市場対国家 上: 世界を作り変える歴史的攻防

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532190941

作品紹介・あらすじ

経済・社会の主導権を握るのは、市場なのか、それとも国家か-。大恐慌とケインズ経済学の登場以来、全世界で繰り広げられてきた政府と市場との格闘のドラマを、政治家や経済学者、官僚らの貴重な証言をもとに、ピュリッツァー賞作家が壮大なスケールで描破。

感想・レビュー・書評

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  • 下の読了を待とうと思っていたら先に下をアップしてしまったようです。
    機能不全に陥った英国病のイギリスを救ったサッチャーの黎明期が少し見れて面白い。鉄の女の自伝を読みたくなりました。


    ・親友のひとりが書いている。「実業家をつきうごかしているのはなんなのか、ある時には投資案件で大きな賭けにでるが、ある時には流動性と現金を選好するのはなぜなのか、経済学者は、ほんとうのところ理解できていない。メイナード(ケインズ)はこの点を理解していた。本人が相場をはっていたので、ときには賭をし、ときには流動性を好む実業家の気持ちがわかっていた」。ケインズが語ったように、「事業とは賭の連続」なのだ。

    ・この著書(「雇用、利子、貨幣の一般理論」)で、古典派経済学は間違った想定のもとに組み立てられているとケインズは主張した。需要と供給の均衡によって完全雇用が実現すると想定している。これに対してケインズの見方では、経済はつねに不安定で変動しており、需要と供給が均衡しても完全雇用にならない場合がある。これは、投資が不足し、貯蓄が過剰になるからであり、どちらも不確実性の心理に起因しているという。
    この問題を解決する方法は、みたところ、ごく単純である。民間の投資の不足を公共部門の投資で補い、意識的な財政赤字によってその資金をまかなえばいい。政府が資金を借り入れ、公共事業などに投資する。財政赤字による政府支出で雇用が創出され、購買力が高まる。不況の時期に財政均衡をはかれば、事態は悪くなるだけであり、良くはならない。この主張を裏付けるために、ケインズはさまざまな新しい手法を使った。標準化された国民経済計算(ここから国民総生産の基本概念がみちびきだされた)、総需要の概念、乗数の概念(政府が公共事業に支出した資金を受け取った人たちがそれを使い、さらに新しい職を生みだす)などである。ケインズの分析によって、マクロ経済学の基礎が築かれた。

    ・IEAは二人の経済学者に発言の場を提供した。どちらも、研究所が設立されて間もないころ、サッチャー元首相の言葉を借りれば、IEAが「煉瓦の壁に頭を打ちつけている」ように思えたころ、経済学の主流から外れているとみられていたが、やがてきわめて大きな影響力をもつようになった学者だる。ひとりはフリードリッヒ・フォン・ハイエクであり、自由市場を主張する「オーストリア学派」を代表するイギリスの経済学者だ。ケインズの経済学をごく初期に批判したひとりだが、この時期、ふたたび批判に取り組み、ケインズ主義のマクロ経済学と乗数の世界から、ミクロ経済学の世界、富の創出を実際に担う企業の世界に戻るよう主張していた。もうひとりはシカゴ大学のミルトン・フリードマンであり、IEAはそのマネタリズム理論をイギリスに広める役割を果たした。

    ・そして、サッチャーは付け加えた。「サッチャーの法則を忘れてはいけない。予想外のことが起こる。だから、それに備えておく方がいい」
    サッチャー元首相にとって、「予想外のこと」のひとつとして、イギリスで取り組んだ政策が全世界に影響を与えた点がある。「1918年にある国の蔵相が訪問してきた。『イギリスの政策にはとても興味をもっている。イギリスで成功すれば、他国も追随するだろう』と言った。その点は考えてもいなかった」。結局、他国は、サッチャリズムの影響を認めた場合もあれば、距離をおこうとした場合もあるが、たしかに追随することになった。
    階段をおりるにあたって、サッチャー元首相は最上段で立ち止まり、それまでの議論を振り返っていた。サッチャー革命自体が予想外のことであった。1970年代半ばに、ここまでの変化を予想した者がいただろうか。「サー・キース・ジョセフとわたし、政策研究センター、それに経済問題研究所のハリス卿がはじめたことだ。そう、出発点は考え方、信念だった」。しばらく間をおいて、こう続けた。「そう、信念を出発点にしなければならない。すべては信念からはじまるのだ」

  • 英国の経済専門家による市場中心と国家中心の経済についての歴史書。米国、欧州、アジア、南米、アフリカ等、各地域あるいは国家毎、約100年の経済施策についての歴史を詳しく述べている。特にサッチャー首相による英国経済立て直し施策は勉強になった。
    「朝鮮戦争とそれに伴う軍備拡張が、先進工業国全体で経済成長を刺激する大きな要因になった。その後も、防衛支出は経済成長を支える要因として重要な位置を占めている」p85
    「仏では45~69年までの平均失業率は1.3%であった。独では70年に失業者が事実上いなくなり、失業率がわずか0.5%まで低下している」p86
    「(第二次石油ショック)(米)インフレ率は13.2%に急上昇した」p126
    「(70年代 ハーバート・スタイン)この20年間、政府支出、政府がとりたてる税金、政府の財政赤字、政府による規制、政府が管理する通貨供給量はすべて、増加の一途をたどってきた。そして現在、インフレ率は高く、経済成長率は低く、失業率はこれまでで最も高い。だとすれば、その原因は政府が拡大を続けたことにあり、問題の解決のためには、政府の拡大を逆転させるか、少なくとも止めるべきだと考えるのが極めて自然である」p128
    「当時のネルーはまだ、シルクハットをかぶり、シルクの下着を身につけており、インド人の顔をもつイギリス人だったのだ」p139
    「中南米、アフリカ、南アジア諸国の多くで、一般国民の生活は向上していない。政府主導の開発は、目標に全く届いていない。汚職が横行し、目的が不明確な投資から生まれる無駄が目立つようになった。そして不思議なことに、天然資源が極めて乏しく、原油を輸入に頼るアジアのいくつかの国が、困難を切り抜け、目覚ましい経済成長軌道に乗っているようだった」p179
    「平等のために平等を追求していけば、全員が貧乏になるしかない」p200
    「サッチャーとキース・ジョセフが追求していたのは、合意に基づく政治ではなく、信念に基づく政治である」p204
    「ジョセフは公言できなかったことを公言した。責任を負い、リスクをとり、カネを儲けている人たちは、社会の役に立っているのだと語った」p207
    「(ジョセフ)英国には、大金持ちがもっと必要であり、倒産がもっと必要である」p208
    「(サッチャーがハイエクの『自由の条件』を示し)これが、私の信じる理論だ」p219
    「(サッチャー)ゆりかごから墓場までの「甘やかし」を特徴とする「乳母国家」を捨て、リスクと報酬という「自由企業の文化」の厳しさを取り入れる」p220
    「支持者からみれば不屈の意志、伝統的な価値観の重視、真実を話す勇気だと思える点が、批判者からは傲慢さ、敵対的姿勢、ときには考えにくいほど無神経な性格だとみえる」p226
    「(ブリティッシュ・テレコム)民営化の後に苦情が増えている。民営化以前の古きよき時代には、だれも苦情を言わなかった。苦情を言っても意味がなかったからだ。聞いてくれる人がいなかった」p245
    「(サッチャー)通貨統合の計画が実行されれば、ドイツがヨーロッパ全体に対する覇権を握ることになる」p249
    「サッチャー革命によって国の責任から個人の責任に重点が移り、所得の再配分と平等ではなく、事業意欲、勤労意欲、富の創造が最優先されるようになった」p251
    「まず富を創造しなければ再配分もできない。社会主義は、富の創造前に、再配分からはじめる」p254
    「政府による経済への介入が確立すると、政府は大きくなるばかりで、縮小することができなくなる」p264
    「(欧州)住宅は見違えるほど良くなった。家族は自動車を買い、やがて2台目も買えるようになった。電化製品を買い、テレビを買った。スーパーやデパートで買い物をし、休暇には旅行するようになり、やがて外国に行くようになった。買うものもブランド品になりステータス・シンボルになった。第二次世界大戦が終わったときには夢にも考えられなかったほど、生活の質が高まっているのである」p265
    「アジアの成功は、政府の介入と市場の力のバランスによって実現されたものであり、アジアに特有で、独特である」p333
    「東アジア各国に共通する要因のなかで特に重要な点は、国内経済を成長させる方法として、輸出を増やす方針を明確に選んだことである」p333
    「東アジアの経済成長は、幅広い国民に成果が分配された点が特徴になっており、貧富の格差が縮小して、平等な社会が築かれてきた」p334
    「(日本)信じがたいほどの勤労意欲、めったにないほどの強烈な愛社精神、ナショナリズム、日本の危うい立場についての共通の認識、生活向上への欲求といった価値観があり、さらに、敗戦、戦争直後の苦しみ、占領という屈辱の強烈な記憶があった」p339
    「蒋介石と毛沢東は、現代中国の歴史を形作ってきた好敵手である。毛沢東が最終的に勝利を収めたが、二人が死亡したとき、力関係は全く違って見えた。蒋介石が台湾経済の奇跡を実現し、世界有数の工業国にまで発展させていたのに対して、毛沢東は経済の大混乱をもたらし、大陸中国は経済が悲惨な状況になっていた」p367
    「(80年代に日本を訪問した中国共産党員手記)「ある日曜日、にぎやかな通りを歩いた。行き交う女性は、だれひとりとしておなじ服を着ていなかった」さらに、もっと驚くべきことを書き記している。「われわれに同行した女性は、毎日、違う服を着ていた」」p422
    「(鄧小平)「社会主義計画経済」から「社会主義市場経済」へ」p433

  • 「知の衰退」で。



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    【要約】


    【ノート】

  • 第二次世界大戦後の混迷する世界経済、共産主義対資本主義の冷戦構図。共産主義の壮大な実験はいまのところ失敗に終わったが、ケインズの主張する需給調整の計画経済がベターか、はたまたハイエクやフリードマンが提唱した新自由主義か、市場実験は継続しておりまだ結論は出ていない。

    本書は『国家対市場』という題名になっているものの、描かれる世界は国家が市場とどう向き合うべきかべきかを模索する歴史が概観できる。洋書翻訳の特徴(?)である、話が行ったり来たり主語が錯綜したりする読みにくさはあるのものの、内容は非常によく研究・分析されている。例えば外国からは見えにくい日本の内政についても本質をついている。

    経済改革は旧体制との戦いであり、国家一丸となった目標への戦いであることがよくわかる。

  • 経済学素人な私にも分かりやすい内容で当方感激(T_T)単語を延々覚えた公民の授業は何やったんやと思うよ。この本輪読したほうが100倍役に立つ。大事なのは一つ一つの点やなくて、点と点をつなぐ物語。今の仕組みが、過去の試行錯誤を元に成り立ってるのが理解できた。

    大恐慌の影響で市場の信認が揺らぎ、まだ共産主義の可能性が信じられていた第二次大戦後のアメリカからお話は始まる。国家が経済活動全ての管理を目標とするケインズ政策で戦後の復興は進むものの、国有企業の肥大化、機能不全により1970年代に経済成長が停滞。ケインズに代わり台頭したハイエク、フリードマンの理論により、政府は小さく、基本は市場に任せる方針に変更。その後冷戦終結により国家の重心が政治から経済に移行し、グローバルマネーが世界の市場を席巻するところまでが上巻だす。

  • いわゆる「大きな政府」と「小さな政府」の考え方について、20世紀に世界各国でどう変遷したのかを語り切ってしまう大作。非常に読みごたえがあり面白いが、通読するのはなかなか骨が折れる、が、面白い。経済学(ケインズ、ハイエク、フリードマンetc)、近代史(中南米、アフリカ含む)、政治史(サッチャー革命やEUまでの変遷もわかる)のさわりまで分かっ(たきになれ)ちゃうすぐれものである。
    内容としては考察というより淡々と事実の記載が進んでいくが、やはり歴史とはhi”story”であり、「市場対国家」という軸でとらえ直すと見方も変わってくるなぁ…という印象である。
    上梓されたのは1998年なので、リーマンショックはおろかアジア危機に対する評価も定まっていない頃だが、世界がユーロ危機や中東の紛争にゆれ、国内では東電国有化、消費増税などなどに揺れる昨今、実に示唆にとむ内容になっている。

  • 政治家の加藤紘一が「The Commanding Heights」を自分の教科書と呼んでいるそうで、興味を惹かれたので日本語版を手にとりました。

    内容を一言でいうと、歴史の教科書ですね。1900年代の欧州、米国、アジア各国の政策とそれによる成長が良くまとまっていると思います。自分の頭がこの手の内容になれていないため、読むのにかなり時間がかかりました。
    ただ、ぐっときたフレーズがひとつだけあって、サッチャーの「そう、信念を出発点にしなければならない。すべては信念からはじあるのだ。」がそれなのですが、英国の改革がどれだけ大変だったかが記載された章の最後を締めくくっていたからこそなのだと、レビューを書いていて改めて思いました。

  • 現代史のお勉強

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著者プロフィール

ダニエル・ヤーギン
IHSマークイット副会長
「米国で最も影響力のあるエネルギー問題の専門家」(『ニューヨーク・タイムズ』紙)、「エネルギーとその影響に関する研究の第一人者」(『フォーチュン』誌)と評される。ピューリッツァー賞受賞者。ベストセラー著者。著書に『石油の世紀――支配者たちの興亡』、『探求――エネルギーの世紀』、『砕かれた平和――冷戦の起源(Shattered Peace: The Origins of the Cold War)』、共著に『市場対国家――世界を作り変える歴史的攻防』がある。世界的な情報調査会社、IHSマークイットの副会長を務める。


「2022年 『新しい世界の資源地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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