目に見える行動レベルの変化はそれを生み出す意識レベルの変化があってこそ意味がある。意識の変化を伴わない行動の変化はともすると表面的かつ一時的な変化しか生み出さず、望ましい変化を持続的に生み出すほどの効果がない。それはまた、単純に量を積み上げるだけの段階的で連続的な変化でもない。本質的な変化とは、究極的にはその人の「在り方」が変わることで、その人から生み出されるものすべての質が変わるということ。
コーチングの核心は発見と気づきと選択をもたらすこと。
コーアクティブ・コーチングの対話には相手に対する敬意、思いやり、共感、率直さ、真実だけを口にする決意が絶対不可欠であるという暗黙のルールがある。
コーアクティブ・コーチングにおける3つの前提
1. 人はもともと創造力と才知にあふれており、決して無力で弱々しく、頼りない存在ではない。
2. 人は常に全力を尽くし、その持てる可能性を余すところなく発揮したいという深い願いを持っている。
3. たとえ人生のどんな状況にあっても、人はその中に必ず可能性を見出し、自ら選択していく力を持っている。
コーアクティブ・コーチングは対話の焦点がより深い人間的な繋がりにあたるコミュニケーションのとり方であり、それは職場におけるリーダーシップ・スタイルやチーム内の人間関係、あるいは家庭内の人間関係にも根をおろしつつある。
権威主義的で優劣を競うことに重きが置かれたコミュニケーションとは異なり、どれくらい自分の立場を高くすることが出来たかよりもどれくらい新しい可能性が生み出されたかを重視する。
コーアクティブ・コーチングでは言葉だけでなく、その言葉の背後にあるものを聴き取り、さらには言葉と言葉の間にあるものにまで耳を傾ける。クライアントの声に現れる微妙なニュアンスや感情、エネルギーの波長にも合わせ、クライアントが発しているものをすべて受け取る。そして、相手の中にあるもっとも素晴らしいものをたとえ本人がそれに気づいていない場合でもつねに聴き取ろうとする。
コーチはクライントが心から望んでいることを実現し、ひとたび何かを選択したらそれを最後までやり通せるようサポートする人。最終的にはクライアントが目的を持って、意味のある人生を歩めるように支えるのがコーチの役割。
人は概してより質の高い人生、つまりより充実感に満ち溢れ、よりバランスのとれた、そしてより味わい深い人生を求めてコーチングにやってくる。そして彼らがどんな理由でやってきたとしてもコーチングの原点は常にクライアントの中にある「何かを変えたい」という気持ち。
人は「できる」存在。答えを見つけることも「できる」し、選択することも「できる」し、行動を起こすことも「できる」し、計画通りに進まない時でも立て直すことが「できる」し、学ぶことが「できる」。こうした力はどんな境遇に置かれた人にも組み込まれている。
相手の中にもともとある創造力や才知を信じる時、私たちは相手の手を握ってオロオロ心配する代わりに、相手を力強く応援することになる。
確かに分析や論理は価値があり、役に立つものではある。しかし、全てを解き明かしてはくれない。時には「正しい」と思われる解決策に心がついていかず思ったような結果が得られなかったり、頭では「そうだ」と思っても魂にはピンと来ていなかったりということがある。
魂の次元は確かに存在し、人の選択に影響を与えている。その本質は価値観や使命や自分よりも大きな力にしたがって生きるという感覚。ある決断が心や頭や身体を超えたところでなされた時、それは魂の次元でなされたとしか考えようがない。
コーチとしてはクライアントが話したいと思う以上、どんな領域にでも話を持っていく心の準備をしておく必要がある。
重要なのは意識する範囲を広げること。なぜなら、どんなテーマもそれ単独で存在しているわけではないから(縁起)。
人生のある1つの領域における決断が、人生のすべての領域に影響を及ぼすことは避けられない。
確かに言葉や内容は重要だが、その一方でそれよりはるかにたくさんのことが毎瞬毎瞬起こっている。
すべての対話には独特の調子や雰囲気、微妙なニュアンスなどがある。ある言葉がどのように発せられたかには、その言葉自体と同じか、時にはそれ以上の情報が含まれている。また、実際に言葉になったことよりも、言葉にならなかったことの方に多くの情報が含まれている場合もある。
相手に何を言い何を問いかけるのかに関する情報は、あらかじめ作られた台本からもたらされるものではなく、その瞬間にもたらされる。その瞬間は、今この瞬間、そしてまた次の瞬間というように次から次へと流れていく。「今この瞬間から創る」というのは、たった今起こっていることにしっかりと意識を集中して、もともとの計画に従うのではなく、今という瞬間に湧き起こってくる刺激に反応するということ。
「創る」というのはコーアクティブの核心、すなわち「協力して」という意味での「Co」と「前に進む」という意味での「Active」を同時に行うことであり、合わせて「協力して前に進む」ということを指している。
対話の流れに身を委ねる。そしてそれはクライアントに学びと発見と変容をもたらす。
コーアクティブな対話においてコーチとクライアントはクライアントの充実した人生という共通の目的を持っている。
コーチングのテーマはクライアントの人生全体からしたらほんの僅かな部分かもしれないが、そのもとをたどっていけばまるで葉から枝へ、枝から幹へ、さらには幹から根へと繋がるようにより深いものへと繋がっていく可能性がある。
コーチが見ているのは「木」全体であり、その木がさらに大きく育ち、生命力にあふれた状態になった姿。
コーチングで立てた行動計画はクライアントが重要だと感じる領域において最大限に力を発揮するというより崇高な目的へと繋がる最初の一歩に過ぎない。
意味のある重要な変化をもたらすコーチには、クライアントが体験できる最高かつ最大限のものを享受してほしいという思いがある。
本質的な変化を呼び起こす。
クライアントが今焦点を当てている領域から人生の様々な領域に向かって進化し、成長し、拡大していくための内なる強さや知恵を身につけたり、取り戻したりすることを含め、クライアントのあらゆる可能性を諦めずに追求していく姿勢がコーチには求められる。
フルフィルメントとは直訳すると「充実感」を意味する。それは「その人を生き生きとさせるもの」「その人にパワーやエネルギーを与えてくれるもの」を意味する。何がフルフィルメントをもたらすかはクライアントによって異なる。
フルフィルメントとは財布や洋服ダンスを満たすことではなく、むしろ自分の心や精神を満たすこと。
充実感にあふれた人生とはクライアントが本当に大事だと思っていること、価値を置いていることで満たされた人生。
クライアントが何に価値を置いているかを明確にすることは、クライアントが人生において何を選択すべきかを明確にすることになる。クライアントが自らの価値観に沿った選択をすればするほど、その人の人生は自然と充実感に満ちたものになり、多くの場合より楽に生きることにも繋がる。
もっとも深いレベルのフルフィルメントとは自らの人生に目的を見出し、その目的を日々実感しながら生きる時に感じるものであり、自分がこの世で与えられた生をまっとうしていると感じる時に得られるもの。
直感:目に見えるものや耳を聞こえるものを超えた情報や知恵を察知すること
直感は働く場さえ与えられれば、論理や理屈だけでは到底得られない情報を得ることができる。
重要なのは理屈を超えた情報、知られざる源から来る要素、つまり直感から得た情報にも門戸を開くこと。
クライアントとともに未知の世界に足を踏み入れようとする時、そこには常に裏付けのある確固とした情報が揃っているとは限らない。
論理や理屈によって得られる情報に直感によって得られる情報が加わる時、コーチングはこれまでの枠を超えて新しい次元にコーチとクライアントをいざなう。
好奇心:何の先入観や固定観念も持たずに、遊び心をもってのびやかに新たな世界を探究していく姿勢。それは時に驚くべき大発見をもたらす。
科学者が宇宙や生命、その他の様々な事象に対して飽くなき好奇心を持って臨むように、コーチもクライアント、およびクライアントの人生に飽くなき好奇心を向けることでこれまで見えてなかったクライアントの内なる世界が見えてくるようになる。
時にはクライアントが長年かけて築き上げてきた防御の壁を打ち破るような力強い質問を投げかける必要がある。
コーチとクライアントは協働作業の結果として行動を学習を生み出す。
コーチが自分自身の考えや意見、好みや恐れ、あるいはエゴやプライドなどを持ってコーチングに臨むとどうしても主題がクライアントから離れてしまう。
コーチはある意味でクライアントの人生に変化をもたらす触媒、チェンジ・エージェントであると言える。
コーチングには標準的な診断法や解決策があらかじめ用意されたマニュアルなどは一切存在しない。よってコーチングは極めて個人的なものとなる。
誰かに話を聴いてもらうということは、多くの人にとって驚くほど心地よい体験となりえる。話し相手に全神経を集中させて、発する言葉1つ1つに興味を示し、心から共感してあげることによって人は自分が尊重されていると感じ、自分という存在をより強く認識する。また、聴いてもらうことで人は自分が相手に完全に受け入れられたと感じ、不安から解放され、その相手を心から信頼するようになる。
職場においてはやるべきことを少しでも早くやり遂げる上で知っておかなければならない最低限のことだけに耳を傾けたらさっさと次の仕事に取り掛かるという光景は日常茶飯事。このような環境にずっといたら、そこで働く人たちが自分は人間ではなく歯車の一部に過ぎないと感じるのも無理はない。
全員が話してばかりで、誰も聴いていない。
コーチは聴くことによって相手の心を開き、さらに対話を活性化させる。
傾聴とは直感を含んだすべての感覚を使って情報を受け取ること。
私たちは常に音や言葉、イメージ、感情、エネルギーなどを聴いたり、見たり、感じたりしている。すべての感覚から感じ取ったありとあらゆる情報に意識の焦点を当て、その場の雰囲気やエネルギーの変化といった言葉以外のことにも注意を払う。たとえば電話の向こうにいる相手の息遣いや話し方の調子、声の抑揚など、私たちは様々な種類の情報を認識することが出来る。声の調子が柔らかいのか固いのかによって、相手が落ち着いているのか緊張しているのかがわかるなど、言葉には必ずしも現れない相手の状態を感じ取ることが出来る。
その場で起こるすべてのことが情報となり得る。コーチにはそうしたことに意識の焦点を当てて聴くことが求められる。
意識の焦点をどこに当てるかによって相手に与える影響が変わってくる。
レベル3:全方位的傾聴(環境的傾聴)
全方位的傾聴とは自分の周り360度すべてに意識の焦点を当てる聴き方。目に見えるもの、耳に聞こえるもの、肌で感じられるもの、あるいは感情的なものなどすべての感覚を感じる。言動以外のすべてのことも認識する。
その場の環境的な要因、たとえば部屋の温度や明るさ、あるいは雰囲気、クライアントから発せられるエネルギーなどもすべて認識する。
クライアントが高揚しているのか、沈んでいるのか、落ち着いているのか、固くなっているのかといったことは全方位的傾聴によってすべて認識することができる。
レベル3で聴くためにはゆったりとした気持ちで視野を広く保ち、ほんの小さな刺激にも気を配り、自分とクライアントを取り巻く周りの環境から入ってくるありとあらゆる情報をすべての感覚を総動員して受け取る必要がある。
言葉にされたこともされていないことも含め、その場で起こっているすべてのことに周波数を合わせる。