幸運な文明―日本は生き残る

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  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569659657

感想・レビュー・書評

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  • この本はアメリカを中心としたシェールガス革命が本格的に始まる前の 2007年の著作で、第1章は今となっては違和感を感じる部分もありますが、全体としては、日本の土地や気候の特徴が、日本文明を外的から守ってきたと主張しています。

    特に印象的だったのは、明治維新を経て首都を東京に置いた理由が、江戸時代の参勤交代制度にあったというポイントでした。その根拠として、全国の藩の領主がすべて江戸の言葉を話したからというのは目から鱗でした。

    また、欧州とは異なって日本には都市を守るための塀はなかったとされていますが、その代わりに江戸には、高輪・四谷・板橋に「大木戸」があった(p213)という事実も私にとっては新しいものでした。

    竹村氏の本は地理や歴史の好きな私にとっては面白いものです、更なる続編を読んでいきたいと思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・滅んだ文明の原因ははっきりしている、安全を失ったか、食糧を失ったか、エネルギーを失ったかである、このうちどれか一つでも欠けたら文明は衰退する(p22、60)

    ・日本列島には、薄い太陽エネルギーを集める装置があった、それは「山」である。山が集める薄い太陽エネルギーは「雨」である(p38)

    ・冬に水をはる田んぼの理由は、シベリアから飛来する白鳥やマガンの生息地にするため、鳥たちの糞によりリンをまかなうことができる(p43)

    ・メキシコの恨みは、1845年のテキサス米国併合、アラモ砦の戦いから米墨戦争まで、カリフォルニア等、国土の半分を奪われた(p67)

    ・一人当たりの摂取カロリーを変えずに、現在の生産量が維持できれば、100年後には、主食・野菜・果実の自給率は100%となるが、畜産物・魚介類は自給率は100年後でも46%、現在は27%(p76-78)

    ・ハリケーンによりニューオーリンズが沈んだのは、ポンチャートレーン湖とミシシッピ川が繋がっていたから堤防の決壊により海水が流れ込んだため(p83)

    ・桓武天皇は夷を恐れて、二大武装集団を生んだ、一つは東北の夷を征伐する武士集団、もう一つは京を見張り防御する親衛隊の比叡山の僧兵であった(p106)

    ・牛馬に去勢を施さない日本人の文化性が、1000年のクルマ文明の空白と道路の未整備の原因となった(p110)

    ・大阪に緑の空間の少ないのは、大阪は庶民の町であったから、土地が細かく分割された(p143)

    ・江戸時代、江戸は利根川を江戸湾から銚子へ追いやった、明治時代になり、東京は命の水源である溜池を、都心から山奥へ追いやった、これにより日本人は人を思いやる心を失った(p156)

    ・浅草は新しい人工的な埋立地ではなく、関東の大湿地帯の中で1000年以上の歴史をもつ、中洲状の小高い丘であった(p160)

    ・日本堤と、墨田堤・荒川堤・熊谷堤で囲む一帯で、隅田川を溢れさせて江戸に洪水を到達させないようにした、この地域が遊水地(p165)

    ・日本堤に遊郭を配置し、墨田堤に桜並木と料亭街を配置し、様々な催事を仕掛けた幕府のソフトウェアは見事に成功した(p169)

    ・書籍、言葉、絵画、芝居、服装、流行とあらゆる情報が江戸から発信されるシステムがあった、それが参勤交代であった(p196)

    ・本来明治政府の首都は京都になるべきであった、大政奉還の儀式は京都の二条城で行われたので(p197)

    ・1871年、廃藩置県で混乱無く藩は廃止された、諸大名のアイデンティティが東京なので(p198)

    ・徳川幕府の許可、積極的な同意がなければ、赤穂浪士の47士がまとまって泉岳寺に埋葬されることはありえない(p218)

    2014年3月23日作成

  • 地理学的な観点から歴史を振り返る達人である竹村公太郎氏

    人文社会から考える歴史はブレ幅が大きいことが多く、人間社会を支えるインフラ下部構造の気象と地形から歴史を考えれば、もっとブレ幅の小さいものが見えてくるというのが彼の持論

    独特の観点から歴史の本質を詠み解いていくので、これまで歴史の既成概念を打ち破るパワーを持っている

    また、歴史だけでなく、これからの社会で最も重要なエネルギーに関しても独自の考えを持っている 
    日本でしか出来ないエネルギーリサイクルシステムを提示している

  • ◆よく知っている日本の歴史を気象と地形から見直すと、その歴史が全く異なって見えてきたという。その見直し作業の中で著者は、いつも「日本はついている」と思い、そう書いてきた。『幸運な文明』というタイトルは、出版社がつけたものだが、この本にぴったりであろう。p3

    ◆日本は全土にエネルギー網と水路が張り巡らされている。地球上でエネルギー資源が枯渇し、世界の文明が衰退しても、日本は生き残れる。国土全体に網の目のように豊かな水が流れる先進国は、スイス、カナダ、日本ぐらいだ。日本の全国に川のネットワークと、1000年以上の歴史を持つ農業用水路が展開している。その日本の水の流れるあらゆるところに水車を設置する。水流で水車を回し、伝記を作る。規模は小さくとも、県や市町村が、企業や家庭が水車を持つ。昼間は電気を直接使い、夜は電気で水を分解し、水素を作って貯蔵する。日本中で回る大小の水車が、休むことなく電気を供給し、水素を作り続ける。これが21世紀の日本の姿だ。p40

    ☆おそらくこれは実現可能なアイディアであろう。気候温暖化による変化で、モンスーンの豊かな雨が降る豊かな環境が変化しない限り。私は、このアイディアにとても興味を持ち、水車による発電が日本中に普及すればよいと切に思った。問題は、このような自由な発想を実現化する柔軟さを持てるかどうかだ。

    ところが、今日のテレビの報道番組でこの問題を取り上げていた。マイクロ水力発電が今注目されつつあるというのだ。テレビ東京で午前11時からやっていた「田勢康弘の週刊ニュース新書」だ。日本各地で広がりをみせる「マイクロ水力発電」の取り組み」を取材して取り上げていた。市役所の前を流れる水流を利用して市役所の建物の14%ほどをまかなう例、岐阜県の農業用水路を利用した発電の例、東京の地下の上水道の流れを利用した発電など、徐々にマイクロ水力発電が普及しつつあるという。とてもうれしかった。太陽発電は日本の土地の狭さで、風力発電は安定した風の少なさで日本には不向きだが、日本の豊かな水流を利用した発電は理にかなっており、かぎりない潜在的な可能性がある。ぜひ普及させて欲しい。

  • 滅んだ文明の原因は、エネルギーを失ったか、安全を失ったか、食料を失ったか。巨大油田の発見のピークは60年代その発見の50年後がピーク。いまがその時。太陽エネルギーの決定的な欠点は単位当たりのエネルギー量が薄いこと。風力発電 日本の風は量、向きともに安定していない。 山が集める薄いエネルギーとは雨。 水力発電でひるは家庭で使い、よるは水を分解し水素をつくって貯蔵。文明を支える下部構造3つ 安全、食料、エネルギー 昭和天皇独白録 あの戦争は油であった。 イラクのアラブ人とイランのペルシャ人は同じアラビア文字を使う、そのアラブ人のアラブ語をペルシャ人のペルシャ語は全く異なる

    2014/1 2回め

    太陽エネルギー 単位面積あたりのエネルギー量が薄い
    石油一リットルのエネルギー量は一万kcal
    太陽光 1平方メートルあたり、0.8Kcal
    1日8時間太陽光として、太陽光パネル1m2で石油1リットルのエネルギーを得るのに1500日かかる

    あの戦争は油であった

    上野公園 寛永寺
    六義園 柳沢吉保 浜離宮 家宣 国立自然教育園 高松藩松平家 有栖川公園 旧宮家 小石川後楽園 水戸徳川家 新宿御苑 高遠藩内藤家 日比谷公園 松平肥前守 芝公園 増上寺 護国寺 綱吉 都内の緑地はかつての権力者が作り、行政がひきついだ

  • プラッツをふらふらしていて発見.前作『土地の文明』は名著である.理系的地理人.地理を理系の観点から見つめた作者の観点は新しいものでは無いだろうが,それをまとめて出版するという作業を行うということは並大抵の仕事ではないと私は考えている.それを実現できている著者には尊敬の念を覚える.近著も以前の流れを踏襲しつつ新しいネタ満載の良書.ただ以前よりも内容が薄い気もしないでもない.そして私の個人的な感想として作者が自分の大学で講義を持っていたことが当著によって発覚.自分にとっては『幸運な運命』である.講義が来学期もあることを願う.

    2月【自室本棚】旭屋書店プラッツ近鉄店

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著者プロフィール

日本水フォーラム代表理事。博士(工学)。
1945年生まれ、神奈川県出身。昭和45年東北大学工学部土木工学科修士修了。同年建設省入省、近畿地方建設局長を経て国土交通省河川局長。2001退職。一貫して河川、水資源、環境問題に従事。人事院研修所客員教授。
著書に『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫3部作)、『土地の文明』『幸運な文明』(以上、PHP研究所)、『日本文明の謎を解く』(清流出版)、『水力発電が日本を救う』(東洋経済新報社)など多数がある。

「2021年 『“地形と気象”で解く! 日本の都市 誕生の謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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