図書館 愛書家の楽園[新装版]

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560096444

作品紹介・あらすじ

稀代の愛書家による至福のエッセイ

 libraryとは、図書館に限らず、書斎や書庫など、複数の本が集まった状態、または場所をさす。データをまとめたファイルや、資料室を意味する場合もある。鞄に入った数冊の本も、ロバの背に乗せて運ばれる巡回図書館も、すべてlibraryである。
 なぜ人は書物という形の情報(データや記憶とも言いかえられる)を集め、図書館や書斎を形作るのだろう?本書はこの問いに始まり、古今東西の実在・架空の図書館を通して、書物と人の物語を縦横無尽に語る。サミュエル・ピープスの書棚の工夫、キプリング、ボルヘス、セルバンテスらの書斎の本、ラブレーやボルヘスらが思い描いた想像の書物と想像の図書館、アントニオ・パニッツィの図書館改革、ナチスやソ連の強制収容所にあった図書室など、数々の興味深いエピソードとともに、あらゆる角度から図書館の歴史に光があてられていく。書物と人の過去・現在・未来を探る、至福のエッセイ。
 著者は1948年ブエノスアイレス生まれ。学生時代、書店でアルバイトをしていたときにボルヘスと知り合い、視力を失いつつあった作家に本を朗読した経験が大きな糧となる。数々の国際的な文学賞を受賞し、2018年度グーテンベルク賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • ブエノスアイレス生まれの文筆家
    アルベルト・マンゲルの
    「なぜ、人は情報を集めるのだろう?」(p.8 はしがき)
    ――その、「やむにやまれぬ欲求」をテーマにした、
    本・書斎・図書館を巡る文化史エッセイ。
    書物を蒐集し、
    閲読することへの愛に満ち溢れているが、
    同時に、人間の尊厳や、
    権力・全体主義への抵抗について訴えてもいる、
    薄暗く、しかし、
    仄かに暖かい「夜の図書館」【*】の見取り図。

    【*】原題は The Library at Night

    興味のある本は多々あれど、
    お金を払って買ってまで読みたくはない、とか、
    納税者の権利として自治体の公共図書館を活用しなければ
    損をする――といった発想の持ち主に向けた
    ガイドブックではないので、ご注意を(笑)。

    以下、細々とした読書メモ。

    ■神話としての図書館
     著者自身の理想の書斎について
     ~アレクサンドリア図書館の話。
     いくつかの歴史的記述を繙いても、
     その外貌を推察することはできないし、
     消滅についても諸説紛々だが、いずれにせよ、
     それは蔵書が失われるとき、
     自らをも灰燼に帰さずにはおかない読者の姿を
     体現していたに違いない。
    ■秩序としての図書館
     本の蒐集と分類・整理について、
     あるいはデューイ十進分類法の功罪。
     愛書家個人が夢想する、
     連続したイメージの横溢する「無限の図書館」に
     目録は必要ない。
    ■空間としての図書館
     膨れ上がる蔵書への涙ぐましい対応。
     天井からぶら下げる(?)書棚、
     聳え立つ高い書棚のための
     車輪付き階段(上部の物見台に書見台と座席)など。
     スペースを空けるために電子化されたデータの
     消失への危惧。
     ダランベールと共に『百科全書』を生み出した
     ディドロの功績。
     実は世界そのものが一大百科事典であり、
     無限の図書館であるというボルヘスの慧眼。
    ■権力としての図書館
     知識を独占し、運用することと、権力の掌握。
     成功した実業家の慈善活動としての公共図書館運営。
     権力者の裏の意図はともかく、
     叡智の結集した場所を活用し、学ぶことは、
     すべての市民にとっての権利である。
    ■影の図書館
     歴史上の禁書・焚書→図書館の破壊について。
     現代にも検閲はあるが、無限のサイバー・スペースに
     ヴァーチャル・ライブラリが
     設けられるようになったからには、
     無効化されて然るべき。
     いくら本を燃やそうと目論む者がいたとしても、
     本は永遠性を備えている。
    ■形体としての図書館
     世界の美しい図書館いろいろ。
     そこは書物が整然と並ぶために秩序立っている一方、
     秩序が無窮の情報を支配しきれないことを示唆している。
    ■偶然の図書館
     偶然によって集まったコレクションが
     偶然によって埋没を免れることもある。
     敦煌の莫高窟に封印された「仏教図書館」を
     1900年に発掘した学者、マーク・オーレルこと
     マルクス・アウレリウス・スタインは、
     中野美代子「敦煌」及び「考古綺譚」に登場する
     オーレル・S伯爵のモデルか。
    ■仕事場としての書斎
     魅惑的な作家たちの仕事場=書斎いろいろ。
     目を患った晩年のボルヘスは、
     まるで書斎と一体化していたかのようだったが、
     そこには本人の著作が収まっていなかった。
     彼は内容を暗記していて、
     修正や書き換えを繰り返していたのだった。
    ■心のあり方としての図書館
     ドイツの美術史家アビ・ヴァールブルクは
     13歳の誕生日に家督相続放棄の意思表示をし、
     権利を譲る代わりに、
     将来に渡って入手を希望する書籍をすべて
     弟に購入させると宣言。
     それを受け入れた弟の財力で集められた本を
     独自の世界観に基づいて分類し、
     アビは楕円形の閲覧室を備えた
     自身の図書館《ヴァールブルク文化学図書館》を
     ギリシャ神話の記憶の女神ムネモシュネに捧げた――
     という。
    ■孤島の図書館
     ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』で、
     主人公が難破した船から回収した
     「ポルトガル語で書かれた数冊の本」のタイトルは?
     書物を基盤とする社会の構成員に、熱心な読書家と
     そうではない人が存在するのは何故か?
     ボルヘスと友人たち――
     ビオイ=カサーレスと妻のシルビーナ・オカンポ――
     による創作上の厳格なルールをすべて守ると、
     あらゆる文学が消滅する話。
     新しいテクノロジーを用いない、
     新しい形態の図書館について。
     コロンビアの巡回図書館のシステムは、
     折り畳みの袋に本を詰めてロバの背に乗せ、
     僻村を巡る仕組み。
    ■生き延びた本たち
     ナチス・ドイツによって掻き集められ、
     焼き払われた本と延命した本。
     ユダヤ人強制収容所内に育まれた児童図書室の奇蹟。
     ナチスに蹂躙されても
     読書という知的活動を放棄しなかった人々の
     強靭な精神力。
    ■忘れられた本たち
     本に封じ込められた記憶を握り潰そうとする
     全体主義国家政府の圧力に屈しなかった書店主、
     あるいは奴隷制度下の教育者たち。
     現代でも
     図書館の意図的な破壊は行われており、
     それは人類にとって大きな損失となっている。
    ■空想図書館
     ボルヘス、その他の作家によるメタフィクション、
     あるいは偽書、想像上の図書館について。
     または、架空の蔵書目録を作成する愉しみ。
     しかし、夢想の中で生まれた実在しない書物は
     朝には消え失せる。
    ■図書館のアイデンティティー
     大英図書館誕生の立役者、
     イタリア生まれの革命家アントニオ・パニッツィの活躍。
     レバノンの国立図書館プロジェクト。
     ニューヨークのクイーンズ公共図書館の多言語性は
     アメリカという国家及び現代という時代の、
     変化に富む多元的な姿を象徴している。
    ■帰る場所としての図書館
     一冊の本が数多の図書館、及び、
     この世の全体を内包しているとも考えられる。
     人間が本を読み、考えることによって、
     過去は現在となるが、
     過去とは誰にでも利用できる書架であり、
     叡智の源泉である。
     自らの蔵書だけを信頼したドラキュラ伯爵と、
     本を所有せず、
     行く先々で出会う度ごとに書物を通して
     世界の輪郭に触れようとした
     フランケンシュタインの怪物。
     前者は部屋の主に招かれなければ入り込めず、
     後者は「お邪魔して申し訳ない」と
     挨拶して入ってくる。

  • 著者のアルベルト・マンゲル氏はブエノスアイレス国立大学図書館の元館長である。そんな彼が記した本のテーマはずばり「図書館」。「図書館」という概念を軸にエピソードが紡がれる。図書館は思想や知の出発点でもあり帰着点でもある。電子書籍が普及し図書館の役割も変遷しつつあるが、愛読家たちの憩いの場は不滅である。とある友人は「本は内容が大事だから電子書籍でいいだろう」と語っていたが、いや違うんだと。装丁や厚み、そして彼らの集積された姿に我々は愛情を感じ想いを馳せるのだ。そんな気持ちが分かる方にはぜひ読んでほしい。

    それにしても著者のような書斎が持てるのはうらやましい。

  • 装丁の違う旧版を、喜びを噛み締めながら読んだこの本との出会いを思い出す。新装版になってから、少し気軽な読み物としての風貌をしていて、あの頃のずしりとした読みごたえを感じなかったが、まあ、自分も時を経て経験を少しは積み、歳をとったということなのだろう。

  • 移住先のフランスで司祭館の跡地に建てた自らの書斎にはじまり、アレクサンドリア図書館やミケランジェロが設計したメディチ家の私設図書館、スペインの司祭が燃やしたマヤやアステカの図書館、ユダヤ人収容所で大人たちが子どもに語り伝えた記憶の図書館まで。古今東西のあらゆる〈ライブラリー〉を博覧強記で語りまくる夢のエッセイ。


    はぁ……こういう本を永遠に読んでいたい……。原題は"The library at night"。石造りの立派な書斎で、夜通し棚と棚を行き来しながら自由に連想の翼を働かせて書かれたのだろう。
    世界中に実在する図書館の建築論から、図書分類法の歴史、権力と図書コレクションの結びつきなどトピックは多岐に渡る。経済的・物理的な問題で仕方がないとはいえ、図書館が収蔵する本の取り捨て選択をすることは一種の検閲であるという平等の精神。歴史に消された本たちは不在であることによってむしろ存在感を増し、〈影の図書館〉を形作っているのだとする反権力な姿勢。マングェルが歴史上の図書館を語るとき、視点はつねに弱者に寄り添う。
    マングェルも祖国を離れ、長いあいだ各国を転々とした移民だった。フランスには10年以上住み、今は再びアルゼンチンに戻ったようだ(書斎はどうなったのだろう)。アイデンティティの拠り所を本に求めた例としてドラキュラとフランケンシュタインの怪物を挙げ、共感を寄せる姿はユニークだし胸を打つ。ドラキュラは自らのルーツを保証するものとして、フランケンシュタインの怪物は自らも他社に共感する心を持つ証として、それぞれ本を大切に思うのだ、と。
    アルゼンチンの若い小説家のあいだで、〈引用〉をオリジナリティの欠如とみなし禁止しようとする動きがあったという話も面白かった。ボルヘス直系のマングェルには笑止千万だったろう。実際、本書も8割引用でできていると言っても過言ではない。この話で思いだしたのだが、私は昔、小説の好きな文章を書き写したノートを作っていると人に話して、「よくそんな恥ずかしいこと人に話せるね」と言われたことがあった(笑)。あの人は私が名言・格言集みたいなものを作っていると思ってたのだろうか。人の言葉を標本のように蒐集したいという気持ちは、誰にでも共感してもらえるというものではないらしい。

  •  図書館成立の歴史、図書館をめぐる環境の変化や図書館に人生を捧げた人々の紹介、更には図書館というものの概念への問いかけについて書かれていました。
     わたしは本を探し求めることと読書が好きで、この本に出会った時には嬉しくてわくわくしたのですが、実際に読んでみると著者の博覧強記ぶりや、誰よりも勝る本と書斎と図書館への愛に驚かされました。内容も興味深く、読み進めるのが楽しかったです。

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著者プロフィール

1948年、アルゼンチンのブエノスアイレスに生まれる。イスラエル、フランス、イギリス、イタリア、タヒチ、カナダ、アメリカ各地を遍歴の後、2016年、ブエノスアイレス国立大学図書館の館長に就任したのを機に生まれ故郷のアルゼンチンに戻り、現在、ニューヨークとブエノスアイレスを行き来しながら暮らしている。主な著書に『世界文学にみる架空地名大事典』(ジアンニ・グアダルーピとの共著、講談社)、『読書の歴史──あるいは読者の歴史』(柏書房)、『図書館 愛書家の楽園』『奇想の美術館 イメージを読み解く12章』『読書礼讃』(白水社)がある。エッセイや小説、戯曲、翻訳、ラジオドラマへの翻案など多数。1996年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ、2004年にオフィシエ、2014年にはコマンドゥールを受章。メディシス賞(1998年)、ロジェ・カイヨワ賞(2004年)、フォルメントール賞(2017年)、アルフォンソ・レイエス国際賞(2017年)をはじめ、数々の文学賞を受賞。2018年、これまでの業績に対し、ドイツ・マインツ市よりグーテンベルク賞を受賞した。

「2018年 『図書館 愛書家の楽園[新装版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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