と名付けたこの事例は、今後世界のビジネススクールで何十年に渡りケーススタディの素材として教えられることだろう。

    ■ メディア事業
    「ブランド時代」から「プロダクト時代」への移行を指摘する。これまではプロモーションにお金をかけてブランド構築をして消費者の選好を獲得してきた企業が多かった。マスメディアの時代では、それがお決まりの手段だった。著者は、メディアはニコチンで広告は発がん性物質だという。本当の顧客である広告主と、本当の商品が利用者であるという関係を覆い隠しているという。

    そういったメディア・広告業界の中で、従来のTVメディアや雑誌・新聞広告からネットメディアへのシフトが進み、その中でもGoogleとFacebookの支配力が非常に高まっていることはよく知られている。ネットシフトの一方で、GoogleとFacebook以外のデジタルメディア企業はその成長を取り込めていないばかりか、シェアの低減によって大きな打撃を受けている。これまでインターネットの成長とともに成長してきたBuzzFeed、Yelp、Huffpost、Viceなどが厳しい状況になっているという。ここでも、独占による多様性の低減の問題を指摘する。

    また、エンターテイメント・メディアの分析でも、Comcast、AT&T、Verizon、FOX、SONYはAmazonとAppleの軍門に下るだろうと著者は予測する。対抗できるのはディズニーくらいだろうと。ここで指摘されたAppleとAmazonの市場価値の”増分”がこれらの企業の価値総額とほぼ同額だという事実は雄弁にこの業界における歪みを示している。

    ■ 教育業界のディスラプション
    前著に対して本書で新しくフォーカスされているのは教育分野であろう。パンデミックの中で行われたオンライン授業の経験から、高等教育事業がディスラプションの対象となる要素がたくさん詰まっているということがわかったということだと思う。まずは授業料の高騰から価格面で新規参入を促す余地があり、教室やキャンパスという物理的限界の克服によりコスト削減と規模拡張の可能性が確認された。
    その結果として今後、いくつかの大学はつぶれていくだろうと著者は予想する。大学はますますぜいたく品、「ブランド」として機能するようになり、より多くの生徒を同時に講義することができることから看板教授の価値はどんどん上がるという。
    また、そうなるとテクノロジーによるイノベーションの余地も多いことからGAFAを始めとするビッグテック企業が教育機関と組んで教育サービスを提供することになると予測する。

    ■ 資本主義と格差
    つい最近に至るまで、格差が社会的に絶対的に悪ではなかったと思う。リベラル能力主義的資本主義が倫理的にもリベラルの主流であったときには、格差が拡がっても全体や底辺も底上げされることで代償されるという考え方が主流であったようにも思う。それが最近のトランプ政権の誕生の下地となった地域格差、パンデミックによる格差の拡大によって、格差自体が社会的に悪と名指されるような流れが強くなったように感じる。

    著者も、本書でGAFAが作り出す悪のひとつとして格差の拡大を挙げている。アメリカがかつてのイメージと違い世代間や地域間での富の移動が少なくなり、強いものがますます富み、弱いものはさらに弱くなることが社会の不安定化につながっていると警鐘を鳴らす。アメリカ人の平均寿命を予測する最も重要な因子は、生まれた場所の郵便番号だという統計情報も引かれている。著者はこの格差の固定を「新しいカースト制度」と呼んでいる。先に述べたアメリカの教育制度はこのカーストを強化するものになってしまっているが、能力主義を信じるものたちがこの不都合を見ないと批判する。

    著者は資本主義の成長が機会の拡大につながっていないし、機械の均等にもつながっていないという。著者の経験でも、実際の起業時の資金集めにおいて白人の男性に有利であることはいまだ間違いないという。通常は、20世紀初めのスペイン風邪のときのようにパンデミックの後には賃金が上がり、破壊と再生が行われる。一方今回、GAFAなどのロビイングの効果もあってか政府支援策は未来の世代から原資を奪い、結果金持ちほど得をするような仕掛けになっていたという。おかげで株式市場は活況を呈した形になり、格差は固定化し拡大した。

    著者は、独占企業は最終的には搾取する、従業員からも市場からも、という。このことが著者がGAFAの支配力強化を危険視し、批判する理由になっている。

    ■ 政府の役割
    本書で特徴的だと思えるところは政府の役割についてより多くのものを期待している点だ。実は政府は効率的だし、もっと効率的になりうると(マルコビッチの説を引用して)主張する。それでもなぜか侮辱されて当然という地位に貶められている。政府のことは批判しても構わないということになっているようだ。確かにアメリカでもコロナに対する政府組織の対応はお世辞にも褒められたものではなかったようだ。それでも、政府機関は使命感にあふれる人材を惹き付けるようなところであるべきだと思われる。そのためにも批判しやすいからという理由で安易には批判されるべきではないし、政府の働きをもっとより高く正当に評価するべきだというのは自分も賛同できるところだ。

    著者は、純粋な民主主義はポピュリズムだという。議会や裁判所や公的機関を通してそのスピードを抑えるところにある。独占から市場を正常化することも政府の重要な機能であるというのが著者の言いたいことであるように思う。

    【所感】
    前著の『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』はGAFAそれぞれの特徴を比較的コンパクトに説明をしたものだったが、今回はコロナによって加速したGAFAの支配力の強化がどのような形で進んでいるのかについて分析するものであった。その分、面白さという意味では前著の方が面白かったと思うが、より一般的な社会批判という形に進み、GAFAの否定度や警戒度が前著よりも上がっているように思われた。

    また前著では、教育に関して身も蓋もなく、よい大学に行きなさいと言っていたが、その辺りは若干ニュアンスが変わっているようにも思う。もちろん教育自体の価値は信じており、私立校への課税をもとに公立校の初等・中等教育を充実するべきだと語る。この辺りのアイビーリーグや西海岸のいくつかの有名大学が格差の固定化に寄与しているという最近のマイケル・サンデルらの主張に寄せている印象をもった。この格差固定への批判は、トランプショックの分析を経てアメリカの知識人の間では、実際の行動に移すのかどうかは置いておいて共通の認識になっているように感じる。本書でもGAFA批判の文脈において格差問題に絡めた批判が多くなっていたように思う。

    著者は、独占禁止法などでGAFAの支配力を押さえるべきだと主張するが、そういった規制による人工的な変革には躊躇を覚える向きも多いだろう。Twitterのサブスクモデルへの移行と成功や、NetflixとSpotifyの合併の推奨、教育分野でのディスラプションといくつかの大学の廃校など、いくつか具体的な提唱が入っているが、実際にどのようになるのか興味深い。

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    『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492503021
    『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(マイケル・サンデル)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152100168

  • 面白い。コロナ後のことまで書かれている。わかりやすい。GAFAのことなど知らなかった事が書かれている。

  • GAFAという言葉を日本に定着させた著者の前著をコロナ禍を踏まえてアップデートさせた一冊。前著の主張が変わったというよりは、コロナ禍を経てGAFAは一層強固になったという話。時価総額を見ればファクトとして裏付けも得られている。むしろ著者は「2023年末にアマゾンが史上初の3兆ドル企業になることに疑問の余地は無い」と述べているが、2022年始にアップルがあっさり達成してしまったので著者の予想を上回るペースで成長を続けている。第5章の「パンデミックで批判や誹謗中傷の矛先が政府に向いて巨大テック企業はそれを隠れ蓑に出来た」という話は日本にも当てはまるなぁと妙に納得してしまった。

  • 日本語版は本全体が「GAFA許すまじ」みたいなトーンになってるけど、ちょっと強引にバイアスかけすぎなのでは?
    たとえば、原書では 5. The Commonewealth(共通善, 共通の目的と利益で結ばれたコミュニティー)が、第5章 GAFA+Xの暴走に対抗する、になってる。内容としては資本主義や富裕層への批判、あるべき政府の姿や政治の話をしているのだけども。翻訳、編集にやや難あり。

  • GAFA+α、つまり巨大テック企業について書かれていると思い読み始めたが、それにとどまらず、アメリカ全体の様子が分かり大変楽しく読むことができた。
    パンデミックになってからの政府の政策が、富裕層にさらなる富をもたらせ、中流層以下はあまり恩恵を受けていないこと。また、どの業界よりも崩壊に近づいているのが、高等教育産業であることなど、思ってもみないことが現実としておきていることに衝撃を受けた。

  • メモ
    コロナ禍で危機を乗り越えられた企業がやったことは自社のポジションを掴むこと。
    パンデミック前と後で、上位の企業と下位の企業の差が激しくなっている。政府に食い込んだ業界は生き残る。
    プロダクト時代を支配する「赤」と「青」のビジネスモデル
    青⇒アップル、ネットフリックス、ショピファイ
    高品質、ブランド力、高価格、裏でデータ活用無し

    赤⇒アンドロイド、youtube、アマゾン
    安い、データとプライバシーを広告主に差し出す

    現在のソーシャルメディアはすべて赤
    ツイッターはグーグル、フェイスブックと戦えるほどの規模は無いから、青に移行すべき。
    この赤と青の二分化が進む世の中になるだろうとのこと。

  • 読み易い。

  • 前作が衝撃的に面白すぎた『GAFA』の続編を読了‼️今回は前作から3年が経ち、コロナ禍を経てさらに強力かつ甚大な影響力を発揮する存在となった米巨大テック企業のイマと、テクノロジーがもたらす今後のイノベーション、そして今のアメリカ社会の問題が列挙される。

    一冊を通して読むと、GAFA +αだけの話ではなく、アメリカ社会そのものの話の方が多い。主には大学教育、そして格差の話。著者が大学教授をやってるからってのもデカいんだろうけど。

    興味深い点は、イノベーティブな企業が次々と生まれても、それらをGAFA始めとする巨大テックが飲み込んでいく(買収)ことで、巨大テックはさらに巨大に。一方で既存勢力を塗り替える新しい新陳代謝が起きづらい流れにもなってるという点。

    また、今年は暴落から始まったが、アメリカの株式市場が、カリスマ面した企業家の巧みなストーリーテリングに振り回される状況であること。そこには本当の革新的なものを目指す企業家が少なくっているのでは、との点。

    また大学入学における途方もない格差も、これは大丈夫かよ、と思わざるを得ない感じだ。

    去年読んだマイケル・サンデル教授の『実力も運のうち』やら、本書やらを読むと、アメリカ社会も大変やな、と思わざるを得ず、だ。

  • 2022年15冊目。320ページ、累計4587ページ。満足度★★★★☆(星3に近い)

    著者曰く本書のかなりの部分は前著のアップデートとあったが、実際には別物。そして、後半は特にGAFAに関する内容というよりも、(コロナ禍における)アメリカを中心とする社会論ともいうべきものであった。

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著者プロフィール

スコット・ギャロウェイ
ニューヨーク大学スターン経営大学院教授
ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。MBAコースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。連続起業家(シリアル・アントレプレナー)としてL2、Red Envelope、Prophetなど10の会社を起業。ニューヨーク・タイムズ、ゲートウェイ・コンピュータなどの役員も歴任。2012年、クレイトン・クリステンセン(『イノベーションのジレンマ』著者)、リンダ・グラットン(『ライフ・シフト』著者)らとともに「世界最高のビジネススクール教授50人」に選出。
著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(渡会圭子訳、東洋経済新報社)は15万部のベストセラーになったほか、「ビジネス書大賞2019 読者賞」「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 総合第1位」の2冠を達成、日本にGAFAという言葉を定着させた。

「2021年 『GAFA next stage ガーファ ネクストステージ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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