大友二階崩れ

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532171469

作品紹介・あらすじ

2017年12月、第9回日経小説大賞(選考委員:辻原登、髙樹のぶ子、伊集院静)を高い評価で受賞した小説「義と愛と」を改題、作品の舞台となった戦国時代の史実をタイトルにして世に問う本格歴史小説。

本作は戦国時代の有名な武将の戦や権謀術数を巡る物語でもなければ、下克上の物語でもない。主家に仕える重臣たちの内面を通して熾烈な勢力争いを繰り広げる戦国大名家の”生身の人間ドラマ”をあますところなく描ききった点で新しい。大型新人のデビュー作である。

物語は、天文19年(1550年)、九州・豊後(現在の大分県)の戦国大名、大友氏に起こった政変「二階崩れの変」を、時の当主・大友義鑑の腹心、吉弘兄弟を通して描く。
大友家20代当主・義鑑が愛妾の子への世継ぎのため、21歳の長子・義鎮(後にキリシタン大名として名をはせた大友宗麟)を廃嫡せんとし、重臣たちが義鑑派と義鎮派に分裂、熾烈なお家騒動へと発展する。家中での勢力争いに明け暮れる重臣の中で、一途に大友家への「義」を貫いた吉弘鑑理と、その弟で、数奇な運命で出会った姫への「愛」に生きた鑑広を主人公に、激しく移りゆく戦国の世の武将たちの生き様を迫力ある筆致で活写していく。派閥争い、裏切り、暗黙の盟約、論功行賞、誰に仕えるか……それらを「義」と「愛」を貫き、筋を通した兄弟を通して描くことで、現代の組織と人間との関係にも通じる普遍的なドラマに仕上がっている。良質なエンターテイメント作品だが、組織人が読めばビジネス小説の側面も併せ持っているだろう。

感想・レビュー・書評

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  • 大友家のお家騒動〈二階崩れの変〉をきっかけに、窮地に陥っていく吉弘家をえがく。

    第9回日経小説大賞受賞作。

    義を重んじる、兄の吉弘左近鑑理。
    愛を重んじる、弟の吉弘右近鑑広。

    彼らの家族や、軍師・紹兵衛など、信頼と愛情で結ばれた吉弘家のキャラが、魅力的。
    強者になびく表裏比興の者が多い乱世において、彼らのまっすぐさはすがすがしい。

    後半は、その思いにじーんとくる。

    鑑理のかたくなさには、引っかかる。

    保身のために敵将におもねろと言っているのではなく、あくまで、もともと跡継ぎと推していた五郎義鎮の元で、きちんと働くだけのこと。
    しかも五郎義鎮のことは、最後に主君に頼まれたはず。

    家族や家臣を路頭に迷わせるのは、大将として無責任で、改易されてまで通さなければならない義には思えなかった。

  • 二階崩れの変での立ち位置が、思っていたのと違っていたが、大変面白く一気に読破してしまった。

  • 一行目:−左近!左近はおるか?大友家の一大事ぞ!

    歴史に疎いもので、大友二階崩れって有名なんですね。本作も面白かったけど、同一タイトルで別の方の作品もあるようなので読んでみたい。

    投稿時のタイトルが「義と愛と」だったと知って、あぁ本当に改題されて良かったなと。旧題が強烈でなんか全部吹き飛んでしまった。

  • 大友二階崩れとの出会いは遥か昔スーパーファミコンの「信長の野望」シリーズでの事。
    いきなり始まる大友二階崩れで家臣が大名を暗殺した事で大友宗麟が大名を継ぐストーリー。
    プレイする度に見ていたが、そういえば詳しく知らないなと思い赤神諒さんにも興味があり今作を読みました。

    とても人間臭い吉弘兄弟を中心に進むストーリー。
    大友の武将達のキャラクターはインパクトはあって楽しめる部分もあったが、途中からはあまりにも評価されていない大友宗麟や戦が弱い弱いとされる吉弘兄などイメージが違い過ぎる所など少し腑に落ちない感じがした。

    初版サイン本で読了。

    2021/03

  • 「義」と「愛」で乱世を乗り越えることはできるのか?

    大友二階崩れという九州の雄・大友家の内紛を題材に本テーマを描く。最後の吉弘家の改易沙汰にクライマックスを迎えるものの、物語自体に起伏はなく、鑑理と鑑広の人となりの描写がほとんどを占める。義を重んじる武士は大好きだが、鑑理の義は少しずれており、泣き虫で後悔ばかりのこの優男をどうしても好きになれなかった。「義」と「愛」は長い目で見れば「信用」や「同情」を生むものとして必要なものなのだろうが、やはり極論過ぎる感じがして、少しモヤモヤした結末だった。

    ただ、赤神諒氏の書く文章、特に本作の動物や植物の情景描写はとても好きになった。P133「いく枚かの欅の葉が風に散り、音もなく長岩屋川の流れに消えていった」やP171「八面山の緩やかな斜面に咲く薊の棘のような言葉が、鑑理の胸を無遠慮に刺した」など挙げれば限りない。鑑広と楓を表現する「百舌の番」という表現こそが本作の最大の読みどころだろう。

  •  戦国時代の九州を舞台に、大友家の二十代当主である義鑑とその実子である義鎮の間で起こったお家騒動(大友二階崩れ)と、その結果として家臣である吉弘一族が辿ることになった熾烈な運命を描く。親子で殺しあったり、殺した敵の娘と結婚したり、兄弟同士で戦をしたりと、日本人も昔はかなり血なまぐさく、派手に刃物を振り回しながら激しい生き方をしていたのですね。

     さて、このお話の主人公である吉弘左近鑑理は、義を大切にする人間です。しかも鑑理は世渡りが下手で必要以上に義に篤く、馬鹿正直にどこまでも主君に尽くそうとし、そのことが一族にとっての危機を招きます。
     そもそも「義」などというものは武家社会において支配する側が自らの支配を正当化するために作り出した儒教思想のおためごかしに過ぎず、多くの家臣も「義」を誓うことで自らの立場を有利にしようとしているに過ぎない(いわば「義」は世渡りの術と心得ている)のだろうに、鑑理にとっては、その「義」が守るべき価値としていわば目的化してしまっているのです。いわば「義フリーク」ですね。家族への「愛」よりも主君への「義」を重んじるというのは、さながら家庭をかえりみずに仕事に没頭する高度経済成長時代の仕事人間そのもの。やめてもらいたいです。
     唯一救われる点は、鑑理が自らの行為によって招いてしまった結果に対して言い訳をせず、不幸にしてしまった人たちに対して心の底から詫びることです。詫びても死んでしまった人は戻らないのですが。
     そして鑑理のこの「義フリーク」ぶりが、結果的に報われた形で物語は終わります。でも、義をとことん大事にし、最後にそれが報われるっていうのは美談でしょうか? 仮に美談であるとしても、あくまで人間が人間らしく生きられなかった時代でのみ通用する美談ですね。そのこともちゃんとわきまえたうえで、時代に翻弄された戦国武将の過酷な運命の物語として読めば、この小説は大変面白いです。

     それにしても昔の武将は何のために戦ったのでしょうか。支配者になりたい、領土を広げたいという欲求ももちろんあったのだろうけれど、それよりもむしろ、互いが相手のことを自分の敵ではないかと疑心暗鬼になり、ちょっとした相手の動きを敵対行動だと勘違いし、相手を討たなければ自分がやられるかもしれないという不安に駆られ、望みもしない戦に追い込まれていくということが多かったのではないでしょうか。未だに「戦国時代」状態のソマリア辺りではいざ知らず、今日の日本ではさすがにそのような形で内戦が起こることはないでしょう。でも、近隣諸国との関係では、馬鹿げたボタンの掛け違いがエスカレートして争いに発展して行くこのような構図が今も残っているように思われて気懸かりです。

  • ★2019年1月16日読了『大友二階崩れ』赤神諒著 評価A-

    第九回日経小説大賞の受賞作『義と愛と』の改題作品。大分地元の大友氏の歴史を元にした作品である。
    戦国時代1550年(天文19年)に起きた豊後国(今の大分県)戦国大名大友氏の内紛、お家騒動。
    大友氏20代当主の大友義鑑(よしあき)は正室の子、義鎮(よししげ)を嫡男と決めていた。
    しかしそれを廃嫡し、側室奈津の子である三男塩市丸を後継者に据えようとしていた。
    当主大友義鑑(よしあき)は家臣の入田親誠と共謀。
    義鎮(よししげ)派の家臣、小佐井大和守、齋藤長実らを謀殺。
    当主義鑑(よしあき)の狙いを知った義鎮(よししげ)派の家臣津久見美作と田口鑑親らが大友館二階の大友義鑑、側室奈津、塩市丸を襲撃。
    側室奈津、塩市丸、津久見美作と田口鑑親は死亡。その時受けた傷で当主義鑑もその後死亡。
    結局、義鎮(よししげ)が家督を相続した。

    吉弘左近鑑理(あきただ)は大友宗家の家紋「抱き杏葉」の使用を許され、一門衆は同門衆と呼ばれ、その他の家臣の他紋衆とは格段の家格に違いがある。
    大友義鑑(よしあき)の謀議に加わり、兵を動かした疑いをかけられ、まじめで誠実な吉弘左近鑑理(あきただ)は、義鎮(よししげ)派家臣団の中で孤立してしまう。
    また、その後も義鎮(よししげ)に安易に与することなく、前当主の義鑑(よしあき)に義理立てしたために益々家臣団の中での立場が悪化してしまう。

    その鑑理(あきただ)の弟、吉弘右近鑑広(あきひろ)は、豪放磊落で明るい裏のない戦上手の武将。
    妻は、その昔筑後の国で攻め滅ぼした星野弾正実親の娘、楓。
    鑑広(あきひろ)の一目惚れで始まったその恋は、一筋な鑑広(あきひろ)の思いが通じて夫婦となり、生涯愛しぬいた。

    この物語の優れたところは、この愚直に義に生き、主君の命を優先して弟までもみかぎらねばならなかった兄、吉弘左近鑑理(あきただ)。
    対照的に家族を思い、妻を思う弟、吉弘右近鑑広(あきひろ)の生き様の違いを見事に描き出している点である。

    ただ、正直に書くと兄の吉弘鑑理はあまりに義を重んじすぎて、
    頭が硬直化しているとしか思えず、読んでいてイライラさせられた為、評価はA+にできなかった。

    史実かどうかは分らないが、最後鬼と呼ばれた家臣随一の武将、戸次鑑連(べっきあまつら)が、当主から受け取った元吉弘左近鑑理の領地の都甲荘(とごうのしょう)をそのまま彼の一存で 吉弘左近鑑理へ譲り渡すくだりは愚鈍な当主と一部の家臣団への面当てとなる大どんでん返しで痛快である。

    最後に戸次鑑連(べっきあまつら)が、上記領地の譲り渡しに述べたところが、すべてを語っているので書き残しておきたい

    兄弟はある戦いで、主君の命により殿(しんがり)を承った。弟は偽りの降伏をした敵の奇襲によく耐え大軍を迎撃した。小競り合い、小合戦などではなく、手勢のほとんどが討ち死にした激戦であったと聞く。他方、兄は弟の危地を知るや、ただちに救出に向かった。が、途中で主君を弑逆せんとする敵別働隊の奇襲を知った。兄は死を待つ弟を目の前にして、主君を救わんと涙ながらに兵を逆転させた。弟は寡兵で二刻あまりも奮戦したがついに見事な戦死を遂げたという。実に豪胆なるあっぱれな戦い振りではないか。されど主君からは兄弟に対し何の恩賞もなく、功なきを理由に改易されたと聞いた。じゃがわしは、かくも貴き死を知らぬ。わしはその兄弟の生きよう、死に様に痛く胸を打たれた。遺族、家臣らの心中、推して知るべしじゃ。

  • 大分に関わりのある方からの推薦本。「大友二階崩れ」に改題する前の「義と愛と」というタイトルが本書のストレートなテーマです。戦国時代の国東半島周辺を舞台に大友家の家臣の吉弘鑑理・鑑広兄弟を主人公にして、権謀術数渦巻く時代に「義の人」であろうとした兄と「愛の人」であろうとした弟の生き方の葛藤を描いています。でも「義か愛か」ではなく「義と愛と」という書名であることに作者の狙いはあり、それがエンディングに向かって加速度上げて展開していく筆力に巻き込まれた気がします。いま、「愛」は盛んに語られますが、「義」については意識されない時代だからこそ、「義」ある「愛」を訴える本書が現代に訴えるメッセージ持っているのだと思います。それにしても、鑑理の「義」にこだわる不器用さにイライラしてしまう自分もいましたが…

  • もどかしいほどの鑑理の義の貫き方、それが報われない展開にやるせなさを感じたが、最後のどんでん返しにホロっとさせられた。最終章あらためて読み返してしまった。

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著者プロフィール

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。同作品は「新人離れしたデビュー作」として大いに話題となった。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊(しんゆう)の城』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』『空貝(うつせがい) 村上水軍の神姫』『北前船用心棒 赤穂ノ湊 犬侍見参』『立花三将伝』『太陽の門』などがある。

「2022年 『立花三将伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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