日米通貨交渉: 20年目の真実

著者 :
制作 : 鹿島平和研究所 
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532352387

作品紹介・あらすじ

日米円・ドル協議から、プラザ、ルーブル合意、構造協議まで80年代から90年代初頭に繰り広げられた通貨交渉の舞台裏を、当事者の秘録・証言で綴る。

感想・レビュー・書評

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  •  1980年代から90年代にかけて行われた、日米円・ドル委員会からプラザ合意とルーブル合意を経て日米構造協議に至る、日米の通貨外交の舞台裏を当時の記録と証言で綴る。

     タイトルの通り、これは経済というより「交渉」の資料だ。国家対国家、省庁対省庁の交渉であっても、その最前線は人対人の会話によって進められる。また、新聞やテレビで採り上げられるのは主に政治家であるが、実際の交渉の多くは官僚によって行われている。本書は当時明らかにされなかった官僚による交渉がどのように進められていったか、記録を残す意味を込めて書かれている。

     日米通貨交渉が行われていた当時、私は小学生から中学生に至る時期だった。だから政治家の名前はなんとなく覚えているものの、彼らが何をしているのかはまるで理解していなかった。高校生の頃にはバブル経済が起こった。あの頃の日本経済がどういう状況で、誰が何をしていたのか、これを読んでようやく合点が行った気がする。

     日本人は交渉が下手だと言われるが、そもそも自分の主張を強引に押し付けるという行為が日本人の美徳に反するわけで、欧米人との交渉に当たった担当者は本当に苦労しただろう。その上でじわじわと日本の主張を入れさせる駆け引きができていたことは敬服する。しかも、ドル高を是正するために何が有効で何が有効でないかに関する判断は、結局米国より日本の方が正しく読めていたのだ。

     本書の最終章は日米の交渉を振り返ると同時に、現在起きている米中の交渉も分析する。80年代の日米関係の多くが現在の米中関係に重なるが、米国の庇護下にあった日本と核保有国である中国ではおのずと対米姿勢も異なり、それゆえ対策も変化を求められる。G5やG7など先進国の協議で物事を決めれば良かった20年前とは変わり、発展途上国を含めた新しい枠組みの必要性を指摘して本書は締めくくられる。

     今、日本は生産拠点としても市場としても中国に大きく依存しているが、日中間の貿易協議は日米間に比べて圧倒的に不足しているままではないだろうか。対米関係だけを見ていた時代とは大きく情勢が変わっている中で、それに則した戦略や態勢ができているのか、はなはだ心もとない。

     本書を読んで、20年前の官僚や政治家は立派に仕事をしていたんだと感じたが、果たして今はどうなのだろう。それが表に出てくるのはまた20年後かもしれないが、その時に落胆せずに済むことを切に願いたい。

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著者プロフィール

日本経済新聞社編集委員。テレ東WBSキャスター。
81年慶応大学大学院卒。同年日本経済新聞社入社。金融部、チューリヒ支局、経済部編集委員、論説副委員長、米州総局編集委員などを経て現職。2008年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

「2020年 『コロナクライシス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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