サイド・トラック: 走るのニガテなぼくのランニング日記

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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566024595

作品紹介・あらすじ

ジョセフは中学一年生。ADD(注意欠陥障害)があり、集中しなくてはいけないときに気が散ってしまう。そんなジョセフが、陸上競技クラブに入ることになってしまい、クロスカントリーに挑戦する。大キライな運動。だけど、最後までやりぬくだけでいい、歩いてもいい、と監督に励まされ、なんとか続けるうちに……読後感さわやかな、楽しい物語。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの中学校に通う12歳の男の子ジョセフはADDで、学校生活では、スペインの牛追い祭に例えられるほど大変な思いをしている。苦手な体育の授業では転校生女子にヘザーに窮地を救われるが、彼女ともうまく会話できず気分を害させてしまったよう。
    それなのに、断れなくて陸上チームでクロスカントリー走をすることになってしまった。
    部活にはヘザーも来ていたが、彼女はとんでもなくタフで速かった。ジョセフは、練習がきつすぎるので止めようとしたが、ヘザーに発破をかけられ続けることに。トラックにガチョウのふんが落ちているだけでパニックになってしまうジョセフの、がんばりが始まる。

    すぐに集中がそれてしまう「sidetracked」な少年の奮闘を、周囲の人間関係とともに温かくユーモラスに描く。


    *******ここからはネタバレ*******

    心配性でいじめられっ子、運動も苦手なジョセフと、体も大きくて力強く気も強いヘザーとの友情が楽しい。

    ジョークが秀逸で、特に、おじいちゃんの介護施設の人間関係を自らの学校生活に重ね合わせて不幸を予測しているところが笑える。
    「<ロミオ>が<イケてるやつら>で、エディが<ひとりぼっち>なら、今やってくるのは<イジワル女子>だ。」
    ピストル音が苦手な彼が耳栓をつけてスタートラインに立ったとき、
    「パーン。
    ピストル音はまだ綿に包まれていた。ほっと大きなため息をついて、リラックスする。問題は、走るのを忘れていたことだ。」

    最後がうまく行き過ぎに感じるが、主人公は12歳。これで良いのではないでしょうか。

    これは著者のデビュー作。
    デビュー作でこんな素晴らしい作品が書けるなんて、アメリカの作者層の厚さを感じます。
    キム・スレイダーみたいな楽しみな作家さんが出た!と喜んでいたら、翻訳が武富博子さん。「スマート」や「セブン・レター・ワード」の翻訳されてますね。


    読後感の非常に良いおすすめの作品です。
    中学年から読めます。

  • 主人公はADD(注意欠陥性障害)で、彼が語り手なので、ADDの人がどのように感じ、どう考えるのかが良く分かった(作者の息子がADD)。
    障害というけれど、「注意が欠陥」してるというより、一般的にこっちの方が大事と思う方に気持ちを切り替えられず、気になることに心がとらわれてしまうという感じ。
    「ADDだから集中できないだろうって思われるけど、そんなことはない。ものすごく集中できる。ただ、まちがったものに集中してしまうんだ。たとえば明日の宿題の説明を聞くかわりに、窓のふちをはうテントウムシを見つめている。」(P11)そういう気持ち、わかるって人多いと思う。
    「ぼくにとって中学生活は牛追い祭りにちょっと似ている。テレビで見た、スペインのパンプローナというところでおこなわれているお祭りだ。年に一度、街に雄牛の群れがいっせいに放たれ、人々は追いつかれまいと走ったり、横丁に逃げ込んだりする。さもないと角でつつかれて殺されてしまう。ぼくの気持ちもだいたいそんな感じ。置いていかれないようにがんばったり、じゃまにならないようにどいたり、かくれる場所をさがしたりしている。」(P11)わかる、わかるよ、その気持ち。障害があろうがなかろうが、そう感じながら学校生活を送っている人は多いと思う。
     主人公を取り巻く人々が皆リアルで生き生きとしているのがとてもいい。
    スポーツが得意な大柄な女子ヘザーが、2008年の北京オリンピック円盤投げ金メダリストのステファニー・ブラウン・トラフトンを応援してたり。主人公はトラフトンを知らない。というかアメリカでの知名度がそもそも低いようだ。「有名にならなかったのは、みんなが気に入るような見かけじゃなかったからじゃない?背が193センチ、体重が95キロあって、円盤だって砲丸だって、たいていの男の人より遠くへ投げられる。でも、みんなが応援したいのは、小柄な体操選手やかわいいビキニのビーチバレー選手でしょ?」(P34)アメリカも日本も「可愛い」選手に人気が集まるのは同じみたい。
    老人ホームを抜け出すおじいちゃんはワイルドでかっこいい。(ビリー・ボブ・ソーントンをキャスティングして読んだ。)アフリカン・アメリカンだからってスポーツ万能を期待されてしまうのが辛いマークや、最後にゴールして起こる「あわれみの歓声」に気づいているヒーバーなど、作者が物語の都合で作り出したような人物はほとんどいない。
     個人的に球技がダメだったので、ジョゼフがバスケットボールでコーチの指示の意味が理解できず動けなくなってしまうシーンは胸に刺さった。

    物語としては、ちょっと山場に欠ける感じはするけれども、いろいろな面で良い本だと思った。障害のある子供の気持ちを理解しよう、ではなく、障害があろうがなかろうが、どんな人も様々なコンプレックスや事情を抱えてどうにか生きていることに違いはないということに気づかせてくれるから。

  • おじいちゃんや学校の先生など、サポート役の大人たちが聡明で落ち着いてる児童書って、なにか安心して読める。それでいてけっして大人たちも完ぺきすぎるわけではなくて、子どもの側からも差し出せるものがあるという形で描かれているのがいいな。
    のろいなりに進歩していくジョセフは、ほかの学校にも友だちができて、少しずつ世界を広げていく。そうやって、タイミングよく子どもの背中を押せるってすばらしい。(と、どうしても大人目線で読んでしまうのだった。)

  • ADDの子だそうで。多動がないからADHDではなく。
    心配性、周りの人の助けで物事は変わるんだなあ。
    特に友達で。
    みんなの対応の仕方がやさしくて、ほっとする。

  • 人って、自分の思考の範囲でしか世界は把握できていない。
    持って生まれたものが、「普通」の人と違うことは大切な個性なんだ。
    ダイバーシティという言葉の本質を感じられる一冊。
    スーパーヒーローが起こす爽やかな風に包まれる。

  • ADHDは知ってたけど
    ADDは初耳でした勉強不足。

    主人公ジョセフが憎めない。
    よわっちいし、戦わないし、
    練習さぼろうとする。
    でも憎めない。

    きっとジョセフに共感しちゃうんだ。
    分かるよ、君がてんとう虫に夢中なように
    私もサイド・ストーリーに夢中で
    家事をほったらかしてるから。

    ほったらかしても良かったなって
    思える程度には面白かったです。まる。

  • ★2019年度 中学生課題図書

    内容はサブタイトルの通り。
    通級指導教室のT先生に言われて、クロスカントリー競技をすることになったジョセフ。
    物語は、ADDの障害を持つ主人公の語りで進んでいく。
    読了後、ほどよい満足感もあり、総合すれば爽やかな青春小説であると言える。
    が、これがとても読みにくい。読みにくい文章ではないにもかかわらず、ものすごく読みにくい。
    私はこの本を開くと、ロシア語の勉強と同じくらい秒で安眠できた。
    それがまた、ADDのせいなのかもしれないと思わせた。
    主人公の思考が散逸的で、話がなかなか進んでいかない。
    半分以上過ぎるまでは、それこそとても長い退屈な長距離走のようでなかなか手ごわい。それと同時に、ADDというのはこんな感覚なのだなとも思わせた。
    今すべきと思われている物事に集中できないというのは、一般的にはひどく生きづらいことだろうし、集中力が色々な、そうでない(一般的に)ものに集まってしまう生き方は、ただ紙面を読んでいるだけでもこれだけ疲れるのだから、本人はいかほどだろうと思う。
    私の中では読みにくいという感覚が先だってしまったが、ジョセフの感覚を共有できるという点ではとても面白く、そうか、こんな感覚なんだなと思える記述がたくさんあり、ADDを理解する点ではとても興味深い。
    が、ジョセフが、世界中の人が敵、と思えるような世界で生きねばならないことが悲しかった。発達障害を抱える人はたくさんいる。誰もがそんな思いをしているだろうか?
    知り合いや、色々な人の顔が思い浮かんだ。

    読みにくい。というただ一点において、中学生にどうすすめるべきなのか?と疑問に思う。内容はよかったけれど。

  • 発達障害の子と、マラソン。
    どんな関係が?…走るのが苦手な…の見出しに惹かれて読み始めた。
    主人公の頑張る姿に、わが息子を重ねずにはおられず、読みながら「頑張れ、頑張れ‼」と声をあげていた。涙。
    ダメダメなんかじゃない。
    どんな意地悪にも、強い子にも負けない。
    友達の意味、心の強さの意味を知る。
    悩みだらけの子育て真っ最中に、マスト。
    わが息子の毎日に、寄り添い続ける覚悟ができた一冊。

  • アメリカのジュヴェナイル小説。主人公がADD(注意欠如)を持つ少年ジョセフで、ちょっと『夜中に犬に起こった奇妙な事件』のような感じでした。人と違うとか要領が悪いとか内向的だといじめの対象にされてしまうのは、日本もアメリカも同じみたいです。ジョセフは自分の特徴も、周囲で起こっていることも、起きそうなことも、その原因もきちんと理解して把握しているのですが、器用に対処することも逃げることも出来ず、嫌な思いをしながらもある種諦めているような感じの子。通級指導教室という名の特殊学級の担当のT先生の取り組みで、クロスカントリーのチームに入ることになります。緑色のものが怖くて触ったり近づいたりすることも出来ないし大きい音も苦手なので、練習場に鳥のフンが落ちていたりスタート銃の音に硬直してしまったりしながら、自分が挫折したらほかの子たちもレースに出られなくなってしまうので弱音を吐きながらも真剣に努力してがんばる様がすがすがしかったです。女の子なのに背が高く運動神経抜群な転校生ヘザーとの関係が、とても良かったです。アメフトをやっている花形でルックスの良い男の子がひどいいじめっ子、というのは映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」でもそうだったしアーヴィングの小説でもあったと思うし他のミステリでも読んだことがあります。『右手にミミズク』に続き、この作品でもおじいさんの存在が光っていました。タイトルとサブタイトルについては、出版社がいろいろ考えて工夫してつけたのだろうとは思いつつ、原題に置き換える自然な日本語が無い(思いつくのは「落ちこぼれ」とかだけれど、ニュアンスが違う)のも理解しつつ、なんかちょっと、もったいない感じがしました。

  • 私もADHD。そうそう、わかる!がいっぱいありました。子どもたちの読書感想文用に購入しましたが、私が子どもらよりも先に読んでしまった。やはりADHDの息子はどう読むか?そして、読書感想文の提出日までに間に合うのか?!

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著者プロフィール

アメリカの作家。イェール大学で英語と英文学を学ぶ。卒業後は出版社と映画会社に勤務。現在はニューヨーク在住で、執筆のほか、子どもたちの読書支援や創作教室の活動をしている。デビュー作は『サイド・トラックー走るのニガテなぼくのランニング日記―』(読書感想文全国コンクール課題図書)。

「2022年 『アップステージ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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