国境なき医師団は見た: 国際紛争の内実

著者 :
制作 : 国境なき医師団 
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532161453

作品紹介・あらすじ

知られざるPKOの矛盾と限界「平和維持」を旗印にした介入が生み出す新たな悲劇の連鎖。紛争の現場に立って、矛盾に満ちた援助と介入を目撃し続けてきた非政府組織が国際社会の直面する危機的状況を鮮明に描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 賞味期限切れ本、読破。タイトルは国境なき医師団は見たとなっているが、基本的には90年代の紛争と国際機関の関わりについて書かれている。訳者後書きが、日本の常任理事国入りに関する話から始まるのが興味深い。

    内容はかなり辛辣で、各紛争への介入失敗が分析されている。介入することによって当事者化してしまい、軍事活動に巻き込まれて泥沼化したもの、介入することが目的で中途半端な介入をして結果につながったとは言えないもの、現地の人や文化の理解をおろそかにしたピント外れの政策を行使したもの等が例にあがっている。また冷戦崩壊までに、地域紛争への解決手段が米ソの反対にあって実質的に機能していなかった点などの指摘も非常に興味深い。今、中国が台頭してきたことによる足並みの揃わない混乱(ただ揃えばいいと言うものでもないが)を見ていると、いかに国際機関システムが脆弱かがわかるような気がする。

    P.28
    国際社会が直面している危機には三種類ある。すなわち、侵略戦争(クェート)、大規模な人権侵害と少数民族に対する抑圧(ミャンマー)、法と秩序の全面的な崩壊(ソマリア)の三つである。

    P.228
    『蜂の寓話』の中で、ド・マンデビルは、動機は不純でも人びとの役に立つ行動があると述べている。(中略)
    かつてイギリスが奴隷売買の撲滅を口実に、外国船を停止させて臨検する権利があると当然のように主張したのも、つまるところその主な目的は覇権を強化することにあった。それでも、こうした検査は奴隷貿易と奴隷制の終焉を告げるものだったのである。

    P.250(国際紛争の演出の仕方について)
    ①今日、ふつうの出来事を事件に変えるのは言葉ではなく、映像である。ただし、この映像は1日に何度も放映されて、累積的な効果をあげなければならないーーこれが無冠k寧な情報の洪水の中にまぎれてしまわないようにする唯一の手段である。まさしくこの点に、新聞の財源や編集方針がかかわってくる。
    ②他の地域でも発生している紛争に視聴者の目が向かないようにするため、政変は一つの地域だけで発生しなくてはならない。テレビのニュースは、同時に二つの飢餓を放映することができない。ソマリアと同時に放映された旧ユーゴスラビアにおける紛争は、おそらくはその地理上の位置と政治的な意味あいが理由で、このルールにあてはまらない唯一の例外となった。
    ③必ず調停者がーー人道援助期間の職員ボランティアがーーいて、犠牲者が「やらせでないことを証明」し、現場の怒りを伝え、観客と犠牲者が遠く隔られていないながら、分かち合うものをもっていると感じさせなければならない。
    ④情景だけでなく、犠牲者も西側の視聴者にいかにそれらしく見える存在でなければならない。イラクのシーア派はこの目に見えないスクリーニングを通過することができなかった。クェートのパレスチナ人やイラン人も、つらい目にあっているとはいえ、やはりそれらしく見えなかった。

  • 初めて『国境なき医師団』の存在を知り共感した本。国連の平和維持活動の矛盾や限界を鋭く批判していたと記憶。
    1994年刊行(おそらく1996年ごろ購入・読了)

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著者プロフィール

1934-2009年。翻訳家。翻訳グループ・牧人舎を主宰。ウィリアム・マンチェスター『栄光と夢』(全5巻)で第14回日本翻訳出版文化賞を受賞。訳書多数。

「2018年 『戦争の起源』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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