長い物語のためのいくつかの短いお話

  • 白水社
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本棚登録 : 87
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560094907

作品紹介・あらすじ

人生の旨味と苦味と可笑しみを洒脱な筆致で描く、著者92歳の到達点!「ある受刑者」「サンドイッチマン」「記憶喪失」ほか全13篇。

感想・レビュー・書評

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  • いくつかの短いお話というように本当に短い話が連なる作品集。古いフランス映画でよく見たオムニバス形式のような趣きがある。好きな人は好きなんだろうな、と思った。『イシュマエル』と同時に読んでいたせいか、やや物足りなさはある。

    でも(読書の醍醐味だと思うんだけれど)いくつかの素敵な表現に出会えた。

    例えば、シューマンのピアノ曲集を聴き、元恋人を思う場面、や「彼にとっては、音楽が感情や感動の推進力なのである」
    という表現や、

    文学的野心に満ちた青年が持った野望についての描写。「第一章が書き終わっていないのに、彼の頭のなかには五百ページの物語がハンダースばかり、すでに浮かんでいるのだた」

    こういう描写のある小品集、ご興味ある方はぜひ。

  • 【92歳フランス人作家の書かれた短編集】

    フランス人作家の、生前最後の短編集とのことで、著者が92歳の時に出されたらしい。

    彼自身の人生を思い返したりしている部分もあるようだと、訳者あとがきで書かれていた。世代も場所も違うので、話についていけるかなと少し不安だったけれど、不思議なぐらい難なく読めた…。

    パリの、具体的な地名や通り名が出てきたり、本当に具体的な自分仏像が短いストーリーの中で描かれていたり、本当に合ったことなのかなと思わせるような…

    主人公の人間的な部分というか、わざとじゃないんだけれどなにかと間違った行為をしてしまったような、それは思い返せば反省しているのだけれど、その時はそうもいかなかったようなぶぶんもあって、完ぺきではない人間像が描かれている。



    「サンドイッチマン」というバイト(?)を初めて知った。人間広告。ちょっと印象的なストーリー。なんだか分かる、というか。そんな状況が。



    年齢を重ねるともに過去の振り返り方、自分の過去の捉え方も変わるし、記憶も変化する。(老いとともに柔らかくなる?)自分に対しても、他者に対しても。

    そして、記憶の中でも、人を大事にすることができるんだろうと思ったり。



    __記憶には二種類あるにちがいない。歴史的記憶とも呼べる、人生で学んだことを保持する記憶がまずある。そして、もうひとつの感情的な記憶は、変化し進化するものであって、なにも保証してくれない。つまり、人がある存在に対して感じたことは、矛盾を意識することなく、ゆっくりと、あるいは突然に、変わってしまうのである。愛情から憎しみへと、憎しみから愛情へと、人の心は移り変わる。現在の情念に食い尽くされて、以前のできことの記憶も失ってしまう。ベアトリスの場合が、まさにそれであった。(本文より)

    __やっぱりメモでも取って、リストや目録を作成しておくべきだった。そうすれば、思い出すのに役立ったはずだ。みじめな結果を前にして、彼が感じたのは、 自分が過去を忘れてしまったということではなかった。むしろ、過去のほうが自分のことを忘れかけている、そう思うと、彼はなんだか、とても空しい人生を過ごしたよう気がした。(本文より)

    著者の記憶にもたくさんのストーリーがあったのだろうと思う。

  • 真面目かと思えば、各短編の終わり方が面白くて、じわじわとロジェ・グルニエの良さを感じた。

    自分の新しい恋人をまた取られたくないから友情はここまでと言われるブロッケン現象、人生を振り返り自ら命を断とうと試みを止めようとした矢先にバランスを失った老人、に対する締めがこれ笑。

    「訪問者たちはきびすを返すと、階段から上の階にのぼっていく。「エホバの証人」の二人で、来世のいのちを信じなさいと個別訪問しているのだった。」

    オリヴィエが童貞を失う「オテル・マティニョンの解放」もクスッとした。

    愛犬と愛妻について語るレオノールもすごく好き。

    不倫や恋の話が多く、フランス人は恋多き国民と言われるものの、知人を見ている限りはそんな感じがしなかったが、その考えに信憑性を感じさせる本だったなとも思った。

  • ショートショートのようなサイズのお話の短編集。それぞれにノスタルジックに寂しくてどこか可笑しい。

  • 孤独の静けさがきこえる

  • ===qte===
    長い物語のためのいくつかの短いお話 ロジェ・グルニエ著 皮肉と哀愁漂う人生の断片
    2023/6/3付日本経済新聞 朝刊
    わが国でも読者の多い短編の名手グルニエの、生前最後の作品集である。わずか4ページの作品から、最長でも二十数ページの短い物語が、あわせて13編収められている。それぞれ独立した話が並んでいるが、通底するいくつかのテーマが見えてくる。


    老いや、記憶とその欠落は、誰も避けて通れない。「夫に付き添って」では、アルツハイマー病で老人ホームに入所している夫を見舞った妻が、それまでの夫婦生活を追想して感慨にふけり、帰ろうとすると夫の頬が涙で濡(ぬ)れていた。ところが現実には、ホームにいるのは妻で、夫が見舞ったことが、最後の一文で判明する。

    「記憶喪失」では、公証人事務所に勤め、今は引退した男が、かつての同僚だった女性たちとの恋愛関係の細部が思い出せなくなって絶望する。自分が過去を忘れたのではなく、「過去のほうが自分のことを忘れかけている」。90歳を過ぎてこの短編集を刊行した作家にとって、快楽の記憶が失われるのは悲痛な体験だろう。

    中年あるいは初老の男が、寂しさのなかで年下の女性に思いを寄せる、という物語がいくつかある。カフェ・レストランの楽団で毎晩演奏している男が、一夜を共にした娼婦に心ひかれ、その後彼女を探しまわる(「チェロ奏者」)。書店員の男が、同僚の女性と不倫の恋を続けるが、やがて女が愛想をつかして離れていく(「動物園としての世界」)。通俗小説に堕しかねない素材だが、グルニエの手にかかると上品な皮肉が効いて、そこはかとない余韻を残す。

    その他、男同士の微妙な友情とその亀裂、夫婦間のすれちがい、ありえたかもしれない、しかし実現しなかった男女の情念などが、さまざまな状況をとおして描かれる。うまくいかない人生の断片を巧みに切り取り、結末はときに宙づりのままで、そこにユーモアの混じった哀愁が漂う。

    短編とはいえ、それぞれの作品には語られない部分、空白の時間があり、読者の側がそれを想像力の働きで、みずから補いたい欲求に駆られてしまう。いわば書かれなかった長い物語が立ち現れてくるのであり、それがタイトルの意味につながる。流麗な訳文と、懇切丁寧な「訳者あとがき」を味わっていただきたい。

    《評》仏文学者 小倉 孝誠

    (宮下志朗訳、白水社・2860円)

    ▼著者は19年フランス生まれの小説家。邦訳に『編集室』『ユリシーズの涙』など。2017年没。

    ===unqte===

  • 人生のちょっとしたエッセンスとして、短い物語が必要なときってあるよね。

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著者プロフィール

Roger Grenier(1919-2017)
フランスの小説家、ジャーナリスト、放送作家、編集者。
ノルマンディ地方のカーンに生まれ、フランス南西部のポーで育つ。大戦中はレジスタンス活動に関わり、戦後アルベール・カミュに誘われて「コンバ」紙の記者としてジャーナリストのキャリアをスタート。その後、ラジオの放送作家などを経て、1963年よりパリの老舗出版社ガリマールの編集委員を半世紀以上務めた。1972年、長篇『シネロマン』でフェミナ賞受賞。1985年にはそれまでの作品全体に対してアカデミー・フランセーズ文学大賞が授与された。刊行したタイトルは50以上あり、とりわけ短篇の名手として定評がある。邦訳は『編集室』『別離のとき』(ともに短篇集)、『黒いピエロ』(長篇)、『ユリシーズの涙』『写真の秘密』(ともにエッセイ)など。亡くなる直前までほぼ毎日ガリマール社内のオフィスで原稿に向かっていたが、2017年、98歳でこの世を去る。本書は生前最後の短篇集。

「2023年 『長い物語のためのいくつかの短いお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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