日本の曖昧(あいまい)力 融合する文化が世界を動かす (PHP新書)
- PHP研究所 (2009年4月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569708294
感想・レビュー・書評
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2011/4/7読了。
韓国生まれで来日し、そこで日韓の文化の壁を乗り越えた方の書いた日本文化論。外国人の視点(著者だけでなく留学生が登場する)と日本人の視点が程良く混ざりながら比較されていて、大変勉強になった。
○体系的に日本を理解する3つの指標は「欧米化された日本」「中国や韓国に似た、農耕アジア的日本」「前農耕(縄文時代以前)アジア的日本」3つ目が日本の精神構造の一番奥深くに根付いている。
○日本人特有の「曖昧さ」は、環境への適応性に優れており、調和と融合を目指す国際社会で重要になるだろう。
○ものごとの自然なあり方を母型として、さまざまな日本文化の美的な様式が形作られた。自然と人間は一体であるという感覚。そこから生まれた美意識が、調和を重んじる社会を生みだした。
○自我同一性が欧米の自己のあり方であるが、自然の流れを感じ取って自己変化を遂げていくのが日本の自己のあり方。自己革新を止めてはいけない。
・外国人は、日本の表面的な良さに感動(1年)→本心を見せない「曖昧さ」「距離感」の壁にぶつかる(2~3年目)→日本らしい人付き合いの奥深さ、幅が分かってくる(5年目~)というプロセスで日本を理解する。察するという文化が壁となっている。
・地形間の距離が著しく近接している日本では、色々な要素が絡み合った複合・融合的な文化が育まれた。風景と霞が融合したもの=曖昧であるが、融合を良しとする精神がそれを美しいと感じさせる。
・日本人は旅好き。「旅」はそのプロセスを重んじ「旅行」は目的地での活動を重んじる。庶民でも伊勢参りなど、旅をしていた。
・死生観において、「どんな生き方(死に方)が美しいか」という美意識を考えるのは日本独特。世界では「どんな生き方が正しいか」という倫理観が規範となる。
・日本は擬人法が多い。自然と人間を区別せず、無意識のところで同じだと考えている。
・「自然」は明治時代に輸入された言葉。古来の言葉は「花鳥風月」であった。
・日本文化は古いものを捨てるのではなく、そこに新しいものをミックスして独自のものに変えるという世界でも稀な性質を持っている。
・受け身を多用するのが日本語の特徴の一つ。日本の四季を含んだ風土が、八百万の神、つまりは自然に対する絶対的な受け身思考を生んだ。
・封建制度は、血縁関係を軸にしたものではなく、個人と個人の信頼関係を基本にしたものであった。それが人間関係の仁義を重んずることに繋がった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
keitaro-news をみて。
自分がマイナスだと思っていたことが、国民性なのかな、と思えた。
前向きにさせてくれた本。 -
日本人を体系的に理解するためには3つの指標がある。
1.欧米化された日本
2.農耕アジア的な日本
3.全農耕アジア的な日本
日本人とはⅠと2の間で矛盾を抱えているようなものという理解が日本人自身も外国人にもある。しかし最も日本人を形作っている精神構造の理解に重要なのが3である。中華文明の影響を受けることが少なかった日本人は縄文期からの精神性を損なわずに近代を迎え、最も深いところでの精神の層を形作っている。これが日本人の曖昧さや距離感の取り方といった美意識につながっている。
自分でも気がつかなかった日本人の精神性に対する理解である。久々に、日本人であることに誇りを感じた。 -
私があまり読まないジャンルだけども、縁あって手に取った一冊。
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・欧米型企業:トップの予測と設定能力
・日本型企業:システムを担っている社員の自立協調的な動き
→だが日本にも強力なトップがいなければ,現在の日本政治のようになってしまうのでは?? -
著者の本はチマ・パラム以来久しぶりだったけれど、これはとてもわかりやすくて「ほほう!」と思った。 とくにやきものの鑑賞のところがおもしろかったです。
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日本人に対してとても前向きな書き方。
日本人以外の書いた日本人論故面白い比較文化論になっている。 -
一度読んで損はない。
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◆『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4569708293?ie=UTF8&tag=ishiinbr-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4569708293"><span style="color:#0000FF">日本の曖昧力 (PHP新書)</span> </a><img src="http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=ishiinbr-22&l=as2&o=9&a=4569708293" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />』
拓殖大学での「日本の歴史と文化」という講座の講義内容をまとめたものであるという。講義を元にしているので、内容はわかりやすくコンパクトにまとまっており、呉善花の「日本文化論」へのよき入門書となっている。読んであらためて感じたことは、呉善花の「日本文化論」の視野の広さだ。これまで多くの人々が日本文化の性格や特徴を語ってきたが、彼女の「日本文化論」ほど、ながい歴史的なスパンの中でその特質を論じたものはないのではないかと思う。欧米との比較ではなく、中国や彼女の出身国である韓国と比較することで、日本文化の特色を説得力をもって語ることに成功している。
そして何よりも魅力なのは、日本のポップカルチャーが世界で受け入れられる理由を、縄文文化という歴史の根っこにさかのぼることで見事に解き明かしていることだ。日本のアニメやマンガの魅力をこのような歴史と文化の視点から主張した議論はこれまでなかったように思う。その意味でももっと注目されてよい著者の一人だと思う。
最終章の特別書き下ろし講義「世界的な課題としての『日本風』」を要約しながら本書の内容を紹介しよう。
今、静かな日本ブームが世界的にひろがり、「日本風に恋する」層が着実に拡大している。日本文化は19世紀末から20世紀初頭に、フランス後期印象派絵画など欧米文化に深く広い影響を与えた。それから100年後の現在、日本ブームはいっそう大きな、地球規模での革命を誘発しているのではないかと著者はいう。今世界に広がる、自然環境や伝統的な生活と現代文明との間の軋みに対して、日本風が示す伝統とモダンの調和が注目されるようになっていると思われる。
著者は、日本を体系的に理解するには三つの指標が必要だという。欧米化された日本、中国や韓国と似た農耕アジア的な日本、そして三つ目が、前農耕アジア的(縄文的、自然採集的)日本だ。日本文化と特色は、アジア的農耕社会である弥生時代以前の歴史層に根をもち、それが現在にも生きていることにあるのではないかと著者はいう。
日本の神道は、強烈なものを排除する傾向が強い。強烈な匂いや音、色、血などを嫌い、静かで清浄な雰囲気を好む。その内容はアニミズムであるが、強烈な刺激や生贄の血や騒然たる踊りや音響を好まないという点では、世界のアニミズムとは正反対である。著者はこうした日本のアニミズムの特色を「ソフトアニミズム」と呼ぶ。他のアジア地域では、アニミズムそのものが消えていったが、日本ではソフトな形に変化しながら、信仰とも非信仰ともいいがたい形をとりつつ、近世から現代へ、一般人の間から文化の中央部にいたるまで残っていったのでる。
著者は、かつての「たまごっち」というサイバー・ペットの世界的な流行を、日本的なソフトアニミズムが世界に受け入れられる普遍性をもっていることの現われだととらえる。劇画やアニメはさらにはっきりと、こどもたちの柔らかなアニミスティックな世界から立ちおこった芸術表現だという。
「いけばな、サイバー・ペット、劇画やアニメなどの世界的な人気は、そうした自然な生命(アニマ)への聖なる感性が、やはり人類すべてに内在し続けていることを物語るものといえるのではないだろうか。現代世界にあって、日本的なソフトアニミズムの感性が多くの人々に迎え入れられることはたしかだと思われる。」
彼女の主張、「日本のポップカルチャーの中のソフトアニミズム的な要素」については、今後も機会のあるごとに具体的な事例に即して検証していきたい。