対論・異色昭和史 (PHP新書 591)

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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569705736

感想・レビュー・書評

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  • 鶴見俊輔さんの生い立ちが興味深くて、いろいろと読んでいる。祖父が後藤新平さんで、母がその娘。母のお相手を紹介してくれたのは、一高の先生だった新渡戸稲造。英語は夏目漱石から学んだらしい。その縁で両親が結ばれ、俊輔さんが生まれる。

    俊輔さんは日本の教育では、小卒。だが、ハーバード大学卒(笑)。戦中にFBIから「日本を愛するのか、アメリカを愛するのか」を問われ、「どちらも支持しない」といい、獄中へ。

    また俊輔というのは、伊藤博文の幼名。父が総理大臣の伊藤博文に憧れたからのようで、その呪縛で俊輔さんは鬱病になる。何という激動の人生なのだろう!

    俊輔さんも一癖二癖あるのも、文面から伺える。対談相手の上坂冬子さんとぶつかっている様子も読み取れる一冊。

  • 例えば張作霖爆殺事件に関して「河本大作が悪いと決め付けることはできない」という上坂は、「どうせやるなら、ばれないようにやれ」という声にはどうこたえるのか?この失敗が招来した満州事変~シナ事変~太平洋戦争という破滅の流れに一定のきっかけを与えた結果責任はまさに河本らにこそ問うべきだろう。鶴見はそうしたリアリスト的な振る舞いは好みではないようだが、骨の髄から皇国小国民の上坂らにはこういうガチガチのリアリズムから一度徹底的に批判されなければならないのではないか?

  •  昭和史の対論という表題に惹かれて読んでみたが、鶴見俊輔という巨大な知性が光った本であると感じた。
     鶴見俊輔は、ベ平連で有名なリベラリストであるとは知っていたが、本書でその生まれや過去、考え方がよくわかった。鶴見俊輔は、後藤新平の孫にあたり、戦争前の1938年(昭和18年)16歳時にアメリカに単身留学し、1942年(昭和22年)日米開戦後に交換船で帰国するなど、いいとこのぼっちゃんである一方で冒険的な人生を謳歌した過去を持つ。リベラルといっても、様々な過程があることを伺えさせ、多種多様の多くの知人を持ち、幅の広い人間であることが対談の内容からもよくわかる。それにしても、この知識の広さ・深さはすごい。
     たとえば「日本国憲法」の話題が出れば、打てば響くように、その周辺事情を詳細に語り、関係者の個人名もスラスラ出てくる。その内容も、一家言あり、読んでも面白い。知性とはこういうものかと驚嘆した
     鶴見俊輔は、昭和32年の総理大臣吉田茂の防衛大第1期卒業生の訓示についても語る。「君たちは自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり歓迎されたりすることなく終わるかもしれない。非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を変えれば、君たちが『日陰者』扱いされている時の方が、国民や国家は幸せなのだ。耐えてもらいたい」。こう言う言葉を語る吉田茂もすごいが、この言葉がスラスラ出てくる鶴見俊輔もすごい。多くの歴史的エピソードを語る時も、出てくる歴史的人物の多くが個人的知り合いであることは、当時の日本のエスタブリッシュメントのインナーサークルの狭さも伺える。
     「教育勅語」について語る時も、単純な批判ではなく、教育勅語を書いた元田ながざねや、その先生である横井小楠について語ると共に、その内容の「諌争」について、また「軍人に賜りたる勅愉」についても語る。とにかくすごい知識だと感嘆した。
     上坂冬子氏は、小説家だが、その鶴見の知性をふんだんに引きだす力は、やはり知性のひとつのあり方と感じた。二人の長い人生がところどころでクロスするところがこれもまた面白い。
     本人たちも楽しんで対談している雰囲気がよくわかるし、読んで、あまり記憶に残る内容ではないが、歴史のエピソードを知ると共に、より広い視点と知識を得ることもできる本であり、本書は、素直に面白い本であると感じた。

  • [ 内容 ]
    雑誌『思想の科学』への投稿がきっかけで交流が始まった二人。
    半世紀ぶりに再会し、語り合った昭和の記憶とは?
    「戦時体制にも爽やかさがあった」と吐露する上坂氏に対して、「私もそう感じた」と応える鶴見氏。
    一方で、「米国から帰国したのは愛国心かしら?」と問う上坂氏に、「断じて違う!」と烈火のごとく否定する鶴見氏。
    やがて議論は、六〇年安保、べ平連、三島事件、靖国問題へ。
    護憲派、改憲派という立場の違いを超えて、今だからこそ訊ける、話せる逸話の数々。
    「あの時代」が鮮明によみがえる異色対論本。

    [ 目次 ]
    第1章 戦時下の思い出(戦時体制の爽やかさ 張作霖爆殺事件の号外 ほか)
    第2章 戦時体制化の暮らし(翼賛議会に異を唱えた「一刻」な議員たち ハーバード大学で都留重人と出会う ほか)
    第3章 戦後日本をあらためて問う(八月十五日の記憶 ラク町のお時 ほか)
    第4章 「思想の科学」の躍動ぶりと周辺の事件(ノーマン自殺の真相 跡取り息子の座からはずされた都留重人 ほか)
    エピローグ 教育とは、そして、死とは(デューイと親交のあった校長先生の話 林竹二の授業について ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • リベラルと戦後の市民運動を代表する哲学者・鶴見俊輔氏と保守を代表するノンフィクション作家・故上坂冬子女史の「異色対談」

    肩書きだけ見るならば、左右対決、核心と保守の対峙とイメージしがちですが、早計することなかれ。

    市民「である」ことを立ち上げる鶴見氏と、日本「なるもの」に固執するふたりには共通することも多く、初期の『思想の科学』での幅広い交流、物事に対する二人の異なる視座と同じ心情を垣間見ることができる一冊で、単純な思想的対立構造でものごとをスパッと理解することなんて不可能であるということを丁寧に浮き彫りにしてくれる一冊。

    であると同時に、戦後日本の追悼史ともなっている。


    リベラル、市民派を自称する人、そして保守を自認する人こそが読むべき対談であろう。

  • ちょうど出たばかりのこの本を、さていつ読もうかな、などと思っている時に、残念なことに、上坂冬子の訃報が入りました。

    思えば彼女は、筋金入りの保守派でした。どちらかというと、まぎれもなく、真剣に対峙するとしたら、とんでもない許し難い保守反動でした。

    悪しき改憲論者で、韓国従軍慰安婦への無理解や、夫婦別姓反対で、戦中派に相応しく皇国史観を残存した前世紀の遺物=シーラーカンスに似た化石に近い存在でした。(けなしているように見えますが、私流にちょっとお茶目に、面白可笑しく装って、誉めそやそうとしているのですが、あまり成功していません・・・)

    そういう、どちらかというと敵なのに、でも何故か、彼女の本を少なくとも20冊以上読んで来ました。

    亡くなった兵へのレクイエムと、遺骨返還を求めた、和智恒蔵という玉砕を免れた人の執念を描く『硫黄島いまだ玉砕せず』(1993年)や、そういえば、いま池袋サンシャイン60が、元の巣鴨プリズンという現在の巣鴨拘置所の前身だということを知っている人が何人いるでしょうか?その場所で、BC級戦犯52人が、戦争中に捕虜を虐待したとか処刑した罪で絞首刑になったこと、職務に忠実だっただけで裁くという正義が米国にあるのかと問うた『巣鴨プリズン13号鉄扉』(1981年)は、涙して感動して読んだ記憶があります。

    いま気づきましたが、ちょうど1930年生まれですから、奇しくも、立場や思想性はまったく正反対で、護憲派ですが、同じく戦争に関する著作を数多く物する、澤地久枝と同い年ですね。

    普通のOLだった1959年に「職場の群像」で思想の科学新人賞を取ってデビューして50年、敵ながらあっ晴れな方だったと思います。

    ご冥福をお祈りします。

    この本は、そのデビュー時に絶賛して見守ってきた鶴見俊輔との半世紀ぶりの対談。

    86歳の哲学者と78歳のノンフィクション作家の、思想的には正反対の二人の会話で、噛み合うはずがない、と思いきや、これが案外、意気投合した興味津々の話題が目白押しです。

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