科学者の楽園をつくった男: 大河内正敏と理化学研究所
- 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2001年5月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
- / ISBN・EAN: 9784532190620
作品紹介・あらすじ
理化学研究所は1917年の設立当初から内紛続きであった。第3代所長大河内正敏の大改革によって、ここは「科学者の自由な楽園」に生まれ変わった。長岡半太郎、寺田寅彦、湯川秀樹、朝永振一郎らの科学者から田中角栄まで、多彩な人間たちが織りなすドラマ。
感想・レビュー・書評
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本としてのデキは、あとがきを拝見すると著者も認識しているようで。これだけの貢献や影響を与えた理研に、未だに類書が無いのは寂しいものです。「ゴジラ」にも出演された河内桃子さんは、華族出身というところまでは存じていたのですが、まさか。ご存じない方は、今基準でも美人と思いますので、確認する価値はあるかと。
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★知られざる理研とその伝説★初出は1983年と随分と古い本。今ではスーパーコンピューターで知られる理化学研究所の戦前戦後の動向を紹介する。大河内正敏という殿様かつ科学者が、多様な分野で自由な研究風土を持つ理研を育て上げ、かつその財源を得るために特許を事業化して理研コンツェルンを築いた。朝永振一郎や湯川秀樹、寺田寅彦など門外漢にも知られる人物を交えエピソードを軸とする書きぶりは、さすが東大薬学部を出て「週刊文春」編集長を務めた科学ジャーナリストの熟練の技。
意外だったのは理研はピストンリングやビタミンA、人造酒などユニークな発明を生みだしたが、世界史を変革するような大発明はないとの指摘だ。確かに「ゆかりの人物」がノーベル賞をいくつも受賞しているが(現在の理事長も野依良治氏)、いずれも理研での研究ではないのが面白い。
戦争という転換期があったにせよ、コンツェルンの企業とともに理研も研究所として行き詰っていく事情はよく分かった。コンツェルン内の資本関係などカネとヒトの細かい分析があるとなお良いが、読み物として考えるとまた別の書籍に依るべきかもしれない。理研発の企業で結局、最も成功したのはリコーだが、それは市村清という営業の天才がもたらしたのは技術を核とする新興財閥としては皮肉としか言いようがない。
そしてまた、今の理研はどうなっているのだろう。 -
大河内正敏だけでなく、理化学研究所にまつわる人たちをいきいきと書きだしている。逸話のチョイスが痒いところに手が届くもので、各人の人となりのイメージを持ちやすくありがたい。
自分が不勉強なのもあるが、発見が多くあり、この本を読んだことでまた知りたい人・読みたい本が増えた。
関連本を読みあさってからまた読み直したい。 -
日本における近代科学がどのように発展してきたか、理研に関わる研究者たちのエピソードを中心に書かれている。それぞれの研究者に個性があって面白い。
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私には理数系の教養が、皆無といっていいほどない。小学生の頃から数学アレルギーに苦しみ、高校に入れば物理・化学を選択することもなかった。そんな人間が、なぜかこのような本を読んでいる。不思議なことである。
本書は、理化学研究所とそこに集った科学者たちの群像を描いたノンフィクションである。その中心となるのが、所長の大河内正敏。彼は「知恵伊豆」と称された松平信綱の末裔、つまり世が世ならお殿様になった人である。若くして「理研の殿様」になった大河内は、研究者に自由な研究の場を提供するとともに、自らも造兵学者として研究に打ち込み、さらには理研コンツェルンと呼ばれる企業団をつくりあげていった。
そんな理研には、大河内の親友であった寺田寅彦をはじめ、湯川秀樹、朝永振一郎といったノーベル賞学者、さらには武見太郎や田中角栄といった人までが関与していた。大河内自体もそうだが、実に多彩(多才)で個性的な面々の生き様が描かれている。さらに、この理研が意外に身近な存在であることに気付かされる。「リケンのワカメスープ」くらいは知っていたが、「リコー」が「理研光学」の略だったとは知らなかった。
しかし、大河内らの奮闘も空しく、未だにこの日本という国は基礎科学への理解が乏しい。一見、役に立たないような研究は役に立たないものとして憚らない。それで「科学立国」出来るのか?そうお考えの方はぜひご一読を。