- Amazon.co.jp ・本 (93ページ)
- / ISBN・EAN: 9784494021147
感想・レビュー・書評
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「月夜のバス」で知った杉みき子さんの作品。
相当古い本で、小口はすっかり色あせており、表紙を開くと〇〇図書館所蔵という角印が現れる。
しかし読み出すと止まらない魅力があふれている。
とにかく文章が巧い。目の前にありありと光景が浮かび、その空気まで伝わってくるようだ。
全15編の短編集で、「冬のおとずれ」から始まって最後の「春のあしおと」まで、どれも長く厳しい冬の間のお話。何度も言うが、本当に文章が巧い。
どの話にも何となく懐かしさを覚えるのは、モノクロの挿絵のせいかもしれない。
あるいは、杉さんの表現に、遠い昔の記憶が呼び覚まされるのろうか。
生まれ育った地は新潟県の高田市というところらしく、杉さんが描くのは郷土文学とも言えるもの。
深い雪に覆われる長い冬の間、人々はどれほどの物語を紡いだことだろう。
ところが、直江津市と合併して上越市という地名が作られ、高田という地名は消失したという。
杉さんの悲哀はどれほどだったか。
こんな風に故郷を思う人の心情に、私は憧れさえ抱く。
それとも、消失したからよけいに懐かしむのだろうか。
不便なことこのうえない、豪雪地帯ゆえに、なおのこと。
「冬のおとずれ」と「ともしび」が心に残る。まるでひとつの美しい映画のようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上越・高田を舞台に綴られる、杉センセイ珠玉の短編集。ありふれた街の風景が、奥行きのある豊かな物語へと変化していきます。同じ景色でも見る人によってこんなにも違うものになるのかと、ひたすらに感動。
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雪国とは無縁の生まれ・育ちなのに、この本に収められた静かな文章を読んでいると「あ。この感覚は知っている」と、わけもなく思ってしまう。懐かしく、慕わしい。
こういうものこそ、いやこういうもの「だけ」が、世界に通用するのだろう。本書を読むのは、「日本人であるということ」を、ゆっくりと噛み締めるようなひとときを過ごすこと。そんなふうに思える一冊。(2018.5.20読了) -
ふとしたきっかけで読んだ、著者の「遠い山脈」という小品がとても印象的で心に静かな清涼感をもたらしてくれたので、もっと他に読みたくなって購入した本。ひとびとの生活に根ざしていて、でも生々しい泥臭さは極力控え目にして、あたたかで優しい、自然と人間の関わりを物語として紡いでくれる…それが、著者の最大の魅力ではないかと思う。
この本は、タイトルの通り、雪深い小さな町や村が舞台となった15の短編からなっている。主人公は、少年だったり少女だったり、老女だったり青年だったりする。それぞれの目線で描かれる、いろいろな「雪」とその雪にまつわる「ひと」のお話。プロローグに記された、「この町は、自分にもっともふさわしい衣装として、冬という季節をえらんだ。」という表現が実にしっくりくる。
いちばん好きなのは、「ゆず」という物語だ。雪の降る夜に、道案内をしてあげた少女におとずれたささやかなプレゼント。ゆずの香りがふわっとページからたちのぼる気がした。あとは、杉の柱に耳を寄せて、山の木々の言葉を伝え聞く「雪の音」という作品も好きだ。夜更けにふっと目が覚めて、しぃんとした廊下に立って、どっしりとした柱に頬と耳をくっつける子どもの姿が目に浮かぶようだ。そして、なぜだかは分からないけれども、その感覚、を、自分も知っているような気がする。きっと、幼い時には自分にもそういうことがあったのではないかと思う、忘れているだけで。
絵本、というほど絵は満載ではないけれど、挿絵も美しい。鉛筆で描かれているので、線の濃淡や太さ細さ、かすれ具合等が、素朴で安心できる仕上がりに。 -
資料番号:020099206
請求記号:Fスギミ -
中の「きまもり」が良かった、きまもりと云う言葉初めて知って感激した。