文化的景観: 生活となりわいの物語

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532168292

作品紹介・あらすじ

自然と人間の営みによって生まれた価値を、どう継承・発展させていくか?世界的にも注目集める文化財の新カテゴリーを第一人者が初めて解説。

感想・レビュー・書評

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  • 重要文化的景観に選定された地域を紹介しながら、文化的景観とは何か、大切にしていきたい景観とは何なのかについて述べた本。

    「文化的景観」とは、「その地域の自然条件・立地条件並びに社会的・経済的条件との強い関わりの下で成立した景観」のこと。例として挙げられている富山県五箇山の相倉合掌造り集落は、山間の河岸段丘沿いにあり、今でこそ道路が開通して訪問が比較的容易になったが、その昔は集落外との行き来が困難で、冬は雪に閉ざされる山村であった。この集落は平地が少なく水田を作るのが困難だったため、生糸、和紙、塩硝を主たる生産品とした。屋根裏で養蚕業を行い、自立できない次男坊、三男坊も一緒に暮らせる大家族の住居として、また、建築資材を地元で調達せざるを得なかったという状況下で、まさに生活となりわいを体現する要素として合掌造りの集落が形成されたわけである。
    しかし、交通網の整備や生活の変化により、合掌造りの建物に住みながら建物を維持管理することは困難になっている。

    こういうテーマが難しいな、と思うのが、生活となりわいを体現する「景観」は生活の変化にどの程度対応していくべきか、というジレンマが生じることである。
    集落の外側から訪れる人は素晴らしい景観に感嘆し、ぜひ維持してほしいと思う。学術研究者も同じだろう。しかし、集落の住民にとっては、より便利な生活が集落外で営まれているにもかかわらず、お金と手間をかけてなぜ、何のために維持していかなければいけないのか、と考えてしまうだろう。もちろん集落の景観を誇りに思い、維持していきたいと思う住民もいると思うが、全員が同じ熱量で同じ方向を向くということは不可能なことである。

    この本の著者である金田先生は、このようなジレンマをとうに理解されたうえで、さまざまな文化的景観の調査を行いながら、公的な資産としての景観の意義や、それを維持するための制度設計に取り組んでこられている。
    この本では、日本だけでなく海外の文化的景観とその維持保全のための取り組みも紹介しながら、さまざまな立場の人が少しでも文化的景観を理解できるよう丁寧にわかりやすく解説されている。

    日本は災害が多く、耐用年数が短い木造建物が主流ということもあり、あっという間にこれまでの景観が失われてしまいやすいという特質がある。そんな中でも、誰もが無理なく、心から大切にしたいという思いで景観を守っていく持続可能な仕組みを探っていくしかないのかなあと思う。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:290.13||K
    資料ID:95120549

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著者プロフィール

金田章裕:砺波市立砺波散村地域研究所長、京都大学名誉教授。1946年生まれ。京都大学教授、人間文化研究機構長などを経て、2018年より現職。専門は人文地理学。オーストラリア地域研究や日本古代の地理学研究に従事し、多数の著書を刊行(参考文献参照)。近著に、古文書や絵図、地形などから古代の壮大な土地計画の実態を探究した『古代国家の土地計画:条里プランを読み解く』(吉川弘文館、2017年)がある。

「2019年 『BIOCITY ビオシティ 80号 日本の美しいむら再発見! 水系散居村の歴史と景観』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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