中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義

著者 :
  • 白水社
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本棚登録 : 193
レビュー : 29
  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560027783

作品紹介・あらすじ

R.B.ボース。1915年、日本に亡命したインド独立の闘士。新宿・中村屋にその身を隠し、アジア主義のオピニオン・リーダーとして、極東の地からインドの独立を画策・指導する。アジア解放への熱い希求と日本帝国主義への止むなき依拠との狭間で引き裂かれた、懊悩の生涯。「大東亜」戦争とは何だったのか?ナショナリズムの功罪とは何か?を描く、渾身の力作。

感想・レビュー・書評

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  • 中島岳志 「中村屋のボース」 インド独立運動家ボースの評伝から戦中のアジア主義の在り方を考えた本。

    ボース氏の人格は素晴らしく、著者の論点は整理されていて わかりやすい。



    考えさせられたのは
    *日本のアジア主義は アジア平和のためでなく、アジアを日本化するためのものなのか
    *ボースや孫文のアジア主義は 西洋の脅威に対抗できたのか。インドや中国が独立後のプランはあったのか
    *ボース氏は 目的(民族独立)のために暴力という手段を許容するのに、手段としての帝国主義は許さないのか


    現代に置き換えて、アジア主義の枠内で、中国と香港、台湾の問題に 他のアジア諸国は口が出せるのか



    ボースのアジア主義は 近代(西洋)の超克やインド独立 の手段であるのに対して、日本のアジア主義は 帝国主義(植民地拡大)の大義名分であるような論調? 日本のアジア主義は アジアの日本化を目指したものと捉えている?



    ボースや孫文は アジア主義を通して、日露戦争に勝利した日本は 西洋のように帝国主義化せず、アジアの独立に寄与すべきことを主張している。アジアの独立を目的として 西洋の脅威に対抗するため アジア主義のもと 帝国主義化することは 受け入れない論調。


    ボースは、インドで爆弾テロを行なっており、インド独立の目的のための 手段として 暴力は許容している。権力の濫用としての帝国主義は許されないが、手段としてのテロは許されるということ?



    ボースのアジア主義の意義
    *アジアの政治的独立を獲得するためでなく、物質主義に覆われた近代を超克し、宗教的神性に基づく国際平和を構築する
    *西洋思想には、宗教や文化の多様性をとらえる視点が乏しい〜日本の神教、中国の儒教、インドの仏教のような崇高な宗教がない〜東洋の宗教によって西洋を指導する
    *アジアとは、ユーラシア大陸の非ヨーロッパという意味でなく、西洋的近代を超克するための宗教的哲学


    孫文のアジア主義
    *東洋の仁義道徳に依拠した王道に基づいた世界を構築することがアジア主義の本質
    *物質文化と軍事力に依拠するヨーロッパの覇道に対し、東洋の仁義道徳に依拠した王道によって対抗すべき
    *日本は西洋の覇道の番犬となるのか、東洋の王道の干城となるのか

  • 著者が心血を注いで書ききったことが分かる。
    主人公である中村屋のボースだけでなく、そこに纏わる人々。20世紀前半の日本やアジアをめぐる熱気。多くの文献にあたり、それらを一つの物語に仕上げている。

  • 果物屋のせがれの話かと坊主ではなくボースでしたか。 book barお勧めと言うことで読んでみる。
    中村屋。新宿にあると言うことは知っていたが、以前は「新宿と言えば中村屋」と呼ばれていたらしい。そのカレーをやることになったきっかけだが、インド人革命家のボースという人の話。

    文体としては、物語性が乏しく、事実だけをつらつらなので前半は読みづらかったが、興味のある「大東亜戦争」のところからは、面白く読めた。「当時イギリス軍がマレー半島を守っており、植民地のインド人兵が多くたが、日本はインドの独立を説き、インド人を仲間にして、マレー半島に進軍、開戦1カ月足らずでクアラルンプールを陥落させ、その後シンガポールを陥落」

    著者の結び方も面白い
    「中村屋のインドカリーが現在も新宿の真ん中で、日本各地のコンビニでおいてある。これは今日の日本人に対して「アジアという課題に目をつぶるな!」という叫び声に思えてならない。」今度食べに行こう。

    【学】
    第2次世界大戦を機に独立運動はいよいよ盛んになり,イギリスもついに戦争終結後の独立を約束した。独立の方式については,ガンジーらは統一インドを主張したが,ムハンマド・アリー・ジンナーらを中心とするインド・ムスリム連盟はパキスタンの独立を主張,1947年7月インド独立法によってイギリス領インド帝国は消滅し,同年8月ヒンドゥー教徒を主体とするインドと,イスラム教徒を主体とするパキスタンの二つの独立国が誕生した。

    #book barお勧め本

  • 頭山満について知りたい人にも。

  • インド独立のために奔走したボース氏の事は本書で初めて知った。どの国にも苦難の歴史があり、欧米のデモクラシーが善悪で定められていることによって、この様な過去の苦労があること、それが今の日本やインドに繋がっていることを、理解できた。

  • これは面白かった。史実に基づく歴史本なのに小説のように読める。著者は私よりもわずか3歳上。

  • 大川周明モノが続く。中村屋のボースがチャンドラ・ボースと別人というのは読むまで知らなかった。
    (読みながらもしばらく気付かなかった)

  • 新宿中村屋へは、親子3代でお世話になっている。特に、亡くなった祖母と新宿で買い物をすると帰りに中村屋でカレーを何度もごちそうしてくれた。 インドカリーは中村屋に居候になっていたインド人の留学生が伝授してくれたものというのは聞いていた。 でもこの本を読んで、ボーズはたしかに留学生、でもただの留学生では全くないことを初めて知った。 インド独立運動のリーダー的存在が日本に永住すること自体不思議な運命のめぐりあわせだが、そこに中村屋がからんでいて、インドカリーができて、そしてボーズの独立運動家としての運命があって。。 小説として書かれたものではないので、よけいに「時代」を感じてしまった。 

  • 行ったことはないが、新宿中村屋の名前は知っていた。月餅の包装紙にあるロゴも見覚えがある。中村屋を開いた相馬愛蔵と黒光の名前は、安曇野にある碌山美術館を訪ねたときに眼にした。中村屋の敷地内には、碌山荻原守衛のアトリエがあった。碌山は黒光を愛していた。代表作「女」の像は、別の女性をモデルにして制作されたが、完成した作品を見た子どもたちは「カアさんだ!」と叫んだそうである。

    まだ武蔵野の名残を残す内藤新宿にあって、中村屋は一つの文化的なサロンとしての役割を果たしていた。高村光太郎をはじめ、芸術家や文化人、政治家が出入りしては、交流の輪を広げる場となった理由の一つに、「中村屋のインドカリー」があった。そのインドカリーの生みの親こそが、本評伝の主人公、中村屋のボースこと、ラース・ビハーリー・ボースであった。

    インド統治の責任者であったハーディング総督に爆弾テロを行ったR・B・ボースは、インドにいられなくなり、伝手を頼って日本に渡る。しかし、英国よりの態度をとる日本政府はボースに対し国外退去を命じる。政府の弱腰の態度に業を煮やしたのが頭山満、玄洋社の首魁であった。その頃、新聞でインド独立の闘士の窮地を知った相馬夫妻は、頭山を通じてボースを中村屋敷地内にあったアトリエに匿うことになる。一歩も外に出られないボースは、アトリエにあった炊事場でインドカリーを作って故国を偲んだ。その味が「中村屋のインドカリー」の原点である。

    後に黒光の娘俊子を妻にしたボースは、日本に帰化し、日本にいながらインド独立のために奔走することになる。日本語を流暢に話し、独特の魅力を放つボースは、頭山満や大川周明という超国家主義者の領袖を筆頭に、犬養毅、東条英機、広田弘毅という名だたる顔ぶれを知人の列に加えることにより、日本の国策である大東亜共栄圏の宣伝に協力することになる。

    ボースの頭にあったのは、ガンジーの非暴力主義では英国の支配からインド独立を勝ち取ることは難しい。だから日本の武力をもって英国を排し、インド独立を果たすというプラグマティックなものであった。だが、当初は日本の韓国、中国に対する差別意識を批判していたボースであったが、日本政府に重用されるうちに批判色を薄め、国策に絡め取られてしまう。

    日本の心情的アジア主義者には思想がなかったと筆者はいう。インド独立を焦り、結果的に日本の超国家主義に協力することになってしまうボースもその点では同罪である。しかし、9.11以降、西欧的世界観にも限界があるのも明らかになりつつある。インドや中国というアジアの国々が台頭しはじめている今、アジア的な視座に立つことにより、西洋的世界を見直し、より普遍的な世界を目指す方法もあるのでは、という問いかけが生じる。そこにこそボースの希求した世界像がある。

    新宿中村屋の名物「インドカリー」の陰に埋もれていた一人の男の人生を激動の昭和史を背景にくっきり浮かび上がらせて見せた功績が大きい。出生の地インドを訪ね、逃走ルートを実際に走り、体を張った調査で、過去を活き活きと甦らせる。アジトでの潜伏、繰り返される転居という逃走劇は映画を見るようで手に汗を握る。タゴールや、チャンドラ・ボース、『ドグラマグラ』の夢野久作の父親、杉山茂丸をはじめ記者時代の山中峯太郎等、登場人物の顔ぶれも凄い。文学・歴史好きにはこたえられない一作。

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著者プロフィール

1975年大阪府生まれ。政治学者。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て現職。専門は南アジア地域研究、日本近代政治思想。主な著書に『中村屋のボース』(白水社、大佛次郎論壇賞/アジア・太平洋賞大賞受賞)、『保守と大東亜戦争』(集英社新書)、『超国家主義』(筑摩書房)、『血盟団事件』(文春文庫)、『アジア主義 西郷隆盛から石原莞爾へ』 (潮文庫)、 『石原慎太郎 作家はなぜ政治家になったか』(NHK出版)など、編書に『橋川文三コレクション』(岩波現代文庫)などがある。

「2020年 『別冊NHK100分de名著 ナショナリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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