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著者 :
  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560095317

作品紹介・あらすじ

受け継がれる命の物語
 山深い農村が千年に一度の大日照りに襲われた。村人たちは干ばつから逃れるため、村を捨てて出ていく。73歳の「先じい」は、自分の畑に一本だけ芽を出したトウモロコシを守るため、村に残る決意をする。一緒に残ったのは、目のつぶれた一匹の犬「メナシ」。メナシは雨乞いの生贄として縛り上げられ、太陽の光にさらされ、目が見えなくなってしまったのだ。
 わずかなトウモロコシの粒をめぐり、ネズミとの争奪戦の日々が続く。やがて井戸も枯れ果て、水を求めて谷間に赴くと、池でオオカミの群れと出くわし、にらみ合う……。
 もはやこれまでか……先じいが最後に選んだ驚くべき手段とは?
 ネズミやオオカミとの生存競争、先じいとメナシとの心温まるやりとりを中心に、物語は起伏に富む。意外な結末を迎えるが、受け継がれる命に希望が見出され、安らかな余韻を残す。作家は村上春樹に続いてアジアで二人目となる、フランツ・カフカ賞を受賞し、ノーベル文学賞の次期候補と目される中国の巨匠。本書は魯迅文学賞をはじめ、中国国内で多数の栄誉に輝いている。また数多くの外国語に翻訳され、フランスでは学生のための推薦図書に選定されている。

感想・レビュー・書評

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  • 村に一人残った男の話というとリャマサーレスの「黄色い雨」を思い出した。「黄色い雨」が「哀切」なら、本作は「気骨」という言葉が一番に思い浮かぶ。

    年齢を重ねていくごとに重みが増しそうな、神話的な広がりを感じられる作品だとおもった。
    閻連科は初めて読んだ。「愉楽」も気になるが、今はまだ読める自信がない。

    個人的には、犬を蹴り飛ばす描写は読んでいて辛かった…。(犬に対する)愛情はあるもののやはり辛い。

  • 読書会の課題本として紹介され、手に取る事になった。

    この本は現在絶版となっており、たまたま日本橋の誠品生活に在庫があった為そこで購入した。

    2016年出版当時、話題になっていたのかWeb上でのレビューや書評がその時期に集中していた。

    あらすじは、山間部のある田舎で日照りが続き、村人の殆どが逃げ出したにも関わらず、そこに残って一本のトウモロコシを育てる先じいとその相棒の盲犬メナシによるサバイバルというものだ。

    日照りがきつく、ジリジリと世界が焼かれていくような毎日、日の光を天秤で測って重さに変換される描写における光の持つ強さや、匂いを色で表現する描写からの差し色のような効果のせいか、
    自分には影絵のようなコントラストが凄く強いイメージとして物語が湧き上がってきた。

    全編を通して水や食糧がどんどん無くなっていくなかでのトウモロコシを育てるという絶望的な状況は変わらず、好転するとみえた事態もすぐに覆される。
    それにもかかわらず何のために先じいは水をやり、守り育てていくのか。そういう疑問を持ってもおかしくないのだが、不思議とおかしいと感じない、それは自然で、切実な行為に思えた。
    自分にはトウモロコシを育てて食べて自分自身を生かす為というよりは、そのトウモロコシが自身の生きた証として、誰にも忘れられない存在証明のようなものとして機能しているように感じた。
    それだけに先じいの切実さを感じたのかもしれない。

    この話の中で言葉を喋っているのはほぼ先じいだけで、メナシもそれ以外の様々な動物ももちろんトウモロコシも喋らない。先じいは孤独である、しかし、メナシと互いに支え合いながら、日照りと闘う。
    本当に長く闘ったように感じた。
    全150頁ほどの中編にも関わらず、頂点が見えてるのに近づかない山を登るような、そういう読後感が残った。

  • 中国の小説家、閻連科の中編小説。
    私はこれが最初の閻連科作品なのだが、一般的には閻連科は、反体制であるとか過激であるとか、どちらかといえば「狂暴」なイメージで語られる作家であるらしい。著者自身、あとがきでそう述べている。だがこの作品は、『愉楽』や『人民に奉仕する』といった「反体制」的な彼の「代表作」とは異なる趣きで、静かな余韻を残すものである。

    大昔、日照りの続く村。種まきも終えてしまったのに、一向に恵みの雨は来ない。
    村人は皆、村を見捨てて避難していった。
    残ったのは「先じい」と目が見えない黒犬「メナシ」。
    先じいは畑に1本のトウモロコシが残っているのを見つけ、これに賭けてみることにしたのだ。
    72歳。新天地に辿り着けるかもわからない。何とかここで踏ん張ってみよう。
    その日から、先じいとメナシの苦闘の日々が始まる。

    村人たちの留守の家を回り、食糧を探す。
    枯れかけた井戸に布団を下ろして水を吸わせる。
    ネズミからトウモロコシを守る。
    遠くに池を見つけ、水汲みに奔走する。
    オオカミと対決する。
    飢えと渇きに苛まれる先じいとメナシに、次々と困難が訪れる。

    乾いた大地は、現実の世界のようでもあり、神話の世界のようでもあり、ファンタジーのようでもある。
    色の付いた風。重さのある光。
    人語を解す犬。押し寄せるネズミの大群。

    雨は降らない。トウモロコシはまだ実らない。
    先じいはついに最後の決断をする。
    目の見えないメナシに、先じいは1つの提案をする。
    1人と1匹の絆の強さに胸を打たれる。

    世界は残酷で、でも美しい。
    いのちは弱く、けれども強い。
    世界各国語に翻訳されたという、普遍を湛えた珠玉の物語。

  • 大日照りと不作に耐えかねた村人たちが村を捨ててよその土地にむかったあと、村にひとり残った老人の「先じい」と目の見えない犬の「メナシ」が、1本だけ残されたトウモロコシの苗を懸命に育てようとする、というあらすじ。

    昔ばなし風のシンプルな舞台設定で描写も簡素だけど、そこから立ちのぼる息遣いや匂いは鮮烈で、情景がぱあっと脳内に広がってきた。太陽をモチーフにした芸術作品は世にたくさんあれど、トウモロコシを守る話はそんなにないのでは。自然との対決、死に抗う生命力といったテーマや簡潔な文体から、ヘミングウェイの『老人と海』なんかを連想したけど、もっと過酷、もっと辛抱強いかも。初めて読んだ作家だけど、老人、盲犬、太陽、トウモロコシという4つの種からこれだけ大きくゆたかな物語を実らせることができるなんて、すごい人だなと思った。

  • 中国版『老人と海』
    年老いた先じいの高潔な精神と盲犬との愛情に心を揺さぶられます。
    しかし、どんなにお腹空いててもネズミは食べちゃいかん。

  • 日照りの続く村に残って一本のトウモロコシを実らせることに命をかける先じいと盲犬のメナシの物語。

  • 「老人と海」ならぬ「老人と大地」
    圧倒的な自然を前に、ただ敗れるだけではない何かを残そうとする人間の意思。

    あとがきいわく、“尊厳とは人生が内包する意志の力である。簡単に言えば、人生において示される気骨と風格である”か。

  • 過酷な自然と戦いながら次世代に命の糧を残そうとする寓話。犬がいうことを理解し過ぎたり、とうもろこしにそこまで執着する意味が分かりにくいし、植物の生育障害とその反応に違和感はあるけど、そこはファンタジーと思えば気にならない。
    よくよく考えると、ずいぶん身勝手な主人公である。主人公からは、何か特別な信仰や教養、倫理観は感じられない。本能の奥底のところにある、生命を繋ぐことの使命感のようなものが描かれていると言えば良いだろうか。

  • 著者あとがきで「今までとは違う自分を見せられた」見たいこと書いてて、確かに今までと違うんやけど、オイラが読みたいのはこんなに字が大きくて本文用紙が厚くて行間と上下余白広い本ではないのよ。
    いや、外見の話はさておき。豊崎社長が「ケモノ好きは泣く」みたいなこと書いてたと思うんやけど、ケモノ苦手やしな。ネズミとの戦いとかはマジックリアリズム感あって良かった気もするけど、全体としてはあまりピンと来ず。まぁ好みの問題かなぁ。

  • 杏の本からだったか。頁数は少なく文字も大きいから、物理的に読みやすくはあった。じいと犬の話なんだけど、悪く言えば単調で、しばしば意識が飛んだ。

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著者プロフィール

1958年中国河南省生まれ。80年代から小説を発表。2003年『愉楽』で老舎文学賞受賞。その後、本書を含め多数の作品が発禁扱いとなる。14年フランツ・カフカ賞受賞。ノーベル賞の有力候補と目されている。

「2022年 『太陽が死んだ日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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