知財立国が危ない

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532319854

作品紹介・あらすじ

こうして「周回遅れ」になった!日本の競争力が失われる!いま、知的財産保護の現場で何が起きているのか、どうすべきなのか?元特許庁長官と科学ジャーナリストが徹底討議。

感想・レビュー・書評

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  • 知財立国が危ない

  • 知の時代、工業や農業、医療などの知的財産を守るには法的に制度やその制度を運用する人の育成が急務だ。

  • 一読後に思ったことは、知財の仕組みも野口が主張する「40年体制」だということだ。

    先行して知財を創出した企業や個人が権利を独占して、高い対価を得ることは「悪」で
    あり、日本全体の生産を伸ばすには、きわめて安い対価により知財を普及させた方が
    望ましいという思想に基づき、現行の制度ができている。

    この本を読んでそう感じた。

    現行制度はある時期までは良かったが、現在では完全な時代遅れとなってしまったよ
    うだ。

  • 中小ベンチャー企業に「特許庁と弁理士の料金を合わせた格安料金パック制度を導入する」という提言を読んで興ざめしてその後読む気失せた。中小ベンチャー企業の出願がどれだけ手間がかかるか、全くわかってないねこの元役人と元知財専門職大学院教授とやらは。他にも実務からかけ離れた提案が多くて、知財立国のために弁理士、事務所がそこまで犠牲を払わなきゃならないのか?こっちは慈善事業じゃないんだよ、って感じ。弁理士経験のない老人2人の戯言と思って読めばまあ面白いけど。

  • 10年ほど前に「知財立国」という言葉を聞いたことがありました。確か小泉政権の時代に、これからの日本は知的財産権を重要視していくために、法律を始めとして各種制度を充実させていくというものだと記憶しています。

    侵害訴訟裁判を専門に扱えるように、高等裁判所を独立させ、弁理士の業務を拡大してそれに侵害訴訟業務に関われるようになりました。その一環として、それまで特許検索をするのに弁理士事務所を通すため費用がかかっていましたが、特許庁が作成したデータベースを無料で使用できるようになり個人的にはお世話になってきました。

    この本は、知財立国と言われていた当時の特許庁長官を慣例を破って2年も連続務めた、荒井氏とジャーナリストの馬場氏による共著で、知財立国宣言をした国のその後について語った対談本です。

    日本ではどうやら、掛け声に終わってしまった様で、それに影響を受けた韓国や中国にも追い越させてしまったようですね。確かに当時言われていたように、特許は重要で、それを守るために裁判をしてまでも権利化をする、というのは大事だと思います。

    しかし、日本において裁判をするお金と時間、エネルギーをかけて行う価値のあるものかが問われた結果なのかもしれません。

    また、この本では、特許にすべきか、それを行わずに「ノウハウ化」「ブラックボックス化」すべきかについてのコメントもされていて興味深かったです。弁理士の専権事項ではない「著作権」について、もう少し踏み込んでほしかった気持ちはありますが。

    以前廃止されて残念に思っていた「異議申し立て制度」が復活した(p142)こと、米国の特許制度が先願制度になりましたが例外事項(仮出願制度、p142)もある、日本にも秘密特許制度の特例があるなど、この本を通して知ったこともあり良かったです。

    この本を読んで、なぜ日本で和解勧告が多いのかが私なりに理解できました。当分の間、和解が主流になるとも確信しました。非公開(判決は公開される)で、上級審で覆る(覆ったら本人のマイナス評価となる)ことも無いリスクのないものなので。三者(被告、原告、裁判官)皆、丸く収まるという日本的なものなんですね。イイか悪いかは別の議論が必要ですが。

    以下は気になったポイントです。

    ・特許使用料(0.78兆円)の70%は、国内の親会社が海外の子会社からの受取料金も含む以外に、特許の権利として確立されていないノウハウ料も入っている。中国などアジア地域の子会社からの受取が大半(p17)

    ・日本特許の出願件数は多いが、その約9分の1しか特許として実際に使用されていない(p21)

    ・侵害の疑いがある揉め事がおきると、大体はクロスライセンスで収める(p24)

    ・知的財産基本法を作ると、特許法や著作権法を改正しやすくなる、なので制定後に50本以上の法律が新たに制定・改正された(p32)

    ・日本では外国への出願が少ない、アメリカでは51%、EUでは63%が外国へ出願しているが、日本はわずか24%(p38)

    ・2002年と2012年を比較すると、審決取り消し訴訟、第一審の地裁に訴えた事件も72,93%へと減少している。一審への事件も特許関連は20%程度で、他は著作権や商標権に関するもの(p45)

    ・日本国内では、外国企業相手でも代理人は日本人、日本人の代理人同士であれば日本の企業文化に染まっている(p47)

    ・特許侵害を発見した時に裁判を起こす比率は、アメリカでは46%、日本では3%(p48)

    ・2014年上半期のアメリカ連邦地裁の知財訴訟は、2386件あり、日本企業と思われるものは202件(p51)

    ・日本での原告の勝訴率は20%程度、きちんと統計数字が出せないのは、日本は裁判所の勧める和解によって決着することが多いから(p52)

    ・2000.4に出た最高裁の「キルビー特許判決」以降、特許の有効無効を裁判所も判断できるようになった、それまでは特許庁の行政審判のみであった、特許権を侵害したかどうかという審理から、特許が有効かどうかの審理に変わった(p53、54)

    ・日本では100億円の損害賠償を請求する訴訟を起こすと、印紙代はなんと 1600万円。財力のない個人発明家には無理。アメリカは定額350ドル、フランスは無料(p62)

    ・日本の知財裁判では、仮処分をやらない、ドイツの裁判所は仮処分が1日で出ることもある(p63)

    ・判決文は公開されるから後世まで残るが、和解の場合はそうではない。判断が間違っていて上級審でひっくり返されると自身のマイナス点になる。知財訴訟で和解が多いのは、そこに原因があるかも(p64)

    ・日本では知的裁判の実態がわからない、米国ではインターネットに公表されるが、日本ではいつ裁判が開かれるか裁判所にいかないとわからない。傍聴においても、原告被告も「準備書面通り」と言って、3分で終了し、準備書面は非公開、これは秘密裁判である(p7
    5)

    ・米国、韓国、中国では、営業秘密の漏えいは、親告罪ではなく、普通の泥棒と同じ非親告罪、つまり告訴・告発がなくても捜査当局が独自に摘発できる(p86)

    ・日本には秘密特許制度がありませんが、例外もあり。アメリカで秘密特許とされた特許出願は、1956.3に署名した日米協定に基づき、日本でも秘密特許扱いになり、公開されていない(p98)

    ・日本の侵害訴訟は、法学部を出た文系弁護士が活躍する文言勝負であり、技術とは関係ない。負ける原因は、技術ではなく法廷闘争の優劣になる。社員も弁護士も嘘をつくし、公開の場での事実審理がない書面だけの弁論(p117)

    ・知財専門の、せいぜい200人程度と思われる知財弁護士は、皆大企業の仕事をしていて、利益相反になることはできないというのが弁護士倫理の名目で、大企業に対する中小企業の訴訟を受けないのが原因(p118)

    ・2014.3末で特許庁の滞貨件数が19万件まで下がった、2008年に91万件あったので特許庁の大変な努力と、500人の任期付き審査官の成果、年間の審査請求数24万件に対して毎年12万件取り崩しているので、あと2年でゼロになる(p132)

    ・2015年から異議申し立て制度が復活するが、特許無効裁判と裁判所の特許無効判断とのダブルトラック制度は解消されない(p142)

    ・アメリカは1995年に仮出願制度を制定した、これは日本の国内優先制度に似ている、仮出願から1年以内に本出願を行えば、優先日は仮出願の日になり、権利期間は仮出願の日からになる。アメリカは先願主義になったので、この制度の利用が拡大すると言われる(p143)

    ・マイクロソフトが公開したことによれば、2013年だけでサムスンは10億ドルの特許使用料をマイクロソフトへ支払った(158)

    ・特定の発明や技術はブラックボックス化して、ノウハウとして秘匿しなければいけない時代になっている(p164)

    ・出願の3分の2しか審査請求されない、特許になるのは半分、これは出願件数の9分の1、これは出願料や特許年金を徴収する特許庁だけが儲かることになる(p168)

    ・アメリカに渡って研究するためには、アメリカの軍事研究予算を使うのが必要、中村博士はそのためにアメリカ国籍を取得した(p184)

    ・ノーベル賞を受賞した田中博士の特許は、日本に出願されただけなので、彼の方法が普及しても、島津にはロイヤリティ収益はなかった(p193)

    ・2015年にトヨタ自動車が燃電池関連の特許をすべて無償開放するとした、製造業でこのような大がかりなのは初めて。但し、開放は2020年まで、水素生産・供給の水素ステーション関連70件は対象外(p195、197)

    ・トヨタがテスタモーター社と行った電気自動車の提携は、2010.5の発表から4年後の2014.5に、RAV4 EVに関する共同プログラムを年内に終了となった、この直後に電気自動車の特許開放の発表をした(p198)

    ・いちごの「あまおう」は、あかい・まるい・おおきい・うまい、の頭文字を取っている(p239)

    ・iPS細胞は、どの自然法則を利用したのか、自然法則の利用という規定を外して発明の定義を広くしたほうが良い(p260)

    ・1万2000人の学校栄養士を張り付けて、児童・生徒にお昼ごはんを提供しているのは日本のみ、学校栄養士は2005年から栄養教諭に格上げされている(p272)

    2015年3月22日作成

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