裏面: ある幻想的な物語 (白水Uブックス)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071984

作品紹介・あらすじ

大富豪パテラが中央アジアに建設した〈夢の国〉に招かれた画家夫妻は、奇妙な都に住む奇妙な人々と出会う。やがて次々に街を襲う恐るべき災厄とグロテスクな終末の地獄図。挿絵多数。

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀後半のボヘミアに生まれた画家が
    20世紀初頭に執筆した小説に自ら挿絵を添えた作品。
    作者の分身とも想像される
    ミュンヘン在住の「画家」が
    旧友クラウス・パテラの招きを受け、
    莫大な財産を相続した彼が中央アジアに築いたという
    独立国へ妻と共に赴いたが、
    待っていたのは理想郷の面白おかしい生活とは
    到底呼び得ない暮らしだった――。

    画家は「国王」パテラに、
    かつての学友の誼で招待されたはずが、
    行ってみると特別待遇を受けるわけでもなく、
    街の治安もよいとは言えず、
    妻はストレスで精神を病んでいく……という、
    まるで楽しくないストーリー(笑)。

    作者が描きたかったのは
    外界と隔絶したパラダイスの美ではなく、
    その世界が腐臭を放ちながら崩壊する
    カタストロフだったらしい。
    伝染病によって市民が眠り込んだ隙に
    様々な動物が好き勝手に暴れ出し、
    それをきっかけに「王国」が膿み爛れていく様子が
    これでもかと詳述される様は圧巻。

  • 素描画家の主人公はある日、大金持ちになったという旧友パテラの使者から、彼が作った「夢の国」に移住しないかという誘いを受ける。旅費として大金を受け取り、妻とともに旅立つ主人公。この時点では「夢の国」とはいったいどんな素敵なところだろうと、読者も主人公もわくわくしているのだけれど、いざ到着してみたら、ん??あれ???そんなに素敵なとこでもない・・・????

    「夢の国」は一種隠れ里めいた独立国家なのだけれど、ユートピアどころかディストピアですらない。つまり秩序がないし、人々の生活ぶりは、主人公がもといた場所、つまり現在われわれの生きている世界となんら変わらない。貧富の差もあるし、スラム街のような場所もある。暮らしている人々もけして、選ばれた高尚な人物ばかりというわけではなく、傍迷惑でアクの強い人間のほうが多い。移住して1年で妻は不安神経症で死んでしまうし、いったいこれのどこが「夢の国」???と疑問が募るばかり。これはもしや新手のユートピア詐欺!?

    それなのに人々がそこに暮らし続けるのは、結局一種の「魔力のとりこ」になっているだけで、それ以外の理由はないらしい。その魔力の出所も彼らにはよくわかっていない。やがて一人の「アメリカ人」が、この奇妙な都を破滅に追い込むのだけれど、そこからの地獄っぷりも凄惨。増殖して人間に襲い掛かる昆虫や動物、謎の病気、建物も食物もあっというまに腐り、狂気に駆られた人々が起こす殺人や乱痴気騒ぎ、救いはどこにもない、まさに地獄絵図。

    しかしすべての終焉のあとに生き延びた主人公が瀕死の中で見る幻覚のイメージは圧巻でした。作者のアルフレート・クビーンの本職は、カリガリ博士の美術にも参加した素描画家。ゴヤっぽい暗黒素描とでも呼びたくなる挿画や、自筆の夢の国の地図などは小説のイメージを膨らませるのに役立ちました。

  • 寝てる時に「今絶賛悪夢見てるんですけどね」っていう時ないですか?箱の中に電気点いてて、影絵見てるような?
    不快で恐ろしくしんどいけど、中距離競争みたいな感じで、いつか終わるのは、あらかじめわかっている。その悪夢のテンションと言うのでしょうか、座標と言うのでしょうか、周波数と言うのでしょうか、雰囲気そのものなんですよね。悪夢だから友達が変幻自在に、夢の国を創造し、君主になることもなんら特別に不思議なことではない。

    最近よく、幻想、幻想って安易に聞くけど、本来の幻想的ってこういう作品のことだと思うわ。

  • 2015-3-20

  • 白水Uブックス『海外小説 永遠の本棚』の新刊は、挿絵画家として知られるアルフレート・クビーン唯一の長編小説。
    所謂『行きて帰りし物語』の一種ではあるが、『行った先』の描写が面白い。楽園のようで楽園でなく、無機質なようでいてグロテスクという不思議な街が広がっている。
    多数収録された挿絵も見応えがあった。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=4786

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著者プロフィール

1877年、ボヘミア(現チェコ)で生まれる。グロテスクな怪奇幻想の画家として注目され、ミュンヘンの〈青騎士〉にも参加、カンディンスキー、クレーらと交流。ホフマン、ポー、ドストエフスキーなど数多くの挿絵本を手掛けた。唯一の小説『裏面』(1909)の悪夢的な幻想と不条理に満ちた世界はカフカの先駆とも評されている。1959年死去。

「2015年 『裏面 ある幻想的な物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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