新版 インドの生命科学 アーユルヴェーダ

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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784540121548

作品紹介・あらすじ

アーユルヴェーダは、ヨーガ、アロマテラピー、オイルマッサージ、ハーブなどの健康法の源として注目されるだけでなく、自然と人間を貫くエネルギーの生命科学としても関心が高まっている。そのアーユルヴェーダの決定版として定評の旧版を、よりわかりやすく整理して、実践的な身体技法もより豊富に盛り込み、改訂新版として世に問う。日本の四季に合わせた食事法、1日の生活メニュー、薬草一覧なども追加した待望の書。

感想・レビュー・書評

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    上馬塲和夫
    昭和53年、広島大学医学部医学科卒業。現在、帝京平成大学ヒューマンケア学部教授。医師、医学博士。その他、帝京大学付属池袋クリニック院長、ハタイクリニック東洋医学外来担当医、医療法人ホスピィー浦田クリニック東洋医学外来担当医などを兼務

    西川眞知子
    横浜市生まれ。上智大学外国語学部英語学科を経て、佛教大学卒業。第24代ミス横浜。現在、日本ナチュラルヒーリングセンター代表

    アーユルヴェーダ(「アーユス」と「ヴェーダ」が結合した言葉)は、約5000年前にインドで発祥しました。「アーユス」は生命や寿命、「ヴェーダ」は真理や科学などの意味を持つことから、「生命科学」と訳されています。

    また、幸福とは「なる」ものでなく「(幸福であることに)気づく」ものだというのも、アーユルヴェーダの考え方です。幸福とは、外部から何かを加える(たとえば、物質を得たり治療を施したりする)ことによって到達するのではなく、すでに持っているものに気づき、整えることだと考えているのです。  それは、遠くを探し求めても見つからない幸福の青い鳥が、実は自分の家の鳥かごの中にいたというストーリーに似ています。私たちはこの二十余年の研究によって、自分の内側にある幸福への気づきこそがアーユルヴェーダが目指すものであると確信するようになってきました。

    アーユルヴェーダは、古くから伝承されてきた理論と方法に基づいて自分の性質を知り、エネルギーのバランスを整える方法を示しています。健康・幸福な心身への回帰を促すことで、「健康長寿」ならぬ「健幸長寿」を実現させてくれる生命の科学なのです。  アーユルヴェーダは生命の科学であり、「病院で行なわれる医療」「家庭の養生法」という2つの側面を持っています。

    本場インドにはもちろん日本にも、現代医学が発達した今も、アーユルヴェーダの診療を受けられる病院があります。インドでは、風邪にかかった場合には約 80%もの人がアーユルヴェーダのケアを受けると言われていますし、各家庭にはスパイスボックスがあり、家族が不調を訴えれば母親がホームドクターとして薬を作ります。台所はまるで薬局のような存在なので、「キッチンファーマシー」と呼ばれています。

    各国に伝わる民間療法のなかには理論的な根拠に乏しいものも少なくありません。しかしアーユルヴェーダは、独自の身体観や疾病観に従って体系化され、長年にわたって継承されてきました。独自の用語が多く、一見難しそうにも思えますが、その原理は「生命の法則」に則った極めてシンプルなものです。〝知識〟として覚えるものというよりも、本来は万人さらにはすべての生物の〝内なる智恵〟として、もともと持っているはずのものなのです。

    このように、同じトラブルに対しても、その反応は人さまざまで、個性がみられます。しかし現代医学では、こうした個性について言及することはあまりありません。それは、現代医学が個人を無視した一面的な観点で、集団のための医学として発達してきたためかもしれません。  アーユルヴェーダは、一人ひとりの個性を見据えたうえで、健康で幸福に生活する「健幸長寿」のための智恵を伝えています。現代医学ではカバーできない個性のフィールドまでも包含し、自分にあった生き方の智恵を学ぶことができるのです。

    その世界観は、 量子力学 の理論と少し似ています。量子力学では、あらゆる物質は素粒子の集合体であると考えられています。目に見える物質を細分化していくと原子核や電子から成る原子になり、さらに細分化していくと陽子や中性子になる。そこからさらに細分化していけば、クオークや電子といった素粒子になる。つまり、物質の最小単位は、素粒子であるという考え方をしています。「目に見える物質」の構成要素は「目に見えない物質」であると捉えているのです。  さらに量子力学では、あらゆる物質のおおもとである素粒子を、波動としても捉えています。波動であるということは、固定されることなくダイナミックに揺れ動く存在だということです。その波が、重なりあって変化したり、打ち消されたりしながら、常に変化を続けている。つまり、物質を構成する目に見えないほどに微細な存在が、常に定まることなく揺らぎ続け、物質に影響を与えているというわけです。  こうした、量子力学における素粒子の考え方と、アーユルヴェーダにおける元素の考え方には、部分的に共通するところがあります。  アーユルヴェーダにおける元素は、素粒子と同じように目に見えるものではありません。そのため、実体を体感することは難しいのですが、確かに存在していて物質そのものに影響を与えています。

    ちなみに、日本人のプラクリティをみるとカパの割合が高いのが特徴的です。これは、日本が周囲を海に囲まれた島国ゆえに湿度が高く、地と水のエネルギーの影響を強く受けることになったためと考えられます。それゆえ日本人には、カパの特徴である安定性や忍耐強さなどがあらわれた性格が多く見られます。  ただし、現代日本においては、地面がアスファルトに覆われて地のエネルギーが少ない環境となり、また、多忙すぎる生活習慣の影響もあって、風のエネルギーが増えすぎるという傾向があります。そのため、プラクリティはカパであっても、ヴィクリティはヴァータとなるケースも多く見られるのです。

     ヴィクリティを知るうで、脈は大きなヒントになります、特に早朝の空腹時の脈には、その人の健康状態があらわれると言われています。   男性は太陽のエネルギー側である右手、女性は月のエネルギー側である左手 の手首の脈を診ましょう。診断するほうの手のひらを上に向け、逆の手で手首を下から支えるようにします。 橈骨 茎 状 突起 の内側に 人差し指・中指・薬指 の先端を軽く当ててください。人差し指に一番強い脈動を感じるようなら、ヴァータが増加しています。中指であればピッタ、薬指であればカパが増加しています。  さらに、脈の性質も診てみましょう。ヘビのようにクニュクニュと水平移動するスピーディーな脈は、ヴァータの脈です。これは人差し指に感じるはずの脈動ですが、ほかの指でもこの動きを感じるときは、ヴァータの増大が考えられます。  カエルがピョンピョンと跳ねているような鋭くて速い脈は、中指に触れるべきピッタの脈です。この動きが人差し指と薬指にも感じられるときは、ピッタが増加していると考えられます。  ゆっくりと首を持ち上げる白鳥のように、重さを感じさせる遅い脈は薬指に触れるべきカパの脈です。この動きを人差し指と中指にも感じるときは、カパの増加を示しています。

    ヴァータ体質 ── 機敏で活発、ときに気まぐれ  ヴァータ体質の特徴は、軽さや冷たさ、動性が強くあらわれることです。風のように軽やかに行動する力や、型にはまらない柔軟さを持ち合わせています。体格はやせ気味で、皮膚は冷たく乾燥ぎみ。髪もパサパサしていることが多いでしょう。目が小さく鷲鼻で歯並びが悪いことが多いようです。筋肉質ではないため、血管や靱帯が浮き出て見えることがあります。  ヴァータのバランスが崩れると、冷たさや乾燥といった性質が助長されるため、手足が乾燥して冷たくなったり、ガスがたまりやすくなったりします。 緊張性頭痛 や腰痛などの体の痛みも起こり、不眠にも陥りやすいでしょう。循環器疾患や脳・血管疾患(狭心症や心筋梗塞、脳卒中)、神経系疾患などにかかりやすい傾向もあります。  心の面では、ヴァータのバランスがとれているときには活発さや敏捷さが際立ち、頑張りがききます。新しい物や変化を好み順応性が高く、早口な人が多いのも特徴です。想像力が豊かで理解力がよく、記憶力にも優れています。  ただし、トリグナのひとつであるラジャスが増加するなどして、ヴァータのバランスが崩れると不安感が強くなり、気分が変動しやすくなることもあります。衝動的になる、集中力が落ちる、緊張しやすくなる、忘れっぽくなるなどのマイナス面があらわれやすくなります。恐れの気持ちが出やすくなって心配症になり、空虚感を伴った抑欝症状が見られることもあります。率先して行動することが多いものの、信念が変わりやすくて長続きしなかったり、住所や仕事をすぐに変えたり浪費をしたりする傾向もあります。

    カパ体質 ── 穏やかで寛大、ときに大雑把   カパ体質の心身の特徴 は、安定と重さ、滑らかさです。大地のようにどっしりと構えた、安定感が持ち味です。  体格はがっしりとしており、体力や持久力に優れています。色白な肌は冷たくてしっとりとなめらか。体臭は強くありません。大きな目と長いまつ毛、黒くて艶がある髪が特徴です。歯は大きく、歯並びが整っています。  しかし、カパのエネルギーがバランスを崩すとだるさや眠気が起こります。口内が甘ったるくなったり、痰が増加したりすることもあります。太りやすくなるのも特徴的です。また、アレルギー性鼻炎や鼻水・鼻づまりに悩まされ、気管支炎や喘息など気管支疾患にかかりやすくなります。湿気に弱いため、関節のトラブルを起こしやすいでしょう。  心の面では、バランスがとれているときには慈愛深く献身的で、穏やかさと寛大さに溢れています。情にもろく、波風が立たないことを好む傾向もあります。心がゆったりと落ち着いており、辛抱強く着実に物事をやり遂げることができます。物覚えがよくはないもののいったん覚えると忘れにくく、物事をやりとおすタイプです。なにごとも蓄積するという性質を備えているので、お金などを貯めるのが上手です。  ただし、タマスやラジャスが増えてカパがアンバランスになると、物事へのこだわりが強くなり、執念深くなります。思考が鈍くなって大雑把になり、活動する意欲がなくなって抑欝症状になることもあります。愛欲に溺れたり、独善的な面や保守的な面が出てしまうこともあります。

    ヴァータ・カパ体質  ヴァータとカパの双方に共通する「冷性」という性質が際立つため、体も心も冷たさに弱いという傾向があります。体格は、背が高いか低身長で細めです。冷え症や便秘、鼻炎、気管支炎などに悩まされやすい体質です。カパの特質である頑強さや慈愛深さを備えていますが、カパとヴァータの質が相反するため、分裂した精神状態になりやすいのも特徴です。ものごとを十分に調べたり検討したりせず、いきなり結論を出しがちです。

    アーユルヴェーダでは、〝自然界にあるすべてのものは「地」「水」「火」「風」「空」の5つの元素(エネルギー)で構成されると考える〟ということは、第1章で述べました。

    アグニとオージャスの語源 アグニとは、火の意味を持つサンスクリット語。オージャスとは、活力素のこと。心臓に蓄えられ、色はわずかに黄色いと言われている。アーマの「ア」は否定語で「マ」は熟すの意。したがってアーマとは、熟していないものという意味となる。 未病 半健康・半病気状態、あるいは健康と病気の中間という概念。中国の後漢時代の医学書『 黄帝内経』に「未病の時期に治すのが聖人(名医)」との記述がある。江戸時代の貝原益軒による『養生訓』にも「病が未だ起こらない状態で養生が必要だが、そのまま放置しておけば大病になる」と書かれている。 日本未病システム学会によると、未病には西洋医学的未病と東洋医学的未病があるとされる。前者は、自覚症状はないが検査で異常が確認された状態。後者は、自覚症状はあるが検査で異常がない状態のこと。 酵素 生体内におけるあらゆる生化学反応(消化・吸収・分布・代謝・排泄など)に対し、触媒として機能する。多くの酵素は、生体内で作り出されるタンパク質を基にして構成されている。 マラ 大便、小便、汗、爪、頭髪、体毛などを指す。アーユルヴェーダで頭髪は「マジャマラ」と呼ばれており、中国に伝わる「髪は血餘なり」という考え方とも通じる。頭髪を健康にしたいならマラの生成を順調にする必要があり、アーマを溜めないライフスタイルを実践するとよい。 プラーナ 気のことであり、ヴァータの5つのサブドーシャのひとつとも考えられる。 痔ろうの手術 スヌヒーを使ったクシャラスートラと呼ばれる手術がある。お釈迦さまは、主治医であるジーヴァカからこの手術を受けたとされている。 満月 プールナチャンドラと呼ばれている。プールナは完全な、満ちたなどの意味。

    インドに伝わる医学書である『チャラカ・サンヒター』には、医学校を卒業するときに教官から「薬にならないものを持ってきなさい」という卒業試験が出され、何も持ってこなかったことが正解とされたというエピソードが紹介されています。 「すべてのものに意味がある」という考え方は、アーユルヴェーダの根底にある原理です。まさにその原理が時代を超えて近年、証明されはじめています。現代医学においても、ウジムシや尿や便といった一見すると活用できそうにないものまでもが治療に生かせるということが、認められるようになってきたのです。

    ● 額にオイルを垂らすシローダーラー  アビヤンガの後には、静かな環境で 20 ~ 50 分ほどシローダーラーを行ないます。  シローダーラーとは、 37 ~ 40 ℃程度に温めたゴマ油や薬用オイル、ときには薬草の煎じ液や牛乳などを 20 ~ 50 分間程度、額や頭部に垂らす施術(「ダーラーカルマ」とも呼ばれている)です。  その後、スウェーダナ(発汗法)として、 20 分ほどの薬草蒸気浴を行ないます。これは、頭以外の全身をドーム状のサウナで温めることで体内のスロータス(通路)を開放させ、オイルに溶けだした過剰なドーシャをスロータスを通じて流すことで、皮膚や消化管の中に分泌させる効果があると言われています。  現代医学的に正確な機序は不明ですが、蒸気浴によってヒートショックプロテイン(HSP)などが生成され、それが細胞内外で毒素を融解させ、胃腸管の中に排出されることと通じていると推定されます。  こうした油剤法(アビヤンガやシローダーラー)や、スウェーダナなどの発汗法は、静寂のもとで行なわれます。そのため、心地よく行なうと施術中は瞑想状態になり、深い静寂を体験することができます。それにより、心身ともに浄化することができると思われます。また油剤法は古典的には、その後の中心処置(浣腸法や瀉血法など負担の強いものもある)によって起こりがちな体内のヴァータの乱れを防ぐ効果があるとも言われています。

    まず、過剰なヴァータを排出するバスティ(浣腸法)です。大腸から肛門を通じてヴァータを排出します。バスティには、ゴマ油と少量の岩塩からなる液を 20 ~ 60 程度浣腸するアヌヴァーサナ・バスティと、薬草の煎液・蜂蜜・岩塩・ゴマ油・薬草の粉などを300~900 ほど浣腸するニルーハ・バスティがあります。

    また、純粋な静寂は、時間と空間のない体験(timeless, spaceless)です。時間がどれだけ経ったのか、自分はどこにいるのかを忘れてしまうこともあります。これは意識が変容した「変性意識状態ASC:Altered State of consciousness」とよばれる体験です。ASCは、瞑想に限らず、たとえば無我夢中で趣味を楽しむことなどによっても体験することができます。好きなことに没頭すると時間を忘れてしまいますが、このときはマインドフルネスの状態になっており、ストレスが解消されるということが分かってきました。さらに、脳内の海馬組織も活性化されるということが推定されています。

    無判断に徹する時をもつ(マインドフルネス)  判断とは、物事の良し悪しを評価することです。私たちは日常生活において、自分の価値観において判断をしています。評価・分類・分析などを行なうとき心の中には乱れが起こり、想念と想念のギャップが狭まります。  そこで判断をやめると、心を静寂にすることができます。こだわりのない広い心を保てるようになるのです。まずは、「今日はすべての出来事を判断しない」という言葉から1日をはじめてみましょう。そして、何事も判断しないよう注意し、無判断の時間を徐々に長くしています。

    休息をとって自然に触れる  山や海などの自然と触れる機会が不足すると、ラジャスやタマスが増大します。特に山の緑は、心を鎮めてサットヴァを増やしてくれます。いきりたったり焦ったり、自信をなくしたりしてしまった心が、純粋性を取り戻す助けとなることでしょう。また、自然の中で数日間ほど規則正しい生活を送れば、休息がとれて体内リズムの狂いを戻すことができるはずです。  自然の中では、すべての生き物の内なる知性を、ただ黙って目撃してみましょう。

    激辛食品はラジャスを増やします。レトルト食品も、タマスやラジャスを高める食品の代表だと言われています。

    このようなストレス反応に強くなるためには、体の負担に対する消化力(ボディリ・アグニ)のほか、心の体験に対する消化力(メンタル・アグニ)が重要になります。この消化力が、ストレス解消能力となるのです。この力を高めるには、純粋な静寂を体験することがもっとも有効です。近年になってマインドフルネスが注目されるようになりましたが、マインドフルネスはまさに、無判断で今を受け入れて純粋な静寂を体験するものです。そのことによるストレスの効果が実感されているということでしょう。

    また、アーユルヴェーダに菜食主義のイメージを持ち、玄米菜食をすれば万病が治ると考えている人も多くいます。しかし、アーユルヴェーダの古典にはそのような説明はありません。『チャラカ・サンヒター』では、体質や疾病に応じてさまざまな動物の肉がすすめられています。

    特に、カパ性疾患(癌などはカパ性疾患の代表)の場合、糖質制限が必要なことがあります。ただし、ヴァータ体質の人が極端な糖質制限を継続すると、筋肉が落ちて痩せすぎたり、便通や睡眠の質が悪くなるという危険性もあります。あくまでも、個々の体質を見極めながら行ないましょう。

    眼精疲労  ヴァータやピッタの乱れが原因だと考えられますが、西洋医学的には、緑内障や屈折異常、全身疾患の可能性もあります。眼科で諸検査を受けることをおすすめします。そのうえで、単なる眼精疲労であった場合は、アーユルヴェーダ的な治療をされるとよいでしょう。  ドライアイは、ヴァータの乾燥性とピッタの刺激性が強まることによる症状です。しかし眼科では、単にヒアルロン酸製剤や月経食塩水の点眼をすすめるのみという場合があります。そのときは、アーユルヴェーダ的なケアが効果的でしょう。

    しかし敏感とはいえ小児期は、「熱い鉄」のような時期ですから、鍛えることも必要です。インドの諺では「3歳までは神のように、 16 歳では召使いのように、その後は友だちのように育てなさい」と言われています。

    白檀 サンダルウッドとも呼ばれる。香りには深いリラックス効果があることから、古代から宗教的な儀式や瞑想などのときにも使われてきた。日本では古来から、枕の下に敷く 聞香 療法 が行なわれてきた。これによって、頭痛などの体調不良を睡眠中に緩和できると言われています。

    たとえば激辛食品は、ラジャスを高めるため人を攻撃的にさせます。保存食品やレトルト食品はタマスを増やすため怠惰になり、やる気がなくなります。怠惰な人がラジャスを増やす食物をとると、元気になります。

    ただし、日本の夏は高温多湿であり水のエネルギーが多い時期であるとも捉えることができます。夏になると消化力が低下しがちですが、それは、水のエネルギーが増すことにより火のエネルギーが減り、アグニ(消化の火)の力が落ちるためだと考えることができます。

    ギーはアグニを燃えたたせ、食物の味をよくし、食欲増進剤となります。消化液の分泌を促して消化を助けるのです。温かい牛乳と一緒に夜にとると、便秘(特にヴァータ性)を改善するとされます。  慢性の発熱、貧血、血液の異常を軽快させ、解毒薬としても使われます。他の油のようにコレステロールを上げることがないといわれています。目、鼻、皮膚によいので、傷口の治癒を促したり、消化性潰瘍や大腸炎にも効果をもつと言われています。

    ゴマ油によるうがい  歯磨きと舌の浄化がすめば、一度加熱したゴマサラダ油によるうがいか、ゴマサラダ油による歯ぐきのマッサージをしましょう。  ゴマ油には種々の抗酸化作用成分が含まれており、抗菌活性についても報告されています。ゴマ油により口の中の雑菌が少なくなるうえ、歯茎をマッサージすることで血流が促され、歯槽膿漏予防にもなります。近年の研究により、歯槽膿漏菌が全身の血流に入り込むと動脈硬化が促進されるということが明らかになってきました。そのことからも、ゴマ油による歯茎のマッサージは意義があると考えられます。

     また、タバコを吸う人は「目覚めの1本がおいしい」といいます。これは、タバコがカパを減らすからでしょう。起きたときのタバコやコーヒーは、あなたの体が自然と行なっていたバランスを整えようとする習慣です。  しかし、タバコ、コーヒーともに、ピッタとヴァータを乱す性質があります。ヴァータが乱れると、さらにタバコやコーヒーがほしくなるという悪循環に陥ります。これは、自分の内なる知性が乱れ、自分にとっての適した行動か、わからなくなったためです。どうしても体や頭がだるく重いという方は、薄めたブラックコーヒーのアメリカンを1杯程度であればよいこともあります。

    愛煙家には、白湯を頻繁に飲むことをおすすめします。白湯によって、体内の浄化が促されるからです。また、ローズや 白檀、カモミールなどを香らせておくことによって、自然とタバコに手を出さなくなる人もいます。

    鼻詰まりや鼻汁があれば、カパが増大しているのかもしれません。特に春の朝は、カパが増大しがちで花粉症になりやすいと考えられています。花粉症は、カパの増悪による典型的な症状なのです。  また、アーユルヴェーダでは、鼻は脳の扉だと考えられています。鼻が詰まっていると頭の働きが鈍くなるのはそのためです。そんなときは、増大したカパを調整するためにも ジャラ・ネーティー(鼻洗浄)をするとよいでしょう。  ロタ(鼻の洗浄器)あるいは急須に、塩湯(お湯コップ1杯に天塩小さじ1杯程度を加えたものか、0・9%の生理的食塩水を温めたもの)をつくり、ターメリックを小さじ1/3ほど溶かします。顔を横にして少しあごを引き、ロタに入った塩湯を鼻孔から注入し、反対側の鼻孔から滴下させん。

    太陽礼拝は本来、太陽の昇る東に向かって行ないます。すべての人と物に惜しみなく愛を注ぎ、見返りを求めない太陽の姿に、感謝の気持ちをもって挨拶するためのものなのです。そして、自分自身もまた、太陽のようなエネルギーを持ち合わせているということに目覚め、限りない愛の波動を注げるようにと祈るものなのです。

    現代医学の研究によれば、運動中の心臓死が最も多いのは朝だといわれています。原因として考えられるのは、カパが増大して血液が重くなり動きにくくなっているため、心臓の負担が強くなってヴァータが乱れ、血管の閉塞などが起こるためです。ですから、朝から大きな負担をかけないようにするため、ジョギングなど負荷のかかるものではなく、散歩程度の軽い運動にするのがよいでしょう。

    また、体質によってそれぞれ、適した運動には違いがあります。ヴァータ体質はダンスやサイクリング、散歩が向いているでしょう。ピッタ体質はスキー、登山、水泳、カパ体質はランニング、ウエイトトレーニングなどがよいでしょう。毎朝でも実践しやすい運動としては、ゆっくり歩行と速足を交互に行う散歩が一番おすすめです。

    日本では夕食の量を多くしがちですが、夕食よりも昼食の量を多くしたほうが消化によいでしょう(ただし、昼食を摂りすぎると午後に眠くなり、未消化物であるアーマを生むことになるので要注意です。

    まず、昼寝はカパを増加させるといわれています。そのため、糖尿病や皮膚病、頭痛などの原因になると考えられ、アーユルヴェーダでは禁じています。ただし、椅子に座った状態での仮眠であれば、前述のようにカパを増加させることがなく、むしろ疲労が取れるのでおすすめです。

    で気分一新、心と体を活性化  肩こりや目の疲労が気になるとき、リフレッシュしたい気分のときには、ヨーガをするとよいでしょう。座ったままで気軽にできるヨーガがあります。

    ヨーガには「つなぐ」という意味があります。ひとりで行なってもいいのですが、家族あるいはパートナーと一緒に行ないながら、くつろぎの時間を過ごすとよいでしょう。体が硬い人は相手に手伝ってもらえば、よりしっかりとストレッチ効果を得られるでしょう。

    性本能は人間の生理的欲求です。性生活によって心身の疲れが回復することもあるでしょう。『チャラカ・サンヒター』は 13 種類の自然の生理的欲求をあげており、その一つに射精があります。欲求を抑制すると、ヴァータが乱れると教えています。  また、「ルールに従った性生活を楽しむ人は、いつまでも若く長寿を楽しむ」とも書かれています。喜びをもたらすだけではなく、適度に行なうことで筋肉の強さを増進させ、皮膚につやが出ると言われています。

    性行為を行なう時間帯は、夜明けや真昼、夕暮れどき、真夜中など、ヴァータとピッタが増大しているときを避けましょう。

    頻度の目安は、日本の四季において秋と春は4日に1度、夏と雨期は 15 日に1度、冬は満足いくまで、とされています。行為後に消耗感があるようなら、次回のタイミングを遅らせたほうがよいでしょう。ヴァータとピッタの人は少なめ、カパの人は多めでもよいといわれています。身体を清潔にし、空腹や口の渇きがない状態で正常位で行なうのがよいとされています。

    香りを使うこともすすめられます。ヴァータならカモミールやラベンダー、ローズマリーなど。ピッタならローズ、ゼラニウム、ベルガモット、イランイラン、カパならユーカリやティートリー、レモングラスなどがよいでしょう。

    五感を研ぎ澄ますために  まずは、私たちを取り囲む環境からの声に耳を傾けてみましょう。いつも以上に感覚への意識を繊細にし、五感を活用することからはじめてみるのです。  たとえば、起床後にはたとえ寒くても窓を開けてみます。朝の空気を肌で感じ、そのときの香りや味わい、音などを感じ取ってみるのです。  また、食事のときには味覚だけでなく、五感をすべて使ってみましょう。食べものの色や形を目で楽しみ、鼻によって香りを感じ、口に入れたときの感触(固い、柔らかい、滑らか、ざらついている……など)をとらえてみます。

     そのほか、音楽だけでなく言葉も音療法に活用することができます。  インドには、 マントラ と呼ばれ、周囲のエネルギーを変えてしまうほどの強力な言葉があります。日本にも、古くから 言霊 の存在が伝えられていますし、「ありがとう」など人の心が和むような言葉がたくさんあることが知られています。  言葉はその人の思考から生まれますから、日頃の思考に気を付けて良い言葉を使うことが、音療法になります。ちなみに、現代日本では短縮語などを使うことが日常的になりました。このように、あわただしく短縮語を使う生活の中では、ヴァータが増えがちだと考えることができるでしょう。

    特に近年は、寝たきりの高齢者が増えたり、平穏死の必要性が高まったり、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)をカミングアウトする人たちが増えて法律的にも保護されはじめたりと、私たちの生きる環境が大きく変化しています。だからこそ、これからの医学には「修繕」だけではなく、真の健康や幸福について問いかける「生命科学」が求められているのではないでしょう。

    アーユルヴェーダは元来、生命をまるごと扱う壮大な医哲学であり、生命を支える法則を教えてくれるものです。この章では、アーユルヴェーダにヨーガを加えた古代インドの英知「ヴェーダ科学」における生命観とともに、「生命とは何か、真の自己とは何なのか」を考えていきましょう。そして、誰もが健康で幸福に生きるためにはどうしたらよいのかを考察していきましょう。

    与えられた贈り物は、喜んで受け取りましょう。形のある贈り物はもちろん、褒め言葉や感謝の気持ちもありがたく受け取ります。日の光や鳥のさえずりなど、自然がもたらすものもあなたへの贈り物です。日本人は遠慮がちで、受け取ることを固辞する傾向があります。しかし受け取ることもまた、与えることだと知りましょう。

    ほとんどの人は、無意識のうちにこの方法を選んでいます。それもまた、自分の選択です。そして、カルマの負債の支払いには、苦痛が伴うことが多いものです。  例えば、子どものころに動物をいじめたことがある人が、クマに襲われて痛い目にあったとします。これは、カルマの法則が働いていると考えることもできます。  この法則において、これまで支払われなかった負債はありません。宇宙には、完全な会計システムがあるのです。

    結果に執着するのをやめましょう。一定の結果を堅く望むことをやめ、不確定性の智恵をもって生きるのです。願望の結果がどうであれ、人生という旅をその時その時で楽しむことです。

     幸せになるには、自己の外にあるものが必要だと信じがちです。例えば、貯金や家、洋服などを持つことが安心につながると信じている人も多いでしょう。しかし、幸せの根拠を自己の本質以外のところにおいていると、いつか不安に見舞われます。なぜなら、今は幸せをもたらしているものが、いつかは失われるかもしれないからです。  私たちが求める安心は、かげろうのようなものです。例えばお金など、自分の外にあるものに安心を求めていては、一生得ることができません。なぜなら安心は、お金だけで得られるものではないからです。お金への執着があると、いくらお金があっても常に不安がつきまといます。お金をたくさん持っている人に、不安が強い人が多いのも事実です。

    たとえば、動物を虐める人は、人間にも優しくなれません。まずは身近な動物に優しくなることからはじめてみましょう。些細とも思える局面での行ないを正すことが、すべての局面においての行ないを正すことにつながりです。

    1/fゆらぎとは、規則正しさとランダムさとの間で、調和している状態です。ある程度、先の予測ができるような規則性の中に、適度な意外性が含まれているのが特徴です。脳波や心拍の間隔、混雑した高速道路の車の流れ、心の変化……など、さまざまなものが、1/fゆらぎのリズムであることがわかっています。

    スートラ瞑想 意味がわかる自国語の言葉を、心の静寂の中で繰り返す方法。たとえば「幸福、幸福、幸福、幸福……」のようにです。

    インドで行なっていることが一番!〟と考える人たちが、往々にしておられます。しかし、 20 年間、アーユルヴェーダやヨーガの研究をしてきて感じることは、まさにアーユルヴェーダの説くように、人間には個人差があり、環境や生活習慣、慣れなどで変化してくるということです。そのことは、現代医学的にも証明されてきました。例えば、腸内細菌叢が、長い食習慣で変化するため、同じ地中海食がイタリア人の寿命は伸ばしても、イギリス人ではそのような効果がないのます。

    アーユルヴェーダでは、頭で学ぶのではなく、マンツーマンで学ぶことの重要性が謳われています。ですからこれらの養生法などは、直接、マンツーマンでご説明することが必要と考えました。

    西川 眞知子(にしかわ まちこ)  横浜市生まれ。上智大学外国語学部英語学科を経て、佛教大学卒業。第24代ミス横浜。現在、日本ナチュラルヒーリングセンター代表。  幼少期の病弱を自然療法で克服したのをきっかけに、大学時代にインド、アメリカなどを歴訪し、ヨーガや自然療法に出会う。それらの経験と研究を元に、「日本ならではのアーユルヴェーダ」を提唱。体質別健康美容法を提案し、独自な簡単生活習慣プログラムを構築。健康美容のコンサルティング、商品開発などに携わるかたわら、講演やセミナーなどをこなす毎日を送っている。  

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著者プロフィール

富山大学和漢医薬学総合研究所未病研究部門客員教授。1953年生まれ。広島大学医学部卒業後、虎の門病院、北里研究所付属東洋医学総合研究所、富山県国際伝統医学センターを経て、現職。

「2008年 『地球人12号 アーユルヴェーダ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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