シェイクスピアを盗め

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560047095

作品紹介・あらすじ

舞台は四百年前のロンドン。孤児の少年ウィッジが、当時人気絶頂のシェイクスピアの台本を「盗む」役目を言いつかった!ユーモアたっぷり、スリル満点の痛快な冒険物語。全米図書館協会最優秀賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • まず表紙の「シェイクスピアさん」のイラストが気難しい感じが出てるのに愛嬌があって妙に可愛いのがポイントですね。

    孤児院で育ったウィッジは、徒弟を求めてやってきたブライト博士に引き取られ博士の考案した速記術を(強制的に)身につけます。その速記術を目当てに謎の男フォルコナーが、博士からウィッジの身柄をゆずり受け第二の主人サイモン・バスへと引き渡します。バスはウィッジに、ロンドンで催されている『デンマークの王子ハムレットの悲劇』の芝居を速記術で書きとることを命じます。

    それは、つまり芝居を「盗む」こと。

    ところがウィッジは速記したメモを失くすアクシデントに見舞われます。そんなウィッジにフォルコナーは台本を盗めと脅します。困ったウィッジは、芝居をやりたいと嘘をついて劇団の一員となってその機会を伺うことになりました。

    これまでのウィッジは生きることで精一杯でした。主人の顔色を伺い、鞭打ちや暴力を受け、おいしいものなんて食べたことのない人生でした。もちろん友だちもいません。
    ウィッジは素直な子です。自分の境遇によってひねくれたりしていません。と、いうか今までの境遇に何一つ疑問を持たずにきたのです。そんな彼だから、自分がやりたいこと、夢、大切なもの……そんな未来がワクワクするようなことを考えたことがありませんでした。彼にとってそれが当たり前の日常だったからです。

    だから、劇団員ポープの師弟となってサンダーをはじめ、たくさんの子どもたちと共に暮らすことになったウィッジは戸惑います。サンダーやジュリアンが友だちとしてウィッジに接してくれても、どうやって彼らに向き合ったらいいのかわかりません。
    「友だちになってほしいって、いつ頼んだよ」とか言っちゃいます。
    もちろん誉められたこともなかった彼ですから、稽古で誉められて戸惑います。そして初めて誉められるのが、「いい気分」だと知ります。
    そんなウィッジだから他人との関係において、「叩かれないん?」「家族って?」などふいに口に出る言葉に私は切なくなったりします。

    自分で物事を考えること。自分を必要としてくれる人がいること。一緒に頑張ったり、苦難に立ち向かう友だちがいること。それがどんなに素敵なことかウィッジは気づき始め変化していきます。と同時に自分に課せられている「台本を盗む」ことに疑問や罪悪感を覚えることに……

    ウィッジは友の新しい旅立ちに友情の難しさと尊さを経験します。正直、信頼、忠実、友情。家族。そして、家庭。新しい言葉の意味を知りました。そんな彼が愛おしくてたまらなくなっちゃいます。

    「シェイクスピアさん」をはじめ、物語には当時実在した人物が沢山出てきます。当時のイギリスはどうだったのか、劇場はどのように建てられていたのか、芝居の台本がなぜそんなにも大切なものだったのか›……児童書でもあるので、楽しく分かりやすく描かれています。

  • YA向けブックガイドからだったか。で、先日のBOOKMARKにも取り上げられていたから、このタイミングで。タイトルから想像していたのと、ちょっと違う内容だった。盗むってのを、まんま盗品ってことだと思ってたけど、なるほど盗作ね。時代背景を考えるとさもありなん。ただでさえ無形文化財の著作権は難しいところがあるのに、当時のこととなるとなおさらですわな。それを上手い具合に料理して、スリリングな成長譚に作り上げているのはお見事。

  • R1/5/24

  • カテゴリ:教員著作物
    英語英文学科:安達まみ教授の著作物

  • 1600年頃のイギリス・ロンドンが舞台。
    孤児のウィッジは、それまで旦那と自分のほぼ二人だけの人間関係の中で育ったせいか、自分で考えることがなく、友情とか善悪に対してもとても鈍感。かと言って、嫌な奴ではなく、そういったことを学ぶ機会がなかっただけなので、基本的には純粋な良い子です。そんな彼が、グローブ座の人々に出会うことで、友情を育み希望を持つことを覚え、成長していく様子に、清々しい気持ちになりました。
    青少年向けのお話なので、若干軽めな展開ですが、それでも、シェイクスピア好きとしては、当時の劇場の雰囲気や、芝居が出来上がっていく様子を感じることができて、楽しく読むことができました。

  • 時は16世紀、エリザベス朝。イギリスはロンドンの都。テムズ河畔に建てられた塩入れのお化けのようなグローブ座では、座付き作者兼俳優のウィリアム・シェイクスピアの新作狂言「ハムレット」が上演されようとしていた。当時は、戯曲が印刷されればどこの一座が演じるのも自由という時代。そのため人気のある芝居は、なかなか出版されず、台本は一座に大事に保管されていた。コピーが商売のタネにもなれば、原作者を脅かす元凶にもなるのは、いつの時代も同じ。エリザベス朝ロンドンでも人気のある芝居は、いつも盗作者に狙われていたのである。

    孤児院育ちの主人公ウィッジは、速記術の発明者であるブライト博士に引き取られ、7年間速記術の習得に励んだ後、14歳の春、フォルコナーという男に連れられ新しい主人サイモン・バスの下で働くことになる。その仕事というのが、速記術を使って、「ハムレット」の台本を書き写すことだった。初めは言われたとおり書き写すウィッジだったが、次第に芝居に夢中になり仕事を忘れてしまう。次の芝居の日、一座の者に見つかったウィッジは役者志望と偽り、一座の仲間に入ることになる。同じ年頃の仲間というものを知らなかったウィッジは、ここで初めて友達や大人の温かい心遣いに触れ、自分に課せられた使命との間で板挟みになる。

    蓮實重彦は『小説から遠く離れて』の中で、物語の構造を次のように還元してみせる。どこかに一人の男がいて、誰かから何かを「依頼」されることから物語は始まる。男は発見の旅へと出発する、「宝探し」である。当然、妨害者が現れる。貴重な宝は「権力の譲渡」に関わるものであるため、依頼された冒険はなかなか進展しない。そこに予期せぬ協力者(同性なら分身、異性なら妹に似た血縁者)が現れ、倒錯的な関係を物語に導入しながら様々な妨害を乗り越えていく。

    この「依頼と代行」「宝探し」「権力の譲渡」「二重性」という主題を律儀に踏襲しながら物語は進められていく。しかし、それが不思議に心地よいのは何故だろうか。構造は「反復」しつつも、そこに微妙な「差異」があるからだ。安定した物語の構造に揺られながら、作者の工夫を味わう楽しみは物語を味わう王道である。16世紀エリザベス朝ロンドンという都市の闇部の持つ魅力が、汚猥と高潔、伽藍と貧民窟、真と偽等の対立を軸にコントラストも鮮やかに描かれるのがそれだ。

    映画『恋に落ちたシェイクスピア』が気に入った人なら、あの衣装や舞台を思い出しながら、二倍楽しめること請け合いである。読んでからビデオで見るというのもいいかも知れない。ヤング・アダルト向けだが、大人が読んでも充分におもしろい。物語の構造が安定し、目的に向けて真っ直ぐに進んで行くからである。主人公を別にすれば登場人物の多くは実在の人である。虚実を綯い交ぜにしながらこれだけの冒険潭を破綻なく纏め上げた作者の筆力は並々ならぬ物がある。

  • シェイクスピアの台本を盗んでこいと言いつけられた少年が、お芝居の楽しさに目覚めて行く話。

  • グローブ座に迷い込んだ少年の成長物語。
    サロイヤン風のポップなタイトル&表紙がシェイクスピアと食い合わせが悪い気がして、長いこと前を素通りしていた本だったけれど、読んでみたら素直に面白かった。登場人物達がそれぞれ素朴に生きてて。
    シェイクスピアはほったらかしなので、S・クーパーの『影の王』みたいな謎解きを期待して読むと肩すかしかも。

  • 17世紀のロンドン。孤児の少年ウィッジは習い覚えた速記術を使って「ハムレット」の台本を聞き取ることを命じられる。だがせっかく記したメモを盗まれてしまい、取り戻すために徒弟として一座に加わることに。さまざまな失敗と冒険を経て、ウィッジは勇気と友情に目ざめてゆく。

  • エリザベス2世時代のロンドン。みなしごの少年ウィッジはある任務を負ってグローブ座の一員となるが、しだいに一座のなかに自分の居場所を見出していく。同時期に出版されたS.クーパーの『影の王』も少年の眼で見たシェイクスピアの話で、ある意味趣向が似ていると言える…いや、全然似ていないか。
    このウィッジ、ヨークシャーなまり丸出しの田舎者である。が、このなまり部分の訳文は、読む日本語としてあまりにヘン。違和感がありすぎて、話の内容よりそちらに気を取られてしまった。なまりは訳文になると東北弁で表現されることが多く、これについては以前からちょっと興味を持っていたのだが、なるほど、東北弁だと無難に読めるということがよくわかった。訳者はこの風潮に挑戦したかったのだろうか。しかし。

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