荒木経惟つひのはてに

  • 白水社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560080337

作品紹介・あらすじ

日本人が、まだ知らないアラキ。31枚の写真をめぐる、31の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 荒木の生き様がフランス人の目線で描かれていた。 
    想いを込める、どう意味づけをするのか、極限の状態から分からないものが生まれる。
    エロストタナトス、性と死

  • ・フランスの小説家による見方

  • 『映像はつねに、自らが描きだすものを死に至らしめることであり、その限界において、無償の表象による残酷な舞台を繰り広げることなのだ』ー『センチメンタルな旅かII』

    人は読みたいものしか読み取ることが出来ない。それが論理的でプロトコルのはっきりしている筈の科学的な論文であったとしても。つまり人はそこに見たいものの印を探しだし、意味を投影してしまうのだ。定義された言葉で書かれた文章ですらそうなのだから、まして写真であれば尚更のこと。

    だから、この本の著者であるフランス人が荒木経惟の写真に何を読み取ろうと、それは著者、フィリップ・フォレストの中に予め存在していた概念を押し付けているだけとも言える。それは誰しもに当てはまることであり、敢えて、フランス人が、と言い立てる必要はないのだけれども、そのシニフィエが無意識のうちに読書に忍び込み、鏡を通して見る己自身の姿に違和感を覚えるのに似た感覚を引き起こすことを素直に認めておいた方がよいだろう。但しそれは決して悪いようには作用しない。むしろ違和感に対する気付きとそのその意味するところを理解しようとする心の動きを繰り返すうちに多層的な視点が自然と生まれ、荒木経惟の写真と人生と虚構と事実が、解釈という誤解の中で渾然一体となり、次々に色の移り変わる水面に浮かぶ薄い油膜の美しさを眺めているような心持ちとなる。

    これを荒木経惟の写真に対する解説と読みたい安易な態度もあるにはあるが、事実に対する拘泥から解き放たれたものと受け止めることに異議はない。むしろ、なべて自分自身の読書に対する言い訳めいた擁護を含めて、フィリップ・フォレストの写真に対峙する姿勢を見習いたいとすら思う。写真「から」読み解こうとするものが内なるものの写真「へ」の投影に過ぎないと認識しつつ、その誤解を恐れず、提示する視点が解釈というもの以上に読み手の中に新な視点を生み出すよう促す言葉の連祷。それは自己の再確認でもあり、己の知らない自己との出会いでもある。

    『「それは、かつて、あった」は、たえず「私は、そこに、いた」と混じりあう、と。フォークナーもまた、ほとんど知られていない文章のなかで同様の指摘をしている。文学作品は、ひとが様々な場所に残してゆく落書きに似ている。自分がその場所に立ち寄ったことを証明し、そこにいた瞬間を痕跡として残すためだ』ー『東京IVー「偽日記」』

    それでも優れた写真家は、鑑賞者が投げつけて来る期待や欲望や解釈や更には無視さえをも操ることができるかのようだ。その痕跡が、何時、何処で、如何にして残されたものであるのかを惑わし、自分自身の自由意思に従って写真と対峙しているつもりの鑑賞者をいつの間にか表現者の意図に嵌めてしまうのだ。荒木経惟は間違いなくその意味で天才であると思う。

  • Amazon、¥1520.

  • 荒木客観論

  • 内の要素を絡めつつも、徹底した外からのぶれない視点が美しく、ざわめきすらも受け付けない静謐さがあると思った。それは荒木の写真に共通する「喪」なのではないか、とも。荒木と同様に親近者を早くに亡くした著者が、時に自分を重ねながら道を辿る文章がとても哀切である。剥き出しの欲望を薄く覆う「喪」、荒木の写真を見て改めてそのように思わされた。読後、ぽこりぽこりと何かが沸き立つ本。

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著者プロフィール

1962年パリ生まれ。現代フランスを代表する作家のひとり。1997年『永遠の子ども』でフェミナ処女作賞。ほかに、『シュレーディンガーの猫を追って』、『さりながら』(12月賞)、『夢、ゆきかひて』など。

「2020年 『洪水』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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