モーツァルトとナチス: 第三帝国による芸術の歪曲

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560082607

作品紹介・あらすじ

ナショナリズムと一見無縁なモーツァルトのイメージや作品を、ナチスはいかに政治的に利用していったか。文化の歪曲の実態とユダヤ系音楽家・学者たちの苦闘を、オーストリア併合以前から戦後の軋轢まで、膨大な資料から検証する。

感想・レビュー・書評

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  • ・モーツァルト没後150年記念等

  • ナチスがワーグナーの曲及び考え方を「ドイツ的」として重用していた事は余りにも有名。

    実はモーツアルトにおいても、基本的に同じアプローチを取っていたとは知らなかった。但し、ワーグナー自身がナチスドイツと似たような考え方を持っていたのに対し、モーツアルトには、それこそ「ドイツ的」という言葉さえ当てはまらなかった。

    モーツアルトの3大有名オペラの台本作家はユダヤ人であるし、ザルツブルクを生まれ故郷とするモーツアルトが果たして「ドイツ人」なのか?、旅するモーツアルトがイタリア、フランス、ポーランド、イギリスなどから受けた影響をどう解釈するのか?モーツアルトとフリーメーソンとの繋がりは?

    それらの疑問を見事なまでに葬り去り、自分勝手な解釈に書き換えてしまい、それを事実としてしまうやり方には驚くというよりも呆れる。初めから大きく変えてしまうとボロが出るので、少しずつ巧妙な迄に情報コントロールしてゆく手法には読んでて腹が立ってくる。「ナチスを見習わなくてはならん」と発言する金融担当大臣のいるわが国においても似たような動きがあり心配している。

    それにしても、偏った文化・芸術観なのだけれども、直接的に戦争行為とは関係のない部分にこれだけのエネルギーと財を費やしていたドイツとはある意味恐るべき国である。

    通勤の途中に読む本としてはちょっとヘビー。真面目な翻訳本に良くあるように、節回しが日本のそれと異なり読みが進められない。色々な事が細かに記されているので、かなりくどく感じてしまう。訳をもっと展開させて読み易く出来ないものか?







  • ナチスは権力を掌握するとユダヤ人迫害に匹敵するほど容赦なくフリーメイソンを弾圧した。そのパターンあh似ていて、まず突撃隊が自発的に、あるいはその地方当局の命によって動き、ロッジの活動を強制的に停止させたり財産を没収したりした。それに続いて、1933年4月7日の公務員法制定によって会員個々人が標的となった。多くの会員が仕事を失い、投獄される人もあった。その後の2年間にフリーメイソンの活動は著しく制限される。フリーメイソンの主だった組織は数年のうちに壊滅したが、政府は国内にあるフリーメイソン的精神の残滓を追跡し続けた。ナチスは特に、ドイツ社会と行政に及ぼされているとみられていたフリーメイソンの破壊的影響を除去しようとした。これはまた「ユダヤ・フリーメイソン」の陰謀という神話をプロパガンダの武器として定着させるのにも役に立った。こうして本質的にはフリーメイソン問題はドイツにおいては運動が抑圧されたずっと後になっても、ナチスの主要な関心事である続けた。

  • 同じテーマを扱っているのだから当たり前と言えるが、本書が描き出す事象はその滑稽なまでの醜悪さにおいて、「第三帝国と音楽家たち-歪められた音楽」(マイケル・H・ケイター)と共通する。ナチスが躍起になって「ドイツ人」として扱ったモーツァルトは、1945年以後は断固として「オーストリア人であり、『ナチの末裔』ではない」とされ、もっぱらかの国の観光資源として利用された。
    …チェコの観光協会が作成した「モーツァルトはチェコを五回訪れた。さて、あなたは?」というポスターに、彼らは猛然とかみつく。モーツァルトの時代に「チェコ共和国」などというものはなく、モーツァルトが訪れたプラハはボヘミアであり「ドイツ」であって、我らが誇るべき天才はただの一度も「チェコ」を訪れたことなどない、と。
    …モーツァルトのオペラの中でも特に人気の高い「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」三作の台本は、ユダヤ(系イタリア)人ダ・ポンテによって書かれた。これをドイツ語訳によって上演する行為はナチス以前から行われていたが、古来定番とされてきた版を作ったのはあいにくユダヤ(系ドイツ)人だったため、新訳が作られ歌手たちがそれを覚えきるまでの間、訳者ヘルマン・レヴィの名をプログラム等から徹底的に隠滅する作戦が取られた。翻って戦後、ドイツにおけるオペラ上演が復活した時には、その名はことさらに大きくプログラムの表紙に刷られた。
    …モーツァルトに代表される音楽界からユダヤの影響を取り除く試みは徹底して行われたが、重要な式典に大御所リヒャルト・シュトラウスを駆り出すために、彼の共同作業者としてユダヤ人の出演をしぶしぶ認めた。また、ユダヤ人が関わってはいるがそれをレパートリーから排除することは一般聴衆が絶対に受け入れないだろう人気曲(「白鳥の歌」、「詩人の恋」、「カルメン」、ユダヤ人によるカデンツァが定着した協奏曲など)についても、「玉虫色」の決着が図られた。

    ナチスがやらかした所業は言うまでもなく恐ろしいのだが、一方でばかばかしく、子供っぽく、場当たり的で、これでよく一国の運営が成り立っていたものだとあきれる思いがする。ナチスとはあらゆる意味で「愚行」であった、それがよくわかる一冊だった。

    2016/5/3~5/11読了

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、2階開架 請求記号:762.34//L57

  • エリック・リーヴィー『モーツァルトとナチス 第三帝国による芸術の歪曲』白水社。無縁に見える組み合わせだが、本書は、ナチスによるモーツァルトの政治利用を膨大な資料から検証する労作。コスモポリタン的モーツァルトは使いにくいが、音楽者たちの手によって「ドイツ性」が高調されてゆく。

    ナチはモーツァルトの「不都合な事実」を歪曲し、国内外へのプロパガンダに動員する。戦中のモーツァルトはさながら「名誉ナチ党員のように持ち上げられた」。しかしモーツァルトらしさ故か、ナチによる「アーリア化」は中途半端の感もある。

    戦後、オーストリアはドイツから独立する。ここでもモーツァルトは再び動員される。ここでは友愛とコスモポリタンの象徴としてのそれである。芸術の歪曲の実態を検証する本書は、政治による文化利用の愚かさを痛烈に批判する。了。

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