- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560080122
作品紹介・あらすじ
政界、財界、教会などの伝統的エリート層はなぜヒトラーを受け入れ、そして民衆はそれをどのように受けとめたのか。第三帝国における権力構造を読み解く刺激的な一冊。
感想・レビュー・書評
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ヒトラー及び第三帝国の権力構造を「カリスマ支配」の概念を軸に読み解く好著。
本書は、ナチスドイツの統治およびその所業をヒトラーの個人的な資質に求めるのではなく、その社会・政治構造にもとめた「構造派」の研究である。
「カリスマ支配」とはマックス・ヴェーバーが提唱した概念で、「指導者」となった人物を信奉する「帰依者」が、その人物にヒロイズム、偉大さ、使命感を認めることが、その支配の正当性・権威の根拠となるような支配体制のことである。
ヒトラーはまさに「カリスマ」支配者であった。
ナチスに入党以降、他を圧する独特の弁論術で党内、聴衆に信奉者を獲得していき、政権を取った後は積極的な外交とその成果を喧伝するプロパガンダの徹底的な活用で、ますます自分を「救世主」として仕立て上げていった。
しかしカリスマ支配は本質的に不安定である。
まず、カリスマを維持するには何かの「成果」を上げ続けなければならない。ヒトラーの膨張策に歯止めがかからなかったのはまさにこのためである。
また、カリスマ支配は指導者の権威が絶対でなければならない。指導者の権威を制限したり、あるいはそれに挑戦したりできる余地は限りなく少なくしていく方向を取る。それが、伝統的な「合理的・合法的」な統治形態(官僚組織など)の破壊につながり、親衛隊などによる恐怖政治に繋がっていく。
ヒトラーの治世は、本質的に破滅に向かって突き進むしかなかったのである。
ヒトラーを選んだのは紛れもなく、政界、財界、教会等の伝統的エリート層や、少なくない数の民衆である。
ヒトラーに熱狂したのも彼らである。
しかし合法性を超越した「救世主」に長期間何かを託し続けるのは、あまりにリスクの高いことであった。ドイツ国民はその手痛すぎるしっぺ返しを蒙ったのである。
さて、本書の内容は「カリスマ支配」の概念を軸に論旨が展開され、ヒトラー治世に一つの枠組みを与えてくれるし、論理展開に切れ味もある好著である。
ただ、如何せん翻訳がイマイチで、大変読みづらい日本語が続く部分も多い。
最初は本書の軸・全体像を見いだせずなかなか集中できなかった。
ただ、あとがきが大変分かりやすいので、まずはあとがきから読んでから本編に入ると、理解が進むと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示