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ラーメンを科学する おいしい「麺」「だし」「うまみ」の正体
- 川口友万
- カンゼン / 2017年12月18日発売
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科学情報サイトを運営しているフリーライターによる、ラーメン科学読本。
ラーメン好きのための、暇つぶし&ちょっと変わったウンチク本としては非常に優良。
ラーメンの良し悪しは「うま味」で決まるのか?っつーかうま味って何?とか
つけ麺は何でぬるいの?とか
ラーメン好きなら日々感覚的に思っていたことの科学的根拠が、非常にライトに書かれていて、楽しく読める。
この本を楽しめるかどうかは、日々どれだけラーメンに触れているかどうかにかかっている気がする。笑
2018年3月14日
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今いる場所で突き抜けろ! ――強みに気づいて自由に働く4つのルール
- カル・ニューポート
- ダイヤモンド社 / 2017年12月7日発売
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「天職」はどこかあるもの、ではなく、「天職」は自らの努力で生み出されるものである。という主張のキャリア論。
人が羨む素晴らしい仕事は「創造性」「影響力」「自由度」の2つ以上が満たされた仕事であるとし、
では、世間一般から見てそのような仕事についている人は、どうやってその仕事にたどり着いたのか?
を具体的な事例を多数交えて追っていく。
結論としては、誰にとってもそのような「やりたい」仕事があらかじめ用意されてなどおらず、
今自分が置かれている環境で、自分のスキルを極限まで磨き上げた結果、そのスキルに対する報酬として、次元の高い「天職」を掴むことができたという人が大半であるということ。
そのようなスキル資本を積み上げるためのヒントや、積み上げたスキル資本を満足度の高い仕事に繋げるための考え方等も書かれている。
青い鳥症候群に陥っているやる気だけは溢れる若者や、何となく今の自分の仕事に停滞感を感じている人に向いたキャリア本。
2018年3月9日
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仕事が速くなる! PDCA手帳術 (アスカビジネス)
- 谷口和信
- 明日香出版社 / 2017年11月16日発売
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時間管理、タスク管理、行動改善を、手帳一つで結構やれちゃいますよ。という本。
PDCA本を期待していると肩透かしを食らうので注意。
目からウロコが出るようなことは書いていないが、日々活用している手帳に、更に活躍してもらうための活用術である。
紹介されている主要な技術は、
・タスクリストの作り方、手帳での管理の仕方
・他人とのアポだけでなく、一人で行う作業予定も手帳に落とし込む。
・その日の行動結果と、当初立てた予定との差異を確認する。
・反省点や翌日に生かしたいことをメモ欄に書く。
といったこと。
結局手帳一つでは完結しない用法であったり、どう考えても大型の手帳を使わないと書き切れそうになかったり、と疑問の残る点もあるが、行動結果の振り返りに使えるというのは試してみたいと思った。
2018年2月27日
著者の我流・超実践的PDCAの技法を解説した本。
一般的なPDCA本に比べると、著者自身が社会人になったころから毎日活用・改良を続けてき、自身が経営する企業でもチームマネジメントに使っているというのだから、実践面・具体性において頭一つ抜けている。
各ステップで何を考慮すべきか、どのように実践すべきか、また初めてやる人がどういったところで躓きがちか、等、本当に読者に本手法を実践してほしいという思いが詰まった丁寧な一冊になっている。
何とか週に2、3日、終業後に一時間とは言えなくとも、30分、こういう考えることに時間を割きたい。割かねばならない・・・。
2017年12月4日
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パパは脳研究者 子どもを育てる脳科学
- 池谷裕二
- クレヨンハウス / 2017年8月10日発売
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脳科学者である著者の育児日記的なエッセイ的な本。
単純に面白いし、興味深い。
親ばか全開の著者の育児エッセイだが、日々の子供の発達を脳科学の側面から解説しているのが、勿論最大の特徴。
赤ちゃんから幼児期にいたるまで、各月齢の子供は、世界をどのように認識しているのか?
わが子の発達と照らしながら「ああ、きっと今、この子の中では世界はこのように理解されているんだろうなあ」と思いを馳せるのが面白い。
年齢の低い子供を今まさに育てている親なら、確実に楽しく読めて、そしてちょっぴりタメになるんじゃなかろうか。
2017年11月2日
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仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?
- 飯野謙次
- 文響社 / 2017年2月1日発売
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タイトル通りの内容の啓発書。
著者が工学博士であり、失敗学会の関係者でもある、というプロフィールに興味を持ち一読。
結果としては、思いのほか、対症療法的なTIPS集。
著者の経歴から、もっとシステマティックで大系化された独自ノウハウがあるのかな、と勝手に夢想した私が悪いと言えば悪い。
気づきが得られるところもあり、取り込めるところも幾分かは見つかるだろう、平均的な出来のビジネス書。
2017年11月9日
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ヨチヨチ父 とまどう日々
- ヨシタケシンスケ
- 赤ちゃんとママ社 / 2017年4月22日発売
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絵本作家ヨシタケシンスケ氏のイラスト入り育児エッセイ。
「子育てってこんなにも大変だったのか。。。」と、その壁に直面している(あるいはした)新米パパなら、必ず一つや二つは共感できる「あるある」が満載。
自分だけじゃない、みんな苦労しているんだという安心材料にもなるし、
(奥さんとの関係が良好なら)一緒に読んで話のネタにすることで、日々戸惑う父の心理を理解してもらえる一助にもなる。笑
2017年10月2日
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未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)
- 河合雅司
- 講談社 / 2017年6月14日発売
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少子高齢化による日本の人口減についての啓発書。
政府や各研究機関が発表している将来の人口推計を元に
①2065年までの間に日本社会に起こる(悲惨な)変化
②いま出来る解決策の提示
を行なっている。
将来推計が発表される都度、断片的な情報は新聞などから入ってくるが、それを総合し、順を追ってこのまま行くと日本はいつ、どのようになってしまうのか?
が大変簡潔で分かりやすい一冊。
少子高齢化による人口減を「静かなる有事」と捉える著者の、政府や我々の無関心・不理解に対する静かなる怒りすら感じる。
政府官僚は勿論、国民一丸となって乗り切るべき深刻な事態ということが伝わった。
2017年10月20日
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末期ローマ帝国 (文庫クセジュ 602)
- ジャン・レミ・パランク
- 白水社 / 1977年1月発売
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3世紀から6世紀にかけての時代を、単に没落の時代と捉えるのではなく、古代から中世への転換期(文化的に継承されるものもあれば変容していくものもあった時代)として捉える立場に立つ。
この時代の政治・宗教・学問・芸術・経済・社会の各分野の様相を簡潔に記述していく。
本シリーズの難点で、論ずる幅は広範なのに紙幅が少ないためにどうしても事実や固有名詞の羅列的な文章になってしまって退屈なのに変わりはない。
興味のある分野(私個人で言えば政治・学問・経済あたり)に関しては、スルスルと頭に入っていく一方、
興味が薄く前提知識の少ない分野ほど、右から左に抜けていく。
ただ、前の時代から受け継がれてきた結果としての叙述や当時の帝国の構造的な部分に関する言及も短く入っており、少しく興味は掻き立てられる一冊ではあった。
2017年7月27日
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部下を持つ人の時間術
- 水口和彦
- 実務教育出版 / 2011年9月17日発売
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チームリーダー向け時間術の本。
基本は同じ著者が別著に書いてある手法(発生都度タスクを実行日のスケジュールに書き込む)をベースにしながら、部下への指示や指導、進捗確認と言ったリーダーならではの業務も効率よくかつ抜け漏れなく進めるにはどうするかを説く。
基本的な考え方は同じで、指示した時点で「着手予定日」「完了予定日」を部下に表明させ、そのタイミングで確認を取るよう自身のスケジュールに埋め込むというもの。
単純だけど効果的。だから実践に移しやすい。
それ以外にもコミュニケーション方法についてのアドバイスも記述があるが、そちらは更に常識的なことが書いてあるので、目新しさはないが日々の自身の振り返りの意味で一読して良かったと思う。
2017年7月12日
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ディオクレティアヌスと四帝統治 (文庫クセジュ)
- ベルナール・レミィ
- 白水社 / 2010年7月15日発売
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ディオクレティアヌス帝期の簡単な通史と、諸制度、政策の概説。
本シリーズにありがちな、制度の話中心に広く浅くこの時代を解説するスタイル。
通史、四帝統治の理念ときて、皇帝の役割、行政、税制・財政、軍制、宗教・・・と当時の諸制度がどうであったかが解説される。
この時代について簡単な調べ物をするのにはいいが、通読しても眠くなるばかり。
とにかくディオクレティアヌス帝期のローマについて強い関心を持っていないと、なかなかのめり込めない一冊ではなかろうか。
テトラルキアは、あくまでディオクレティアヌスをボスとした分業制であり、帝国分裂の意図や傾向はディオクレティアヌス帝在位時には全くなかった、という点だけは頭に残った。(集中力がそこまでしか持たなかったとも言う)
2017年7月4日
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軍人皇帝のローマ 変貌する元老院と帝国の衰亡 (講談社選書メチエ)
- 井上文則
- 講談社 / 2015年5月9日発売
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軍人皇帝時代に焦点を当てたローマ帝国(文明)衰亡論。
衰亡の原因を元老院貴族から軍人への支配層の変化に求めた一冊。
五賢帝時代までに政治的支配層である元老院身分の制度化に伴い文人化が加速した一方、領土拡大に伴う外圧・内乱の可能性は帝国全土に広まった。
その中で軍事経験に乏しい元老院身分に代わって、たたき上げの軍人が帝位に就き、かつ高い軍事能力の持ち主が抜擢され、ポストを得られるように変わっていったのが軍人皇帝時代であった。
外圧はこれにより凌いだものの、軍事力こそ権力の源泉という構図が明確になり、帝位の簒奪・僭称が頻発。帝国の分裂傾向が加速することになる。
その混乱のなかでローマは決定的な分裂、滅亡への道をたどっていくこととなる。
著者の視点のユニークなところは、ここで中国の歴史と比較することである。
中国では後漢末の混乱期以来、ローマ同様、文人に成り代わり武人が政権を担う時代が続いた(魏晋南北朝時代)。
ところが、中国では武人が政権をとっても、支配者層は依然として文人層が占めており、政権をとった軍人王朝の人間も、政権を安定させる過程で文人化するのが常であった。(北魏の孝文帝ほか)
この差異が、中国は統一王朝が滅びても中国文明は連綿と続いたのに対して、ローマ文明は帝国滅亡後、文明が承継されなかった要因と、著者は見る。
では何故、ローマでは政権をとった軍人が文人に同化されなかったのか?
著者は元老院貴族との物理的な距離(ローマ市と帝国全土)、婚姻関係が無かったこと、また当時世間一般に広まっていた元老院階級への嫌悪感をその理由に挙げる。
この末尾部分の主張はやや弱く感じたものの、筋は通っている。
全体に、軍人皇帝時代というあまり脚光を浴びない時代の概説書として貴重であること、かつその政治支配構造の移り変わり、五賢帝時代から末期ローマ帝国への変遷が分かりやすいこと、
それに加えて、中国文明との対比などユニークな視点が盛り込まれていることなど、
少し文章が冗長なのを差し引いても、十分に刺激的で面白い一冊だったと思う。
2017年6月20日
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ローマ五賢帝 「輝ける世紀」の虚像と実像 (講談社学術文庫)
- 南川高志
- 講談社 / 2014年1月11日発売
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古代ローマ・五賢帝時代の概説書。
五賢帝時代というと、ギボンの「人類が最も幸福だった時代」という言葉に象徴的に表されるように、一般的には
・「養子皇帝制」に立脚し、有能な皇帝が5代続いた政治的に安定した時代
・版図は最大化し、大きな軍事的な混乱のなかった時代
・上記に立脚し、人々はパクス・ロマーナを享受していた・・・
と言ったイメージが連想されるし、事実学校教育ではそれに近いことを習った記憶がある。
本書の特徴は、「プロソポグラフィー的研究」の手法を用い、後世書かれた史料からだけでは分かりづらい当時の政治支配層の動向を描き出し、そこから当時の政治状況を分析している点である。
この結果、本書では五賢帝の時代が、冒頭述べたような安定と平和だけの時代ではなく、大いに陰の部分を持った時代であったこと。
ひいては後に続く軍人皇帝時代という混乱期の種がまかれ始めていたことを解き明かす。
まさに目から鱗の一冊で、著者の丹念な調査と論旨展開に引き込まれる。
高校世界史で植え付けられた五賢帝時代や、5人の各皇帝のキャラクターに対するイメージが大きく揺るがされる。
ネルウァは不安定な政治基盤のうえで苦悩し、トラヤヌス即位の陰には大いなる政争があったことを伺わせる。続くハドリアヌスも即位の際にも本人のコントロール外で争いがあったようだし、この両皇帝はその経緯が即位後の政策にも反映されているようである。
これらを受けたアントニヌス・ピウスの用意周到な後継者選びも当時の政治動向を大いに反映しているようだし、これらの経緯を見るとマルクス・アウレリウス・アントニヌスが実子のコンモドゥスを後継に選んだのは当然の措置だと分かってくる。
五賢帝時代は、共和政末期や帝政末期に比べると詳細に語られている本自体少ないこともあり、この時代の政治史を掴むうえでは必読の一冊だと思う。
また誰かが書いた歴史以外の史料から歴史を再構築するという点で非常に刺激を受けること請け合いである。
2017年6月2日
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ネロ―暴君誕生の条件 (中公新書 144)
- 秀村欣二
- 中央公論新社 / 1967年10月発売
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「暴君」で知られる古代ローマ皇帝・ネロの伝記である。
主にスエトニウス、カッシウス・ディオの史書にあたりながらネロの生涯を描いた一冊。
望んでもいないのに権力欲の権化のような母により皇帝の地位に就かされ、常に母の影響下にビクビクする青年期。
しかしいざ皇帝の座に就けば、その権力が彼に反抗するための力と臣下を与えてくれる。
そしてやっとこさ母を排除した彼には、もうブレーキなど備わっていなかった。
今までやりたかったことを、のびのびと、皇帝命令としてその権限下でやりたい放題やった・・・。
ただそれだけの人物のように見える。
教育ママの手で訳も分からないうちに小学校受験をさせられて、エリート校に入るも、高校あたりでグレる子供みたいな人生である。
ただ、彼が手にしたのは、エリート校の学籍などではなく、当時世界一の権力者の座だったがゆえに、ここまでの「暴君」となりえてしまったという印象を受けた。
同時代史がほぼ残っておらず、後世の、すでに「暴君」としての評価が定まってからの史料しか利用できないゆえに、彼の暴虐性が強調されている面もあるようで、本当に実際は、悪人ではなく、無邪気なお馬鹿さんだったように思える。
2017年5月22日
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水道が語る古代ローマ繁栄史
- 中川良隆
- 鹿島出版会 / 2009年8月1日発売
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古代ローマの水道事情を、現役の土木エンジニアが語る一冊。
内容としては、主にフロンティヌスの『水道書』と、ウィトルウィウスの『建築書』を典拠に、古代ローマ及びその植民都市の水道事情や建築技術、それらの普及度合を概観する。
それ自体はそこそこに興味深いが、判明している客観的事実の羅列の観は否めなく、もう少し土木エンジニアならではの技術面からの解説(特に、古代ローマの技術が現在と比べてもいかに高水準であったか、素人にも分かるような解説)が欲しかった。(江戸時代と比較している場合じゃないよ)
精密な技術で建築されていることは何となく伝わってくるものの、著者自身がそのことを「凄い」だの「素晴らしい」だのという子供の感想みたいな表現で感心するばかりで、読み手としては少し物足りないのが正直なところ。
あと歴史的事実に関する確認が不足しており、明らかな間違いが頻出し、集中力が散ってしまう。出版社も少しは校閲してあげてほしい。
ただ、この時代に、ローマがいかに大量の水を供給し消費していたかと言う点や、帝国各地に同様の技術水準で給水施設を完備する体制(マニュアル化、教育、専門部隊の育成)を敷いていたという点は、やはりそれ自体驚異的で、実に興味深かった。
2017年5月14日
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アウグストゥス: ローマ帝国のはじまり
- アントニー・エヴァリット
- 白水社 / 2013年7月20日発売
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帝政ローマの創始者アウグストゥスの伝記。
誰もが知っている偉人だが、どういう人物かは意外と知られていない人物ではなかろうか。
高校世界史レベルの知識で言うと、思えば不思議な人物である。
若くして突然カエサルの相続人として歴史の表舞台に出現し、革命派の一領袖として気づけば同僚らを圧倒し、元首政を始める激動の前半生と、
単独支配を実現してからの多方面にわたり国力を充実させる君主としての堅実さを示した後半生。
そんな多様な表情を見せるアウグストゥスの生涯と、その時代史を、可能な限り古代の文献を頼りに再現している。
前作ともいえる同じ著者の『キケロ』に比べると、拠って立つ資料の性質上、臨場感は少ない。
『キケロ』の場合個人的な書簡がどっさり残っていたので、個人としての肉声まで聞こえてくるようだったが、アウグストゥスの場合、特に支配権を握って以降は、個人的な通信は少なく、同時代の政治文書も豊富ではなく、後世の人の伝記に拠ることになり幾分か記述が客観的である。
そういう意味で読み物としての面白さとしては劣るものの、この共和政ローマ末期から帝政ローマの開始、そしてアウグストゥスの処世術と政治的手腕については存分に味わえる。
何よりこの人の本は、文章が平易で誰にも読みやすいのが素晴らしい。
ローマ史に興味を持つ人には必読といえるかもしれない。
2017年4月26日
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キケロ―もうひとつのローマ史
- アントニー・エヴァリット
- 白水社 / 2006年12月発売
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共和政ローマ末期を生きた、政治家・弁論家キケロの生涯。そして敗者から見た共和政ローマ史でもある。
キケロはカエサルとほぼ同時期に生き、名門の出ではないながらも執政官まで登り詰め、長きにわたってローマ政治史に影響を与えた人物である。
その立ち位置は、比較的穏健な閥族派(=保守派)であり、伝統を重視する古き良きローマを理想とした。
政治的には、最終的にはカエサル派に敗れ去った人物である。(カエサルより長生きはするが)
すなわち、キケロの生涯を丹念に追うことで、共和政ローマが何故機能不全に陥り、そのまま再起できずに、単独支配⇒帝政へと移っていかざるを得なかったかが際立ってくる。
本書はその記述の多くを、キケロが残した膨大な書簡や著作と言った一次史料に依拠している。
特に親友であるアッティクスに宛てた書簡を追うことで、キケロの心の動きが読み取れるようで、非常に臨場感がある。じわじわとキケロの理想が遠のき、政治的に追い詰められていく時期など、キケロの苦悩が伝わってくるようである。
登場する同時代の人物も生き生きと描かれており、スルスルと最後まで楽しく読める。
キケロは治世においては間違いなく能吏だった人物である。それまでの常識を持って混乱するローマを懸命に建て直そうとした。
ただ激動の時代はカエサルのような桁外れの人物を求めたのだろう。
歴史の面白みがぎゅっと詰まった一冊と思う。
2017年3月27日
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いまの科学で「絶対にいい! 」と断言できる 最高の子育てベスト55―――IQが上がり、心と体が強くなるすごい方法
- トレーシー・カチロー
- ダイヤモンド社 / 2016年11月18日発売
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まさに子育て真っ最中の著者が、親の立場から「科学的なデータに基づく実践的な子育てアドバイスをまとめた」本があれば良いのに、という願望を自ら著作にしたもの。
主に脳科学や発達学、心理学といった分野の研究成果をベースに、より良いとされる子供との付き合い方をTIPS形式で紹介する。
主な対象年齢としては新生児~未就学児程度までをターゲットとしている。
テーマは「愛情」「語りかけ」「生活習慣」「遊び」「つながり」「しつけ」「動く」「スローダウン」の8章。
著者の目標通り、それぞれについて「科学的にはこう言われている。このように実践してみてはどうか」という形式で、1テーマをコンパクトに、要点だけを紹介していく。
(典拠は著者HPに掲載されているらしいが、英語読めないので。。。)
専門家になりたいわけでもない親の立場としては、科学的根拠と言うものを拠り所と思えるなら、確かにヒントに満ちた良い本だと思う。
逆説的だが、本書のどのあたりを多くチェックしたかで、いま自分が子育てのどの分野に悩みを感じているか自己診断できる。個人的には生活習慣、しつけのところで気になるところがたくさんあった。
あまり類書を読んだことがなく、かつ子供が対象年齢にはまっていれば、読んでみて得るところはあると思う。
それにしても、手にとるのが恥ずかしくなるような俗っぽいタイトル&デザインは勘弁してほしい。
2017年2月7日
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デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論
- デービッド・アトキンソン
- 東洋経済新報社 / 2016年12月9日発売
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日本はGDP総額では世界3位の経済大国である。
しかし「人口一人当たり」で見てみると実は世界27位。その他、一人当たり輸出額は世界44位、一人当たり製造業生産額はG7の平均以下。
つまり、生産性がとても低い。
経済大国だなんて言って安穏としてはいられない。なぜならもう「総額では3位」を支えてきた「人口」が減り始めているのだから。
本書は日本経済が本来の力を発揮できていないという、日本人が案外直視したがらない事実を、国際比較で突きつけ、その原因を分析し、なぜ改革が進まないかも分析したうえで、処方箋を示すものである。
様々な国際比較のデータは興味深い。本当に「(生産)人口一人当たり」に置き換えると日本は悉く先進国での順位が低い。
なぜそうなったかと言えば、戦後~高度経済成長期にかけての爆発的な人口増加を背景にした「日本型資本主義」に固執しており、この20年の社会情勢の変化に全く適応できていないからと言う。
正直このあたりの指摘はなかなか面白い。
客観的なデータと、著者自身イギリス人という外部の目から見た日本文化の特異性という人間の目で見た分析がうまくかみ合い、説得力があるし読ませる。
それだけに、解決策の提示があまりに薄いのが残念。
曰く、年金機構を通じて、政府が企業に時価総額の向上というプレッシャーをかけるのが効果的と言う。
これについて、具体的にどの程度の企業に対し、どの程度の影響力(すなわち議決権)をもって行うのか?等の具体的ステップの解説がない。
ただ、海外でもこの方法で、大企業の効率が向上し、GDP向上に効果があったとさらりと述べるにとどまる。
このあたり、先行事例の具体的な制度紹介や日本への適応方法についての提案があれば、より良い一冊だったのだが、少し肩透かしで終わる。
とは言え、教養として一読しても損はないような一冊。
2017年2月7日
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本泥棒
- マークース・ズーサック
- 早川書房 / 2007年7月発売
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第二次世界大戦下のドイツの何の変哲もない街で起こる、一人の少女のドラマ。
里子に出された彼女は13歳で読み書きもまともにできない少女だったが、ふとしたきっかけで手にした本の影響で、徐々に本の魅力に憑かれていく。。。
タイトルからするとあまり想像できないが、泥棒稼業をメインに書いた話では全くない。
戦時下に繰り広げられる、一人の少女の青春であり悲劇である。
本書の最大の魅力は、人物描写の丁寧さにあると思う。
主人公・リーゼルは勿論、少なくともその里親のハンスとローザ、学友のルディ、運命の人物マックス、それと町長夫人と言った主要人物に関しては、もう本を読み切るころには、すっかりこれらの人物が自分の隣人として存在するかのように身近に感じられる「人間性」を持っている。
そして、色々な個性あふれる登場人物ばかりではあるが、共通して言えるのは「心の奥底ではみんな優しい」。限りなく、人間味のある人物たちとの、文字や本を通して紡ぎだされる貧しくも幸せな日々が心地よく流れる。
だから、ここまで丁寧に書いているから、
通常悲劇として盛り上げるべき最期の場面も、最低限の文章で構わない。
ただもう、全てが失われるという事実だけで10章は涙なしには読めない。(エピローグである程度救済されるが)
何でこの人たちがこんな目に遭わねばならないのか・・・と真剣に嘆息してしまった。
とは言え本書は、ヘビーなテーマも内包するが、全体的には、限りなく人間への希望に満ちた優しい物語だと思う。
本書末尾の一文が、著者の本作へのスタンスを全て語っているように思う。
「わたしは人間にとりつかれている。」
人間のことを、信じてやまないのだ。
2017年1月21日
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クレオパトラとその時代―ローマ共和政の崩壊 (1974年) (創元新書)
- 浅香正
- 創元社 / 1974年発売
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「もしクレオパトラの鼻があと3ミリ低かったら・・・」で有名な、世界三大美女にも数えられるクレオパトラ7世を扱った概説書。
クレオパトラと言えば、様々な伝説に彩られた一個人としての特徴がクローズアップされがちだが、本書は「プトレマイオス朝の王として」どのようにふるまったかと言う、クレオパトラの政治的側面に主に焦点を当てている。
プトレマイオス朝の前史から始まり、古代ローマの内乱の一世紀(前133年以降)の政治史を中心に解説しながら、その中でクレオパトラが、王朝の存続のためにどのように動いたかを描いていく。
どちらかと言えば事実に基づいた客観的な記述が中心で、クレオパトラ個人に対する掘り下げは浅いかもしれない。
一方で、ローマ共和政末期史としては非常によくまとまっており、特にオクタヴィアヌスVSアントニウスの歴史的展開のさわりを学ぶのには持って来い。
当時エジプトが持った影響力という普段焦点が当たりづらい面も学べるという副次効果付き。
むしろローマ共和政末期史の入門書としてお勧めの一冊。
2016年12月28日
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ピタゴラ装置DVDブック〈1〉 [?] [ペーパーバック] by
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キケロ (文庫クセジュ)
- ピエール・グリマル
- 白水社 / 1994年10月発売
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「内乱の一世紀」の渦中にその足跡を刻んだ、弁論家にして政治家・キケロの概説書。
日本語で読めるキケロの概説書自体あまり数がなく、その点では貴重である。
1~7章まで時系列でキケロ自身の弁論家あるいは政治家としての活動が列記され、8章がまとめという体裁である。
キケロの弁論活動-著述活動は全て現実の政治活動や政治的状況と不可分に作用しあっているからこその上記の構成となっている。
浮世離れした哲学者でもなければ、自身の利害を優先し原理原則を持たない政治家でもない、地に足の着いたキケロの思索がいかに練り上げられたか。そしてその現実的な性質ゆえに後世に受け継がれていったことが8章を読んでようやく得心がいく。
8章の結論部分を読んで印象は良くなったものの、本書は読者に対してやや不親切で大変読みづらい。
文庫クセジュシリーズにありがちな、限られた紙幅に情報量を詰め込もうとし過ぎて、ほぼほぼ事実の列挙に等しい文章となっていること。登場人物については、ご丁寧に一切省略しないので、文章の大半をローマ人特有の長い名前(しかもラテン語表記付き)が占めているような感を受け、非常にテンポが悪い。
また同時代人を多数登場させる割には、当時の社会的・政治的情勢や政敵らの思惑などについての言及はほぼなく、既に十分な知識を持っている人ならともかく、初学者には分かりづらい構成となっている。
読者へのサービス精神という点を除けば、悪くない入門書。
2016年11月7日
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カエサル (講談社学術文庫)
- 長谷川博隆
- 講談社 / 1994年2月4日発売
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タイトル通り、共和政ローマを終焉に導いたカエサルの伝記。
元々は中高生向けに出版された本の文庫改訂版で、原著自体は1967年のものとのこと。
それゆえ、あまり詳細な史料分析や先行研究紹介などは省いて、時系列に沿って著者の考えだけが結論的に示されていく。
読みやすいと言えば読みやすいが、すこし論証の論理が伝わってきづらいところもあるし、腹落ち度はあまり高くなく、分量の割に「読んだ」という納得感が乏しい。
一方、著者が示すカエサル像自体は興味深い点もあった。
一つには、カエサルは共和政ローマの伝統の「枠内」で、「一人支配」を実現しようとした、という見方である。
結果的には共和政の政体を破壊したために、本人も当初からその気でいたのかと思っていたが、カエサル本人が支配権を獲得する手法としては、
「(ローマの伝統である)クリエンテラ関係の輪を、カエサルを中心に限りなく広めていく」延長線上に、一人支配を実現しようと考えていたとのこと。
彼の政治家としての行動の特徴である、民衆への大盤振る舞いや政敵への寛恕政策も、全ては自分のクリエンテラ関係に人々を組み込もうという観点から整理できるとのことで、これは面白い。
もう一点は、上記との関連で、彼自身が生涯非常に孤独を感じていたのではないかということ。
つまり、周囲との関係は全て「与える者」と「与えられる者」の関係(そうでなければ敵対関係)の中に整理されてしまい、本当の意味で対等の立場で理解しあえる相手がいなかったのではないかとのこと。
本書の記述だけでその点を確証的に窺い知ることは難しいが、これも著者ならではのカエサル像であるように感じた。
カエサル入門として、バランスが良いかと言われれば微妙だが、面白いことは面白い一冊。
2016年10月27日
今季で球団社長を退いたばかりの、前横浜DeNAベイスターズ社長・池田氏の著作。
マーケティング本として売り出しているが、中身は池田氏の経営哲学本と言える。本人がマーケティングこそ経営の神髄と考えているからこそ、両面的な性格を有した一冊となっている。
DeNAに経営母体が変わっても、チームは相変わらず最下位争い。にも関わらず、前代未聞の勢いで来客数を伸ばし続け、球団財政を健全化し、球場のTOBまで成功させた池田氏の、経営に対する考え方が実例を交えて縷々語られる。
具体的な手法も参考になるのだが、それ以上に経営と言うものをどう捉え、どのように社内外と・仕事と向き合ってきたかをひしひしと感じられる。
漲る自信が文章を通じて伝わってきて、とにかく勉強になるだけでなく、勇気と元気が貰える良書。
2016年10月17日