アフガン侵攻1979-89: ソ連の軍事介入と撤退

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560082669

作品紹介・あらすじ

侵攻の歴史的経緯から全面撤退に至るまで、ソ連側から見た実態を膨大な資料に基づいて鮮やかに描き出す。元駐モスクワ英国大使の歴史家が明かす、戦争の全貌と真実。冷戦期の「神話」を覆すアフガン戦史の決定版。

感想・レビュー・書評

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  • ソ連によるアフガニスタン侵攻の10年が詳細に書かれている。ここまで網羅されている内容を日本語で読めるなんて幸せである。
    内容がかなり詳細なので、この本だけでソ連進攻を理解するのは難しいので、岩波新書のアフガニスタン現代史などで背景知識をつけてから読むことをオススメします。
    三部立てで、歴史の流れ、市民の生活など書かれているので多方面からの視点でみることができます。
    しかし、この進攻がソ連崩壊へと繋がっていったのかと思うとこの時代を生きていた者としては感慨深い。

  • 旧ソ連のアフガン侵攻を膨大な史実をベースに再現したドキュメント。

    1970年代の首都カブールはミニスカートの女子大生が闊歩する開放的な街だった。ソ連が侵攻したのは、新たに樹立された共産党政権が改革を強行し、内戦が勃発したからだった(ソ連軍が最初にやったことは「共産政権」の大統領を殺害することだった)。が、一方で、地方部族をもっとも激怒させた「改革」とは、「女子義務教育を地方にも広げる」ことだった。単純な善悪目線でこの国の歴史を振り返ることの危険に気づかされる。

    ソ連は早期の撤退を模索し続ける。しかし、ゲリラ戦で補給を分断され、したくてもできない。国内には徹底的に情報統制を敷き、ソ連軍が外国で戦闘していることを認めない。戦死したソ連兵の遺体は、栄誉礼に迎えられることもなく極秘に故郷の村に返された。このことは遺族の憤激を招いた。

    国際世論は「ソ連軍の非人道行為」を猛烈に批判した。しかし、同じくらい西側諸国による戦略的プロパガンダも行われていた。ソ連軍の非道の象徴として国連の報告書にも記載された「こどものおもちゃに見せかけた爆弾」を巡る真相は興味深い。

    個人的に一番胸に迫ったのは、その多くもまた貧しい農村出身であったソ連兵の述懐。「…自分の置かれている状況がとりわけ耐え難くなっているときには、何もかもアフガン人のせいだと思えることもあった。…だが、不毛の土地を耕す人々の姿を目にすると、再び同情の念がこみあげてきた。」(P.225)。

    総じて、ソ連・イスラム勢力、それぞれの立場に十分に配慮がなされ、勝者である西側の目線で断罪するような態度は一切慎んでいたことが印象深い。全体を貫く「フェアネス」が、本書の価値の根幹であったように思う。

  • バンジシールの獅子と呼ばれたマフマド・シャー・マスードに
    関した本を入手した。読もうと思ってはたと気が付いた。

    アフガニスタンに関する本は何冊か読んだが、ソ連侵攻に
    関してはきちんと読んでいなかった。分からないことも多い
    軍事介入だったので、まずはアフガン侵攻を先に読んで
    おかなければと探したのが本書だ。

    「ソ連は不凍港を手に入れるためにアフガニスタンに侵攻
    した」。当時、流布していた西側のプロパガンダを、私も
    鵜呑みにした。

    だが、元々はアフガニスタン国内の内戦である。クーデターに
    より誕生した共産主義政権に対して、イスラムの教義を重んじる
    ムシャヒディンがゲリラ戦を挑んだ。

    アフガニスタン国内のことはアフガニスタン人同士で解決して
    くれよ。え?援助はするけどさ、うちが軍を進駐されるのは
    筋違いじゃね?

    ソ連も最初は乗り気ではなかった。だが、アフガンの同志たち
    は再三に渡ってソ連軍の進駐を要請する。そして始まった泥沼
    の9年は、アフガン国内にも派遣されたソ連兵たちにも深い傷を
    残した。

    読み進むごとに目からうろこである。いかに日本で報道されて
    いたソ連のアフガン侵攻がアメリカの言い分を垂れ流しして
    いたかが分かる。

    ソ連侵攻前夜から9年に渡る侵攻と撤退、その後までを俯瞰して
    描いた良書である。何冊ものアフガン関係の本を読むのなら、
    本書1冊で十分ではないだろうか。

    徴集されたソ連兵のその後は切ないし、ソ連首脳部でも侵攻に
    反対していた人々が多くいたことに驚く。

    そして印象深かったのはやはりマスードである。9.11アメリカ同時
    多発テロの2日前に彼が自爆テロによって暗殺された。その時、
    プーチンが警告を発していたことも印象に残る。

  • [誘われた巨人]およそ10年に及んだソ連のアフガニスタン侵攻を、政治家から一兵士のレベルに至るまで、あらゆる観点から記した一冊。なぜ介入の早期終結を望みながら、ソ連は「帝国の墓場」にのめり込んでいったのか。そしてその大きすぎた代償とはいったい何だったのか......。著者は、冷戦の終焉をモスクワ駐在のイギリス大使として迎えたロドリク・ブレースウェート。訳者は、政治経済に関する著書の翻訳を多数手がける河野純治。原題は、『Afgantsy: The Russians in Afghanistan 1979-1989』


    お見事の一言。その影響の大きさに比してアフガニスタン侵攻に関する日本語の著作というのは数が限られるように見受けられるのですが、その情報の「空白」を素晴らしい形で埋めてくれる作品かと。ソ連側の豊富なインタビューや資料を乾いた筆致で記していることもあり、絶妙なバランスの上に成り立った力作だと思います。


    全編を通して素晴らしい作品なのですが、特にアフガニスタンに次第にソ連が介入をしていく様子を描いた前半は、ここ最近読んだ作品の中でもトップクラスでした。読み通すためには背景知識が必要なのではないかと思われる方もいると思いますが、訳がまわりくどくないこともあって非常に読みやすいのも高評価のポイント。ぜひ一読をオススメします。

    〜結局ソ連には、優れた戦術はあっても、実行可能な戦略がなかったのだ。戦闘には勝てても、戦争に完全に勝利することはできなかった。軍事、政治の両面における、ありとあらゆる努力は無駄に終わった。最終的に、なんとかしてこの泥沼から抜け出す以外、選択の余地はなかったのである。〜

    紹介できませんが、アフガン侵攻の理由を読み解こうとしたアメリカの情報分析に関する箇所も一見の価値アリ☆5つ

  • ソ連によるアフガン侵攻について政治的大局観だけでなく、
    兵士一人ひとりの現地での生活と
    帰国後の苦悩を絡めて詳細に描く。
    アメリカの視点に関する記載が薄い点や、
    内容に盛り上がりが少なく淡々と進む点などあるが、
    アフガン侵攻とは何だったのかを知るためには
    オススメしたい一冊。
    折に触れてベトナムとの比較も行っており参考になる。

  • ソ連のアフガン侵攻も30年経ってやっと歴史の一部になったなぁというのが率直な感想。ソ連は実はアフガニスタンに介入したくなくてカルマル政権を必死にコントロールしようとしたのだがバカな急進左翼であるカルマルが暴走して結局泣く泣く介入するはめになった、とか。長い間戦争したけどソ連軍は結局拠点を一つも失わなかった、とか。今はない国の今は忘れ去られた戦争の記録を読むのはある種異世界を彷徨う幻覚をもたらしますね。

  • 本書は題名から想像がつく様に今は存在しない国家、ソ連によるアフガニスタンへの軍事侵攻をテーマにした書籍です。
    多岐にわたる詳細な解説が記載されており、冒頭の帝国主義の時代、中央アジアの覇権を巡ってイギリスとロシアの間で行われた「グレートゲーム」の歴史紹介に始まり、
    以降、ソ連がアフガニスタンへ軍事進攻するに至った経緯とその後の軍事作戦について取り上げている第1部。
    兵士たちの生活や顧問としてアフガニスタンに派遣された軍人、民間人について取り上げた第2部。
    そしてソ連撤退後、帰還兵を待ち構えていたつらい現実を取り上げた第3部と続きます。

    1970年代には衰退の兆しを見せていたソ連ですが、アフガニスタン侵攻やチェルノブイリの事故なども重なり、ついには国家が消滅したのはご存知の通り。

    そしてアフガニスタンで屈辱を受け、帰還後にはソ連社会からも冷遇された軍人たちが、ソ連崩壊から新生ロシア誕生に至る経緯で顕著な動きを見せた事や、またプーチンの権力の背景に力の省庁と呼ばれる(各省ごとにその程度に差はあれども)軍事力を有している省庁の支持がある事など、現在ロシアの政治状況を紐解くヒントを得ることができます。

    このヒント、もしくは教訓は、ロシアに限定されるものではなく、例えばソ連のアフガン侵攻を受けたアメリカでは「ソ連がアフガンを足場にインド洋への進出を狙っている」との現実を無視した考えに基づき、パキスタン経由でムジャヒディンに様々な援助を提供。
    それが現在では同国を消耗させている「テロとの戦い」に結びついています。

    また本書によれば、そもそもソ連のアフガン侵攻自体も、アフガニスタンの一般国民は共産主義が提供する法と秩序、男女平等、教育の機会を歓迎するとの希望的観測に頼っていたとの事。

    これはつまり、現実を無視すれば、勝者になろうが敗者になろうがに関わらず、必ずしっぺ返しを食らうと言う事なのではないでしょうか。


    本書の内容は多岐にわたり、それぞれ詳細なものとなっています。
    従って、ここでその全てを紹介するなどは到底無理です。

    だからと言う訳では御座いませんが、以下に本書内に記載されていたある女性帰還兵の言葉を引用し、この書評を締めたいと思います。

    「私たちは、あの戦争を正当だと認めた国によってアフガニスタンに派遣されたのです。
    ところが帰国してみると、その同じ国が戦争を否定していました。

    腹立たしいのは、一般国民の頭の中から私たちの存在がかき消されてしまったことです。
    つい最近まで『国際任務』と言われていたことが、今では愚行だったと考えられています。
    それを世間は、すでに亡くなった二、三人の人たち(ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネンコ)のせいにしています。それ以外の人間はみんな無罪だとーーーただし私たちをのぞいて! 

    たしかに私たちは武器を使って人を殺しました。
    そのために武器を渡されていたのですから。

    私たちが天使になって帰ってくるとでも思っていたのですか? 

    もちろん犯罪者、麻薬中毒者、悪党もいました。
    でも、その種の人間はどこにだっているでしょう? 

    アフガニスタンで戦った者たちは、誰が何と言おうと、心理的社会復帰対策を必要とする犠牲者として扱われる
    べきなのです」。

  • ソ連軍のアフガンでの10年間をが読みやすく描かれていて、面白く読めた。

  • 3部構成。1979年ソ連軍の侵攻とアミン大統領殺害までが1部。ここまではかなりスリリングな展開です。
    駐留中を扱った2部と1989年の退却を扱った3部は、散文的である意味グタグタ。
    これは本のせいではなくアフガン侵攻自体がグタグタな為。
    大きな作戦も無くひたすらゲリラ相手に消耗戦を繰り返すので、スリリングな終始一貫したストーリーとはならない。
    代わりに2、3部は、部隊レベル、兵士レベルで起こったことが、散文的に並べられている。
    新聞のプロパガンダ的な記事しか知らなかったので、実際のソ連軍、というものの一端と、侵攻の発端がどういうものだったかがわかる良書。
    ゲリラ相手の戦闘は古今東西を問わず住民を巻き込むので、2、3部はかなり悲惨で読んでいてツラが、、、。

  • ソ連、アメリカの2大国が抜け出せないアフガニスタンの泥沼の歴史。

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著者プロフィール

元外交官、現代史家。1932年ロンドン生まれ。1950~52年英国軍情報部員としてウィーンに駐在。52~55年ケンブリッジでフランス語とロシア語を学ぶ。1955~92年英国外務省勤務。この間、ジャカルタ、ワルシャワ、ローマ、ブリュッセル、ワシントンなどに駐在。88~92年にはモスクワ駐在大使としてソ連崩壊前後の状況をつぶさに観察。92~93年メージャー首相外交政策顧問。引退後は、ドイツ銀行上級顧問、王立音楽院長などを務める。著書にAcross the Moscow River (2002)、邦訳書に『モスクワ攻防1941』『アフガン侵攻1979-89』(以上、白水社)がある。

「2020年 『ハルマゲドン 人類と核(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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