- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532171629
作品紹介・あらすじ
デビュー3年で、主に戦国武将が主人公の11作を刊行、歴史小説に新風を吹き込む赤神諒氏が、伊集院静氏の休載期間中に日経朝刊小説欄に急遽抜擢され連載した本作は、赤神氏初の現代小説だ。
5カ月後に幕を開ける第二次世界大戦での枢軸国対連合国の戦いの構図を先取りしたスペイン内戦(1936~39年)が舞台。成立したばかりの共和国政府に対する軍部の叛乱を阻止しようと立ち上がった市民兵とともに銃を取った元米国軍人リックを主人公に、圧倒的に劣勢に立ちながら、徒手空拳で立ち上がった市民ひとりひとりをクローズアップして描くことで、ファシズムとスターリニズムから自由と民主主義を守る戦いと言われるこの「戦争」が本当は何のための戦いだったのかを浮き彫りにする、格差や分断が社会を揺るがす現在の私たちをも照射する作品に仕上がっている。
この重厚な物語にエンタテイメント性を加えるのが、主人公リックの設定である。著者が映画史上不朽の名作である「カサブランカ」の前日譚として着想し、映画でハンフリー・ボガード扮するリック・ブレインが本作の主人公という趣向。映画ではイングリッド・バーグマン扮するイルザ・ランドやほかの登場人物の前日譚としても描き、名ゼリフぞろいの映画へのオマージュとして編み出された、戦渦で恋する男女の洒落た会話にも磨きがかかり、気障なセリフ、スパイスのきいた皮肉も読みどころである。
加えて、新聞では戦渦の恋が終わるところで連載の幕を閉じたが、リックのその後が気になるという声が読者から多く寄せられたが、単行本化にあたり文字通り「カサブランカ」の前日譚として、映画の設定の直前まで時間軸を延ばして物語を進めて大幅に加筆、新聞で読んでいた読者もさらに満足感を得られる内容になっている。
感想・レビュー・書評
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スペイン戦争の時代の話がメイン。アメリカ人義勇兵のリックが魅力的すぎる。
老若男女、いろいろな人物が彼の考え方や生き様、戦術の手腕に惚れるのだけど、戦争によってその関係が続かないものもあり、突然別れが訪れたりもする。その別れの描写が様々で読めば必ず泣くとわかっているのに定期的に読みたくなる。
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日経新聞の新聞小説です。
第二次世界大戦前夜、スペイン内戦(1936~39年)が舞台の物語。。
歴史の流れもよく知らなかったし、映画「カサブランカ」の前日譚との設定だそうだけど、そのカサブランカも観たことがなかったので、著者の意図する読み方は出来なかったけれど、悲惨で不毛な戦争の悲劇はしっかり受け止めました。
主人公が一見不愛想な皮肉屋でありながら弱い者の味方でとても優しく、更に時代がかった気障なお方でモテモテなのですが、ステレオタイプかもしれないけどやっぱりそういう彼はかっこよかったです。 -
赤神さんの新聞連載小説。規定の文字数の中で、前回からを繋ぎ、盛り上げ、次を読みたいと思わせながら終わる。お上手でした!
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太陽の門 赤神諒著 映画「カサブランカ」前日譚
2021/6/12付日本経済新聞 朝刊
映画史に残る名作「カサブランカ」の前日譚(たん)である。映画ではハンフリー・ボガート演じる主人公リック・ブレインが、スペイン内戦に義勇兵として参画した過去が明かされる。スペインでの戦いの軌跡を描くこの小説は、映画でのリックの行動の意味も浮き彫りにする。そしてあのセリフも出てくるのだ。
1936年、独裁者フランコ率いる反乱軍は首都マドリードにひたひたと迫っていた。ドイツなどファシスト勢力の支援で勢いづく彼らに対し、迎え撃つ共和国軍は寄せ集めの素人民兵にすぎず、防戦もままならない。戦争を回避したい米英仏は中立を装う。この国の自由と民主主義は風前の灯(ともしび)だった。
そんな首都の酒場で、キザな皮肉屋のリックは夜ごと酔いつぶれていた。米海兵隊出身のかつての名参謀は苦い経験からもう銃を取らないと決めていたが、ある悲しい出来事をきっかけに、共和国軍の指揮を執ることになる。勝ち目のない戦いの数々。辛くもくぐり抜けた先に得た恋も、その味わいは苦い。
「戦争はいつも、仲間を守ろうとして傷付き、守れなくて傷付く」。自由を守る、という大義にさえ裏切られながら、「仲間」という最後の一線に踏みとどまるリックの述懐がせつない。2020年2~11月の本紙朝刊連載に大幅加筆した。(日本経済新聞出版・2200円) -
微妙
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カサブランカの前日譚としてのスペイン内戦を描いた日経新聞の連載小説の加筆修正版。元が新聞小説なだけあって文体は読みやすい。キザだけで形作られた登場人物たちが小気味良く話を進めてくれる。エンタメ小説とはいえ、歴史的事実に基づいており、このご時世、歴史は繰り返しがちであることや、歴史から学ぶことの重要性を感じさせる。
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スペイン内戦。どんな戦争でも醜悪。しかし、そこに咲いた恋の花は美しい。日経連載中も読んだが、こうして単行本で読むと、そのテンポのよさを堪能した。
古い映画『カサブランカ』へのオマージュとして、編まれたエンタメ小説という。作者名はもちろんペンネーム。本名では、上智大学の環境法の先生。弁護士資格も持つ法律家である。本作の中に法律家としての素養は伺えないが、氏の法律談義も聞いてみたいと思う。 -
日本経済新聞連載時に毎日楽しみに読んだ小説。
有名な映画『カサブランカ』の話とは知らず読んでいました