食の安全と環境−「気分のエコ」にはだまされない (シリーズ 地球と人間の環境を考える11)

著者 :
  • 日本評論社
4.38
  • (8)
  • (6)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 101
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784535048317

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 気分のエコにだまされないというサブタイトルそのままに、農薬を使わなければ環境を守れるという思い込みはある。しかし、無農薬の栽培や農家の高齢化・人手不足で投入される機械のCO2排出についても敏感でいなくてはならないとわかった。人にとっていいように開発したら、自然には反する部分も大きい。どこかにひずみが出る。全ては繋がっているんだとわかりました。オーガニックは確かに良い。良いけれど良いだけじゃない。なんとなく良いと思って消費している人も多いだろう。オーガニックの問題点もきちんと知らなくては。難しい、答えはきっとない。どこを妥協点にするかが私たちの課題なんだと思う。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「オーガニックの問題点もきちんと」
      それが難しい、、、
      「オーガニックの問題点もきちんと」
      それが難しい、、、
      2014/04/23
  • 帯文:”日本の有機農業は環境にやさしくない!?” ”地産地消、食品リサイクル、BSE、遺伝子組換え、化学肥料、食品添加物…あらゆる食にまつわる定説を見直す、目からウロコの一冊。”

    目次:序章 地産地消は環境にやさしくない?, 1章 農薬は悪なのか?, 2章 化学肥料の大きな影響, 3章 肉の消費と食品廃棄が招く日本の汚染, 4章 食料生産とエネルギー消費, 5章 有機農薬では解決しない, 6章 「食の安全・安心」か「もったいない」か, 7章 遺伝子組換えを拒否できるか, 終章 消費者が変えるべきこと, あとがき, 索引・・・etc

  • 地産地消、農薬、化学肥料、食品リサイクル、エネルギー消費、有機食品、遺伝子組み換え食品といった多岐にわたる視点から食の安全と環境を取り上げている。安全性とエネルギー消費やリサイクルがトレードオフになっている場合があることや、有機農産物の問題点も指摘しており、考えさせられる点が多かった。

    地産地消
    ・小麦は水分含有率が高いとカビが増加する。日本では降水量が多く、収穫した小麦は乾燥させる必要がある。その結果、CO2排出量のLCAは北米産小麦とほぼ同じ。
    ・トマトは雨に打たれると病原菌や虫の被害を受けやすいため、ほとんどが温室栽培かビニール屋根の下での雨よけ栽培。CO2排出量は輸送距離より温室栽培に用いるエネルギー消費の差の方がはるかに大きい。したがって、冬季には地元産のトマトを食べるより、暖かい地域で加温されずに栽培されたトマトの方がCO2排出量は少ない。
    ・日本は火山が多いため、土壌中のカドミウム量が多い。0.4〜1ppmのコメは工業用ノリに、1ppm以上のコメは焼却処分されている。

    農薬
    ・殺虫剤DDTはカーソンによって生物濃縮が指摘されて、パラチオンは散布時の中毒事故が多発したため、除草剤PCPは魚毒性が強かったため、イネのいもち病に用いられた有機水銀剤は水俣病を受けて、それぞれ禁止された。その後、植物特有の代謝系に作用する除草剤や、虫の脱皮や変態に作用する農薬といった、人や他の動物などへの毒性が低い農薬の開発が進んだ。
    ・有機リン系農薬は人の健康への影響が大きかったため、ネオニコチノイド系農薬へ切り替えられたが、ミツバチへの影響が問題になっている。
    ・WHOは2006年にマラリア予防のためにDDTを一部の地域で使用することを奨励した。DDTが禁止されてからマラリア患者は急増した一方で、DDTの発がん性や神経系・内分泌系への毒性について確たる証拠が得られていない。

    食品リサイクル
    ・畜産は北海道や南日本などに集中しているため、偏在して発生する糞尿は利用されずに放置されている。

    エネルギー消費
    ・エネルギー消費量に対する農業総生産指数は、日本は先進国の中でワースト3位(アメリカの5分の1)。ビニールハウスの冷暖房、高齢化や人件費が高いために機械への依存度が高いことが主な要因。
    ・温室効果ガス排出量の13.5%は農業由来。

    有機食品
    ・ロンドン大学の研究者が50年間に発表された162本の論文をレビューした結果、有機食品と化学肥料で育てた食品との栄養価の大きな差はなかった。
    ・有機農産物は化学肥料で作られたものよりも大腸菌の感染割合が6倍高い。
    ・有機農業では土壌が大きく改善され、生物多様性が高まる利点があるが、有機物の投入によって水が富栄養化したり、土壌から亜酸化窒素を排出するほか、収量が低いためより多くの農地を必要とするデメリットが指摘されている。
    ・アイガモ農法では、アイガモへの寄生虫や、大腸菌などによる水質の汚染が高くなることが指摘されている。

    安全性
    ・化学物質の毒性は、実験動物で得られた無毒性量に安全係数(通常は100分の1)を掛けた値が一日摂取許容量(ADI)として決められる。

    遺伝子組み換え食品
    ・世界の全作付面積における組み換え品種の割合は、大豆70%、ワタ46%、トウモロコシ24%、ナタネ20%。米国では、トウモロコシ80%、大豆92%。

  • 498.54-マツ 300112398

  • 請求記号・498.5/Ma 資料ID・100054653

  • 切り口が新鮮で面白いので、以下の点についても考えを知りたいと思った

    ・農業と教育の関連性
     子どもが学校教育の中で栽培や生産者との交流など、農的暮らしを体験することには意義があるとの考えがあるが、
    1)子どもが体験する農業はどのような農業であるべきか
    2)選択眼を持つ消費者として育つために、どのような体験が望ましいか

    ・「はたらき」「ライフスタイル」としての農業をどう捉えるか
     「顔の見える関係」により生じる人との関わりに価値を感じ、労働を時間の切り売りではなく生きることそのものと考え、そのような生き方ができる働き方として有機農業を指向する人がいる。また、そのような人が作る社会的ネットワークが、人によい場面や場所をもたらしていることが考えられる。

    このような、社会のつながりや非経済効果(これらこそが筆者のいう「気分」に近いものかもしれないけど)を、筆者がどのように捉えているのか、更に考えを知ることができたらと思った。

  •  表面的な報道によって,食に関する誤解が広まっている。地産地消,農薬,化学肥料,肉食・食品廃棄,農業のエネルギー消費,有機農業,遺伝子組換…。多くの話題について誤解を正す良書。
    「フードマイル」なんて言葉が流行って地産地消がもてはやされるが,実は輸送の形態や燃料効率で一概に論じられない。1トンの貨物を1キロ運ぶのに,飛行機5291kcal,トラック699kcal,鉄道116kcal,内航貨物船67kcal,外航コンテナ船23kcalとさまざま。
     有機栽培は合成化学物質の避けて環境負荷が低そうだが,害虫ネットやビニール等の資材はより多く使用する。重量の重い堆肥を運搬するにも化石燃料が多くいる。国産小麦(北海道)も,北米産より水分含有量が多く,乾燥に燃料が必要で,トータルのCO2排出量は変らなかったりする。
     一面的な報道が醸し出す一般消費者の持つイメージは,虚像に彩られてる。農薬も嫌われ者で無農薬栽培が好意的に報じられるが,それにかかる労力は並大抵でない。自然を礼賛しても,そもそも農業は不自然なもの。一万年の歴史で毒などのサバイバルツールを人為的に除去して作物を作ってきた。農地は,おいしくて弱い餌が広々とした土地に並んでいる状態。農薬のおかげで,極めて効率的に農業ができるようになった。昔の農薬は食糧増産を目的に比較的毒性の高いものが使われたが,近年の農薬は格段に改良された。科学的でない減農薬は無登録農薬資材など別のリスクをもたらす場合も。
     食べ残しなどを堆肥にしようという食品リサイクル。現場からは「畑をごみ捨て場にするな」という声が。塩分濃度が高く,品質も安定しない食品廃棄物は堆肥として適切に使用できないケースが多い。まず考えるべきは,廃棄量の削減であり,リサイクルされるからと安易に捨て続けるのはまずい。
     農薬の削減によって,機械除草を余儀なくされ,燃料によるエネルギー消費が増大している。環境とのトレードオフは報じられない。農薬,化学肥料,遺伝子組換,抗生物質などを頭から否定する有機農業の姿勢はまったく科学的でない。生産者も知っているが消費者の選好には逆らえない…。
     BSE騒ぎでは,「それ見たことか,共食いをさせるなんて,そんなことが起きて当然だ」等と言われた。しかしそれは後付けでしかない。「自然の摂理に反する」等と感情面から考えるのでは本質を見誤る。そもそも農業自体が自然の摂理に反しているのだし,もっと現実的・科学的な眼が必要。
     遺伝子組換作物に対する忌避感から,日本では栽培がされていないが,食用油や飼料の形で,遺伝子組換食品は日本の食卓にも上っている。安全性が確認されてないとか言われるが,通常の作物の方がよほど確認されてない。通常作物に組換作物のような厳密な試験が課されているわけでもない。
     組換作物反対派は,よく「巨大企業にしか開発できず,作物が一部の企業に牛耳られる」と指弾するが,反対のせいで多くの安全性試験が課され,体力のある巨大企業にしか扱えなくなっているのが実情。まさにマッチポンプだな…。「不自然だから何か起きるかも」というのは根拠がない。組換作物開発企業は,反対感情の強い日本にすぐに種子を売ろうとは考えていない。市場も小さいし。困難なリスクコミュニケーションをするメリットはない。それにも関わらず,自治体等では規制を始めており,研究さえできない状態に陥っている。
     結局のところ,原発問題と同じで,食の問題も一面的な報道・素朴な感情論が,人々の目を曇らせているのだな…。著者などが何年も前から口を酸っぱくして言ってきているのに,望ましい状態に近付いているとはあまり言えない。これは長丁場になりそうだ…。

  • 食の安全と環境でなされている”多くの誤解”が「何事も自然であることが一番」という言葉がみんなに無意識のうちにすり込まれているせいではないか、と言う。

    ・遺伝子組み換えはNOだ!
    ・有機栽培はYESだ!
    ・化学肥料はNOだ!
    ・添加物はNOだ!

    と。でも著者は言う。

    そもそも”農業”自体が不自然な産業なのに何を言っているのか、と。

    (全文は、こちら↓)
    http://ryosuke-katsumata.blogspot.com/2010/10/blog-post.html

  • 二週間くらい前にあった研究室の教授主催のシンポジウムのパネルディスカッションをしきってた方の最新刊です。実は研究室の大先輩だったりします。

    研究室の先輩ってことは学んできた学問背景は時代は違えどもほぼ同じはずで、というわけで私にとっての新知識はあまりなかったです。なので星三つです。

    著者がアピールしていたのは、おそらく以下の二点。
    1.LCA=LifeCycleAssessment(ライフサイクル全体を見て評価すること。例えば直売所で自然に近い状態で野菜を買うのがエコだと言っても、実際には都市から農村に車を乗り付けて買っていてはCO2の排出量的にもひどくムダであったりすること)の視点が世間にまだまだ一般的でない、広めたい。
    2.リスクを低減することは他分野のリスクを上昇させる、すなわちトレードオフの関係があることをもっと世間は認識すべき(減農薬すればカビ毒が増えて健康被害が出る、など)

    ですが、この分野(農業、食品安全、環境)のことをあまり知らない人が読んだら目からうろこが落ちるのではと思います。入門書として適した一冊かと。

全10件中 1 - 10件を表示

松永和紀の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×