編集室 (白水Uブックス 142 海外小説の誘惑)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071427

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに手に取った大好きな短編集

    こちらは、以前「夜の寓話」と言う題名で出版されていたもの。
    本来の「編集室」だと、ドキュメンタリーと勘違いされてしまうかも?
    とその題名を作って出されたのだが、
    だんだんグルニエ人気も高まり、認知されてきたので
    もともとの題に戻した、と訳者後書きにある。

    さて、今回も読み終わり、以前のレビューを見直して、
    結局好きな話は変わっていない!と嬉しくなってしまった。

    なかでも「すこし色あせたブロンド女」が、心に残る。

    初めて会ったとき、そして徐々に心に様々な強い印象を残した彼女、

    憧憬の念のようなものを抱きながらも、
    その当時は何もなかったピエールは、
    20年くらいたって、偶然彼女に出会う。
    そして彼女からある提案が…

    今回も「踏みとどまってくれ、ピエール!」と、思った私。

    本人が自覚がある、無しにかかわらず、
    他人を利用してまでも、なんとかうまく立ち回ろうとする人、

    皆の見ている前で、
    自分のやりたいことを求めて、
    なりふり構わず頑張る、と言うことが
    出来無い見栄っ張りの私は
    そんな人を軽蔑をしながらも、
    憧れの気持ちも少々…

    「厄払い」と言うお話も、
    思い込んだり、「あの思い出、もしかして?」と
    一人想像したり、人間の心って面白い。

    「もうひとつの人生へ」は
    昔、罪を犯し、長らく刑務所へ入っていた女性が、
    出所してすぐに修道院へ入る事を決めた、
    彼女は新聞社に修道院へ入っていくシーンを写真にとらせて、
    その見返りにお金を受け取る約束をした。

    その場面をカメラにおさめるため男たちが
    修道院まで送る、と言う話。

    人生の決断、
    どうしてかも、正しいかも、なんだかわからない。
    ましてや人のことなど、もっとだ。

    ユーモアがあって、洒落ていて、
    悲しくて、辛辣で、現実的で、でも希望もみせてくれる、

    トランプで言えばエースのカードのような
    このグルニエのような素晴らしい作家を私は知っていて、
    いつだってその気になればさっと読めるんだ、と思うだけで
    なんとも心強く、また、得している気分。

  • 原題は≪La salle de rédaction≫でそのまま。以前から気になっていてそのままになっていたものを、ブクログでアップされているかたがいらっしゃり、「あ、そうだった…」と手にとりました。

    「編集室」に転がっている、記者やカメラマン、あるいは取材対象のエピソードから書き起こされた短編集、といっていいのだろう。著者のグルニエが元新聞記者ということもあり、とっかかりになる出来事、たとえば従軍時代の戦友や取材のために組むカメラマン、彼らの持つジンクスめいた感情や、仕事で顔を合わせる広告会社の女性などのありようはさりげなくリアル。元ネタはほんのひとつまみだろうけど、そこからフィクションくささを感じさせずに物語が繊細に展開されてゆき、苦さとやるせなさを加えて、すうっと締めくくられる。ピアノ演奏にたとえていえば、どの物語も、和音をガンッと叩いて終わるのではなく、1音弾いてすっと鍵盤から指を放すようなラストのタッチではないだろうか。

    個人的には、『脱走兵たち』の、どちらも初老の男性記者と女性記者のやりとりと切り返しが、これぞ粋な仏文短編の典型!という感じで好き。『ジゼルの靴』の、リセ時代の友人との約束にはせる思いの苦さや、『北京の南で』の老記者の混乱は文学の国籍を問わず、ザ・短編!という構成ではないかと思って気に入っている。翻訳はだらだらと修飾語が長くなりがちな仏文をうまく処理してくださっているようで読みやすい。これはグルニエの経歴からいって、もともとが簡潔な文章の可能性もあるけれど。

    センセーショナルに展開しようとすればできるし、そのほうが簡単な刺激的なエピソードを、極力抑えて書いた筆致がもうまったく私好みで、この☆の数。ドーデ『最後の授業』やジロドゥ『オンディーヌ』で、仏文の切り返しの鮮やかさにやられた頃のことを思い出し、久しぶりに「いい小説読んだよな!」と満足した1冊でした。

  • 実話のような雰囲気の短編集。期待ほどではなく。

  • 『水曜日は狐の書評』より

  • どことなく夜の匂いがする短篇群。いまひとつ。

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著者プロフィール

Roger Grenier(1919-2017)
フランスの小説家、ジャーナリスト、放送作家、編集者。
ノルマンディ地方のカーンに生まれ、フランス南西部のポーで育つ。大戦中はレジスタンス活動に関わり、戦後アルベール・カミュに誘われて「コンバ」紙の記者としてジャーナリストのキャリアをスタート。その後、ラジオの放送作家などを経て、1963年よりパリの老舗出版社ガリマールの編集委員を半世紀以上務めた。1972年、長篇『シネロマン』でフェミナ賞受賞。1985年にはそれまでの作品全体に対してアカデミー・フランセーズ文学大賞が授与された。刊行したタイトルは50以上あり、とりわけ短篇の名手として定評がある。邦訳は『編集室』『別離のとき』(ともに短篇集)、『黒いピエロ』(長篇)、『ユリシーズの涙』『写真の秘密』(ともにエッセイ)など。亡くなる直前までほぼ毎日ガリマール社内のオフィスで原稿に向かっていたが、2017年、98歳でこの世を去る。本書は生前最後の短篇集。

「2023年 『長い物語のためのいくつかの短いお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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