- Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
- / ISBN・EAN: 9784492521687
作品紹介・あらすじ
事業立地を最初に定めたり、後から替える営為は、戦略のなかの戦略と言ってよい。ところが、直接競合する企業との闘い方を定めるものが戦略と、勘違いする人が後を絶たない。闘いに勝って戦に負けるのでは話にならない。戦略は競合より立地を見つめることである。-何が持続的な利益成長を可能にするのか。日本企業が備えるべき戦略の真髄を描き出す。
感想・レビュー・書評
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良書。前作の増強版である。
研究成果「母集団選定〜定義〜示唆まで」は頭が上がらない。事業立地の定義方法がやや謎と強引な気がする点がマイナスか。アカデミズムの世界、もしくは頭の良い人たちには分かるのかもしれないが、実務人間になってしまった私のような凡人には理解が難しかった。
それでも経営の逆三角形という概念は21世紀の経営理論としては最大級のものだと思う。伊丹氏に師事し、ポーターや加護野氏と協働してきた中で培われた視点と大量データ分析、それに自身の人間観や事業観か合わさり生まれた傑作である。
複雑さゆえ、経営戦略の次元を並列に扱ってしまいがちなところに、事業立地→事業デザインと不可逆性を見出している。経営の世界に生きるものはこの点は肝に銘ずるべきである。
他にも戦術レベル(いわゆる機能戦略*)にある4Pや4Mでは、事業デザインや事業立地が傾けばなす術がなく、経営者が会社の命運=長期収益のポテンシャルを握ることを主張している。ミドルの頑張りによる商品開発や生産革新によるQCD改善では、限界があることは、経営者である以上心得ておくべきである。
※ただし筆者は機能+戦略名にも前作で疑問を呈している
(以下は読者理解用の例え)
経営戦略がポテンシャル=最大値・天井を決め、戦術がそれ(ポテンシャル)をどこまで満たせるか、発揮できるかの高さを決める。管理と日次のオペレーションが満たすスピードや漏れずに満たすことの因子となる。これは決して戦術と管理とオペレーションを否定するのではなく、どれだけ頑張っても経営戦略に欠陥があると全ては水泡に帰する、ということを意味している。挽回はできない、できたとしても有意にはならない、ということである。しかもその不可逆性が戦略の中でも、事業立地→事業デザインというレイヤーで発生しているため、一にも二にも立地であるというのが本書の結論である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書は前著「戦略不全の論理」の続編的位置づけとして出版された本であるが、必ずしも前著を読んでいなくても全く問題ない(私自身前著は読んでいない)。本書の前半は日本の上場企業1000社強のうち、3つの指標を用いて戦略不全企業をあぶりだしている。3つの指標の細かい話は述べないが、それなりの納得性はある。それでは戦略不全とは何か?それを明らかにするために、著者は戦略不全企業の正反対にいる優良企業(彼は単純に「対照企業」と呼んでいる)も同様に3つの指標からあぶりだし、それとの比較分析において原因を明らかにせんとしている。他の経営本にありがちな、いかにも著者の恣意的な選定による優良企業ケーススタディではなく、客観的に導出された優良企業、不全企業の比較分析をしているところに大変共感した。
本書の素晴らしいところは、この手の泥臭い分析は下手をすると専門学会誌でしかとりあげにくいようなところを、がんばって一般読者にも理解可能なレベルまで「なんとか」噛み砕いているところである。ここは一般読者に対してもギリギリセーフという感じがある。本書では必要以上に図表を駆使し、読者にわかりやすくしようという努力が垣間見られることに共感を覚えた(ただしいくつかの図表はかなり見づらかったが)。
本書の前半は上述したようなデータハンドリングが紙面を占めている。そして後半が肝心の主題である、戦略不全企業の原因分析であるが、ここで著者は「事業立地」という企業の意思決定の中でも一番根っこにある部分にフォーカスを当て、経営者が肥沃な事業立地を選ぶかどうか、また事業立地が不毛になる前に肥沃なところに「転地できるか」が分かれ目だとしている。またさらにこれを深堀して、ではなぜ戦略不全企業の経営者はこれができないのか?という点についても4つの要因を掲げているなど、とにかく最後の最後まで綿密な分析を続けているという点で感服した。4つの要因のうち1つは精神論的な感もあり若干無理も感じたが、本書はぜひ日本企業の経営層の方々に読んでもらいたい本である。
余談であるが、本書を読んで「事業立地の選択と転地」という概念は企業だけでなく国家や個人にもあてはまると感じた。優れた人ならば仮に戦略不全企業に入社してしまって、その企業が一向に転地する気配がないならば、自分自身を「転地」させてしまうだろう。また国家を見ても、欧州で復興を遂げているような国々などはおしなべて不毛になってしまった自国の主要産業を「転地」させることに成功しているように思える。本書、読みとおすのは大変だが一読の価値は十分ある。 -
【未読】原価低減やサプライチェーンの施策を考える際に、この戦略であっているんだろうかと思うことは常にある。数年たったときに、あれは上手くいった、これは上手くいかなかったと思うことも常にあるけれど、長年やっていても法則性やセオリーに結びつかない。もし戦略の良い悪いを決めるような原則があるのならば読んでみたい。
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The Cause and Effect of Strategy Failure ―
http://www.toyokeizai.net/shop/books/detail/BI/778fa71c21e85f903fc683ef479d7825/ -
千社を超える日本企業の財務データから戦略の真髄を事業立地の決定・転地(すなわちWhere to competeの見極め)と看破した名著です。「組織の重さ」ぶりの、きわめて実証的な経営書でした。次は、「事業立地」という切りわけについて精緻化を図って頂ければと思います。
自分なりに要点をまとめておきます:事業立地を選ぶ/移すこと(Where to compete)が戦略の要諦でありますが、このスタディで指標としてトラッキングしたインフレーター調整後の実質利益を40年を超えて更新し続けることは極めて難業なのは、経営者の任期・寿命の限界と事業立地の沈下(ライフサイクル)という要素が重なりあうからです。さらに、不毛な立地を選ぶと、後に転地をするのは顧客/技術/チャネルへのオーバーコミットが生じるのと旧来のビジネスシステム/組織(How to compete)の慣性との闘いにエネルギーを要するため困難になります。その中でも、転地を成し遂げるためには、自立的な経営基盤を前提として、10年以上の長い任期の社長/会長による継続的コミットメント、経営者のマンデート/使命感、経営者の経営能力(知性/感性/野性)といった条件をみたすことが必要です。
さらに現代の競争を、アメリカの創業経営者 v.s. 日本の専門経営者(80年代の競争はこの逆)と見ているのは産業史観としてでなく、経営者育成という観点からも面白く、日本において創業経営者層が増える環境とはどのようなものか、日本の専門経営者層のレベルを上げるために如何に経営体験を積ませるか、経営者が管理者の下では育たない中で一度断ち切れた循環を再生することはできるか、といった経営を志向するものとして考えざるを得ない疑問を投げかけてくれます。 -
各章の冒頭と、終章"訓戒と指針"さえ読めば伝えたいことは理解。
上場企業1013社の判定結果は生々しすぎて、統計対象の2000年から年をおかないといけなかったのだろう。熟成ワインのような味わい。 -
『■どの企業も経営者の手腕によって勝負が決まる。
初期の段階で選択した市場で勝負の大半は決まる。
すなわち市場(立地)の良否を見抜く眼力、目利き力が真価を問う。
もし不毛な立地を選んでしまった場合、
または、ライフサイクルの変化により寿命になってしまった場合、
生き延びるには新規事業(転地)の推進力が鍵になる。
すなわち戦略は、競合より立地を見つめることが重要。
そしてそれが経営者のなすべきことであり、
立地を見極めるには、見えないものを心眼で見抜く知性と感性が求められる。
競合の戦いや戦術はライン組織に任せておけばいい。
この感性は、説明できるものでもなく、わからない人にはわからないものである。
また、後継指名のときにも企業存続の転機が訪れる。
もし、再び立地が不毛になってしまった際に転地に踏み切れるかどうかにかかる。
もし手堅いディフェンス型の経営に陥ってしまうと、一種の縮小均衡に巡りついてしまう。
そして戦略不全に陥る。
■経営者の資質
とはいえ、経営者の現実的に欠かせない要素は「知性と感性と野生」に尽きる。
立地の良否を直観的に見抜ぬく「感性」、それを論理的に軌道修正する「知性」を兼ね備えることが必要である。
立地の良否の判断に関して、人と同じような答えにめぐりつくのはいけない。そして、常識や規制にとらわれない態度と、障害や困難をくぐりぬける「野心」が中核をなすことが求められる。
「経営は10年にしてならず」のごとく、時間をかけて事業デザインをつくりあげれば利益成長基盤を強化することになる。 -
エコノミスト賞を受賞した書。事業の盛衰を事例研究ではなく統計的手法を用いて分析している。大変興味深い。
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日本人の学者が書いた経営本で最高の一冊。収益性が低い為に国際的に評価の低い日本の大企業のサラリーマン出身CEOには、経営とは何をすることかという指針になるのでは。